6 お友達
お友達
みすずは買い物が大好きである。
デパートとか専門店の高級品ではなく、普通のものである。
パパ、大魔王のブラックカードがあるので、どんな高級品でも買えるのだが、そう言うものには興味がない。
みすずが好きなものは、スーパーで売っているものである。
人間界に来るまで、買い物などしたことは無かった。
悪魔だった頃の反動かもしれない。
今も悪魔だけど・・・
特にお好みは「スーパーのタイムセール」である。
悪魔は自分勝手である。
徒党を組むことを好まない。
おばさん達でごったがえす売り場・・・新鮮なのである。
生命力を感じる所為かもしれない。
今日もタイムセールに行く。
シャカリキになって自転車のペダルをこぐ。
この瞬間の爽快感も好きなのである・・・?
みすずの家の隣におばあさんが住んでいる。
みすずの家は「貸家」であるが、おばあさんの家は「持家」である。
不動産屋に管理を任しているが、大家さんである。
おばあさんは、息子夫婦と住んでいるが、二人とも働いている。
孫もいるが、学校に通っている。
昼間はおばあさん一人である。
息子が防犯の為と思って、犬を飼っている。
大型犬で、土佐犬とのミックスである。
優しい性格の犬なのであるが、身体が大きく顔がゴツイ。
番犬にはピッタリである。
外で飼うと、吠えたりすると思い、室内飼いである。
ほぼ、おばあさんと暮らしている。
たまに、おばあさんの昼寝の枕になっていた。
おばあさんはヒマなので、庭の雑草取りをしているみすずに声を掛けた。
「仕事はしてないのかい?」
「あ、こんにちは。 ちょっとしたパートみたいなのを頼まれたので、週に2,3回、仕事に行っています。」
「今日はお休みです。」
「いつも、午後に自転車で出掛けるけど、何処に行ってるの?」
「あ~、あれはスーパーのタイムセールです。」
「新聞の広告に入ってたヤツね?」
「そうなんです。 結構良いものが安くて、、タイムセール、大好きです。」
みすずは話ながら家の境の低い垣根を越え、おばあさんの家の雑草も抜き始めた。
みすずは足が長いので、簡単に越えてきた。
「あ、大っきいワンコ!」
「タロウって言うんだよ。 お散歩させてあげたいんだけど、私は膝も腰が痛くて・・・」
「良ければ、私が散歩に連れて行っても良いですか?」
「有り難いけど、良いのかい?」
「私、動物大好きです。 そっちの黒いニャンコも一緒に行く?」
「このニャンコは、クロって言うんだよ。 あら、クロも行きたがってるね・・・」
「じゃあ、手を洗ったら、散歩に行ってきます。」
話ながらだったが、おばあさんの庭の雑草も、抜き終わっていた。
「大きい犬だけど、大丈夫?」
「平気です。 私、動物に好かれるタイプだから。」
そう言いながら、みすずは散歩に出掛けた。
左手にタロウのリードを持って、肩にはクロを乗っけていた。
みすずはザックを背負っていた。
上の口が開いており、たまにクロが潜り込んで、顔だけ出していた。
みすずは健脚である。
直ぐに犀川の河原に着いた。
運動不足か、犬のタロウの方がバテ気味である。
河原に一人と二匹が並んで座った。
みすずが二匹に話しかけた。
「ねえ、あなた達、、私が何だか分かっているみたいね?」
犬のタロウが話し出した。
「お前、人間じゃないだろう?」
他の人には犬がモショモショ口を動かしている様にしか見えなかった。
あくびをしながら猫のクロが話し出した。
「この前、パソコンで見た事があるけど、お前、悪魔みたいだな。」
他の人には猫が可愛くニャオニャオと口を動かしている様にしか見えなかった。
たまにお手々、いや、前足で顔を拭いていた。
猫がパソコンの近くにいるのは、パソコンの発熱が気持ちが良いだけではない。
たまに、人間に隠れてパソコンをいじっているのである。
みすずは二人、いや、二匹に言った。
「お前って言い方、失礼よ! お姉さんとおっしゃい!」
二匹とも、動物的勘で分かっていた。
みすずには敵わないことが・・・
二匹同時に答えた。
「はい! お姉様!」
「お姉さんで良いわよ。」
「人間だと、私のことは悪魔だと分からないのに、君たちは凄いね。」
犬のタロウが言った。
「人間はそう言う感覚が退化したんだろうな?」
猫のクロも同調した。
「たぶん、第六感とかが鈍くなっているんだろうね。」
「みんな! 喉は渇いていない?」
みすずは水道水をペットボトルに入れて持ってきていた。
動物によっては、ミネラルの入った水は身体に悪いからである。
勿論、お水用のお椀も忘れなかった。
「お姉さん、気が利くね。」
二匹とも大絶賛である。
「さあ、帰ろうか? 帰ったらタイムセールで○○チュールとチャオ○○、買ってきてあげるよ!」
「やった~!」
三人、いや、一人と二匹は、ルンルンで家に向かった。
家に帰ると、そろそろタイムセールの時間である。
おばあさんは、チャッカリ新聞の折り込み広告の買ってきて欲しいものに、大きくマジックで丸を付けていた。
「これを買ってくれば良いんですね。」
「悪いわね。 宜しく・・・」
渡されたお金は多めだった。
「余った分はお小遣い。」
孫の扱いである。
みすずは、お気に入りのファットバイクに乗って、スーパーにダッシュした。
背中から、おばあさんではない声が聞こえた。
「○○チュールとチャオ○○! 忘れないでね!」
ワンコのタロウと、ニャンコのクロの声だった。
「任しとけ~!」
みすずは、いつも元気である。
ユタカが帰宅した。
夕食の時、みすずは昼間のお散歩の話をした。
「ワンコとニャンコ! 良いなあ~、飼いたいな~!」
「うん。 だけどこの家、貸家だから駄目だろうね。」
「転勤して、東京の実家に戻ったら、その時に飼おうよ。」
「うん。 お隣のタロウとクロで我慢する。」
「そう言えば、お隣さんは何人家族なの?」
「おばあさんと、息子さん夫婦と、高校生と中学生の娘さんだったかな?」
「ふ~ん。 男の人はお父さんだけなんだ。」
「だから、防犯用にワンコのタロウがいるんだよ。」
食後のコーヒータイム。
「この前ね、ユタカのお母さんが来たの。」
「え~! オフクロ? 何も連絡、なかったけど・・・」
「ユタカの事が心配なのよ。」
実際は、みすずがどんな娘なのかを見に来たのである。
みすずに直接会う前に、お隣に寄ったらしい。
隣のおばあさんは、みすずが大好きである。
みすずの事を思いっ切り褒めたらしい。
あまりに褒めるものだから、実際に会う前に隠れてみすずを観察した。
観察して分かった。
おばあさんが言っていたより、良い娘だった。
本当は悪魔なんだけど・・・
実際にみすずに会ってみたら、本当に気立ての良い素敵な娘だった。
ユタカには弟がいるが、海外に留学している。
ユタカと違って彼女がおり、そのまま就職して日本に帰って来ないという。
ユタカの母親は、娘が欲しかった。
折角、下の息子に彼女がいたのに、息子と一緒に海外で暮らすつもりだという。
今更、夫と頑張って娘を、とは考えない。
また、男の子が出来たらどうするんだ、この歳で・・・その方が心配であった。
一番娘に近い人物、ユタカの嫁を自分の娘にしようと思ったのである。
実際にみすずに会って、気に入った。
自分が理想と思っていた「娘像」を越えていた。
こんなに美人で可愛くてスタイルが良いとは思わなかったのである。
ユタカの母親がみすずを気に入るよりも、みすずはユタカの母親を気に入っていた。
大魔王と教育担当のパパとママは、ある意味、打算であった。
実際に仲は良いが、出だしは違っていた。
それに、「若作りの逆」の魔法で、パパとママは初老を装っている。
ユタカの母親は本物である。
魔法など使ってもいない。
みすずはいつも思っていた。
思いっ切り甘えさせてくれる人が欲しい。
ユタカも甘えさせてくれるが、夫である。
女性で甘える事が出来る人、「母親」が欲しかったのである。
悪魔である。
親などはいない。
人間界に送られれば、人間に憑依し、そのままである。
しかし、みすずは違った。
人間と結婚してしまった。
結婚して、新たな気持ちが芽生えた。
「甘えたい・・・」
夫ではなく、母親に。
本来、無理な話である。
悪魔だから甘えなど許されない。
甘えたかった。
それでも、それでも甘えてみたかった。
しかし、目の前にいた。
自分の母親になってくれる人が。
ユタカの母親が東京に帰る前、みすずは聞いてみた。
「お、お母さんを、本当のお母さんと思って甘えても良いですか?」
「あたりまえよ。」
そう言われて、みすずは抱き締められた。
嬉しかった。
悪魔なのに涙が出た。
「お、お母さん・・・」
長野駅に行くのにタクシーを呼んだ。
地方は「流しのタクシー」はいない。
電話で呼ぶのが普通である。
みすずは、ユタカの母親と一緒に長野駅に行った。
みすずは、ユタカの母親の手をずっと握っていた。
母親の温もりを感じた。
駅でも、ユタカの母親が乗った新幹線が見えなくなるまで、手を振った。
そんな事があったが、それはユタカには言わなかった。
でも、ユタカの母親に手紙を書いた。
「お母さん、今度遊びに行きます。」
コーヒーを飲んで二人でマッタリしていた。
みすずの耳に女性の悲鳴が聞こえた。
みすずの耳は「地獄耳」である。
悪魔だから?
「ちょっと女性の悲鳴が聞こえた。」
「え? 何も聞こえないけど・・・」
ユタカが言い終わる前に、みすずは庭に面した縁側のサッシの窓を開けた。
開けて直ぐに、庭用のツッカケを履いて隣の家の庭にジャンプした。
隣の家のおばあさんの部屋のサッシの窓を開けて、タロウとクロを庭に出した。
「おばあさん! タロウとクロ、ちょっと借ります。」
言い終わると同時に、一人と二匹は素っ飛んで行った。
家の前の道路から広い道に出た。
東京の様に、街灯がこれでもかというようには設置されていない。
それでも、みすずの目は暗くてもよく見える。
悪魔だから・・・
チャンと靴を履いていれば、犬のタロウよりはみすずの方が早い。
これも、悪魔だから・・・
しかし、みすずは庭用のツッカケを履いてきてしまった。
「え~い、くそ!・・・走りズラ!」
直ぐにみすずはタロウとクロに命令した。
「あの男をやっつけろ!」
犬のタロウは、猫のクロを背中に乗せたまま、大ダッシュ。
タロウは、女性に襲いかかろうとしていた黒ずくめの男にのしかかった。
クロは、男の顔に猫パンチをくれていた。
助けた女性を見ると、塾帰りのおばあさんの高校生の孫、「ルミ」だった。
みすずを追いかけてきたユタカが、スマホで警察を呼んでいたので、直ぐに黒ずくめの男は逮捕された。
みすずは警察官に聞かれた。
「娘さんを助けたのは、あなたですか?」
「いいえ。 ここにいるタロウとクロです。」
翌日の地方新聞の三面記事に、大きい写真入りで今回のニュースが載っていた。
「お手柄の仲良しワンコとニャンコ、女性の敵を捕まえる。」
掲載写真は、すまし顔のタロウとその背中に乗った偉そうな態度のクロの二匹だった。