49 女騎士さん、思い出の品を貰う
猫カフェを満喫した後。
小腹が空いたので、丁度見かけたマリトッツォを食べ歩きしながらアパートに帰宅。
「にゅふふ♪」
大家さんに服を返してプレートメイルに着替えた後も、彼女は猫カフェの余韻に酔いしれるように上機嫌だった。
その手には、会計の際に貰った、猫の写真が映った広告入りポケットティッシュが握られている。
その写真を見ながら、マルガレーテは鼻歌を歌っていた。
お土産に売られていたカレンダーとか写真集とかを買ってあげたら、もっと喜んで貰えただろうが、残念ながら俺にそこまでの経済的余裕はない。
今日の所はポケットティッシュで勘弁して貰おう。
「ん。ただいま」
「おっ! ルカ、お帰り」
「はっ!? おかえりなさいませ、巫女様!!」
居間の一角にあるトイレのドアが、内側から開く。
どうやら無事、巫女としての執務を終えてきたらしい。
「ん。座る」
「はいはい」
そんなルカは、一直線に俺の元へやってきて、俺をリクライニングチェア扱いしながら、疲れを癒すように〝ぐで~〟と伸びをするのだった。
「お仕事お疲れ様。疲れたか?」
「ん」
俺の手からスマホを受け取ったルカは、YouTubeをザッピングしながら、肯定の〝ん〟を返した。
「たいようとマルガレーテは、何してたの?」
「はい、猫カフェという所へ行って参りました。それから、タピオカとマリトッツォなるものを食してきた次第です」
「ん。古い」
「確かにもう旬は過ぎているけども……!」
日本に来てまだ半年しか経ってないルカに流行遅れを指摘されてしまった。
いいんだよ、美味しかったんだから。
それじゃあ次は流行に乗っかってアサイーボウルでも食べにいくか?
え? それももう古いって……?
流行の移り変わりが早すぎておじさんもう付いていけないよ……。
「でも……猫カフェ、ぼくも行きたかった」
スマホから目線を外したルカは、首を持ち上げると、俺の目を見つめてくる。
これは――「こっちは仕事で仕方なく留守にしたのに、なんでお前らは猫カフェを満喫してるんだよ」――という批難の視線だ。
「分かった分かった。それじゃあ次の休みは猫カフェ行くか?」
「ん。行く」
約束を取り付けると、ルカは再びスマホに集中してしまった。
本当、コイツも猫みたいなやつだよな……。
「うずうず……」
一方――マルガレーテはそんなルカを見て、ソワソワしている。
そして何か思い立ったようで、ルカの前で自慢のポニーテールを揺らし始めた。
「み、巫女様~? ほーら、ふりふり」
なるほど。
ルカ猫にやったように、これでルカの気を引こうという作戦か。
しかし――
「ん。邪魔」
――ぺシン。
マルガレーテの作戦虚しく、無慈悲に叩かれてしまうのであった。
「が、ガーン……!」
いくらルカが猫っぽいとはいえ、本能まで猫とそっくりなはずはない訳で……。
「(まぁ……ドンマイ)」
***
その後3人で夕飯を囲み、マルガレーテの〝俺がルカの保護者として相応しいか査問する〟という仕事も無事終了し、元の世界へ戻る運びとなった。
「それでは巫女様、また折を見てお伺いさせて頂きます」
「ん。髪留め、いつもと違う」
「へ?」
トイレの前でマルガレーテを見送っていると、ルカが彼女の髪の毛を指差す。
「あー、大家さんに返し忘れたか」
見れば――マルガレーテの腰まで届くポニーテールの根本には、可愛らしい青色のシュシュがあった。
シュシュは自分からは見えないから、大家さんに返しそびれたのだろう。
マルガレーテは「しまった」といった顔でシュシュを解いた。
サラリと――艶やかなストレートヘアが彼女の背中に広がる。
「すまぬが太陽殿、これを大家殿に返しておいてはくれぬか?」
「おう」
シュシュを受け取りながら、LINEアプリで大家さんに連絡を取る。
今晩は配信がなくて暇しているようで、即座に既読がついた。
『別に安物だし、彼女にあげると伝えておいてくれ』
シュポ――という、軽快な通知音と共に即レス。
「なんかマルガレーテにあげるってさ。どうせだから貰っていけよ」
「しかし、本当にいいのか?」
「いいんじゃないか」
「ん。似合ってた」
「そ、そうか……そういうことなら、ありがたく頂戴するとしよう。次の機会に、ちゃんと礼を述べねばな……」
彼女の手にシュシュを戻す。
するとマルガレーテは、手の平の上でシュシュを弄びながら……。
「ふふふっ♪」
日頃の引き締まった表情を綻ばせると、歳不相応に幼い――少女のような笑みを浮かべるのであった。




