010 片桐リナ説得作戦その4
これにて、この章が終わります。
次の章を始める前に、少し休憩期間を取ろうと思っています。
その場所には剣に狂った一人の男がいた。
かつて幼き日に剣を取り、死に物狂いで剣を振り続けた。そんな男だった。
やがて万年補欠と呼ばれ、悲しいくらいに才能が無いと指摘される事になる。
そんな男は、長じて剣道部の顧問となり、学生からのお願いで休日出勤をしていた。
「待っていたぞ……」
剣道部顧問の皆本教授。
立花左京の知人にして、大学でスポーツ学を教える男。
彼はその身分と社会性をベースにして、市営体育館の使用を予約しているのだ。
そして学生たちの活動を見守る監督者として、その場に立っている。たった一つの休日を投げ捨て、理想に生きた男。そんな男が叫んだ。
「せっかくの休日を潰して、俺は、待っていたぞ!」
「そこは本当にアリガトウゴザイマス!」
全員を代表してお礼を言う清士郎。
そんな清士郎に対し、皆本教授は彼の名刺代わりとなるセリフを放った。
「だから剣道やろう! なぁ!」
「それとこれとは話が別と言いますか……」
「なぜだ!?」
皆本教授には夢がある。
それは、自らが顧問を務める剣道部の部員を増やす事だ。
そのためなら休日だって投げ捨てるし、イベント立案などの小細工だって行う。
困り顔を浮かべる清士郎に対し、皆本教授は苦渋を飲んだような声で言った。
「いや、すまん。分かっている。最初からそういう話だったからな……」
清士郎たちは安原の運転する車に乗って市営体育館に移動していた。
それは清士郎とリナの最後の勝負を行うためだ。
体育館を使用するにあたって、皆本教授に協力をお願いしている。
なお、清士郎は皆本教授に話を付ける際に、左京の持っているツテを頼っていた。
皆本教授は、剣道に興味のある学生を探すことは、もう諦めている。
だからこそ剣道とは違った形でのアプローチを模索していた。
すなわち、柔らかくてソフトな素材の剣を使った、子供でも安全に楽しめるチャンバラごっこだ。
清士郎がリナとの最後の勝負に採用したのはそれだった。
皆本教授は定期的にチャンバラ遊びを企画し、そこへの参加者を募っている。
そのことを以前から耳にしていた清士郎は、これを利用すれば自分で勝負を企画するよりも楽だと考えていた。
そういう経緯があって、この状況に至っているというワケだ。
教授は清士郎たち五人に対し、自らが主催するイベントの内容を説明し始めた。
「今から行われるのは剣道じゃあない。そう、竹刀を使わない安全なチャンバラ! 柔らかい棒を使ったアクティブでカジュアルなスポーツ! 俺が企画しているのはそういうのだ」
そして付け加えるようにして言い足した。
「そういうのをエサにして学生を呼び込み、上手いこと剣道部に引き込むという目的を、俺は忘れちゃあいない」
本音の部分は隠して下さいよとツッコむ清士郎。
リナは体育館の床の上に立ちながら言った。
「皆本先生まで呼んで、なにしようってんだよ」
「そりゃあ、こいつさ」
清士郎はチャンバラ遊び用のソフトな硬さの剣を持ちながら言う。
彼は右手で何度も剣を振り、それを左の手のひらで受け止めながら告げた。
「こいつで決着を付けよう!」
「それは別にいいけどさ……」
リナはチラリと自分の服装を確認してから言う。
「もしアタシがスカート履いてたらどうするつもりだったんだ?」
清士郎は一瞬だけ沈黙すると、爽やかな笑みを浮かべて答える。
「そこはあれだよ。勝負は試合前から始まってるって感じで……」
「とりあえずテメーには、一回痛い目を見せるわ」
皆本教授から渡された剣を構えるリナ。
素材が柔らかいので、心なしか先端がへんにょりしている。
気持ちとしてはハリセンの感覚に近い。まあ、ハリセンでも相手をしばく事は出来るだろう。
そんな事をリナが考えている所で、ミケイが間に割って入った。
「二人とも、待て」
ミケイは清士郎が持っているソフトな剣を奪うと、その硬さを確認する。
しばらく確認した後、つまらなさそうな表情になって言った。
「なんだこれは……。剣と呼べるのか、これが」
その言葉に皆本教授が反応する。
「キミキミ! やはり本物の竹刀の方が良いか!? 良いよな!」
パシーンって良い音が響くもんなぁと、嬉しそうに言う。
ミケイは皆本教授のテンションなど興味ないのか、あっさりと教授の意見を否定する。
「竹刀では軽すぎる。せめて木刀からだろう」
「木刀って、キミ……」
そんなもん危な過ぎて試合とか出来ないだろうと、ごく当たり前の意見を告げる皆本教授。
それに対してミケイもまた、ごく当たり前のことのように反論した。
「実戦で使われるのは木刀からだ。そうじゃないのか?」
「!!」
皆本教授の脳に、天啓を受けたかのような衝撃が走る。
確かにそうだ。実戦を意識すれば竹刀など話にならない。
しかし実戦ってキミィ、とんでもないよ。日常の中で意識しても良いものなんだろうか?
教授はそっと清士郎に近づくと、周りに聞こえないように小声で言った。
「なんだこの子、逸材すぎる。勧誘するのが怖くなってくるんだけど」
過ぎたるは及ばざるがごとし。ミケイの思想はサムライ世代過ぎる。
ふと、監督者の監督者たる立場を思い出して、皆本教授は怖くなってきたのだ。
そんな皆本教授の揺れ動く感情を読み取った清士郎は、やんわりと告げた。
「その子はウチの大学の子じゃないんで……」
「なんだろう、何がとは言わないけど安心してきたぞ」
大学関係者以外には、基本的に剣道部への勧誘をしないのだ。
そういう立場を思い出している皆本教授に対し、清士郎は説明を続けた。
「ちなみに剣道経験者です」
「それを聞くと惜しくなってくるな」
「小手で相手の腕を砕いちゃってから辞めたみたいっすけど」
清士郎からミケイについての詳しい情報を聞いた皆本教授は、しばし考えた後に言った。
「時代か。時代が違っていれば稀有な才能として評価されていたかもしれんな」
ついでのように、あっちのメガネかけたのも部外者ですと清士郎は告げる。
皆本教授は、まあええやろの精神で受け入れた。
いちいち我が大学の学生かどうかにこだわっていては、イベントなんて続けられない。
最近はイベントに参加してくれる学生も少ないのだ。理想と現実の折り合いを考えつつ、皆本教授は確認した。
「ルールは簡単。先に相手の剣が触れた方が負けだ。当たり判定で揉めずに仲良く判断するように。それで、どういう組み合わせで試合をやるんだ? 最初はキミたち二人からか?」
それに対して清士郎はきっぱりとした口調で答えた。
「試合をするのは俺と、そこの片桐だけですよ」
「!!」
皆本教授の背筋に残酷な運命の予感が走る。
彼は恐々とした表情で清士郎に問いただした。
「俺はわざわざ休日を潰してるってのに、たった一試合しかしないのか……?」
「重ねてアリガトウゴザイマス!」
勢いで誤魔化す清士郎に対し、まあ良いんだけどと答える皆本教授。
実は彼は隔週で体育館の使用許可を取り付けているので、どっちみち今日は体育館を使う予定だったのだ。
本来であれば剣道部員と共に汗を流しているはずだったのだが、五人いる剣道部員のうち、三人の都合が悪くなっていた。
休日の部活動をどうするか迷っていた木曜日に、清士郎からの提案が入ってきたのだ。
体育館の予約をキャンセルするのも具合が悪い。
というか、そういう不慮の事態も考えてチャンバラごっこの企画を考えていたのだ。
ちょうど良い機会だと考えた皆本教授は、剣道部の活動は休みにして、清士郎たちとチャンバラに興じることに決めた。
休日を潰したという言葉は、少しばかり大袈裟に言っているのだ。とはいえ、周りで聞いているレモン達は気を遣わざるを得なかった。
「あの! アチシ達も後でやりたいっス!」
「そ、そうだね。僕もやってみたいかな」
レモンと安原が、皆本教授に向かって慌てた様子で言う。
幸運なことにレモンもスカートでは無く、ハーフパンツ姿だ。
安原も軽く運動するくらいなら問題ないだろう。
そんな外野のやり取りを耳にしながら、清士郎はリナに向かって宣言した。
「そろそろ決着を付けようか、片桐!」
宣言を受けたリナは、
「とりあえず、そうだなぁ……」
底冷えするような声を発した。
彼女は戦いの空気に触れて、かつてヤンチャしていた頃の殺気を取り戻しつつある。
どこかで忘れ、封印していたはずの己の性質。
それを向かい合う清士郎に叩きつけるために、己がまとっている気を視線に込める事を意識しながら言った。
「テメーに根性入れてやるよ」
メッチャ怖いと清士郎は震えた。しかし清士郎には秘策があった。
その秘策を実行するために、心の中で妖精たちに呼びかけた。
(聞こえるか、ラメ、ハーン、スウ。俺は心の中で直接、キミ達に呼びかけている。これで呼びかけられてるよな? おーい、応答して欲しい!)
果たしてこれ、本当に呼びかけられているんだろうか。
清士郎はそんな事を疑っていたが、割とすんなりと妖精の声が頭の中に返ってきた。ラーメンの妖精であるラメの声が、清士郎の頭の中で響く。
『なんでしょうか』
なんだか、ムズガユイ感覚を覚えながら、清士郎は心の中の発声を続けた。
(キミ達は心に直接語りかける事が出来るんだよな?)
『そうだぜい』
今度はチャーハンの妖精の声が返ってきたが、清士郎は気にすることなく問いかけを続ける。
(それなら、目の前に立っている片桐の考えている事を、俺の心に直接伝えることも出来るよな?)
『…………』
どっちだよ。答えてくれよ。
この無言の返答は卵スープの妖精だろうなと、清士郎は当たりをつけながら、自分の秘策が成立することを願う。
その秘策とは、妖精のチカラを借りてリナの行動を読み取り、試合を有利に進めるというものだ。
妖精からの返事を待っている内に、皆本教授の掛け声で試合が開始されてしまった。さーてどうするかと思案する清士郎だったが、視界が突然切り替わる。
「!!」
清士郎の視界にはリナの姿が二重になって見えていた。
それは透き通ったマボロシのように見える。恐らく、一秒から二秒くらい先のリナの姿だと思われれる幻影が見えていた。
その動きに従って清士郎はリナの攻撃を予測し、避けた。
一撃目、二撃目を避け、フェイントを織り交ぜ始めたリナが、身体を捻って予想外の角度から放ってきた三撃目も躱す。
思ったより上手くいっていた。ただし疲れる。
予測を続けるのが思った以上に大変だし、それに従って身体を動かすのは、ひたすらに疲れる。
清士郎はこの期に及んで初めて気付いた。
心や動きを読み取れるだけでは、相手を圧倒する事は難しいという事に。
ただ攻撃を避けるだけで頭も体もフル回転で、攻撃を仕掛ける余裕が全く無い。
清士郎はひたすら避けまくる。リアルで死にゲーでもやっている気分だった。
シビレを切らしたのか、リナはとうとう回し蹴りまで放ってきた。それも躱す。
危険がアブナイ。なぜ俺はこんな事をやっているんだと言う唐突な感想。清士郎は、溢れる感情の中で無性に泣きたくなっていた。そんな時に、
「待て待て、待てーーい!」
皆本教授が慌てながら叫んだ。
リナと清士郎が動きを止めた事を確認したあと、教授はマジなビビり顔になって言う。
「蹴りはダメだ蹴りは! ケガするだろう! 何のために柔らかい道具を使ってると思ってるんだ!?」
リナは、ゼーハーゼーハーと呼吸を荒げながら、皆本教授に向かってすみませんと呟く。
その後に清士郎を睨みつけて言った。
「くっそ、ちょこまかと動きやがって……!」
それは目障りな羽虫に対する怒りと同種の感情に思えた。
怖いです……と思っている清士郎の元に皆本教授が近づいてきて、判断に迷っているような口ぶりで告げる。
「どうする田原くん、片桐くんの反則負けとするか?」
この場を監督する立場として安全パイな選択なんだが、と告げる皆本教授。
安全パイって本音は濁して下さいよ、と返事しつつ、清士郎は言葉を続けた。
「大丈夫です。当たってないですからね」
そして、リナに対して挑戦的な視線を向けながら言う。
「片桐も、こんな終わり方じゃ不完全燃焼だろ?」
「チッ」
リナは無言で清士郎に背を向けると、剣を床に置き、胸の前で左右の腕をクロスさせた。
そして気合の発声と共に腕を振り下ろす。空手の息吹に近い動作だ。効果としても同じ物を狙っているのだろう。
すなわち心身を統一して、気合の充実を目指す。
必ず相手を倒すと言う意思を練り上げ、昇華し、闘気に変える。
静と動。冷静さと獰猛さ。
内側に沈殿していく意識と、外側に向けて駆け巡る感情。
そういった物をより合わせ、合一し、リナは最強の自分を作り上げている。
妖精の助けを借りてしまった清士郎には、そんな心の動きが誰よりも分かってしまった。やがてリナは、静かな動作で剣を拾い上げる。そして穏やかな口調で言った。
「待たせてワリーな。それじゃ再開しようか」
おいおいおい、俺は眠った虎を起こしてしまったのか?
少し冷や汗を垂らしながら、清士郎は必死にリナの心の動きを掴み取ろうとした。そして、そんな事をしている余裕が無いと直感する。
次の瞬間、清士郎はむしろ前に出た。
鍔迫り合い。その後は何がどうなったのか自分でも分からない動きをしながら、清士郎はリナと交差し、気付いた時にはお互いの位置を入れ変えていた。
「おおっ!?」
皆本教授の驚く声を背景音にして戦いは続く。
(なんだ?)
もはや全てを流れに委ね、考える事を放棄していた清士郎の目に、泣いている女の子の姿が見えた。
それは現実の風景、つまりリナが清士郎に向かって連続攻撃を放つ姿に、重なっては消えていく。
清士郎はそれを、リナの攻撃を避けるために奇妙な体勢を取りながら眺めている。変な体勢のせいで見たこともない角度からの視界だった。
泣いている女の子はレモンの姿に見えた。ミケイの姿のようにも見える。だけど片桐リナの姿にも見えた。
この現象は、他者とのつながりを深め過ぎた弊害だ。
指先で摘まみ上げられた布は、その周囲の部分も含めて持ち上がっていくだろう。
それと同じことで、誰かとのつながりを深める事は、その周囲に存在する他の誰かとの結びつきをも近づける効果を放つのだ。
次々に浮かぶ幻影を頭の中で処理しきれなくなり、頭がこんがらがってくる清士郎。一方のリナも苦戦していた。
「くっ……!」
現在のリナは、氷のような冷静さで炎のように激しく動いている。
その攻撃は速く的確で鋭い。それなのに清士郎はユラリと避けてしまう。
リナは、魔術かペテンか、はたまた詐欺にでもかけられているような気分だった。
(なぜ当たらねえ!?)
リナは気づいていないが、清士郎が躱しているというより、彼女が無意識に攻撃を外していた。
これも、つながりによる弊害と言える。
妖精たちは彼ら自身を介在させることで、清士郎とリナの心を線でつなぎ、見えないメッセージのやり取りを行っていた。
それによってリナは清士郎の願いを受け取り、意識できない部分で影響を受け、攻撃を外してしまっているのだ。
こんな戦いに意味はあるのだろうかと清士郎は思い始めていた。
何も考えられないし、自分が自分の意志で戦っているのかどうかすら分からない状態だ。
いっそ、攻撃を受けてしまっても良いのではないか。そんな気までしている。
清士郎はリナの願いを受け取り、それによって身体の動きを支配されつつあった。
取り巻く空気が密度を増しているような錯覚。
熱くもなく、寒くもない。
この場を満たす気配が濃密に凝縮されていくような感覚が、切迫した現実感に変わって皮膚を貫いてくる。
それがあるレベルを超えた時、リナの目にも現実の景色に重なって幻影が見え始めた。
(なんだ!?)
ギョッとするリナの視界に、自分に向かって手を差し伸べる人の影が見えた。
それはレモンの姿にも見えたし、なぜか清士郎の姿のようにも見えた。
世話になったジイさんの姿のようにも見える。
それは彼女を更生に導いた人物であり、武道の師でもあった。
(オレはまだ――)
振り返る思い出は刹那的で、良い時のことしか思い出せない。
自分に向かって微笑みかける幻影に対し、リナはもがくように手を伸ばそうとした。
(ジイさん、オレはまだ、何も返せてない)
清士郎は身体を揺らすようにして、ほんの少しだけ重心を後ろにずらす。
リナの振るう剣が、己の身体に触れる寸前で通り抜けていく気配。
それを濃密に感じながら、あるいはそれを感じる前から、清士郎はそっと腕を振るっていた。
すると清士郎の握っている剣が、彼の腕の動きに流されるようにして、わずかにリナの剣に触れる。
二人の剣はひきつけ合うようにして触れ合い、少しだけお互いにチカラを与えあった。
加速するチカラを得たリナの剣は、軌道と力点の相を変えていく。
気付いた時には、リナの手から剣の柄がすっぽ抜けていた。
彼女が手にしていた剣は、ポスッと軽い音を立てて、少し離れたところに転がっている。
それはかつて、リナの師が見せた技に近かった。
リナがジイさんと呼ぶ老人は、その技を気結びの太刀だと言った。
剣を失い呆然となりながら、リナは、清士郎の顔を見る。
その目の奥に何故かジイさんの面影を感じ取り、彼女は棒立ちになった。
清士郎は何も言わない。
見守っていたレモンたちも無言だった。
皆本教授がようやく、口を開いた。
「剣がすっぽ抜けちゃったか。どうする? やり直すか?」
皆本教授には今のやり取りが、単に剣がすっぽ抜けたように見えていたのだ。
リナは、それまでの覇気を失ってしまったような、か細い声で答える。
「いや、いい」
多くは語らないまま、アタシの負けだとリナは言った。
これにて清士郎とリナの三本勝負は引き分けに終わった。
清士郎は勝負を経ても何も得ず、説得という目的は明後日の方向だ。
そして清士郎の意識には、妖精を介在させたコミュニケーションの影響が残っている。
妖精コミュニケーションで頭をフル回転させ続けた結果、清士郎の自我は境界線がフラフラになっていた。
リナを見てもそれがレモンだと感じたり、ミケイだと感じたりしている。
さらには、自分は本当は老人の武芸者であるという、奇妙な錯覚を覚えていた。
まるで酩酊したような状態だ。ヨロヨロになりながら、清士郎は口を開く。
「まあ、なんだ」
リナの顔を見ながら、緩く微笑んで言った。
「そんな泣きそうな顔すんなって。次もまた、遊ぼうぜ」
それはリナに向けられた言葉なのだろう。
あるいはレモンやミケイに向けられた言葉だったのかもしれない。
その時に清士郎から向けられた笑みが、リナの目には、遠い日の思い出の影と重なって見えていた。