「正義は勝つ」と弁護士は高らかに宣言した。
数え切れないほどの罪人を救った弁護士がいた。
有罪であることが明らかとされた裁判でさえ、弁護士は影も形もなかった無実の証拠を持ち出したり、今まで存在もしなかった証人を連れてきて必ず被告人を無罪にしたのだ。
「正義は勝つ」
数え切れないほどのインタビューで彼は謙虚に顔を伏せながら言った。
弁護士に救われた罪人たちはその対価として莫大な報酬を支払ったが、彼は受け取ったそれを全て恵まれない人達に寄付した。
「いずれ、育つ多くの正義のために」
どれだけ綺麗事を嘯こうとも世界は間違いなく悪の方が強かった。
故にこそ彼は正義の代行者を、つまり自分自身の後継者を育てることに生涯を捧げたのだ。
寄付を受けた者達は皆、そんな弁護士の姿に見惚れ、憧れ、そして彼のような存在になろうと勉学に励み、また心身共に強くあろうと尽くした。
そんな者達の姿をかつて弁護士に救われた罪人が嘲笑うようにして言った。
「正義は勝つ、か」
その言葉に弁護士は自ら苦心の末に無罪を勝ち取らせた罪人に憎悪の表情を向けて告げた。
「正義は勝つ。いずれ、必ず」
罪人は気にした様子もなく大笑いをして去っていった。
やがて、弁護士は天寿を全うし死に至り、閻魔大王の前に立った。
閻魔の隣に立つ者が弁護士の生前の行いについて語ろうとした時、彼は高らかに宣言した。
「正義は勝つ」
その言葉を聞いた閻魔は表情を変えた。
怒ろうとしたのかもしれない。
あるいは蔑むつもりだったのかもしれない。
しかし、弁護士がそのまま地獄へと向かったのを見て感嘆の息を漏らした。
「見事だ」
閻魔の言葉が弁護士にとって何よりも救いとなった。
「お前の育てた正義の芽は育ち、いずれお前の願いを叶えるだろう」
こうして、多くの罪人を不法を用い無罪にしてきた弁護士は地獄へ行った。
しかし、巨悪からもぎ取った金は彼の望み通り、彼が成る事が出来なかった本物の正義の芽となり、これからの世界を少しでも良いものとすることだろう。