019 未来世界と親子の絆
立花左京たちが開催していた謎の集会に参加してから数日後。
私物を取るために清士郎は実家に立ち寄っていた。清士郎の実家は、彼が通う大学の近くにある。
それなのに清士郎はアパートで一人暮らしをしていた。
理由はアパート管理のバイトのためだ。そのために限界アパートに住み込みしている。
それはそうとして、清士郎は私物の大半を実家に置いていた。
実家の部屋を今でも自分の部屋として利用している状態だ。
それが田原清士郎という男の生き様である。
それが親だろうと他人だろうと、とにかく頼れるだけ頼って生きるのだ。
実家にて清士郎は悩んでいた。
手足が伸びる私物の人形をイジりながら悩んでいた。
悩みの原因は、左京の一味である屋代夏凛から言われた予知夢についてだ。
内容としては清士郎が他人事のように「大変そうですね」と呟いた後の部分となる。
ヤシロが見た夢の中に清士郎が関わってくる部分があったのだ。
信じるに足る要素が無い話とはいえ、妖精の能力が関わってくる予知夢となると、少し薄気味悪く感じる。
なぜなら、清士郎には妖精の姿がバッチリと見えてしまうからだ。しかも片桐リナとの勝負の時に妖精のチカラを借りていた。
妖精の持つ不思議なチカラは認めても、それによる不思議な予知夢は認めないというのはキマリが悪い。目をそらすわけにはいかなかった。
でも本当は目をそらしていたかったなーと清士郎は思う。
だから、びよ~んと人形の手足を伸ばしながら現実逃避に挑戦していた。
そんな時に目にしたのは、リビングで床に座りながら爪切りをしている父親の背中だ。
田原連士郎。それが清士郎の父親の名前である。
連士郎は寡黙な人だった。
それは信念とかで黙っているというよりは、喋るのが面倒だから黙っているという感じではある。
つまり清士郎は父親とあまり会話をした事が無かった。
そういう事情もあって、父方の親戚関係は不明である。会ったことも無かった。
清士郎は父親に対し、父方の祖父母の存在について聞いたことは無い。
なぜなら、その話題に触れる勇気が持てなかったからだ。
父さんの親戚がもっと多ければ、お年玉がもっと多くもらたのに、なんて、思っていても言い出せなかった。
自分でもそれを言うのはどうかと思ったからだ。その話題は置いておいて、清士郎は現在の悩みを解決するために父親に話しかける。
「父さん」
「なんだ」
連士郎は、清士郎の方を振り向かないまま言った。
古くなった新聞紙を床に広げ、足の爪を切っている父親に対し、清士郎は言う。
「俺って一人っ子だよな?」
息子に視線を向けないまま、連士郎は、パチン、パチンと右足の爪を切る。
景気の良い音を響かせながら返事した。
「なんの話だ?」
「いや、兄弟とかいないよなって話」
そこで一回、連士郎は顔を上げる。
息子、清士郎の表情をまじまじと確認した後、
「まるで話が見えんな……」
と呟いた。
連士郎の子供は清士郎しかいない。
つまり連士郎の子である清士郎に兄弟など存在しなかった。
そのことを、大学生になった息子から確認される理由が連士郎には分からない。
もう子供じゃあるまいしと思う。
兄弟がどうやって出来るのかは理解しているはずだ。
それならば、なぜ自分には兄弟がいないのかも察してくれているハズだった。
というか、察しておいてくれと連士郎は願う。
こういう話はあまり詳しくは説明したく無いからだ。
性に関する教育を真面目にやっているお父さんとか存在するんだろうかと連士郎は考える。
あのな、父さんと母さんが夜のスキンシップをあまりしなかったから、お前には兄弟がいないんだとか説明しているんだろうか。
素面で説明する事は苦痛としか思えない。どういうシチュエーションでやるんだろうか。
これがまだ、清士郎が幼い頃に言われたのなら話は分かるんだがと、連士郎は思った。
その場合は弟か妹が欲しいという感じの話になるだろう。
大学生にもなってから、自分に兄弟がいるかどうかを聞いてくる必然性が分からない。
もしかして、今から弟か妹が欲しいのだろうか。だから話を切り出してきたのか。
それは無理だろと、連士郎は思う。
俺と母さんが何歳になったと思ってるんだ。今からって、それはちょっと無理がある。
まあ仮に10年前に言われていたとしても、と連士郎は思う。
俺の甲斐性が足りないんで断ったんだがな。連士郎自身が認めていることだが、彼は稼ぎが少ないお父さんだった。
早々に予想に行き詰った連士郎。しかし、息子の心が分からないと言うのも苛立たしい事だ。
清士郎が弟や妹を求めていると仮定して、連士郎は次善の策を提案することにした。
兄弟がいないなら親戚と遊べばいいじゃない。
そういうわけで、連士郎は妻の実家である西園さんちを思い浮かべながら言う。
「従弟の海斗くんとは仲良くやれているか?」
そんな父からの問いかけに対し、なぜ海斗の話が出るのだろうかと清士郎は疑問に思った。
とりあえず即答する。
「仲良くやれてないよ」
それは親戚中が知ってるだろ、と告げる清士郎。
少し態度を冷たくした清士郎に対し、連士郎は短く答える。
「そうか。まあ、仲良くするように」
仲良くやれてないって言った所やんけ、と清士郎は思った。
この人って俺の事にあんまり興味がないよな、などと清士郎は思いつつ、さらに父親に対して追求の言葉を投げかける。
「父さんってさ、隠し子とか居ない?」
その質問が出た瞬間、ピタリ、と連士郎の手が止まった。
息子からのエゲつない質問に対して、確かに湧き上がる怒りを感じたからだ。
仮に俺に隠し子が居たとして、と連士郎は思う。
足の爪を切っている時にさらっと聞いても良いと思っているのか、清士郎よ。
連士郎は心の中で呟いた。
もっとこう、人として、アレだ。シチュエーションを大事にしろ。
それが人間らしい礼儀ってもんだろう。ここはガツンと言ってやらないといけないかもしれないと連士郎は思う。
それが父親としての教育ってもんだろう。連士郎は密かに決意を固めた。
俺がやらなきゃ誰がやる、息子の教育を誰がやる。
でもな、と連士郎は疑問に思う。教育的指導って、どういう声のかけ方が正解なんだろうか。
最近は時代が変わったと世間で騒がれているし、と不安になる。
俺の世代の持つ確信は現代のジェネレーションの教育になるんだろうか?
それは難しい問題だったので、連士郎は問題を棚に上げる事にした。
ついでに決意も投げ捨てた。
次に、怒りの原因になった息子の一言を考えてみる。
どういうタイミングなら俺は清士郎の発言を許せたのだろうか。
親に対して、隠し子が居るかどうかを切り出しても良いシチュエーションとは何か。
考えてみても答えが出なかった。
頭がこんがらがってきて、面倒くさくなってくる。
連士郎は決意に続いて怒りも投げ捨てた。気持ちが落ち着いて、溜息混じりに言う。
「本当に話がよく分からんな」
俺はなんで、こんなことを考えるハメになっているんだろうと連士郎は思う。
それもこれも息子からの変な質問から始まっている。
連士郎は、息子の持つ疑問を土台から消し去るつもりで口を開いた。
「清士郎」
「はい」
「隠し子とか言うけど、父さんにそんな甲斐性があると思うか?」
それは鋭い一手だった。
隠し子を作る金銭的な余裕が無いという、ある意味で自分の稼ぎを卑下するセリフになるだろう。
しかして反論を許さない一言でもあった。
まさに肉を切らせて骨を断つというヤツだ。
自らの発言にまんざらでもない気分になる父・連士郎。
ふふふ、快刀乱麻を断ってしまったか。普段は絶対に使わないコトワザまで思い浮かべている。
それに対し、息子・清士郎は冷や水を浴びせかけた。
素朴な疑問という形で反論してみせる。
「そうは言うけど、甲斐性が無くても子供は作れるんじゃないだろうか?」
息子の一言に連士郎はハッとさせられた。
確かにその通りだ。
現に俺は、甲斐性も何も無かった時に息子を授かってしまった。
人生設計なんて思いもつかず、将来への覚悟もなく、なんとなくの流れでここまで来ている。
たとえ稼ぎが少なかろうが、出世ができなかろうが、人は、家族を背負わなければならない。
なぜなら、予定通りの人生でなくても家庭を支える必要があるからだ。
だけどそこを問い詰めてしまうと大変な事になると連士郎は思った。
流れで結婚してしまったのだとしても、愛の運命を否定したくは無いのだ。
予定ハズレの恋や調子ハズレの愛だって、それが俺と妻、そして息子のディスティニーだって事にしておきたい。
子供を授かって結婚したからには、そこに運命を感じていたいんだよ。
そうじゃないと、と連士郎は思う。
清士郎、お前もその周りの人も大変な事になる。つまり俺と母さんも大変な事になってしまうぞ。
連士郎は愛の無い話は嫌いだった。なぜなら、相手に何を言い返せば良いのか分からなくなってしまうからだ。
誰もが歯を食いしばりながら努力して、出会いを運命に変えている。
俺も家族のために必死に働いているんだし、お前も家族の絆を保つように努力しようよ。
そこで連士郎は息子にガツンと言ってやることにした。眉間に皺を寄せながら、
「甲斐性が無くても子供は作れるとか、そういう事は思っていても言うな、清士郎」
怒気を込めた低い声を発した。
父親が軽くキレている事に気付き、清士郎は黙ることを選ぶ。怒りをやり過ごすためだ。
連士郎はそこから無言に戻り、パチン、パチンと左足の爪を切る。
爪を切り終わると、無言の関係性が愛の無い態度に思え、そんな自分自身の態度が嫌になり、連士郎は口を開いた。
「それで、清士郎。何の話だった?」
話を続けるか、それとも切り上げるかで清士郎は一瞬迷う。
いまいち怒りのツボが分からない父親を、これ以上に怒らせてしまう可能性があったからだ。
しかし毒を食らわば皿までと言う。
ここまで来たら言ってしまおうと思い、正直に質問した。
「俺以外に父さんに子供がいるかどうかって話だよ。もしくは、親戚とかに、俺によく似たヤツっていない?」
「…………?」
連士郎に何も分からない。
息子の発言は、兄弟の有無を確認するものとしか思えない。
そんな事は言わなくても分かるだろうと思った。
なにせ、この二十年間の家族の積み重ねがあるのだから。
答えは考えるまでも無いことなのだ。
結局のところ連士郎は最初の思い付きに戻るしかなかった。
それは、息子・清士郎が弟や妹を欲しがっているという予想だ。
悩むのが嫌になり、連士郎はその推論を推していくことにした。
「清士郎」
「はい」
「そういう話はせめて、10年前に言ってくれ」
弟や妹が欲しいのなら昔に提案して欲しいと連士郎は考えた。
しかし、連士郎の想像は外れている。
清士郎は単純に、自分以外の子供の有無を確認したかったのだ。
父親の言葉の意味が分からなかった清士郎は、オウム返しのように質問する。
「なんで急に10年前が出てくるの?」
連士郎はそこで気付いた。
どうやら自分の推論は間違っていたようだ。
しかし考えるのが面倒になってきていたので、直接的な言葉を口にした。
「弟か妹が欲しかったのか?」
「いや、そういうワケじゃないよ」
「そうか」
連士郎には、これまでの息子とのやり取りの中で、一つだけ分かった事があった。
それは、さっきから話が噛み合って無いという事だ。
「これは一体なんの話なんだ?」
「難しく考えなくて良いよ」
そんなこと言ったってなぁ、と連士郎はグチる。
渋面を作りながら思ったままの事を口にした。
「隠し子が居るかいないかって話題はどうなんだ。どうやっても難しい話になるぞ」
「そこをあえて簡単に考えてみて欲しいんだ」
あれこれ考えるのをヤメよう。
連士郎は息子の指示に従って、ごくあっさりとした答えを返す。
「言うまでもない事だが、俺の子はお前だけだ」
そういう確信が崩れるような事があったのか?
そのような事を連士郎は息子に問いかけた。
清士郎は、まあ多少は、と言葉を濁す。
言いづらそうな態度を取る息子に対し、
「どんな事だ?」
ここまで来たら話してみろ。連士郎はそう提案した。
鉄は熱いうちに打てと言うしな、と胸の内で思う。
今日はとことん清士郎の話を聞いてやるつもりだった。
密かに覚悟を決める連士郎。そんな父親に対し清士郎は正直に言った。
「知り合いから聞いた話なんだけど」
「どんな話だ?」
「俺が双子みたいになってる夢を見たって言うんだよ」
「夢?」
「その人、予知夢とか見る人らしいんだ」
連士郎は思った。
うーん、この、なに?
予知夢で悩む息子に対し、父親が取るべき態度が思いつかない。
なぜ俺の息子はこんな感じなのだろうか。いや、俺の子だからだろうか。
連士郎は、義理の兄である西園文座さんと、その息子である海斗くんの姿を思い浮かべる。
成績が良くてスポーツも得意らしい。うらやましい話だ。
しかし連士郎は、清士郎に対して人よりも優れた存在になって欲しいとは願っていない。
ただ、もっとこう、地に足がついた悩みを抱えて欲しい。そんな事を思いながら口を開いた。
「そう言えば、文座さんの所の海斗くんはサッカー部でレギュラーを取ったらしいな」
まだ一年生なのに大したものだ、と連士郎は続けざまに言った。
そして偶然を装って、息子の私生活に関して話を振る。
「お前も何かそういう、青春をかけるようなものは無いのか?」
強引すぎる話題の変更だ。
それが不自然過ぎることに連士郎は気付いていなかった。
世間話に慣れていない男が、急に世間話を装ってみた末路がこれだ。
魂胆がバレバレな父親の話術に対し、清士郎は冷たくツッコミを入れた。
「オカルトになんかにハマってんじゃないよ、ってこと?」
「バレたか」
息子の心を見通すハズだった連士郎。しかし逆に息子から心を見透かされてしまった。
慣れない事なんてするもんじゃないな、と心の中で思う。
固めたはずの決意を投げ捨てる。ついでに息子への教育方針も放置する。
それら一切を無かった事にして、連士郎はその場を誤魔化すために言った。
「俺の心が分かるようになったか。大人になったな、清士郎」
こういうシチュエーションで言われても心に響かないなあ、と清士郎は心の中で呟く。
まあいいさと清士郎は思った。
これで俺のそっくりさんや、双子の兄が存在する可能性は低くなった。
つまり俺は妖精について、少しばかり詳しく知る必要が出来たのだ。
清士郎がなぜ、このような事を考えているのか。
その理由はヤシロが見た予知夢と関係している。
清士郎はヤシロが言っていた言葉を思い出していた。
それは未来の予知としては、ありきたりな説明から始まる。
「まず、世界中がヤバイ事に陥ってるんや」
予知に関するヤシロの説明は大雑把だった。
そしてお決まりのように世界の行く末がピンチのようだった。
予言にありがちな出だしだな。
そんな事を思いつつ、清士郎は返事をした。
「それが魔法の影響ってヤツなんですか?」
「いや、魔法は関係あらへん」
「関係ないんかーい!」
思わず叫ぶ清士郎。それに対してヤシロは、ええツッコミやなと言った。
ヤシロの話の続きを聞くと、どうやら未来では今の世界の状況がズルズルと悪くなっていく方向らしい。
そうだとすれば、と清士郎は考える。
混迷する世界情勢なんてものは、ここに集まっているメンバーじゃどうしようも無いのではないだろうか。
清士郎は左京に目を向けながら思う。
さっきまで妖精のチカラを力説してましたやん。
妖精とか魔法とかが関係してこないなら、今までの話はなんだったのでしょうか?
しかし、ここからが本題のようだった。ヤシロは少し言いにくそうに口を開く。
「魔法とか妖精とかが関係してくるのは日本の未来なんや。世界情勢はどんどん無理ゲーになっていくんやけど、日本は途中まで上手く立ち回っとったみたいでなあ」
せやけど、ある時を境に状況が一変すると、ヤシロは彼女自身の予知を語った。
そこで少しだけ間を取り、何かを思い出すように口をへの字に曲げた後、未来予知の話を続ける。
「ウチが見た夢の中でな、魔法のチカラの奪い合いが起こる。バーッてなって、ドカーンや。それはまだエエほうでな、ほんまもう、頭がおかしなりそうな事が起きんねん」
「ほぅ。どんな事が起きるんですか?」
語彙力が足りない説明だなあと思いながら清士郎は言った。
足りない単語をジェスチャーで補うように、ヤシロは愉快な身振りを加えながら、
「ん~、何て言うたらええかな」
表現に迷うような態度を取る。
それから、ちょっと違うかもしれんのやけど、と前置きしてからヤシロは言った。
「亡くなった人らがな、こう、あの世から蘇りはるんや」
死者が復活するのだとヤシロは言った。
はぁ、なるほどねぇと思う清士郎。特に言うべき感想は思いつかなかった。
横目で確認すると、レモンも、ぽぇ~っと言った表情でヤシロの話を聞いている。
そんな中で、マリだけは楽し気な様子で話に耳を傾けているようだ。
人類が滅びるという予言は多くあるけれど、死者が蘇ると言う予言は少ない。
予知や予言も定期的に内容をアップデートすると楽しめるものなのかもしれない。
そんな感じで清士郎がマリの態度に納得を覚えている所で、ヤシロと目が合った。
ヤシロはそれまで浮かべていた朗らかな笑みをやめて、急に真面目な顔になって言う。
「田原くんってゆうたかな。実は、ウチはキミの顔を前から知ってる」
その言葉の意図や理由が分からず、清士郎はヤシロに対して怪訝な表情を返す。
ヤシロは、何かを確認するような慎重な口調になって、そっと告げた。
「繰り返される夢の中でな、何度もキミの姿を見てるんや」
それは悪夢やったとヤシロは語る。
人の顔を悪夢みたいに言わないでくださいよと清士郎は言う。
ヤシロは清士郎の気持ちなど、おかまいなしに話を続けた。
「まずは軽い所からいくで。キミ、未来に二人おる。ダブル田原くんやな」
「は?」
夢の話にしたって意味が分からない。
分からな過ぎたので、清士郎は聞き返した。
「どういう意味ですか?」
「そんなんウチが聞きたいわ」
キミ、双子がおるとかとちゃうよねと、ヤシロは清士郎に質問する。
双子どころか兄弟すらいないと清士郎は答えた。
そこから始まる左京の仮説。
それは、魔法のチカラにより人間が復元できるのではないかという話だった。
「屋代くんの見た夢を検証していくと、蘇った人々は半透明に透けて見える事もあるみたいなんだ」
まるで実体のあるマボロシのようだと左京は言った。
そして、妖精が見えるキミになら分かるだろう、と言わんばかりの表情で言葉を続ける。
「妖精たちと似ている状態だと思わないかい、田原くん?」
左京の話を聞いてから清士郎は悩んでいた。
妖精とは何か。どういう現象なのか。
よく考えてみれば妖精は半透明だし、浮いていたりするし、幽霊に似ていると言えなくもない。
それならば、と清士郎は思う。ヤシロが見た未来も、あり得なくはないのかもしれない。
ヤシロが語ってみせた未来世界と、そこを闊歩する半透明の死者たちを想像する。
左京の仮説が正しければ、それは死者が蘇るという現象では無い。
それよりも、もっと恐ろしい現象だ。
自分自身という存在、それ自体を否定されかねないほどの。
清士郎は、片桐リナとの勝負の時に妖精のチカラを借りた時の事を思い出していた。
お互いの心が直接つながり、どの気持ちが自分の気持ちなのか分からなくなるような感覚。
今にして思えば、あれは割と危険な行為だったんじゃなかろうかと思い、清士郎の背筋に冷たいものが走った。
妖精のチカラが心の在り方に深く関与するのだとすれば、ヤシロが見た夢が現実化する可能性はあると思えた。
まあ、予知の話は信じないにしても、と清士郎は思う。
妖精との契約について確認しておかないといけないだろう。
なにせ、下手をすれば妖精と合体して妖精マンになる所だったのだ。
事前にラメ達に確認を取っておくべきだろう。そんな事を思いながら、清士郎はふと、目の前の父親に話題を振った。
「父さんは青春に何をかけてたの?」
「俺か?」
少し考えた後、連士郎は言った。
「父さんはなぁ、図書館に通っていた」
「図書館?」
「ああ。図書館は無料で楽しめるからな」
そう言えばたまに本を読んでいる姿を見かけたけど、あれは借りた本だったんだろうか。
そんな事を考えながら清士郎は言った。
「文学青年ってやつ?」
「いや、ちょっと違うな」
息子から聞かれたことを連士郎は即座に訂正する。
なぜなら文学だけ読んでいたワケじゃないからだ。
連士郎は、図書館には雑誌とか新聞も置いてあることを自慢げに語る。
しかし何をメインに読んでいたのかを語る事は無かった。
「じゃあどんなジャンルを読んでたの?」
そう聞いてくる息子に対し、連士郎は言葉を濁す。
「まあ、色々だな」
なぜそこを隠すんだと清士郎は思う。
(いや、逆なのか?)
清士郎は発想を逆転させた。
隠しているのではなくて、語るべき内容が無いとか。
ひょっとして、と清士郎は質問した。
「お金をかけない暇つぶしが目的だったとか?」
連士郎は多くを語らず、そうだ、とだけ返事をする。
心がバレてしまった事が恥ずかしいのか、少し照れくさそうな表情だ。
そんな父親に対し、清士郎は親子の絆を感じていた。




