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第十話


 すっかり秋だなぁ⋯⋯二、三日休むつもりが気付いたら制服は衣替えする季節の十月になっていた。


 なんか凄い久しぶりに学校に行く感じがする色々あったからなぁ⋯⋯学校に行く途中も千鶴にどんな顔して会えばいいんだろうと考えたりし気持ちはかなり憂鬱になっていた。


 校門を通り過ぎ昇降口で上履きに履き替え、教室までの道程に千鶴がいないか探しながら自分の席に座った。

 

 千鶴はまだ来てない。頬杖を付き空を眺めた、今にも降り出しそうな空模様だ。


 チャイムが鳴るのと同時に千鶴が教室に入ってきた。一瞬目が合うがそれ以上は何もない。


 当然だ、学校を休んでる間、電話もメールも返して無いのだから。会話一つ無いまま時間だけが過ぎていく。


 ふと気付けば雨が降り始めていた。


 授業なんて何一つ耳に入らない、最後の授業が終わり千鶴に話しかけるタイミングを見計らっていた、なんて声かけよう?久しぶりとか?いやいやいや違うだろ、電話ごめんかな?


 などと考えていたら⋯⋯千鶴がいない、急いで追いかけなくちゃ、上履きを履き替え急いで校舎をあとにした。


 雨が更に強くなってきた。傘に当たる雨音がまわりの音を遮る、然程時間を掛けずに千鶴を見つけられた、傘もささずゆっくりと歩いている。


 「ち、千鶴」

 

 千鶴の前に回り込み傘を差し出した。

 綺麗な金髪はびしょびしょに濡れ制服からも雨が滴り落ちている。


 これだけ雨が降ってるにも関わらず、青い瞳から一目で分かるほどの大粒の涙が零れ落ちているのが分かった。

 

 「なんで?なんでお姉ちゃんを助けてくれなかったの?」

 

 その声は雨に遮られているにも関わらず形容しがたい怒りで震えてるのが分かった。俺の目を青い瞳が睨み付けた。その瞳の奥から悲しみの感情が否応なく伝わってくる。


 「お姉ちゃんが大好きだった、それと同じくらい咲也も大好きだった。ねぇなんで?なんで二人とも居なくなっちゃったの?ねぇなんでよ」


 その声は悲痛の叫びに変わっていた。ずっと気丈に振る舞っていたのだろう、我慢していたのだろうそのすべての感情が言葉と一緒に突き刺さってくる。


 何も言わずに千鶴の流す涙に手を伸ばし拭おうとしたが、その手をすかさず千鶴は振り払って話を続けた。


 「何か言ってよ、言い訳くらい言ってよ、お願いだから何か喋ってよ」

 

 もう何を喋れば正解か分からなくなっている。それでも話さないと、伝えないとと思い話し始めた。


 「俺情けないよな?」


 「情けない」


 「かっこ悪いよな?」


 「かっこ悪い、でもそうゆことじゃないの、違うんだよ、もういなくならないでよ電話くらい出てよ、もう心配させないでよ」


 千鶴の気持ちがしっかり伝わってきた、此処で言う必要は無いかもしれない、けれど隠し事をしたくないと言う独りよがりから意を決して千鶴の手を握りそのままその手を俺の傷痕へ移動させた。


 「腎臓移植⋯⋯俺千尋ちゃんに守られていた、千尋ちゃんのお陰で俺も生きてこられた⋯⋯」


 この説明で伝わったのかはわからない。

 

 千鶴はそのまま泣き崩れるようにして俺に倒れ込んだ。

 

 傘はその勢いで地面に落ち壊れるのが見えた、俺はすかさず包み込むように千鶴を抱きしめる。


 千鶴の体から力が失われ始めたのと同時に、雨はさらに勢いを増す。


 「うわぁぁザーッ…ぁザーッ…ん」

 

 千鶴の叫び声に似た泣き声すらかき消す程に。


 何かを言ってくれたのはわかったが聞こえなかった。俺は左腕だけで強く千鶴を抱きしめ右頬にそっと手を添えた、千鶴はそれに気付きお互いの目が合った。


 「「ザーッ…ハザーッ…」」


 さっきまでの怒りを露わにした顔に笑顔が戻る、雨風に晒され俺等の姿格好は酷い状況になっている。その状況に笑みが溢れてしまったのだ。


 抱きしめていた手を千鶴の肩に移した。雨音で聞こえないだろうと思ったから目で帰ろうか?と合図を送った。


 千鶴はそれを理解してくれ小さく頷いた。俺は肩に回していた左手を移動し千鶴の右手を握りゆっくりと歩き始める。


 千鶴は手を握り返し俺の少し後ろを付いてきてくれた。


 家に着くなり俺は急いでバスタオルを取り千鶴に渡した。


 「千鶴体冷えてるよ、そのまま風呂に入って」


 「うん」

 

 千鶴を脱衣所に押し込み俺もバスタオルで体を拭いた。あ!千鶴着替え無いか?タンスを開け白いパーカーのセットアップを取り急ぎ脱衣場に向い扉をノックした。


 「ん?」


 「千鶴脱衣所の前に着替え置いとくからね」


 「ん♡」


 着替えを起き自分の部屋に戻った。色々あり過ぎた⋯⋯長時間雨に晒されたおかげで俺も体が冷えている、エアコンのリモコンに手を伸ばし暖房を付けた。


 暖かい風が身も心も癒してくれてる気がする。


 『ピーッピーッピーッ!お風呂で呼んでいます』


 え?何かあった?少し焦り急ぎ風呂場に向かい扉を開けた。


 「千鶴何かあったか?」


 「一緒に入る?♡」


 「は、入るわけ無いだろ」

 

 いつも通りに戻ってくれたと思い少し安心した。

 すぐに部屋に戻って胡座をかき座り込んで一息ついてると風呂上がりの千鶴が入ってきた。


 風呂上がりの千鶴の髪がキラキラとひかっている、頬をピンク色に染めもの凄く艶っぽく見えついつい見惚れてしまった。


 【テクテクッ⋯⋯チョコンッ⋯⋯?】胡座をかいてる俺の上に千鶴が座った。


 「え?チョッ…何してんの?」


 「座ったの♡」


 いや見ればわかる!心臓が飛び出るかと思った。手で触れたわけじゃないのにその柔らかさが脚から伝わってきた。これは無理!


 「咲也顔真っ赤だね?風引いた?大丈夫?」


 いや分かって言ってるよね?髪からいい匂いが⋯⋯ってそうじゃないから。


 「ち、千鶴お、俺の横に座って!」

 

 「ん♡」


 そう言うと俺の左側に移動してくれたがそれでも近い!色々しんどい!どうすんのこれ?落ち着こう落ち着こう!なんとか理性を保とうと深呼吸を⋯⋯千鶴の手が俺の左下腹部を⋯⋯もう無理かも。


 「お姉ちゃんここにいるんだよね?」


 「うん⋯⋯」


 そう言うと千鶴は今まで見せた事の無い笑顔を見せ傷痕を撫でながら俺の肩に寄りかかってきた。


 正直何かが解決した訳では無い、でも前進は出来たと思う。十年間の空白を埋めるよう一歩一歩千尋ちゃんの分も俺達は歩いて行こう。


 「咲也来週修学旅行だよ~」

 「まじか?」


 完全に失念していた⋯⋯

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