47 女騎士さん、縦セーターを着る
【前回のあらすじ】
ひょんなことから女騎士マルガレーテと2人っきりになってしまった太陽。
気まずい沈黙を破るべく、太陽はマルガレーテにこの世界を観光することにしたのだった。
「うーす、大家さん、いますかー?」
「なんだ日比野。まさか家賃の前払いに来たのか? 良い心がけじゃないか」
「つい先週収めたばかりなんで、勘弁してください……」
「って、なんだこの白人美女は!?」
マルガレーテを連れてやってきたのは、アパートから徒歩3分の所にある大家さんのお宅だ。
大家さんは女騎士然とした恰好をした金髪高身長美女を前にして、玄関先で仰け反っている。
月末でもないのに俺が彼女の家を訪問した理由、それは――
「あのー、彼女に服を一着貸して貰いたいんですけど」
――プレートメイル姿で街に出たら目立つので、服を借りようと思った次第だった。
こんな相談できる若い女性の知り合いは、大家さんしかいないのだ。
夕陽は月に1度しか会えないことになってるし、番台ギャルは俺の頼みなど絶対聞いてはくれないだろうからな……。
まあ、大家さんが若い女性かどうかは、かなりギリギリな所だけども……。
「ご迷惑を承知で、何卒お願い申し上げる」
「うお。日本語ウマ……ま、まぁいいけどさ……。にしても日比野の交友関係どうなってんだよ。中東系座敷わらしの次は白人コスプレイヤー連れてきやがってからに」
「はは。いやまあ、ちょっとした縁があって、日本観光に来た感じっす」
「よくこれで空港の保安検査通ったな。全身金属探知機に引っかかるような恰好じゃねェか」
「ははは……」
乾いた笑みで誤魔化した。
マルガレーテが日本観光に来たのは本当だが、海外から来たとは行ってない。
嘘はついてない。
「まぁいいわ。んじゃ、マルガレーテさんだっけ? 入って入って。何着か見繕うからさ」
「かたじけない」
よし。
これでなんとか服装の問題もクリアしたな。
大家さんがお洒落している所を見たことないので、地味な服しか持ってないと思われるが、着れるだけマシだろう。
口にしたら濃厚なディープキスされそうで怖いから言わないけど。
***
――と、思っていたのだが……。
「た、太陽殿……こ、これは変ではないだろうか……?」
「え? 誰?」
「ワタシだ! マルガレーテだ!」
十数分後。
大家さん宅の軒先で待機していた俺の前に現れたのは、ゆるふわ系のガーリーファッションに身を包んだマルガレーテだった。
トップスはタートルネックの白セーター。
ボトムスはチェック柄のフレアスカート。
靴は厚底のショートブーツ。
トレードマークのポニーテールは健在で、可愛らしい水色のシュシュでまとめられている。
馬子にも衣裳。
いや、女騎士にもガーリーファッションか。
金属製の甲冑から一変、一気に柔らかそうな恰好になったものである。
顔が整っているので、しっかりしたコーデを纏うと、まるでファッションモデルみたいだ。
着馴れない服装に戸惑い、白い肌を染めて恥じらっているのも、彼女の可憐さに拍車をかけている。
涎垂らしながらルカに発情しているショタコン変態女と同一人物とは到底思えん。
「ふふん。どうだ。似合っているだろう」
マルガレーテへコーデを施した大家さんが、ドヤ顔でやってくる。
「こんな可愛い服持ってたんですね」
「あたしを誰だと思ってるんだ! こう見えて売れっ子Vtuberだぞ!? 事務所へ顔を出す時はしっかりとお洒落していくさ!」
「うす。そうでした、スンマセン。いやー、流石大家さん、インターネットだけでなく、現実世界でもファッションセンスがずば抜けてますねー。大家さんに相談して正解でしたよ! よっ! おしゃれ番長!」
「ふふん! かなりツボだろ? 見直したか?」
心の中にしまっておいた本音がつい漏れてしまったが、なんとかリカバリーに成功した。
チョロいぜ。
「かたじけない大家殿。では今日1日、この国の装束を拝借致す」
「にしてもマルガレーテちゃんだっけ? 日本語めっちゃうまいね。ロールプレイも様になってるし、Vtuberとか興味ない? 二ヵ国語喋れるだけでかなり有利だよ! 声も茅野愛衣さん似で綺麗だし。ウチの事務所紹介しよっか!?」
「ぶ、ぶい……?」
「ああいや、コイツ副業禁止なんで、公務員みたいな感じなんで。その話はまた今度!」
Vtuberに勧誘しようとしてくる大家さんをてきとうにあしらい、もう1度お礼を言ってから、大家さん宅を後にするのだった。
***
「巫女様より話には伺っていたが……実際に目にすると凄いな。どの民家も倒壊しておらず、舗装された道には一片の損傷もない。硝子も鏡も惜しみなく使われている。改めて聞くが、ここは富裕層の居住区ではないのだな?」
「そうだよ。どっちかと言うと家賃は安いぞ」
お上りさんみたいに、キョロキョロと、平成初期に取り残された住宅街を観察するマルガレーテ。
下町の街並みでこれだけ驚いてたら、街に出たらもっと驚くだろうな。
――ブロロロロ。
その時。
俺達の背後から1台の車がやってくる。
路地裏の住宅街なので、道路の幅は車1台分しかないし、車道と歩道を隔てる縁石もない。
車は徐行しながらゆっくりと俺達を追い抜いていくのだが――
「きゃっ!?」
――マルガレーテは普段の凛々しい雰囲気からは想像できない、可愛らしい悲鳴をあげると、俺の腕にしがみついてくる。
――ぽよんっ。
「(うおっ!?)」
セーター越しに、大きくて柔らかいものが……!?
普段はプレートメイルで覆われていて気付かなかったが、マルガレーテの乳……かなりデカいぞ!?
「あー、マルガレーテさん?」
「ち、違うぞ!? 今のは違うのだ! あれは自動車と呼ばれるものであろう? 巫女様から聞かされて知識としては知っている。ただ、動いているのを見るのは初めてだった故に……ワタシはもっと俊敏で、もっと巨躯な魔物とも対峙したこともある! そんなワタシが、あんな生娘のような声を出す訳がないだろう!?」
「わ、分かった分かった! まずは離れてくれ! 腕が鬱血しそうなんだ!!」
数千人規模の兵隊を率いる、対魔王軍の総指揮官として、自動車如きに情けない悲鳴を出してしまったことが、相当恥ずかしかったのだろう。
マルガレーテは早口で言い訳をまくしたてると同時に、俺の腕を万力のような強さで締め上げている。
多分無意識でやっているのだろうが、無意識だからこそ力のセーブが出来ておらず、俺の腕がミシミシと悲鳴をあげている!
最初はおっぱいが当たって天国かと思ったらが、普通に地獄だった……。
「なっ!? き、貴様ぁ! ワタシの胸を!? まだ誰にも触らせたことがなかったのに!! このケダモノがああああぁぁ!!」
「ぜぇぜぇ……アンタから抱き着いてきたんだろうが! こっちは骨折れそうで感触を楽しむ時間なんか2秒しかなかったわ!」
「2秒は楽しんだのだな!? くそう! アパートに戻ったら覚えていろ! 剣でその腕を切断してやる!」
「理不尽過ぎるだろ!!」
やり口が当たり屋じゃねーか!
どうしよう、家に帰りたくなくなっちゃった。
その後――マルガレーテが車にビビッて悲鳴をあげたことは誰にも言わないと誓い、引き換えに俺の腕はなんとか切り落とされずに済んだのであった。
そんな訳で――今回はここまで!
次回、『女騎士さん、猫カフェへ行く』。
乞うご期待!!




