55 クリスマスケーキって、イブと当日どっちに食べるのが正解なんだろうか
「ん。いただきます」
無事夕陽の機嫌を治すことに成功し、俺達は少し遅めのランチタイムを取ろうとしていた。
勿論、今回も夕陽の手料理である。
まあ、クオリティは手料理の域を超えているのだが(妹煩悩)。
「ルカ。悪いことは言わない。メシ食う前にマフラーは外した方がいい」
「ん。へーき」
「いや! 絶対汚すから!」
アルミホイルが巻かれたローストチキンに、手を伸ばそうとするルカの手首を掴んで制止する。
ルカは渋々と言ったように、クリスマスプレゼントのマフラーを首から外すのであった。
部屋の中でも着けてくれるのは、贈った側からすれば嬉しい限りではあるが、ルカの緩い口元を考慮すれば、ソースで染みを作ってしまうのは想像に難くない。
既に2回、巫女の正装装束でもあるポンチョを、クリーニング屋に持っていった俺が言うのだから間違いない。
「もぐもぐ……ん! 美味しい!」
「えへへ。お口に合ったようで良かった~。甘めの照り焼き風の味付けにして正解だったね♪」
コタツテーブルの上に並ぶのは、クリスマスの定番料理達。
メインは現在進行形で、ルカが口周りをベタベタにしながら頬張っているローストチキン。
鶏の油と調味料が混ざり合い、プルプルとしたソースとなってチキンに纏っている様は、見ているだけで旨いと確信できる一品。
ブラックペッパーは控えめで、砂糖多めで子供向けの照り焼き風。
副菜は生ハムとベビーチーズが乗ったサラダと、ニシンのマリネ。
スープはトウモロコシを丁寧に濾して作った、滑らかなコーンスープ。
主食は手作りガーリックバターが塗られたバケット。
見た目も鮮やかで、まるでビストロに出てくるクリスマスコースのようだ。
「う、うまい……! 店出せるぞこれ!」
「お兄ちゃんそれ毎回言ってるじゃんね」
「何度でも言っちゃうくらいうまいんだからいいだろ」
「もー/// 褒め過ぎだよお兄ちゃん///」
「ん。たいよう、泣いてる」
去年のクリスマスは、仕事帰りにコンビニでファミチキ買って、スズメの涙ほどのクリスマス気分を味わっていたら、半端にそれっぽいことをしたせいで孤独の涙を流していたのを思い出す。
結局今年も感涙の涙を流しちゃったんだけども……。
今となっては唯一の家族と過ごすクリスマスが、どれだけ幸せな事か、改めて実感するのであった。
これから毎年クリスマスは祝日にならねぇかなぁ……。
次の天皇陛下の誕生日に期待(不敬)。
今年はクリスマスが日曜日であり、夕陽の学校が休みで、かつ俺がシフト入ってないという奇跡的なタイミングが重なったが、次クリスマスに家族で集まれるのは、いつになるか分からないだろう。
今日という奇跡を噛みしめながら、ローストチキンを嚙みしめるのだった。
「ってルカ、口も手もベッタベタだぞ。これじゃあスプーン持てないだろ」
ふとルカの様子を見れば……。
アルミホイルの持ち手では、ルカの不器用な手先からソースを守るにはいささか役不足だったようで、指先がソースでコーティングされて美味しそうになっていた。
やはりマフラーを外させて正解だった。
もしつけたままなら、今頃真っ白なマフラーは今頃零れたソースで茶色い斑点模様になってしまっていただろう。
「ん。勿体ないから、舐める」
「舐めるな舐めるな」
ウェットティッシュでルカの手を丁寧に拭う。
「切り分けてやるから皿貸しな」
「ん。大丈夫。クリスマスチキンは、齧り付いた方が、美味しい」
「そのたびに汚れた手を拭かされるこっちの身にもなってくれや……」
指を拭きとり、口周りも拭った後、ルカは改めてフォークを握ってサラダを食べ始めた。
「じー…………」
その光景を見守っていると――反対側から視線が……。
「お兄ちゃんって、ルカちゃんに過保護過ぎない?」
「い、いや。そんなことないと思うが……? 夕陽が小さかった頃も、こんな感じだったと思うが……?」
「ふーん。じゃあ、大きくなった私には、もう世話焼いてくれないんだ」
「夕陽はしっかりしてるからな。ルカと一緒にいるとお姉さんみたいだし」
どちらかと言えば、俺が世話を焼いて貰っているくらいだ。
「つーん」
…………あれ?
なんか怒ってる?
夕陽はどこか不機嫌そうに、ルカに倣って大きな口でチキンに齧り付く。
「(いくら成長しても、私がお兄ちゃんの〝妹〟であることには変わりないのに……)」
「(もしかして、嫉妬してるのか?)」
全く。
いくつになっても甘えん坊だけは治らないんだな……。
と、微笑ましく思いながら、丁度夕陽の頬にもソースが跳ねてしまっているので、「ソースついてるぞー」と拭ってやるのであった。
すると夕陽は、「……ん。子供扱いしないで///」と、プリプリと怒られながら、コタツの中で太ももを蹴られてしまう。
どうやら今のムーブは不正解だったようだ。
年頃の女の子の扱いは本当に難しい。
「ん。たいよう、また汚しちゃった、拭いて」
「お兄ちゃん、私もついちゃったんだけど」
「ああもう! なんなんだお前ら! 自分で拭け!」
うおおおおおお!!
秘儀・両手ウェットティッシュ!!
絶対ワザとだろ!?
と思えるペースでもちもちほっぺを汚していく2人の食事を、俺は執事の如く拭い続けるのであった。
***
「ん。お腹いっぱい。もう食べられない」
「食後のクリスマスケーキだよ~」
「ん。ケーキは別腹」
「前言撤回が早い」
シェフ顔負けのクリスマスコースを堪能し、少し遅めのランチを済ませた後、シームレスに少し早めのおやつタイムに突入した。
生クリームでコーティングされた4号サイズのホールケーキも、夕陽の手作りだった。
こちらは予め実家で作ってきたものとのこと。
「ん。ケーキなら、汚さないから」
ルカは再びマフラーを巻きながら、ケーキを頬張り始める。
クリーム落としても白いから汚れも目立たないから、まぁいいか。
「ルカちゃん、そのマフラー凄くお気に入りなんだね~」
「ん。たいようから、クリスマスプレゼント」
「…………へー」
「な、なんだよその目は……」
「お兄ちゃんさ、去年の私へのプレゼントも、似たようなマフラーだったよね?」
「ん……それ、本当?」
クリスマスプレゼントと聞き、夕陽の目の色が変わる。
夕陽が今日巻いてきたマフラーもまた、俺が去年プレゼントしたものだった。
それを今年も巻いてくれているということは、気に入ってくれたのだろう。
しかし現在――なんとも雲行きの悪い空気が漂っていた。
「お兄ちゃんさ、とりあえずマフラーあげときゃいいだろ、って感じだったんだ」
「ち、違うぞ! 考えに考えた末に辿りついた答えがマフラーだったんだ!」
「色も似てるし」
「微妙に違うんだよ!」
「ないわー。同じプレゼントを複数の子に渡すのって、ナシ寄りのナシだから」
「ん。ホストが太客の名前を呼び間違えないように、呼び方を〝姫〟で統一するのと同じ手法」
「だからなんでルカは偏った知識ばっか詳しいんだよ!?」
ちゃうねん。
白って200種類あんねん。
夕陽には真っ黒な髪に似合う白を。
ルカには褐色の肌が映える白を選んだんだよ。
しかし――俺の必死の弁明も、2人には言い訳にしか聞こえなかったようで……。
「デュクシ」
「ぐえっ!?」
ルカの批難の手刀が、あばら骨の隙間に突き刺さる。
「デュクシ」
「ぐえっ!?」
ついでに反対側からも。
「「デュクシデュクシデュクシ」」
北斗百裂拳ばりの速度で飛んでくる左右からの攻撃。
嫉妬深い妹と巫女の攻撃を、甘いケーキに免じて、甘んじて耐え忍ぶのであった。
という訳で――今回はここまで!
次回、クリスマス編最終回! お楽しみに!!




