最終話
右腹部の痛みを感じ目が覚めた。
横を向こうと顔を動かすと枕が濡れている。大泣きしたもんな、あんなに泣いたの初めてかもと恥ずかしさを隠すため顔を手で覆いながら上半身を起こそうとするが痛みが走り、うまく起き上がれない。
右腹部を手で押さえなんとか上半身を起こし左側を見ると千鶴がいた、あの時見た夢のような悲愴感は感じない。
月明かりが千鶴を照らす、いつも通りとは言えないが血色は悪くない。
「よ、よかった〜」
心の声が漏れてしまった。
「さ、さくや⋯⋯?」
か細い声が聞こえ千鶴のベッドの横に向かった。
「千鶴、千鶴大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかも?なんか体中痛いしここどこ?」
「病院のベッドの上だよ」
「なにがあったのよ〜マジ最悪」
まぁそりゃ最悪だろうよ色々あり過ぎたからな、それにしても平常運転過ぎだと思い吹き出してしまった。
「笑うなし、てか説明してよ」
「うん、でも疲れたら寝てくれよ」
そう言って事のあらましを千鶴に説明した。説明の途中から千鶴は号泣しなだめながらの説明になってしまった。
「さ、さくや〜ありがと〜」
「うん⋯⋯てかほとんど千尋ちゃんのおかげだけどね」
そう言うと唸り声を上げながら千鶴が体を起こそうする。むちゃくちゃだなと思い千鶴の体をベッドに抑えた。
「普通にまだ無理だから」
「やっぱりあれ夢じゃないの?咲也はいつからお姉ちゃんに会ってたの?」
「会ってたって⋯⋯」
千鶴に今まで見た千尋ちゃんの夢を全て話した。また泣き始めちゃって収拾がつかない。
気持ちは分からんでもないが。
「お姉ちゃんずっと守ってくれてたんだね⋯⋯」
「だな、俺の事も千鶴の事も⋯⋯千鶴本当に助かって良かった」
「私の中に咲也いるんだよね?」
「言い方!いるけどな」
布団の中でもわかるように千鶴が傷口に手を移動し俺を見た。
「私傷物になっちゃったな〜⋯⋯咲也責任取ってよね⋯⋯」
「言い方!でもそうだな⋯⋯責任とかじゃなくてさ、俺はずっと千鶴の側に居たいと思ってるよ」
そう伝えると狼狽えて目を丸くする。
「えっ?えぇぇぇぇ?それって告白?」
「え?だめだった?」
千鶴の顔がみるみる赤くなって行くのが分かったが、俯き口を尖らせる。
「だめでしょ〜、退院したらやり直しだからね」
そう言うと千鶴は顔を上げて目を瞑り顎を少し上にあげた。
「え?なに?」
「キス、キスに決まってんでしょ」
「え?やり直しって言わなかった?」
目を細めて顎で催促する千鶴の唇に俺の唇を重ねた。唇を離し見つめ合うその青い瞳に吸い込まれそうになりもう一回、更にもう一回と何度も何度も⋯⋯
「ねぇ咲也」
「ん?」
「子どもが男の子でも女の子でもさ名前千尋にしよ♡」
「気が早くないか?」
「いいの♡」
――――――八年後十二月二十三日
中央病院産婦人科
「咲也見てよ見てよ~マジ天使じゃない?」
「千鶴頑張ったな、二人とも天使」
そう言って千鶴のおでこにキスをした。ベッドの上には千鶴と新しい生命が横になっている。もうニヤケ顔が止まらないこんな幸せな事があっていいのか?
「なぁ俺もベッド入っていい?川の字になっていい?」
「いいに決まってんじゃん早く早く♡」
新しい生命を真ん中に置いて、ベッドに入った。ここまで本当に色々あったな、決して平坦な道のりじゃ無かった。
苦しくて逃げ出したい日なんて何回あっただろうか?それでも歩みを止めず前を向いて二人で一歩そしてまた一歩って⋯⋯
俺と千鶴はお互いにおでことおでこをくっつけてその間で寝ている新しい生命へと視線を移した。
「「生まれてきてくれてありがとう千尋」」
〜完〜