9 出張
出張
夫、ユタカが出張である。
出張先は新潟。
新潟の現場担当者が、東京の本社で研修だという。
その研修期間中の応援である。
ユタカはいつものように現場から、マリの旦那さんと一緒に帰ってきた。
マリとお隣さんになってからは、旦那2人は1台の車で出掛けるようになった。
殆ど、2人乗りのユタカの車で出掛けて行った。
マリの家の車は、チャイルドシートを後部座席に着けっぱなしにした、5人乗りである。
スーパーの買い出しや、ヒカルが熱を出したとかの事を考えた結果である。
みすずは、もしもの為?に、マリにも運転免許を取得させた。
みすずはいつも、先を読むのである。
取得方法は,みすずの時と同じである。
マリもみすずも悪魔なので、人間に見えない様に出来る。
この能力を利用して、暇そうな教官を後ろから殴って眠らせ、助手席に座らせた。
運転する時は姿を現したが、車に乗ってしまえば、こちらのものである。
マリは元々運動神経が良い。
悪魔界でもトップクラスである。
直ぐに車を運転出来るようになった・・・それもマニュアル車を。
余っている教習車は、みすずの時と同じで、マニュアル車ばかりだったのである。
場内の練習だけで、直接、運転免許を取得にいった。
これも、みすずと同じ様に、ちょっと魔法で誤魔化した。
やはり、仮免など面倒臭かったからである。
はじめから、魔法で運転免許を取得してしまえば良かったのだが、マリの旦那の車もマニュアル車だった。
一緒に車に乗るヒカルの安全を考えて、練習してみたかったのである。
マリが運転の練習をしている間、ヒカルの面倒はみすずがみた。
ワンコのタロウとニャンコのクロと、みんなで散歩したりした。
みすずとユタカがベッドで二人になった時、ユタカに頭を撫でながら言われた。
「来週、新潟に出張になっちゃった。 お土産を買ってくるからね。」
「ご苦労様。」
みすずはそう答えた。
せいぜい、1泊2日だろうと思ったからである。
その後、ベッドの上で、みすずはユタカに甘えた。
みすずはネコ科なのかも知れない。
朝、ユタカの作業服を洗濯する段取りをしながら聞いた。
ポケットにティッシュなどが入っていないか確認するのである。
「いつからいつまで出張なの?」
「火曜日から金曜日だね。 3泊4日かな?」
「え? そんなに長いの?」
「うん、研修は本当は1日少なくても良いんだけど、打ち合わせもあるんだって。」
みすず、顔には出さなかったが寂しかった。
一緒になってから、そんなに長くユタカと離れて暮らした事がなかったからである。
その晩、みすずはユタカに思いっ切り甘えた。
3日も会えなくなる・・・そう考えただけで、ユタカから離れたくなかったのである。
ユタカは車で出張しようと思っていたが、現場は万代橋の近くで駐車場が見つからなかった。
現場と宿泊するホテルは近いので、電車で行くことにした。
早めに現場に着いて、打ち合わせをするつもりなので、早めに出発することにした。
みすずが直ぐにパソコンで調べてくれた。
直江津経由等を調べたが、長野から行く場合、適当な列車はなかった。
一番理想的なのが、長野駅から「あさま」で高崎に行き、「とき」に乗り換えて新潟に行く方法である。
長野駅を6時2分に出れば、新潟駅に8時10分に到着する理想的なルートである。
高崎で寝過ごしたりしなければ、乗り換えは1回で、ほぼ、座っているだけである。
長野駅まではみすずが車で送っていくことにした。
出張前日、みすずはユタカの荷物を鞄に詰める。
チャンと、ユタカに説明する。
終わったら、二人でベッドで頑張った。
絶対に他の女なんかにユタカを取られてなるものか!
みすずはユタカが好き過ぎるのである。
当日の朝。
みすずは、お弁当は要らないのだが、早起きした。
5時30分迄には長野駅に着きたい。
みすずは心配性なのである。
ユタカを起し、朝食を食べさせ、歯磨きをさせて準備万端。
5時過ぎに出発。
道は混んではいない。
ただ、信号待ちがある。
バイパスを横切るので、信号待ちが長い。
ここでイライラしてはいけない。
余裕を持って出て来たのである。
長野駅の東口、善光寺と反対の方の駐車場に車を停め、一緒に長野駅に行った。
ユタカがチャンと新幹線に乗るのを確認する為である。
少しでも長く、ユタカと一緒にいたいのが本音であるが・・・
みすずは、午前6時2分発の「あさま」が見えなくなるまで駅にいた。
「は~・・・」
ため息が出た。
3泊4日、耐えられるかしら?
みすずは家に帰って、ベッドに横になった。
眼を瞑ると、ユタカを思い出した。
「も~~~!」
うつ伏せになって枕に顔をうずめ、足をジタバタしてしまった。
初日からこんな事ではいけない。
ガバッと起きて、洗濯に掃除を始めた。
ユタカはいない・・・昼間はいつも通りである。
買い物に出掛けたが、一人分の買い物はわびしかった。
夕方に、隣のマリ姉から声が掛かった。
「一人で寂しいでしょ? うちで一緒に食べない?」
ヒカルも手を振って誘っているようだった。
「大丈夫よ。 一人も楽しいわ。」
やせ我慢である。
一人で夕食を食べた。
寂しかった。
食欲もわかなかった。
しかし、考え方を変えた。
「ダイエットになるじゃない。」
やはり、やせ我慢である。
サッサとお風呂に入った。
一人だと風呂場も広かった。
歯を磨いてベッドに転がった。
ベッドも一人だと広かった。
「クソ! 大の字になって寝てやる!」
少ししたら、寂しくなった。
ユタカの枕に洗濯し忘れた?ワザとしなかった?パジャマ代わりのTシャツを被せ、抱き枕にした。
「ユタカの匂いがする。」
深呼吸をしたらユタカといるみたいで、嬉しくて思いっ切り抱き締めてしまった。
「えへへへへ・・・」
と笑いながら寝てしまった。
朝起きるのが早かった所為である。
次の日、タップリ寝たので元気いっぱい。
布団カバーも、シーツも、バスタオルも、何でもかんでも洗濯しまくった。
全部干して、大満足。
綺麗好きである。
洗濯物が飛んだりしないように管理するのは、ワンコのタロウとニャンコのクロに任せた。
今日、昼間は悪魔の館で仕事である。
今日は早めに悪魔の館に行く。
勿論、マリ姉とヒカルと一緒である。
悪魔の館に人間が入るのは、ヒカルが初めてである。
マリはオンブしたまま仕事をしようとしたが、ママ、教育担当に無理矢理ヒカルを預けさせられた。
ヒカルが来ると知っていたママ、教育担当は、悪魔全体会議を欠席する事に決めていた。
大魔王の部屋と続きになった大きな部屋の中に、「ヒカル・スペース」なる場所が出来ていた。
マリは準備万全のバアバを見て、安心して任せることにした。
ヒカルを見た大魔王は、自分も会議を欠席すると言い出したが、マリに会議室に連れて行かれた。
みすずは、会議や授業が始まる前に、魔法で掃除を完了させた。
確認は、新人の門番を5人使って確認させた。
この館で、みすずに逆らう者はいない。
みすずがこの館に来た時点で、「悪魔ナンバー 0123456789」に代わっていたのである。
近頃は「悪魔ナンバー 0123456789」とは呼ばれなくなった。
シン教育担当と呼ばれている。
1時限目はパソコンの授業である。
近頃の悪魔は、パソコンくらい出来ないとやっていけなくなったのである。
講師は「悪魔ナンバー 0123456799」、ツトムである。
みすず、いや、シン教育担当が部屋を覗いた。
生徒が緊張する。
欠席者がいる。
「欠席してるのは「悪魔ナンバー 0567890123」だな。 誰か休みの理由は聞いているか?」
シン教育担当が地獄の底から響くような低い声で聞いた。
恐る恐る一人の若い悪魔が答えた。
「眠いから欠席するって言ってました。 次の先生の授業は出ると思いますけど・・・」
ツトム先生は、甘いのである。
「良いじゃん! 悪魔なんだから・・・」
バシ~ン!と鞭の先端が勢いよく振り出され、床にヒビが走った。
シン教育担当が怒っている。
「ツトム、、甘い! 」
そう言うと、シン教育担当、教室から消えた。
シン教育担当、「悪魔ナンバー 0567890123」の部屋に立っていた。
人間で言う、学生寮みたいなものである。
全寮制で、食事や着るものまで、全て無料である。
まあ、悪魔に親などいないので、当然である。
着るものと言っても、黒のダボダボの上下か、人間界観察用の黒のリクルートスーツくらいである。
人間界観察の際は「お小遣い」が出る。
人間の食べているものを確認するのも勉強である。
「悪魔ナンバー 0567890123」の顎を掴んで立たせた。
胸ぐらを掴みたかったが、裸で寝ていたので顎を掴んだのである。
「あ! 先生。 おはようございます。 俺のヤツ、朝立ちだけどなかなかでしょう?」
「何だ? イボじゃないのか?」
シン教育担当、下品な話題は嫌いである?
シン教育担当の目が赤く光ると「悪魔ナンバー 0567890123」は荒縄でぐるぐる巻きになっていた。
ただ、「悪魔ナンバー 0567890123」の自慢のものがチョロッと顔を出していた。
「悪魔ナンバー 0567890123」が気が付くと、パソコンの授業をやっている教室に、逆さでぶら下がっていた。
出席していた男型悪魔は皆こう思った。・・・恐ろしい! 今後は絶対授業を休まないぞ。
出席していた女型悪魔は皆こう思った。・・・「粗チン」
次の授業はみすず、シン教育担当である。
あくびをする者がいた。
シン教育担当、チョークを投げて命中させた。
教科書を立てて、寝ている者がいた。
鞭が飛ぶ。
バッキーンと物凄い音がして教科書が粉々に砕けた。
「寝るのは夜中にしろ! 何時に寝てやがるんだ? 」
優しいみすずの声ではない。
悪魔の太い低い声である。
ただ、、、声がデカい。
防音効果の高い素材で出来た悪魔の館であるが、外に立っていた門番までもが、ビクっと震えるほどの大声である。
「また、みすずが怒鳴ってる。」
ママ、教育担当がため息交じりに言った。
もしかしてと思って、ベビーベッドのヒカルを見ると、キャッキャと喜んでいた。
ママ、いや、バアバの教育担当が思った。
「この子、本当に人間の子かしら?」
みすずは寝ていた生徒の教科書を復活させ、参考書もオマケで付けた。
「寝る時にスマホなどいじらずに、その参考書を読んでおけ!」
「他に参考書が欲しいヤツはいるか?」
勿論、生徒全員が手を上げた。
蓑虫みたいに逆さ吊りになったままの「悪魔ナンバー 0567890123」も、「欲しいです。」と言った。
笑顔でシン教育担当、参考書を配った。
シン教育担当、真面目に勉強するヤツが好きである。
悪魔なんだけど・・・
シン教育担当の笑顔を見て、生徒全員がホッとしたのは、言うまでもない。
長野に帰る前に、みすずはマリ姉に言われた。
「みすず、今日、荒れてなかった?」
「え? いつも通りだよ。」
本当は、ちょっと荒れていた。
ユタカと一緒に寝れなかった所為である。
マリの家に3人で帰って来た。
「みすず、今日は夕食、食べて行きなさいよ。」
「う~ん! あ!そうだ! 今日、牛肉のタイムセールがあるんだ。 みんなですき焼きにしよ! 」
そういう訳で、みすずは自分の家に戻って着替え、例のファットバイクで素っ飛んで行った。
余分に牛肉を買ってきて、留守番のワンコのタロウとニャンコのクロ用に調理をした。
人間と同じ味付けをすると、ワンコやニャンコには良くないからである。
「お姉ちゃん、このお肉、高かったんじゃない?」
ニャンコのクロがお金の心配をしてくれた。
「大丈夫! 今日はパパから貰ったブラックカードで買ったから。」
みすず、贅沢品はパパのカードを利用する。
マリの一家とすき焼きを楽しむ。
本当は、マリもいける口なのだが、授乳中で我慢?している。
すき焼きでイッパイと目論んでいたみすずの思惑は、見事に外れた。
マリの旦那、光司が聞いた。
「この肉、美味しいね。 高かったでしょ?」
みすずは答えた。
「タイムセールだったの。」
確かにタイムセールの商品だったが、一番高いお肉にしたみすずであった。
コッソリ、マリにだけは言った。
「パパの奢りよ。」
光司はユタカについて話をした。
「出張で彼の行った現場、結構大変で、現場が終わるのが丁度いまくらいの時間かな?」
「長野の現場は、近隣との約束があるので遅くまで作業が出来ないけど、新潟の現場は周りはビルばかりだからね。」
マリが言った。
「大変ね。 帰って来たら、またお肉を買ってきて、元気を付けさせないとね。」
みすずは平静を装って、言った。
「大丈夫よ。4日だけだもん。」
本当は、心配で心配で仕方がなかった。
マリと仲良く片付けをして、みすずは自宅に帰ってきた。
自宅に帰ると、指を鳴らして新潟の、ユタカが泊るホテルの近くに現れた。
正確には、現れてはいない。
姿を人間に見えない様に出来るのである。
丁度、ユタカが定食屋さんに入るところだった。
みすずはユタカの隣に座った。
ユタカが何かを感じている様だったが、見えてはいない。
ユタカがハンバーグ定食を頼んだ。
みすずは店員が書いた注文伝票にサラダを追加した。
店員さんは、調理場に向かって注文を大きな声で言った。
「ハンバーグ定食とタップリ・サラダ。」
ユタカは「あれ?」と思ったが、サラダも頼んで正解だと思ったので気にしないことにした。
ちょっと夕食には遅い時間だったのか、4人席だが相席で座る人はいなかった。
みすずはユタカの前の席に移動した。
みすずは、両肘を付け、手の上に顔を乗せて、ユタカが食べるのを見ていた。
幸せで、思わず「うふふ」と声が出そうだったが、我慢した。
食べ終わったユタカが会計した。
「あ! 私の食べたすき焼きのお肉の方が高い。」
と、声に出そうだった。
定食屋さんから出たユタカは、コンビニでお水を買うと、何処にも寄らずにホテルに入っていった。
本当はホテルの部屋まで行きたかったが、我慢した。
今のみすずの顔は、いつもの可愛いみすずではない。
「悪魔ナンバー 0123456789」なのである。
もし姿を現わしてユタカに近付いたりしたら、誰かに見られるかもしれない。
間違えても、ユタカがみすず以外の女性と会っていると思われたくないのである。
ユタカの夕食を間近で見れたので、OKとして長野の家に戻った。
お風呂に入って、歯を磨き、ベッドの転がった。
ユタカの枕にユタカのTシャツを被せていると思ったら、今朝、頑張って洗濯してしまった。
洗ったシャツの匂いを嗅ぐと、太陽の匂いがした。
新潟のホテルに一緒に行って、ユタカの着たシャツを持ってくれば良かったと思ったが、後の祭りだった。
「クソ~!」
仕方が無いので、布団と枕を抱き締めて、みすずは今日も独り寝・・・寂しい・・・
ユタカがいなくても、みすずは早起きである。
しかし、やる気がしない。
みすずの元気の素は「ユタカ」なのである。
みすずは今日は「在宅」で仕事である。
ワンコのタロウは、マリの家に行ってヒカルのお相手である。
ニャンコのクロはみすずの部下としてパソコンをいじっている。
マリは、今日は育休である。
みすずは掃除洗濯はしたが、やる気はそこまで。
マリが様子を見に来ると、みすずはベッドにうつ伏せになって、足をバタバタさせていた。
「みすず! 何やってんの? シッカリしなさい。」
マリに叱られた。
「だって~、ユタカがいなくてつまんないんだもん。」
こんな姿を、みすずの生徒達が見たらどうするんだ。
示しが付かない!
マリはみすずを怒ろうと思ったが、言葉を変えた。
「ユタカさんも、今、現場で頑張ってるんだよ。 誰の為だと思う? みすずの為だよ!」
「うん! みすずも頑張る・・・」
マリは思った・・・みすずが単純で良かった。
いつもの勢いはないが、一応チャンと仕事をするみすずであった。
近頃はパソコンを2台並べている。
1台はみすず用。
もう1台はニャンコのクロ用である。
いつもは二人?で争うようにキーボードを叩いているが、今日はクロだけが本調子である。
たまに、みすずはクロに叱られていた。
「お姉ちゃん! 今日、入力ミスが多いよ! シッカリしてね!」
「は~い!」
どっちが主人か分からない1日だった。
夕方になってマリがみすずに言った。
「今から新潟に行って、ユタカさんに会っておいで。」
「う、うん。 良いのかなあ?」
「急に現れて、驚かしちゃ駄目だよ。」
「分かった。慎重に・・・やってみる。」
昨日と同じに、みすずはマリの家で一緒の夕食。
昨日はお肉なので、今日は魚である。
スーパーに良い鰺があったので、刺身とフライにした。
マリとみすずでお片付け。
終わったところで、みすずがマリに一言。
「じゃあ、行ってくるね。」
何を着ていこうかな~っと悩んで、いつものリクルートではないちょっと洒落たミニスカスーツを着た。
勿論、バイパス沿いのお店で買ったものである。
夕食を食べたので、チャンと歯磨きをしてから、新潟に出掛けた。
勿論、指を鳴らしての「交通手段?」である。
みすずはユタカの行動パターンを熟視している。
同じ店で夕食を食べると分かっていた。
今日は姿を消さなかった。
ユタカを見つけた。
思った通り、昨日と同じ定食屋さんに入った。
みすずは気が付いた。
夕食を食べてきてしまった。
食べてこなければ、無理矢理相席で一緒に食事が出来たのに・・・
仕方が無いので姿を消した。
昨日と同じにユタカの隣に座った。
ユタカは昨日と同じハンバーグ定食を頼もうとしていた。
思わずみすずはユタカに声を掛けた。
「鰺フライ定食にしなさい。」
ユタカは平然と店員さんに言った。
「すいません。 鰺フライ定食、キャベツ多めに変更してください。」
店員さんがカウンターの奥に声を掛けた。
「ハンバーグ定食を鰺フライ定食に変更。キャベツ多めで。」
ホッとして、みすずはユタカの前の席に移動した。
昨日と同じ様に、両肘を付け、手の上に顔を乗せて、ユタカが食べるのを見ていた。
ソース、醤油、タルタルソースと、色々な味で鰺を楽しむ。
全部平らげてユタカが言った。
「ご馳走様でした。」
受付で支払いをする。
ハンバーグ定食よりもちょっと金額は高かった。
鰺の大きさが大きかった所為かもしれない。
昨日と同じ様にホテルに行くのかと思ったら、ユタカは人通りのない暗い裏道に歩いて行った。
何処に行くんだろう?
そう思いながら、姿を消したままのみすずがユタカの後を追った。
人通りのない暗い裏道である。
ユタカは急に立ち止まった。
「みすず、今日も来てくれたんだね?」
「な、何で分かったの?」
みすず、姿を現わした。
今のみすずの顔は、いつもの可愛いみすずではない。
「悪魔ナンバー 0123456789」なのである。
「みすずの匂い、いや、香りかな。 それで分かったんだ。」
「昨日も眼を瞑ったら、目以外の感覚でみすずを感じたんだ。」
「今も、この暗い裏道だと、みすずを簡単に感じる事が出来るよ。」
「か、顔だって違ってるし・・・」
「いつもの可愛い顔だよ。」
ユタカの近くにいると、「悪魔ナンバー 0123456789」の顔にはならなくなっていた。
「私が姿を消している事、不思議だと思わなかった?」
「ヒカルちゃんの時に色々見たから、不思議だと思わないよ。」
「私は人間じゃなくて、何だと思う?」
「最初にあった頃は、天使! 今は女神かな・・・」
みすずは思った。
悪魔だって言うのは止めよう。
隣のおばあちゃんも言ってたし・・・言わないのは嘘をついたのでないって。
「ユタカ~!」
みすずはユタカに抱きついてディープキス!
暗い裏道、当然悪い奴らが隠れていた。
「おい! 丁度良いカモがいるぜ。」
「金を巻き上げて、女の方はやっちまおうぜ!」
「おう! なかなかの上玉じゃねえか。」
3人の男達の後ろから声がした。
「あたしも仲間に入れて貰おうかな?」
女の声であるが、低く太い、地獄の底から響いてきたようなオドロオドロしい声だった。
あまりに恐ろしい声に3人が振り返った。
パンツスーツを着た物凄い美人である。
スタイルが抜群、特に胸が凄い。
「お、脅かすなよ! 恐ろしい声出しやがって。 そのオッパイ、本物か? お前からやってやるぜ!」
「ふっ!」
女は馬鹿にした笑いを浮かべた。
「今から・・・」
男の一人が声を出したが、それで終わった。
滑るような摺足で前に出たかと見えた。
見えただけで、3歩先にいた。
そこには、何事も無い様にたたずむ女がいた。
実は、あまりに早くて見えなかったのである。
1人目は顎にアッパーカット。
普通は脳震盪くらいだが、破壊力が凄すぎた。
弁当箱に豆腐を入れ、思いっ切り振ったように、脳みそはグチャグチャになっていた。
2人目はくるっと回って、左足で延髄蹴り。
小脳へダメージを与え、呼吸系に影響が出ると言うが、当たり方が半端ではなかった。
多分、頸椎は粉々に破壊され、脳みそはグチャグチャである。
3人目は、心臓にストレート。
当然のごとく、心臓振盪を起した。
しかし、半端なパンチ力ではなく、折れた肋骨が心臓に突き刺さった。
「アッという間」どころではない早さで、男3人は絶命していた。
ユタカとみすずはキスを止め、表通りの喫茶店に入っていった。
「みすず。 明日、午前中で、仕事が終わるんだ。 家で待っててくれる?」
「いやよ! 車で新潟まで迎えに来るわ。 1泊でも良いから旅行しよ!」
「うん! じゃあ、行き先はみすずに任せるよ。」
「コーヒー飲んだら、帰るね。 明日、楽しみだね。」
そんな感じで二人は別れた。
ユタカはそのまま、ホテルに直行。
みすずは・・・
みすずはさっきの裏通りに向かった。
「マリお姉ちゃん、お待たせ。」
「遅~い。 待ってたんだからね。」
「ヒカルちゃんは?」
「光司さんが寝かしつけてるの。 さあ、サッサと帰るわよ。」
「お姉ちゃん、あそこで固まってる3バカトリオ、処分しなきゃ駄目だよ。」
そう、みすずが言って指を鳴らすと、3人の姿は消えていた。
ただ、万代橋の近くで、何かが川に落ちる音がしたらしい。
その後、新聞やテレビのニュースには何も出てこなかったので、海の底で魚の餌にでもなったのだろう。
出来損ないの3人、少しは役に立ったのかな?