006 私は左京さんの事はキライですよ
ある天気予報士が言うには、夏場に雲を見上げると涼しく感じるらしい。
なぜなら、雲はごく低温の状態で空に浮かんでいるので、その温度を想像すると暑さを忘れられると言うことだ。
私はこの話を聞いた時に、ひどく感動した。
それは、空を温度で考えるという発想が無かったからだ。
私にとっての空は、色で表されるものだった。
しかし夏場でもマイナスな温度の雲の冷たさを聞いた時から、空の温度を想像するようになった。
そしてこの話を聞いた人も、今日からはそのように感じるようになるのかもしれない。
まあこれは単なる与太話に過ぎなかった。言いたい事はこれだ。たとえ私たちが遠く離れていたとしても、空と雲は私たちの頭上に広がっている。
大学の構内を後輩のレモンと歩いていた田原清士郎。その遥か頭上を、妖精たちが飛び交っていた。
彼らは契約者の言葉を遠く離れた誰かに伝えている。伝えられた言葉は線を為し、お互いを結び付けているのだろう。
見えない幾つもの言葉の糸が走り、頭上に広がる空を取り巻いていく。地球は情報の繭に包まれている状態だ。
それはいずれ世界を変性させていくだろう。この世は変化の中にあった。
そんな事が進行しているとは露程も知らない清士郎は、掲示板に貼られていたポスターを見て言葉を失った。
そこには講演会のお知らせがある。それは良い。大学構内で講演会が行われること自体は何の問題も無い。
問題があるとすれば、そこに見覚えのある顔と名前が書かれていたことだ。
清士郎が公園で出会った変な人こと、立花左京の名前がそこにあった。
「うわぁ」
清士郎は無意識に声を上げてしまった。
大学の構内で左京の名前を目にするとは全く予想していなかったからだ。思わずポスターを二度見して、それでも信じられず、何度か眺め返してようやく納得した。
出来れば関わり合いになりたく無いと考えていた人物が、まさかまさかの、最も自分に関係するテリトリーでの接近である。
清士郎が何度もポスターを見つめ直す姿を不思議に思ったレモンは、
「どうかしたんすか?」
と問いかけた。
清士郎はポスターから視線を外さないまま口を開く。
「見てはいけない名前を見てしまった気がする」
「オカルト系の話っスか?」
妖精系の話かな、と清士郎は思う。
ラーメンの妖精たちと会話している清士郎の前に現れた男、立花左京。
日本を開花させる会に所属しているとかいう男は、午後の穏やかな公園の中で、世界が変わるだとか世界を変えるだとか言っていた。
冷静に考えると怖い。果たしてこれは妖精系の話なのか、それともオカルト系の話なのか、どっちなのだろうかと清士郎は迷った。そんな時に、
「やあ、久しぶりだね」
見てはいけない名前を持った人物が、気さくに話しかけてきた。
清士郎は声の主に視線を向けて後悔する。
どう見ても、先日に出会った立花左京がそこに立っていたからだ。
目で見るまでは自分を誤魔化せたかもしれない。だけど見てしまった以上、そこに左京が存在することを認めざるを得なかった。
「お知り合いデスか?」
横から話しかけてくるレモンをスルーすると、清士郎は覚悟を決めて口を開く。
「タチバナさん、あなたは……」
続けてなんと言えばいいのだろうかと清士郎は考えた。
あなたは何者ですかと聞くのは違う気がする。
妖精が見える人と見えない人の違いは何か。妖精のネットワークとは何か。あなたは妖精と契約して何をするつもりなのか。
色々な疑問を思い浮かべた末に、清士郎は、彼が選んだ言葉を口にした。
「あなたは、こういう人が多い場所にも来ちゃう人だったんですか」
妖精による世界の変化を語るのなら、人が少ない所でやって欲しい。
そんな清士郎の思いに対し、
「ふふっ、何やら含みを感じる言葉だね」
左京は余裕を持って返した。
含みのある言葉を聞きなれているのだろう。
左京は心の中で思う。まあ言葉に何かが含まれていても丁重に無視するんだけど。
そんな事を考えつつ、大学に来た理由を清士郎に向かって語った。
「僕はこの大学の卒業生でね。今日はちょっとした講演会に来たんだ」
「本当の目的は勧誘活動ですか?」
「キミが僕のことを、どういう風に見ているのかは分かったよ」
キザったらしい指の動きでメガネの位置を直しながら、左京は姿勢を変える。
余裕を持った笑みを清士郎たちに返しながら、堂々とした声で宣言した。
「まあ、ある意味では勧誘活動だね。若い子は考え方が柔軟で、人からの影響を受けやすい。演説の中に少しばかり僕の思想を混ぜ込めば、感化される子も出てくるだろうさ」
それは左京なりの一種の冗談なのだろう。
セリフも態度も演技過剰なものだった。
むしろその過剰さからは、絶対にウケるだろうという自信が垣間見える。
それに対し、清士郎は真顔で言った。
「こわっ……」
「だから引かないでくれ! ちょっとしたジョーク! 小粋なユーモアだから! こっちはキミの話に乗ってあげただけなんだよ!?」
それでもなお疑いの目を向ける清士郎。
左京はその場で必死に言い募った。
「人の言葉をストレートに受け取りすぎるのもどうかと思うよ、僕は!」
「素直なのが取り柄なもんで」
「僕には、キミの素直さは取り柄に思えないなぁ……!」
それは本当にそうだと、横で聞いていたレモンは思った。
通路で話すのも周りに迷惑だろうと、三人は講演会が行われる予定の小会議場に入る。
まだ準備中なのか、三人の他には誰も居ない。
そういう事も影響してか、さっきから二人の会話に加われなかったレモンが、おずおずとした口調で尋ねる。
「あの、パイセン。こちらの方は……?」
どう説明したものかと考える清士郎。
しかし清士郎が何かを口にする前に、左京はレモンに向き直って自ら答えた。
「どうも初めまして、コンニチハ。僕の名前は立花左京と言います。どうぞお見知りおきを、極楽寺レモンさん」
わざとだろうと思える、芝居じみた仕草で左京は挨拶を行う。
そしてレモンは、自分の名前を見ず知らずの人間が知っていたことに対して驚いた。
「なんでアチシの名前を?」
そう呟きながらも、レモンは視線を清士郎に向ける。
また自分の情報を売ったのか。そういう種類の確信が込められた視線だった。
清士郎はレモンから視線を向けられながら心の内で笑う。こんな目で俺を見るとは、いつの間にか強い子になったな、ゴッちゃん!
しかしここでは指摘することなく、左京に関する別の事実を指摘した。
「いや、この人は、なんか怖いんだよ。何故か俺も初対面の時に個人情報を知られてたもん。こういう言い方は失礼かもしれないけど、現代的な闇を感じる」
「いやいやいや!」
左京は大慌てで否定する。
先ほどまでのカッコつけた仕草は全て捨て去り、全力で話の流れを変えようとしていた。
「この大学の出資者くらい、ちょっと調べればわかるんだって! そういうツテが僕にはある! こうみえて教授陣とも交友はあるんだよ!?」
大学の出資者と言うキーワードに思い当たる事があるのか、レモンが口を開く。
「出資者って……アチシのパパのことデスか?」
「そうそう! その通り! キミのお父さんは有名人だし、芋づる式にキミの名前も知ることになるんだ!」
なんとかこの場を乗り切れそうだと感じる左京。
そこで清士郎から鋭い質問が飛ぶ。
「普通はゴッちゃんの事を紹介してくれた教授の名前を、最初に言うもんじゃないですか?」
そうじゃなきゃ、ひたすら怪しいだけの人物にしかならないですよね、と清士郎は言う。
それはその通りだと思うレモン。
これによって左京は再び荒波を乗り越える必要が出てきた。
泣きそうな気持ちになりながら、左京はレモンに対して賢明なアピールを続ける。
「ズバ抜けた知識力で人間関係を見通せちゃう僕、みたいな憧れを演出したかったんだ! 誰だって一度は、推理力に極振りな探偵スタイルに憧れるもんじゃん! わかるでしょ!?」
「いや、アチシにはちょっと……」
「ヘイ田原くん! 男同士のよしみだ! 同じロマンを信じた者として、助けてくれないかな!?」
「…………」
「だから、この距離で聞こえないフリはよしてくれ! ウケると思ってボケたのにスルーされると、心がツラくなるんだよ!」
ゼーハー、ゼーハーと肩で息をしている左京は、ズレたメガネの位置を直す余裕も失っているようだった。
そして、レモンの家庭に関する情報という事への配慮なのか、少し声をひそめながら言った。
「極楽寺という名前は有名だよ。世間を知らない学生ならともかく、教授の方々には無視できないくらいのネームバリューがある。当然、僕もそういう情報は押さえておかなきゃいけないのさ。ここの教授たちと仲良くやっていく上ではね」
それにしても、と清士郎は思う。彼の目から見て左京は疲れ果てている様子だ。
この男は疲れ切らないと真面目な話が出来ないのだろうかと考えている清士郎の前で、左京はごく真面目な内容の会話を続ける。
「ちなみに、講演会の内容はマクロ経済学に関することだよ。キミたちも聞いてくれるかな?」
「意外と言っちゃ失礼かもしれないけど、普通の内容なんですね。俺はもっとこう、前衛的な内容かと思ってました」
「前衛的?」
「人生に悩んだ男が、閉ざしてしまった心を開くまでのスピリチュアルな出会いとか。自分はこれで人生を開花させました、みたいな」
「うん、一応ここは僕の母校でもあるからね。中身が精神論しか無さそうな講演会は、やりたくは無いかな……」
左京は本当にやりたくなさそうな感じで言う。
レモンは、この機会だしと思い、この人が相手なら何を言ってもいいかの精神で、前々からの疑問を口にした。
「はーいハーイ! 経済学って役に立つんデスか? アチシ、経済学の予想が当たった所を見たことないデス!」
「いきなり身もフタも無い質問が来たね」
経済学そのものを根底から揺るがすような質問だ。
それに対し左京は焦りや怒りを見せることなく、むしろ自分も同感だと言わんばかりに、しごく淡々とした口調で答えた。
「あくまで僕の考え方なんだけど、未来を予想したいなら経済学だけを学んでも不十分だと思うよ。短期的な企業の業績予想とかならともかく、国家とか世界経済なんかの長期的な未来は、経済学だけを学んでも予想できないんじゃないかな」
あくまで真摯に対応する左京。
それに対し、清士郎もまた真面目な顔になりながら言った。
「じゃあ何しにココに来たんスか? 経済に関する講演会なんですよね?」
「反応が冷たいねえ!」
塩対応には慣れていないのか、あるいは慣れきっているのだろうか。
左京が興奮した姿を見せたのは一瞬のことだった。
すぐに落ち着きを取り戻すと、どこから説明したものかと考え始める。
やがて、教授たちと交友があるという言葉が本当に思えるような、教師じみた態度で口を開いた。
「まずはそこだね。僕は経済学に対する見方を変えたいと思ってる」
左京は、清士郎の質問に答える形で自説を紹介していく。
そこには手慣れた様子すらあった。
「僕の考え方では、マクロ経済学は社会学の一部なんだ。なぜなら、経済活動は社会システムの影響を受けているからだね。取り引きのルールだって社会が取り決めたものだろう。社会から切り離された経済活動というものは存在しないと僕は思うんだ」
例えば景気の動向には雇用状況が大きく影響してくる。
しかし、社会の違いによって雇用形態や労働環境の考え方は異なるし、さらには時代と共に変わっていくだろう。
それらを無視して、分かりやすい部分だけ取り出して経済を比較してみても、何の成果も得られないのではないか。
左京はそんな事を考えながら言葉を続けた。
「社会の中から特定の経済活動だけを取り出してみて、それで何が分かるのかと常々疑問に感じているんだ。社会的な枠組みを考慮しなければ、大局的な経済の行方なんて語れるわけが無いと、僕は考えているからね」
ところが、と前置きしてから左京は語り続ける。
「経済の原則という物を追い求めると、人を往々にして、社会と経済を切り離して考えようとするんだ。なぜなら、社会の原則なんてものは求めようが無いからだろうね。世界中に色々な国があって、色々な社会が存在してしまっている。社会性を加味して経済を語ろうとすれば、違う国同士の異なる社会の中に、共通点なり原則なりを見つけ出すことが必要になってくるだろう。そうでなくても、僕らが所属している社会の原則を見つけ出す必要がある。端的に言って、それは困難だ」
そこで一度、左京は言葉を切った。
そして聴衆である清士郎とレモンの様子を見る。
果たして聴衆たちは僕の話を受け取ってくれているだろうか。
二人が話を理解していると感じ取った左京は、ゆるりとした姿勢で説明を続けた。
「社会学が現代的な学問として成立したのは、歴史から見ればごく最近のことだよ。今でも社会学が学問として成り立つかどうかの議論が行われたりするみたいだね。なぜなら、社会に対して明確な答えを出せないからさ。だから楽をしようとして、経済学なる概念を作り上げ、経済の範囲だけに限定して考えようとするんだろうね」
経済を社会と切り離して考えようとするのは、社会には明確な答えが出しにくいからだ。
何が良い社会で、何が間違った社会なのか。それを問う事は、文字通りに社会問題になりかねない。
だから人々は考えることに疲れてしまったのだろうと左京は結論付けている。
そんな事を思い浮かべながら、左京は次なる言葉を続けた。
「あるいは、社会を読み解くことに疲れて、理想的な社会システムを想像してみたりする人もいるかもしれない。机の上で理想の社会制度を思い描いて、それが世界中に広まれば、原理原則に沿った素晴らしい経済が成立するはずだと考えたりね」
イデオロギーが対立する世界の登場だ。
経済思想と結びついた社会運動は、考え方の違いという理由から、悲惨なまでに争い合った。
争いの後に残ったものは何だろう。世界には何が残されたか?
崩れかけた街のイメージを幻視しながら、左京は言った。
「でも、そういう思考方法は、経済の原則から遠ざかるばかりだと僕は思う。手段と目的が入れ替わってしまっているとすら思うよ」
自らの手のひらをヒラヒラと動かしながら、左京は説明を続ける。
「ちょうど幼い子供が、目の前で手をヒラヒラ動かされると、それに目を奪われてしまうのに似ている。手のひらの動きに困惑させられて、彼をからかっている大人の位置を見失ってしまうんだ。それと同じように、目の前で展開される宣伝に目を奪われて、社会の片隅に生きる人々のことを考えずにいると、社会の動きを見失ってしまうと思う」
そこで話を区切ると、左京は清士郎に問いただした。
「田原清士郎くん。キミが経済活動にとって大切だと考えることは何かな?」
清士郎は少し考えた後、自信満々に答える。
「オゴられる事と、オゴり返す事ですね」
「パイセン……!」
良い事を言っているようにみせかけて、別にそうでもないデスよね?
レモンはいつも通りの清士郎だとしか思わなかったが、左京は清士郎の答えに感心した様子だった。
「実に良い答えだと思うよ。少なくとも、お金を使ってお金を儲けることだと考えるよりはね」
何か思う所があるのだろう。左京は少しの間、目を閉じる。
そして再び目を開くと、強い意志を込めて言った。
「経済活動とは、お金を使ってお金を儲けることだと考える人もいる。でも僕には、その考え方が正しいとは思えない。なぜなら、経済のバブル化を暗示しているように思えるからだ。そうでは無かったとしても、危険な投機活動すら肯定してしまう考え方に思えてしまう」
左京は、自分自身も含めて、誰もがお金への執着心があることは認めていた。
しかし、その執着心を通して経済を理解しようとすることには警鐘を鳴らしている。
なぜなら、お金に対する執着心を肯定すること、つまり自己の心の肯定にこだわることが、経済の原則に対する理解を遠ざけていると考えているからだ。
お金に対する執着心を横に置いておける者だけが、経済を広い視野で見ることができるだろう。
握りしめているお金を解放して、失い、誰かに譲り渡すことで、経済は循環していく。
逆にお金を握りしめ、誰にも渡さないようにすることで、経済の循環は止まり、社会は終焉を迎えるだろう。
永遠に握りしめる事を求めない人、そんな人々が集まる社会だけが永遠の中を生きられる。
なんとも言葉遊びのようだと左京は感じた。
お金を手放す人々の社会だけが、より多くのお金を得られる。
人々が欲望のままにお金を求める社会では、貧富の格差が広がり、それによって経済が停滞し、いずれ社会そのものが立ち行かなくなるだろう。
永遠の幸福を求めた人々の末路は、どうしてか、悲劇的な結末が多い。失うまいと握りしめた拳で、争い合うことしか出来ないからだろうか。
その拳を開くことが出来たなら。世界の行く末に思いを馳せる左京に対し、清士郎は問いかけた。
「じゃあタチバナさんにとっての経済の定義って何ですか?」
その質問に左京はすぐさま答えた。
「僕にとっての経済の定義は生産活動だね。つまり生産の拡大と技術的な発展が目指すべき目標だと思うよ。だからこそ国内総生産なんて考え方が、国家経済の成長の指標になっている事に納得しているわけさ。もっとも、技術力の発展は……」
そこで一人の女性が部屋の扉を開けて入ってくる。
清士郎とレモンには見覚えの無い人物だったが、左京はその顔を知っていたようで、説明するために開いていた口で女性の名前を呼んだ。
「カナデくん」
どうやら左京の知り合いのようだった。
左京が属しているとかいう、日本を開花させる会のメンバーなのだろうか。
そんな事を考えている清士郎の前で、カナデと呼ばれた女性は、隙の無いスーツ姿のイメージそのままに少し硬質な声で言う。
「後輩くんと親睦中ですか? 立花さん」
「まあね。もっとも、講演会の練習も兼ねてるよ」
「いつもは壁相手に練習会ですもんね。ちょっと気持ち悪いと感じてたんで、立花さんが練習する相手がいて良かったと私も思います」
それはエゲつない言い方だった。
傍で聞いていたレモンと清士郎も、ちょっとその言い方は無いんじゃないかと思ったくらいだ。
左京は、まさか学生の前でそこまでズバズバ言われるとは想定していなかったのか、動揺を隠せないでいる。
ぷるぷると小刻みに震える指でメガネの位置を直すと、ここに居る中では一番優しそうな人物であるレモンに向かって言った。
「酷くない? 僕、お腹痛くなってきたし、もう帰っちゃおうかな……」
「こ、心を閉ざさないで欲しいっス!」
必死に左京をフォローするレモン。
それを目にしながら、清士郎も場を和ませようと努力してみる。
左京が心を閉ざしかけた原因である、カナデという女性に向かって話しかけてみた。
「タチバナさんって、お茶目ですよね。こう、みんなから愛されてるキャラなんですか?」
「私は左京さんの事はキライですよ」
カナデは何の遠慮も無く言う。
それは清士郎が、言葉の意味を素直に受け取ることを躊躇するくらい、剛速球なスタンスだった。
どう取り繕おうかと考えている清士郎の前で、カナデは、良く言えば率直な物言いを続ける。
「経済に関する話は参考になりますが、左京さんとは趣味が合わないんですよ。何て言うんですかね、左京さんってネチっこいし、行動がいちいち演技クサいじゃないですか」
それは清士郎も感じていたことなので何も言い返せなかった。
クソっ、どうしてタチバナさんはタチバナさんなんだ!
そうじゃなきゃ、フォローの一つや二つは出来たかもしれないと思い、清士郎は悩んだ。
カナデは、そんな悩める清士郎を見ながら言った。
「あなたとは仲良く出来そうですね」
「……?」
意味が分からないので、清士郎は思わず無言になってしまう。
このストロングな性格の人から好かれる要素が自分にあっただろうか。
答えが思い浮かばない清士郎の前で、再びカナデが口を開く。
「私は、ラーメンが好きなんですよ」
その言葉と同時に、カナデの肩のあたりにラーメンの妖精、ラメが現れた。
そしてラメは、やってやったぜ、みたいな満足そうな顔をしている。
清士郎は思う。この妖精は、俺の知らない所で一体なにをしてくれたんだろう?
妙に親し気に接してくるカナデに対して、清士郎は嬉しさよりも先に、得体の知れない恐怖を感じるのだった。