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第十二話

 

 修学旅行を終え駅に集まっていた。


 「家に着くまでが修学旅行だからな、解散」


 担任の話も終わり家に帰ろうと立ち上がった。


 「咲也ぁ、友達とご飯食べに行くから先帰ってて」


 「オッケー」


 一人駅を後にして帰路についた。修学旅行は思った以上に楽しかったがやはり疲れが溜まっている。早く帰って休もうと思い少し早足で家に向かった。


 程なくして家に到着し玄関を開けた。 


 「ただいま〜」


 「お帰りなさい、楽しかった?」


 「楽しかった!疲れたから部屋で休む」

 

 リビングにいる母さんに一声掛けてから部屋へと向かった。持っていたお土産や荷物一式を部屋の片隅に置いてベッドに倒れ込んだ。


 ダメだ眠い少し寝よ。


 『プルルルップルルルッ』

 

 突然携帯が鳴り目を覚ました。まだ眠い⋯⋯重い瞼を擦りながら携帯の画面を見た。二十三時過ぎ着信は千鶴からだった。


 「もしもし、どうした?」


 「咲也君?」

 

 千鶴じゃないのが一瞬でわかると共に一抹の不安が押し寄せてきた。


 電話越しの声は今にも泣き出しそうに震えている、何かあったことを理解するのには十分な理由だった。


 「咲也君、千鶴が千鶴が」


 「何があったのですか?」


 千鶴のお母さんからだった。電話の向こう側で泣き出してしまいその状況からよくない事が起こったんだと俺も気が気じゃなくなっていた。


 何があったか聞き出す前に走りながらでも話は聞けると思い、玄関を飛び出した。

 

 「俺外出ました」


 「⋯⋯病院⋯⋯中央病院」


 微かに聞き取れた病院の名前、そこは俺も行き慣れた近場の総合病院だった。場所を聞いた瞬間血の気は引き、頭の中を最悪の展開が過る。


 病院に付き最初に目に入ったのは泣き崩れた千鶴のお母さんの姿だった、俺はすぐにかけより千鶴の居場所を聞いた。


 がむしゃらに走った、周りの物や人には脇目も振らずに息が切れ心臓ははち切れそうに鼓動を打っている。


 病室の前に付き静かに扉を開けた、そこにはベッドに横たわる千鶴がいた。まだ家に帰っていなかったのか?冬物の制服は少し汚れているように見え首元の真っ赤なスカーフがまるで血のようにみえた。


 真っ暗な病室は換気のためか少し窓が空いておりそこから入る風でカーテンが揺れている、時折差し込む月明かりが千鶴の金色の髪をキラキラと光らせていた。


 俺は咄嗟に駆け寄り千鶴の頬に触れた。触れた瞬間その冷たさにもう生きていない事に気付いた。


 声にならない叫び声が出たのが分かった。千鶴の手を握るがもちろん反応があるはずもなく俺はその場で泣き崩れた。


 気持ち伝えられなかった、一緒に行きたい場所も見せたいものもいっぱいあった。ただただ側に、一緒にいたかった。後悔の念と絶望感が更に俺を追い詰めてくる。


 もうどれくらい泣いたかかすら覚えてない、目の前の現実を受け入れられない、いったい何が起こったのかを考えようとしたが無理だ。


 ふとある事に気付いた、この数秒か数分の間に物音や人の出入りが一つも無い事に⋯⋯病室にある時計を見ると、止まっていた。


 これは夢だと気付く。それと同時にこれがただの夢ではない事にも気付いた。


 何故なら前から俺は度々不思議な体験をしていて、行ったことの無い場所の記憶があったりこれから起こる事が分かったりしていたからだ。


 試しに自分の頬を抓ったがやはり痛くない、これから起こる未来の夢⋯⋯唐突に恐怖が押し寄せてきた。


 次の瞬間背中を引っ張られた。後ろを見るとそこには小さな女の子が俯き涙を流して立っていた。


 この女の子もしかして⋯⋯


 「千尋ちゃん?」

 

 女の子は俺を見上げた。苦悩の表情に顔を引き攣らせ左目からだけ涙を流しているのが分かった瞬間に目が覚める。気付くと部屋の天井を見ていた。


 俺は急いで千鶴に電話をした、早く出ろ⋯⋯早く出ろ⋯⋯


 「もしもし?咲也?」


 「良かった、本当に良かった」


 「もう咲也〜何かあったの?どうした〜?」


 「な、何も⋯⋯声が少し聞きたくなって」

 

 千鶴の声が聞けてホッとして胸を撫で下ろした。


 「寝てたよね?ごめん」


 「大丈夫だよ〜」


 本当は今すぐ行って抱きしめたかった。とりあえず今は千鶴の生死が確認取れたからと自分に言い聞かせ電話を切った。


 現状に安堵したが最悪の状況に変わりは無い、あの夢がいつ現実に起こるか全く予測がつかないからだ。明日かもしれないし明後日かもしれない。


 そう考えると恐怖でいても立ってもいられなくなる。少し落ち着きたいのと喉がカラカラだったのでリビングに水を取りに向うと母さんがまだ起きていてテレビを観ながらお茶を飲んでいた。

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