鉄板登録
幾つかのドラマが産まれ、幾つかの命が失われようとしていた広場を、巻き込まれる前に抜け出し、衛生兵らしき担架を担いだローブ姿の人たちとすれ違いながらも、誰に呼び止められる事、無くすんだ。
私が悪い訳ではないのだけれどもな。そんな事を考えながらも、街中での騒動を起こしたら最低2日からの無料社会奉仕に順ずること、また悪質な場合は、禁固1年~後、国外退去と冊子に書かれていた以上、どの程度が『騒動』に当てはまるかはまだ判別が付かないが、一日目で、国家権力のお世話になるのは、御免だ。
「ぉぉ、これが『大迷宮リンバス』の入り口か…大きいな」
入国審査を受けた城門からも見えていた、大きな宮殿風の建物、これが『リンバス』とやらの入り口がある建物らしい。
太陽の光を受けて、輝く不思議な建材を使ったその建物は、大昔から在り既に5000年程は軽く経っているそうだ。最初は、この世界で大多数に信仰されている、豊穣と癒しの女神『メディナ神』が降り立った場所として『メディナ教』の聖地兼聖堂として使われていたらしい。だが、ある日、高名な司祭が女神メディナの啓示を受けて、開かずの扉だった場所を開くと無限に続く迷宮が広がっていた…
そんな成り立ちらしく、女神の試練だ!と囃し立て、時の僧侶たちは挙って『リンバス』に
挑み、宝を持ち帰る者も居れば、時に命を落とす者も居ながら、力を付け、この世界での勢力を拡大していった。というのが背景にあるらしい。
しかし、周りに存在した幾つかの国家が、優秀な僧侶を大勢抱え、女神の恵みだ!と救いを求めにやってきた人間を囲い一つの国家に成りつつある、それも自国にも信者が増えつつある国家だ、それに危機感を持ち、結託して侵略を始め、軍VS迷宮で鍛えられた僧兵の熾烈な戦いを繰り広げたが、時の司祭は、無闇に失われていく命に涙を流し、降伏。
その思量深さに心を打たれた、施政者達は改心し、今後このような事がないように、この地を中心に一つの連合国として纏まる事にした…。
突込み所や施政者と司祭の思惑が透けてみえる気がするが、確証も無いし、どうでも良い戯言に過ぎないのだが、その戦争と、後の幾つか戦争で大規模な魔法を食らっても欠片も崩れなかった不思議素材で出来た宮殿は、数千年の時を思わせないほど、威風を醸し出している。
そんな宮殿を望める場所に経っていた『探索者協会』と偉く達筆で書かれている看板を掲げる大きめの建物に感心しながら入っていく。
テンプレ乙が往くッ! 第三乙 鉄板登録
「お客様本日は、『シーカー』登録をご希望ですか?」
「嗚呼、登録を頼みたい」
混雑している役所風の内装の中をどうにかこうにか、『各種登録手続き』と書かれた標識の窓口に辿り着き、幾人か並んでいるのを待ちながら。
探索者と呼ぶ割には、武器を携帯している人間が見えないな…、髪の色が混在しすぎて目が痛くなってきた…。などと益体の無い事を考えていると何時の間にか自分の番が来たらしい。
「それでは、まず、登録料が400Gになります」
四十枚の金貨をバックの中に入っている袋から取り出し渡すと、ありがとうございますと言いながら、受付の女性は、入国金を払った時のように金貨を手近にあった機械に掛ける。
「入国の際にも気になったのだが、その機械は?」
「こちらですか?こちらは、ゴールド、ゼニーの悪幣、つまり銅などを混ぜた偽造通貨を見つけ出すのと、同時に数量計測をしてくれる便利な機械です」
大きな金額を扱う為、一応の処置ですのでお気になさらずに、と笑顔で応対してくれるのは、良いのだが、偽造と言えば偽造なのか?と思わざる終えず、複雑な心境だ。
何気なく済ませていたのだがカルチャーショックを与えてくれた、メイというジュース売りの女性にもその金貨で支払いをしたのだが、今更だろうか…?
葉っぱに戻る訳でもないだろうし、通し番号が在る様でも無いので、『神のみぞ知る』と謂う事にしとこう。
「はい、丁度400G頂きました。では、こちらの用紙にご記入ください」
そういって手渡された用紙は、入国の際に書いたのと似通っていた。
しかし、年齢と出身国などの記入する所は無く、名前と入国日の欄だけで、後は簡単な設問
『学園の通学歴の有無』『従軍歴の有無』などのチェック項目が在るだけだった。
「あ~済まない、今日は何月何日だったかな?」
「4月9日 月曜日です、若しかして宮部様は、入国してそのまま来られたのですか」
「ん、嗚呼そうなる。手持ちの金も心もとないし、『シーカー』登録をすれば、二級住民扱いになると冊子で見たものでな。二級住民というのがどの程度の扱いかは、知らないが、身寄りも無い、身分の保証をしてくれる人も居ない、それに比べて少しでも扱いが良くなるのならば、資金が尽きて右往左往する前に登録しておこうと思ってな」
そう質問に答えながら、頭の隅で、(そういえば、携帯の日付も4月9日月曜日だったな、ちゃんとリンクしているのか?)などと考え、サクサクと書類を仕上げて行く。
「ありがとうございます。え~っと、宮部様は、学園の通学、または、従軍の経験も無い為
、無料で戦闘指南の講座を受ける事が出来ますがこの場で申請致しますか?」
「ふむ…(このチートとこちらの世界のレベルとの差異が分からないから、下手に強かったら目立つ可能性が在るな……)戦闘指南と言うのは具体的にどんな事を?後、ここで申請しなくとも後日というのは可能なのかな?」
『勇者』クラスの初期ステータスと言っていた。その力がどの程度凄いのか、判断が付かないので出来れば人目に付く前に、この世界の『普通』を知りたい。大きな力には大きな責任が伴うのだ、『神の戯れ』で貰った力だが既に私の力でも在るのだから存分に振るう心算では、在る。
けれどもその力の大きさが分からないのに、どれ程の責任を負う覚悟をすれば良いのか分からない状態で、目立つことは避けたい。そう考えながらポケットの中に入れた掌で携帯を弄ぶ。
「申請自体は、こちらの受付で申し込みが何時でも出来ます。ですが、受講資格というのが決まっていまして、『リンバス』の10階層踏破、若しくはレベル5を超えた方は受講資格を失います。料金をお支払い頂けますと改めて受講は出来ますが、お値段が…その結構お高く500Gとなっております。」
「登録料より高いのか…」
「はい、これは先ほどのご質問にもありました講座内容というのにも関係あるのですが、内容が『リンバス内部における基本戦闘』と『リンバスの歩き方基礎』となっていまして、『
リンバス』に降りての実習になります。ですから、無料保障中の講師の方に対する報酬は、協会から出ますが…」
「成る程、保障期間外だと、講師に対する報酬の自己負担が必要だと」
「そうなります、例え1階層だとしても油断をすれば命取りになりますので、報酬のほうもそれなりに…」
確かに、丸っきりの素人を連れて命の危険が在る場所に勉強をさせに行くのならば、それなりの給金を貰わねば割に合わないだろう…。
「講座のほうは、また後日申請させて貰うよ、態々教えて貰ったのに申し訳ない」
「いえいえ、お仕事ですし、宮部様の身の安全を考えると教えない訳にはいきません!」
書類に書いていた名前を見たのだろう、何時の間にか敬称をつけて呼ばれているのと、少し大袈裟だが私の安全を考えてくれていると思うと、先程会ったばかりなのに少しだけ親しく思え暖かい気持ちになる。ガッツポーズまでして心配してくれるのは、どうかと思うが…。
「ありがとう。余り心配を掛けないように安全に行くよ。それで登録はこれで終わりかな?」
「あ、、、はい、焦らず頑張ってください!私で良ければ何時でもご相談に乗りますから、、、、えっと、登録ですね!書類の方はこれで終わりですが、重要なのがひとつありますので少し待っててください!」
礼を言い、先を促すとガッツポーズはやはり恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にしてワタワタと手を振りながら、待っててくださいねー!とすぐ近くの扉に走って行く。
「そんな短いふわふわのスカートで走ると…」
何がとは言わないが、見えそうで見えなかった。
しかしこれまた改めて考えると、服や建物も結構な文化レベルだ。服は、結構複雑な作りをしている上に、彼女が着ていた制服だけでなく、周りを見渡しても『ファンタジーチック』では、あるが『コスプレチック』にはなっていない位の生活観がある服装に見える。
建物はもっと凄い、普通に現代の市役所じゃないか?と謂わんばかりだし、もっと凄いのが中に浮いている『光る玉が入ったシャンデリア』だ。魔法アイテムなのだろうか…。
「はぁっはぁっお待たせしました!」
「ん、ああ、急いでは居ないから、息を切らせてまで走らなくて良いのに…」
余裕のある大人の女性という雰囲気が一変して、ショートカットの赤毛も相俟って元気な女の子という感じになっている。まぁ女性は幾つ物の顔を持っているという事だろう。
「あぅ…入国してそのまま来られたと先程仰ってたので、宿泊所を探したりでお時間が掛かるかなと思いまして…」
「ん…嗚呼、そうか宿も取らないとだな、ありがとう忘れていた。良ければお勧めの宿などあれば後で教えてくれないだろうか?」
「はい!あとでお教えしますね?では、取りあえず登録をすませてしまいましょう。こちらのカードを私がはいっと言うまで、両手で挟んでください。軽くで大丈夫ですよ」
そう言って、差し出されたのは丁度私の掌くらいの大きさをしたメタリックなプレートだ。
それを、言われたとおり両手で拝むように挟むみ数十秒すると、少し暖かさを感じ、数分すると青い燐光が現れた。
「はい、ありがとうございます!登録終了です。こちらのカードは協会内での手続き、リンバス内部での『ポーター』の利用時など多種多様に必要となります。宮部様が先程仰ったように二級市民権も同時に兼ねていますので、宮部様にはこれより『ローランド連合国』及び『探索者協会』に保護される権利と、施政されている法律に順ずる義務が発生します。大まかな法律は、入国の際に受け取った冊子をご覧ください。その中で『シーカー』だけに課せられる法律だけ、ご注意しておきます。1つ、『シーカー同士の街中で決闘は禁ずる、決闘は探索者協会を仲介し、指定の場所のみで行う事』、2つ『シーカーの街中での武器の所有を禁じ、防具、アクセサリー以外は『バックパック』に収納すること。但し、鍛冶屋、オークション、武器屋、防具屋などの特定施設では、これは、適用されない』3つ『シーカーは、毎月ランクに順ずる、納付金を税として協会に収めること』4つ『シーカー同士のリンバス内で起きた全ての事柄に協会は、責任を取らない』以上の4つが守られている間に限り、協会が身分を保証するという形で、国から二級市民の権利が保障されます」
ご質問など何かございますか?と小首を傾げるのを見ながら、考える。
重要なのは、『バックパック』と『ランク』に『納付金』それと二級市民権の権利内容だろうか…?と思い、それを伝えると、新しい冊子を取り出し、ページを開けてこちらに向けてくる。
「先ずは、二級市民権ですが、こちらは簡単です。裁判を受ける権利、起こす権利が付きます。これが無く、問題を起こして警備騎士団に捕まった場合、有無を言わさず、強制労働または、法律に順ずる形での罰則があります。被害に遭った場合でも、まともに取り合ってくれません。因みに、二級市民権を持っている方が、身元引受人になって~という形も取れるので家族で入国した方でお一人だけ代表で取るという形もありますね。ただその場合、取ってないその他の方が被害に遭った場合意味がありません。市民権の購入は、二級市民権が2000G、一級市民権が20000Gを払えば『都庁』で購入できます。宮部様の場合は、『シーカー』登録中は二級市民権を有していますが、登録を解除されたと同時に、権利を無くします。ですのでご注意ください」
二級市民権とは、最低限の保障制度なのだろう。この都市内で最低限保障された生活をするには、入国料に市民権購入の代金が必要になるのか…。物価というものが、まだ把握できてないので高いのか安いのか判別が付かないが、入国審査の場所で、追い返されてた人も居るのを思い出すと、安くは無いのだろう。
内容を吟味しながら、先を促すと、白く細い指が冊子の違うページを開き、指差す。
「次に、『ランク』と『納付金』をご一緒に説明しますね。こちらの冊子に書いてあるように『ランク』に準じて納付金が変わります。こちらの納付金を毎月収めて頂く事によって、協会内部の幾つかの施設、諸手続き、『ポーター』が無料でご使用できます。」
そう言いながら、指をすすーっとずらして行く所を見ると『ランク1』から『ランク13』と書かれている表と、その横に納税金の額が書かれている図がある。
『ランク1』ならば毎月100G、それが2倍ずつあがっているが、金額からして1が最低ランクで13が最高ランクなのだろう。リンバス内でどれ程稼げるか、この判断も付かないがそこまで無茶な金額ではなさそうだ。
しかし、ここまで聞いて一番何が判ったか?と言うと常識という物差しは重要で、何を判断するにも物差しが無ければ、曖昧になってしまうのだな。と言う事だろう。
「ランクは1が最低で13が最高になっており、10位から上になりますと幾つかの特別な権利が発生します。権利の内容についてですが、ランク10位以上になるのは、難しいので今はご説明はしません。ランクを上げるには、『到達階層』この一点のみです。宮部様は、現在ランク1ですのでこれを2に上げるのには20階層到達が必要になります。階層の到達記録は、先ほどお渡ししたカード、私たちは『タグ』と言っていますが、そちらに記載され、協会の方でも確認ができます」
そう言われて、先渡されたままのメタリックのプレートを見てみると、
『宮部 暦 Lv1 ランク1 到達階層0 習得スキル ファストブレード ディア 』
と書かれていた。渡された時は、唯のプレートだったのだが…。魔法的な何かだろうか。
「『タグ』に記載された情報は、協会の統合システムにも記載されている為、随時更新されています。そして『タグ』の情報はこちらの『サーチブック』でも閲覧出来るのでPTを組む場合にも便利ですよ?」
笑顔で渡された大き目の辞書をあけて見ると…。
「まさに…ファンタジーです…」
21世紀では、創作物の中にしか起き得なかった現象、『淡い燐光が映像ディスプレイになるよ!?』を体験してしまって、普通にテンションが下がった…。
車じゃ無くて馬車使ってるのに、このギャップの差は何…。
中世レベルか?とか、常識が違うんだよ…とかそんな段階じゃなくて…
なんか言葉に出来ない、現代科学が負けた感が凄くするのと、ちょっと上から目線で見ていたような、ファンタジーに対する言いようの無い罪悪感が混じった不思議なもやもやが胸の内に…。
「あの…?大丈夫ですか?」
「ああ、現実は何時だってこんなこと筈じゃなかったという事ばかりなんだよな…」
顔に手を当て、天井を見上げる私に心配して声をかけてくれる彼女に対する返答は、そんな訳の判らないだろう台詞だった。
非常な現実に何とか立ち向かい、『サーチブック』の操作の仕方を教えてもらったのだが、これは特段難しい事は無かった。書店などに置いてある検索システムに毛が生えた程度だろうか?検索の条件指定なども細かく出来、便利ではあるが、どの程度の能力を自分が持っているか、と言うのが判断が付くまで、ソロプレイは決定しているので、使い道はまだ無さそうだ。
その際、受付女の名前がマリエルという名前で、ランク2のシーカーでもあるのが判ったのと、このシステムの操作に結構躓く人間は多いという事、そしてシーカーの総数が2万人近くに上る事が、判ったのが収穫だろうか。
「ランクに付いて、というより『納付金』と『タグ』に付いての補則になりますが、納付金の納税は毎月1日に行われています。2ヶ月納税が成されない場合は、資格の剥奪、そして強制労働などの措置が取られますのでお気をつけください。納税方法は、こちらに来ていただくか、『タグ』からの自動引き落としをしていできますが、窓口での納税は、お時間が掛かる可能性が高いので、自動引き落としのお手続きが好ましいと…『タグ』の補則もこちらと関係がありますが、そちらの『タグ』をこの建物の前にあります『連合国銀行』にもって行きますと、『タグ』に口座システムを付加でき、『タグ』でお買い物が出来るようになって便利ですよ?」
タグを使っての承認システムですと、ご本人以外が触ると使えなくなりますから…そういってマリエルが差し出したタグを受け取ると、マリエルの指が離れる直前まで記載があった筈のプレートが、メタリックプレートに戻っていた。少し違うのは、ランタンの絵が描かれている事だろうか?
「このランタンの絵は、協会のシンボルマークです。これが記載されているプレートは使用済みという印ですね。登録した本人が触れている間にしか表示されません。ですので偽証などは不可能なシステムになっています」
そう付け加えるマリエルに、プレートを返しながら、思った。
ファンタジー…すげぇ
引き落とし設定にするには、どちらにせよタグで口座を作らないと駄目なので、バックパックの説明を受けたら、その足で行くことにする。
「『バックパック』は、協会指定の雑貨屋などで購入する事ができる鞄です。マジックアイテムに部類される物で、幾つか種類がありますが、大きさ、重さの関係なく入れる事ができるアイテムになっています。便利なアイテムですがそれなりのお値段がしますので、最初に皆さんが目指すのがコレですね!これが購入できないの武器は、宿屋に置いておく等の処置が必要です。装備したまま、歩き回っていたら逮捕されてる可能性が在りますのでご注意ください」
ランク1のタグを見せれば、宿屋とリンバスまでの道でしたら問題はありませんが、途中で雑貨屋などに寄るのは難しいですねーと朗らかに笑うマリエルに、指定の雑貨屋でお勧めの場所とお勧めの宿屋を、入国の際に貰った冊子の地図に書き込んでもらう。
「それでは、大体の説明を終わります。何かございましたら、窓口にいらっしゃって下さい、宮部様のこれからの探求者道に幸がありますように…」
「ああ、そうあると私も願うよ。では、マリエルさん色々とありがとう、また来るよ」
そう挨拶をして、探索者協会の建物を出た所で、~~~~~~♪♪携帯電話が鳴った。
ああ、そういえばクエストを受注していたな。と思い出してポケットから携帯を取り出し受信しているメールを開く。
[From 神様モバイル
件名 クエスト達成!
内容 おめでとうございます。受注クエスト攻略を確認しました。
報酬20CPが支払われます。今後とも楽しい異世界ライフを!
現在所持CP 110CP ]
(これは、あの神?が送っているのだろうか…)
そんな些細な疑問を持ちながら、真正面にある、探索者協会と同じくらい大きい『連合国銀行』に足を向ける。
「またのお越しをお待ちしております」
順番待ち以外は、シーカー登録してタグを持っているので、簡単に済んだ。
序に、納付金の引き落とし登録もこちらで済ませる事が出来たので、一石二鳥だった。
しかし、そちらの登録をする際に、残高が0だと無理と言われたので、200G預けて残金が200Gと90Zになってしまった。円とか同一単位で区切ってないから、面倒だな…。
その後に、雑貨屋に寄り、色々ファンタジーなアイテムを見つけたが、宿代が幾らするのか判らなかったので、『バックパック』の値段だけ見て出る事にした。
バックパックの値段は一番安いので1000G、愛想の良い店員の話では、同一アイテムと認識されるアイテムなら一くくりに、12個まで、それが20個入るのが許容量らしい。
要するに、ゲームの『ふくろ』などと一緒の扱いなのだろう。
ただ剣などの、武器・防具などは『同じアイテム』の括りに入らない為、バックパックに同じ名称の剣が入っていても、装備を外す時は、ちゃんと1つ分空けて無いと困ることになると注意された。
CPを使えば出せなくは、無いが稼ぐためにシーカーの登録をしたという面もあるのだから、
どれだけ稼げるか、そもそも自分は、シーカーとしてやっていけるのか?という面を解消してCPなりを使って購入するっと結論付け、手持ちが無いのでまた来ると辞した。
雑貨屋を出るときに、武器も持っておらず、完璧な初心者だとバレたのだろうか?店員の女性に『傷薬』を10個貰った。塗り薬で、切り傷、打撲、等によく効くらしい。
大学進学にするに当たって上京した当時、不覚にも迷子になってしまった時に通りがかった人に道案内を態々して貰った時に、感じた恥ずかしさを思い出したが有り難く貰った。
マリエルの紹介では、品揃えも豊富らしいので、ここを利用する事にしよう。
カランカランとベルが鳴るドアを開く。
「いらっしゃい」
「部屋は、空いているか?」
雑貨屋を後にして、数分歩いた所に、紹介された『宿屋 ダンカン』は、在った。
特徴らしき特徴も無く、石造りの白い壁はホテルというよりは、見たまま『宿屋』だった。
一階は宿泊者が使う食堂なのだろう、昼過ぎ、携帯の時計で確認したら1時37分だったが疎らに人がいる。
「1人、1日10G 朝食夕食付き、各部屋にシャワーが在るが大風呂が使いたければ、別で10Z」
「10日頼む、稼げれば延長も」
そう良いながら、鞄から出したゴールド硬貨を10枚渡す。
あとゴールド硬貨10枚に、ゼニー硬貨9枚、締めて100Gと90Zか…。
武器の値段が判らないが、足りなければCPを使って買い物をするしか無いだろう。
流石にチート能力らしいと言っても素手で、迷宮探索は御免こうむる。
「丁度100Gだな。コレット、案内を頼む。昼食を済ませてないなら、部屋を確認して降りてくると良い、朝食の余りで良いなら出そう」
そう言って、ドアの正面に在ったカウンターから厨房らしき所に引っ込む店主と交代で目の前にやってきたのは、コレットと呼ばれた黒髪の13~14歳くらいの少女だった。
「いらっしゃい!コレットと言います。お客さんのお名前は?」
「宮部、暦、職業はあれだな?駆け出しシーカーと名乗って良いのか?」
そんな会話をしながらコレットに付いていく。
三階建ての店はそれなりに広く、表からでは判らなかったが、奥行きが結構あるみたいだ。
「昨日、PTのお客さん達が違う宿に行っちゃったから、一番良いお部屋に案内できるよ!」
「それは、運がよかった」
ピョコピョコと跳ねるように、笑いながらこちらを伺い言って来るコレットに笑い返す。
案内された部屋は、三階で店の一番奥に当たる。窓を開けると通りが見渡せる場所だ。
来る途中でドアが開いていた部屋を何気なく見ていたが、それに比べてこの部屋は広い、気がするが…。
「他の部屋と比べて広い気がするが?」
「一番奥だからね~ちょっと不便だけど、お兄さんは、シーカーなんでしょ?だったらお部屋は広い方が良いかな?って思ったんだけど…」
「いや、不便とは感じないから大丈夫だが、同じ値段で良いのか?」
「大丈夫だよ~!でも出来れば長く止まって欲しいかな?」
笑いながらそう言ってくるコレットに、考えておくと言い返し食堂に一緒に戻った。
「ご馳走様でした…」
野菜と肉たっぷりのシチューが入っていた皿と香ばしいパンの入っていた皿に向かって手を合わせる。
「暦お兄ちゃんは、東方の人だったんだね」
「ん?東方?東方と言えば東方だが…」
その様子を、昼食がまだだったコレットと一緒に食べていた為に、見られて突っ込まれた。
コレットは『なんちゃら神様~~~なんたらかんたら』と祈りを捧げていたので、文化が違うなと納得してはいたが、東方とは…?
そんな私の様子が、判ったのだろう、コレットは言葉を続ける。
「え~っと、昔泊まったお客さんたちが東方の大陸から来た人たちで、皆お祈りをしないで、暦お兄ちゃんみたいに『頂きます』『ご馳走様でした』って言ってたから、暦お兄ちゃんも東方の大陸からきたんだ~と思ったんだけど」
違った?と首を傾げるコレットを曖昧に回避し、―――名も無き寒村の出身で親から教えて貰ったと嘘を付いた―――東方の事を聞くと、『米』『醤油』『味噌』などの食材も在り、時々この店でも出すらしい事が聞けた。
これは、神の思し召しだろうか…―感謝も信仰もしないが―。
余りにも嬉しそうだったのか父―店主で、名はダンカンだった―に近々朝食か夕食に出して貰うのを頼んでみると言ってくれた。
7歳も年下の子―16歳らしい―に気を使われたのは恥ずかしいが、和食を食べれるのは存外のそれに勝る喜びなので素直に感謝したら、顔を真っ赤にして照れていた。
そんなやり取りをして、食器を片付けるコレットを見送りながら、カウンターに出てきたダンカンに、この辺りでお勧めの武器屋、防具屋を教えて貰う。
寡黙な人だが、コレットが言うには、昔は腕の立つシーカーだったらしいのと、シーカーが良く泊まるらしい店なので知っているだろうと思って聞いたのだが、予想以上の収穫で、初心者用の店と中級者―大体ランク4以上らしい―が利用する店を教えて貰えたのに満足だ。
「いってらっしゃい!」
「ああ、いってきます」
昼食を共にしたからか、気軽に接してくれるコレットの見送りを受けながら、武器屋と防具屋に向かって歩いていく。
しかし、東方とは……テンプレ乙。だがパン食のみで生きていくのは辛いので正直助かった…。