第二話
二学期最初の登校日、窓際一番後ろの席に気怠そうに座っていた。
不自然に右隣の席が空席になっているせいで心がざわめく。
ただでさえ他人とコミュニケーションを取るのが苦手なのに転校生なんてきたら嫌でも話をする必要が出てくるかもしれない。
挨拶だけなら仕方無いと思えるが、教書が無いからとシェアするイベントとかあったらどうしようとか、考えれば考えるほど登校初日も相俟ってテンションだだ下がりなんだが⋯⋯と深い溜息をついていた。
チャイムが鳴り担任が教室に入ってきた。
「全員静かにしろー、転校生を紹介するぞ、桜井入れ」
ガラッと扉が開く音が聞こえ、全員の視線が転校生へと釘付けになった。
金髪の髪が窓からの風で靡きキラキラと輝き、空よりも青い瞳がより一層際立って見える。
身長は160センチくらいで一瞬華奢に見えたが、付くべき所にはしっかり付いておりスタイル抜群って感じだ。
白を基調とした制服に学年事に色分けされている赤いスカーフを首元に着けスカートを短く履いている。
『ギャル』これが彼女の第一印象だった。
「桜井自己紹介!」
「本日からお世話になります桜井千鶴と申します。まだ不慣れな事が沢山ございますので皆様何卒ご指導ご鞭撻の程宜しくお願い致します。」
見かけによらず随分丁寧な挨拶するな、別に偏見とかあったわけじゃないけど⋯⋯
軽薄な言葉や意味不明な言葉使うと思っていたから少し吃驚してしまい、心の中で彼女に対するイメージが少し変わっていくのがわかった。
でもなんだろう初めて会った感じがしない。
懐かしいようなそれでいて何処か近しくも感じる雰囲気がある、俺だけか?
「席は窓際一番後ろの左側、篠崎の隣な、篠崎頼んだぞ」
「ういっす」
何を頼まれたのかは全くわからんが、聞かれた事だけ応えればいいかぁ?と俺は机に頬杖をついて外を眺める事にした。
第一印象とイメージ上書きから、『高嶺の花』俺が格付けした結論だ。
そんな俺を気にする様子も無く転校生が近付いてきた。
「よろっ、桜井千鶴だよ」
「あ、あぁー篠崎咲也です。宜しく」
「何見てんの?」
「空」
「ウケるっ、楽しい?」
「別に」
会話強制終了、てかやっぱり普通にギャルぽい話し方するじゃん?そりゃそうか、最初の挨拶で普段通り話すやつなんていないか?
でもなんだろう?俺はやっぱりコイツを知ってる気がした⋯⋯
二学期初登校日なので特に授業は無いが、ホームルームで今月の予定諸々を報告している。
早く学校終わらないかなぁ、家に帰りてぇな⋯⋯
『コトッ』
転校生が消ゴムを落としたのが目に入る。
少し面倒だけど取ってやるか、重い腰を少し上げて手を伸ばした、その瞬間右からも真っ直ぐに綺麗な白い手が伸びてきた。
『ピシャーーーンッ!』
「痛ぁぁぁぁぁぁッ」
転校生の手に触れた瞬間雷鳴みたいな音が聞こえ頭の天辺から爪先まで電気が走った。
全員には聞こえて無かったのか?俺だけ?転校生の顔を窺うと血の気が引き真っ青になっている。
俺だけじゃなかったんだ?転校生も?これはあれか?運命の出会いをみたいなそれか?経験したことの無い痛みで語彙力と思考が失われた。
「篠崎大丈夫か?」
「恐らく」
マジなんだったのだろう?さっきまで停止していた回路が復活したので冷静に考えてみた⋯⋯
うん、わかんねぇ、諦めてまた空を眺める事にした。
一限目が終わると同時に女子が群がってきた。
ま、お決まりのやつだよね?根掘り葉掘り聞いてく感じだよね?正直俺も少し気になる事があったので空気になり聞き耳を立ててみる事にした。
「桜井さんいつ引越してきたのー?」
「夏休み中だよ、親の仕事の関係で」
「桜井さん何処に住んでるの?」
「駅前の十階建てのマンションだよ!」
「ねぇねぇ部活入る」
「今の所予定ないかなぁ?」
「お昼一緒に食べよ」
「うん、食べよ食べよ」
質問攻め、根掘り葉掘り聞かれてお昼一緒に食べて、どこかのグループに入ってみたいな感じなんだろうか?
こうゆうのは全く興味が無い、別に一人ボッチでもいいじゃないか?なんでそんな仲良しごっこみたいな事するんだと?疑問に思う事しか無い。
唐突に転校生の話していた内容が頭の中を巡った。ちょっと待て、駅前で十階建てのマンションに住んでると言ってたか?俺と住んでる所一緒じゃね?確かに夏休み中引越し業者を見かけたけどまさかな。
「そー言えば篠崎君の家も駅前らへんじゃなかった?」
「そ、そーだな⋯⋯」
ま、まて、なんでお前が知ってんだよ?今必要無い情報じゃね?俺に振るターンじゃないだろ?と少し戸惑っていたら二時限目開始のチャイムが鳴った、チャイム神!マジナイス!
群れていた女子達が一斉に蜘蛛の子のように散って行く。
パターン的に言わせてもらえば二時限目終わりから女子が集まって来ることは無いはず、そうあって欲しいと願いながら机に突っ伏した。
二時限目が終わり、案の定群がってはこなかった、良かったと胸を撫で下ろしていた矢先信じられない言葉が投げられてくる。
「篠崎君今日一緒に帰ろ?」
「はっ?はぁ?なんで?」
「家近いって聞こえたし、わたし方向音痴だし、話したい事あるし、みたいな?だめ?」
嫌だって言ったら空気読めないやつになるのか?てか変な所しっかり聞いてんなよ。
話ってなんだよ?俺なんかした?何?転校初日で目付けられた感じ?いや転校してきたのそっちだし…どうしよう…
「ねぇダメかなぁ?」
頬を赤くし上目遣いで訴えてきた。
「はぁぁぁ⋯⋯わかった、いいよ」
「マジ?やったぁ〜」
逆らえない雰囲気に押し切られついついオッケーをだしてしまった事に正直後悔している。
一人で帰りたい、ただでさえ他人と距離を取って目立たないように生活していたのに転校生と下校だなんて悪目立ち確定過ぎて嫌すぎる。
そんな不快感を胸に抱きながらその時を迎えたのだ。