第十一話
修学旅行は沖縄か北海道かを投票で選べるシステムになっていた。
行き先は北海道に決まり、思う存分遊んでやると意気込む。
そんな修学旅行のバス移動中にある事に気付いたクラスメイトが話し始めた。
「なぁこの修学旅行ってグルメ旅行じゃね?」
そう思うのも仕方ない、食べ物が本当に美味い。イクラ、雲丹、蟹を乗せた海鮮丼を始め味噌ラーメンにじゃがバターどれを食べても一級品だ!俺は特に大好きな海鮮を中心に食べていた。
「普通に回ってる寿司屋もさぁ~めちゃくちゃ美味くなかった?めっちゃ湧いたし!」
「半端なかった!雲丹は臭みも無く甘いし、いくらなんてプチプチだぜ?蟹はプリプリだし!」
語彙力なんとかせい!グルメリポートは絶対にできないなと軽くツッコミを入れた。
「そう言えば、咲也また桜井さんと距離感近くなってね?カップルってか雰囲気がもう夫婦のそれにしか見えないんだけど?」
「夫婦かぁ⋯⋯どちらかと言えば家族のそれなんじゃないかな?」
母さんが言っていたが千鶴は俺を兄のように慕っていたと、千鶴にとって俺は兄的な存在で甘えてるんだと思っている。
そう考えると千鶴の取る奇行も兄にする妹の甘えと捉えるべきなんじゃないかと俺は考えるようになっていた。
「家族?」
「そう、最近色々あってな兄貴に対する甘えみたいな感じだと俺は思ってるよ」
「兄貴に?いやちげぇだろ!ま、ひとりっ子だからわからんけど」
俺も一人っ子だから正直わからんのだが?
「お前的にはどうなの?気持ちとかさ?」
それは⋯⋯最近芽生えた感情が正直わからなくてずっと自問自答してたんだが⋯⋯俺はたぶん千鶴を好きだ。
それは家族に対しての好きではなく、女性に対する恋愛感情の好きである。
千鶴の座ってる場所と距離を確認して俺はこう答えた。
「俺は普通に好きだよ」
「まじ?告らないの?もう付き合ってるみたいな感じだしいけるだろ?」
「それは家族的な付き合いだろ?ぶっちゃけ自信無いな」
「絶対にうまくいくと思うけど?そう言えば今日函館の夜景見に行くだろ?」
「行くけど?」
「夜景になカタカナでスキとハートが隠れているみたいで見つけたら恋愛がうまくいくジンクスがあるみたいだぜ」
「マジ?探す!」
「ブッハァ!咲也マジじゃん?頑張れよ」
「う、うるせぇ」
ジンクスとかあんまり信じて無いけど、見つけられたら今日は出来なくてもクリスマス迄には告白を⋯⋯千鶴誘ってみよ⋯⋯
その日の夜バスは夜景スポットに向かっていた。タイミングよく千鶴は俺の横に座ってくれていたので、言うなら今しかない。
「千鶴一緒に夜景みない?」
「え?咲也が誘ってくれるなんて珍しい、モチロンだよ♡」
【※私は最初から一緒に見るつもりだったけど咲也まさかあのジンクス知ってたりするのかな?】
「マジ?やっりぃー楽しみだな!」
「うん♡さ、咲也ジンクスとか〜知ってたり?」
チラッと咲也の顔をみたら耳まで真っ赤になってるし。
【※確信犯やん!てかめっちゃ可愛いだけど】
千鶴もジンクス知ってたのか?めちゃくちゃ恥ずいんだけど、平常心!無だ無!
「少し聞いた⋯⋯」
「そ、そっかー、じゃ一緒に探そう♡」
バスが停車し皆順次バスを降り夜景の見える場所まで歩き始めた。肌に当たる空気は乾燥していて少し冷たい。
暗い道を千鶴と一緒に歩いて行くと目の前の暗闇に宝石が散りばめられたようなキラキラした風景が飛び込んできた、100万ドルの夜景!
「「うわぁぁぁぁぁ!ヤバっ」」
俺と千鶴は顔を見合わせた、ハモってしまったことが恥ずかしくなってか同時に俯き上目遣いで目を合わせる。
「探すか?」
「うん♡」
夜景に隠されたスキとハートを探すため一番探せそうな場所で目を凝らしていた。
修学旅行では定番の場所なのか他校生もチラホラ見かける。
『チー君見つかった?』
『いや、結構無理くないか?』
隣のカップルであろう二人も目的は同じようだ、このキラキラした夜景の中に本当にあるのかと疑わしくなってきた。
「あった!あったよ咲也」
「千鶴マジ?」
『『マジ?』』
てかお前ら誰だよ〜
『あ、ごめんなさい私は蓮野姫芽!でこっちは千尋だよ!ねぇどこにあったの教えて教えて』
いきなり自己紹介って?千尋って名前⋯⋯俺と千鶴は目を見合わせた、この時この場所で変な奇遇ってあるもんなんだなってそれより文字どこだよ?
「私は千鶴!こっちは咲也だよ!あれだよあれ!あそこ見て!」
自己紹介続けるのかーい、それはさておいて千鶴の指差した方向に視線を向けた。
「「「あった!」」」
俺達四人は目の前にあった柵に頬杖を付き肩を並べてそのスキとハートの文字を見続けていた。願わくば四人の未来永劫幸せな時間が続きますようにと。