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【パーティ追放殺人事件】序章

 たいまつの火に照らされた薄暗い洞窟に彼らはいた。


 ひとりはマントを羽織り、軽鎧をまとった赤い髪の青年だった。

 胸から腹にかけて浅い傷があり、軽鎧の割れ目から血がしたたるのを左手でおさえている。


 彼の前には、胸甲をまとった女剣士がいる。

 鉢金のような兜を着用し、編み込んだ長い緑髪を後ろにたらしている。左腕にはガントレットシールドがつけられていて、もう片方の手で長剣を握りしめている。


 べっとりと血のついた刃先を青年の顔につきつける。


 彼らの近くでうず高く積まれた何かが燃えていた。その炎が女剣士の激しい剣気でゆらぎ、岩にまじった蒼い水晶が光る。


 鼻先に死を感じながら青年はこれまでの人生を回想していた。


 裕福な家庭で育ち、隠居した親からギルドを引き継いでからも苦労することなく生きてきた。

 『勇者』としてパーティを率いて新たな採掘地を発見し、名声も得てきた。

 人なみの恋愛も経験したし、今も大事な人がいる。


 何も間違ったことはしていない。なのに、なぜこうなったのだろうかと。


 青年は顔をうつむかせた。

 もうだめだという諦めと死にたくないという本能がごちゃまぜになって身体の芯で暴れている。

 そして、わずかに本能が勝る。


 女剣士はゆっくりと剣をかかげるように振りあげ、両手で柄を持つ。


 刹那、青年が両手をかざして炎魔法を放つ。


 顔をうつむかせたときに詠唱を終えていたのか、相手の目をくらますような大きな炎が舞ってすぐに消える。

 女剣士はほんの一瞬たじろぎ、剣を振りおろす。剣見が岩壁を削る――。


 怯えた男の姿はない。


 青年は近くにあった魔法陣の中に逃げのびていた。

 床に手をついて魔法陣を発動させながら。


「き、君を追放します!」


 一言発して消えていった。


 ひとり残された女剣士は崩れ落ちるように膝をついた。

 厚手のズボンについていた鉄の膝あてと岩肌から覗く魔法石がぶつかり、乾いた音が鳴る。


 それが壁に反響して空虚な洞窟を駆け抜けていった。

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