4 仲良し-2
仲良し-2
朝、ユタカが起きると、みすずは朝食の準備をしていた。
今日は「パン」なのかと思ったら、朝食用ではなかった。
お出かけ用の、サンドイッチのようだった。
朝食はハムエッグと鮭の焼き物と、ご飯と味噌汁である。
健康を考えて、キャベツの千切りも添えてあった。
「健康を考えた朝食だね。」
「当り前よ。 私の大事な旦那様なんだから。」
「頑張って、長生きするよ。」
「よ、夜の方も頑張ってね。」
「も、勿論だよ。」
朝っぱらする会話ではない!
二人で出掛ける。
車は、ロードスターのRFである。
ミッションはマニュアルシフトである。
二人乗りなので、長く乗るかは疑問だった。
普通のロードスターの方が価格は安かったが、丁度「出物」中古車を見つけた。
中古車店の店長が知り合いだったのもあり、何とか定期預金を全て解約することなく購入出来たのである。
どうせ彼女はいないし、長野に転勤になった。
仕事ばかりで趣味など無い。
お金が貯まるいっぽうだった・・・迄はいかないが、通勤も車通勤が許されるので、購入したのである。
しかし、彼女どころではない。
奥さんが出来てしまった。
まだ、婚姻届は出していないが・・・
ユタカが運転する。
みすずが運転免許を持っていたとしても、「オートマ免許」だと思ったのである。
「みすずは運転免許、持ってるの?」
「うん! あるよ!」
信号で止まった時、見せられた。
オートマ免許ではなかった。
ユタカが仕事に出掛けた後、運転免許を取得しようと思った。
車を運転するというより、身分証明書として欲しかった。
マイナンバーカードのように、セキュリティに不安があるものより、こちらを選んだのである。
それに、車も運転出来るし・・・
魔法を使って戸籍を作り、運転は教習所で習おうと思ったが、時間が掛かる。
お金はどうでも良い。
悪魔の持っているブラックカードである。
金の出所など、危なそうで、知らない方が良さそうだった。
悪魔は自分を人間に見えない様に出来る。
この能力を利用して、暇そうな教官を後ろから殴って眠らせ、助手席に座らせた。
運転する時は姿を現したが、車に乗ってしまえば、こちらのものである。
教科書通りは得意技である。
直ぐに車を運転出来るようになった・・・それもマニュアル車を。
余っている教習車は、マニュアル車ばかりだったのである。
みすずは元々運動神経が良い。
悪魔だからかもしれない?
場内の練習だけで、直接、運転免許を取得にいった。
ただ、ちょっと、魔法で誤魔化した。
仮免など面倒臭かったからである。
はじめから、魔法で運転免許を取得してしまえば良かったのだが、根が真面目である。
ちょっと練習してみたかったのである。
長野ICから高速道路に乗って、小布施のPAからスマートICで一般道に出た。
小布施の名所をグルグル回った。
みすずは観光などしたことが無かった。
悪魔だから・・・
楽しかった。
ユタカと一緒だったからかも知れない。
小布施から、みすずが運転した。
楽しい!
横に座っているユタカにも伝わった。
「運転、楽しそうだね。」
「ユタカと一緒だから、凄く楽しいよ。」
ユタカは嬉しくて暑くなった。
「みすず! オープンにしようよ。」
ちょっと広い道ばたに車を停め、オープンにした。
「凄ーい! こういう風に屋根が動くんだ。」
みすずが感心する。
いつもクローズのままだったので、初めて見たのである。
わざと風を感じてみすずは運転した。
信濃町から戸隠に向かった。
快適に走って行く。
奥社入り口近くの駐車場で、みすずお手製のサンドイッチを食べた。
みすずが作ったものは、何でも美味しい。
「愛情」がふりかけられているからである。
悪魔なんだけど・・・
飲み物はペットボトルのコーヒーである。
500mlの1本を回し飲み。
「ふふふ・・ 間接キッスだね。」
普通にキスしている筈なのに、みすずは嬉しそうである。
腹ごなしに奥社に向かう。
入り口から随神門まで約1km、ここまでは楽勝。
ノンビリ歩いて15分。
随神門から奥社まで約1km。
上りがキツくなり、石段の高さもまばら。
同じ1kmとは思えない厳しさで、30分以上掛かってしまった。
ただ、こちら側は杉並木で、木が大きい。
覆い被さるようで、荘厳である。
奥社で手を合わせた。
みすずにだけ声が聞こえた。
「悪魔が何しに来た?」
みすずはお賽銭を奮発して500円玉を投げ込んだ。
「ユタカと幸せになりたいの。」
可愛く心の中で呟いた。
また、みすずだけに声が聞こえた。
「変わった悪魔だな。 しょうがないなあ、幸せにしてやろう。」
心の広い神様である。
天手力雄命 (あめのたぢからおのみこと)。
天照大神が隠れた天岩戸をこじ開けた大力の神様で、神話では天手力雄命が投げ飛ばした天岩戸が現在の戸隠山であるとされている。
戸隠山を見ると、本当はそうなのだと思えてくる程、変わった?山である。
まあ、悪魔如きに神様が驚く筈もない。
車に戻ってから、ユタカが言った。
「ちょっと、お蕎麦も食べていこうよ。」
「賛成~!」
そういう訳で、中社近くの蕎麦屋に行った。
軽くのつもりが2枚ずつ平らげてしまった。
みすずは冷酒も飲んでしまった。
「満足、満足!」でそれからはユタカが運転。
七曲がりを通って、善光寺へ。
お戒壇巡りで盛り上がる。
実はみすずは暗闇でも、目が見える。
悪魔だから・・・
それでも、見えないフリをしてユタカにしがみついた。
明るいところに出てからユタカに言われた。
「怖くなかった?」
「うん! 怖かった。」
思いっ切り可愛く言ってみた。
「僕が付いているから大丈夫だよ。」
「うん。 離れちゃイヤだからね!」
要するに、甘えてみたかった・・・
駅前の駐車場に車を停め直し、駅前のデパートに行った。
デパ地下に行く為である。
ユタカはお昼にサンドイッチとお蕎麦を2枚、デパ地下で試食をしているうちに、トイレに行きたくなった。
「大」である。
「もう、食べ過ぎなんだから・・・」
みすずが可愛く怒るので、怒った効果は無い。
男子トイレの近くでみすずが一人で待っていた。
美人でスタイルが抜群、目立っていた。
周りに人が居なくなった時、事件?が起きた。
チャラそうなお兄さんが3人現れた。
「お姉さん、一人?」
みすずは無視をした。
「俺たちと遊びに行こうぜ。」
みすずの腕を、チャラい一人が掴もうとした。
「てめ~ら! ざけんじゃねえぞ!」
みすずの口から出たとは思えない、低い声。
深い濁った沼の底から湧き上がってきたようなオドロオドロしい声だった。
みすずの目の色が変わっていた。
赤く光っていた。
みすずの目の色が変わった瞬間に、男達は壁に叩き付けられていた。
みすずは悪魔である。
3人の男達の心の中に悪魔が入り込んでいるのは、お見通しであった。
みすずの悪魔としての力は強い。
悪魔の順位としては、大魔王、教育担当に次ぐ3番目である。
何故そんなに強いのか?
真面目だからである。
一生懸命、魔法や悪魔の力について勉強していたからである。
普通の悪魔は、勉強などせずにタラタラしたまま、人間界に送られていた。
みすずと普通の悪魔とでは、レベルが違い過ぎるのである。
みすずが指を鳴らすと、男達は気を失った。
心の中に入り込んでいた悪魔達を消滅させてしまったのである。
「自分の邪魔するものは消し去る!」・・・悪魔として当然の行為である。
「人妻なの! 止めてください!」
本当はそう言おうと思ったが、チャラい3人を叩きのめした後だった。
ハンカチで手を拭きながらユタカがトイレから出て来た。
「あ~、すっきりした。」
「もう、ユタカったら、、バッチイ!」
みすずの声は、思いっ切り可愛い声に戻っていた。
「何も買わなくたって良いよ。 やっぱり、あたしが作った方が美味しそうだもん。」
みすずがそう言って,二人で手を繋いでデパートを後にした。
トイレを借りただけになった。
帰りに、いつものスーパーに寄った。
元々は、田圃か畑のど真ん中に店を造ったのだろうが、今、周りは住宅がひしめいている。
駐車場にも「前向き駐車をお願いします」と、沢山看板が立っている。
排気ガスを近隣の住宅に向けない配慮である。
帰るのを楽にする為か、バックで駐車している車が目立つ。
買い物の帰り際に、バックで停めている車を見て、みすずが言った。
「何で、みんな前向き駐車にしないんだろうね?」
「うちの車は、ちゃんとしてるのに。」
スーパーの駐車場から出てから、ユタカが言った。
「みんな、字が読めないんだろう。」
「え~? でも、排気ガスを近くの家に吹きかけてるのと同じじゃない。 エンジン、掛けっぱなしの車もいたし・・・」
「そう言うヤツは、悪魔が心に住んでるんだよ。」
「きゃ~! やだ~! こわい~!」
可愛く騒いでみたが、ユタカと一緒に暮らしているうちに、みすず自身が悪魔だという事を、忘れてしまっているのかな?
家に帰って、みすずが夕食を作る。
手際が良く、美味しい。
「みすずの料理はいっつも美味しいね。」
「ふふふ・・・ ユタカの為だもん!」
ユタカは幸せ者である。
二人でお風呂に入る。
もう、前のようにユタカも我慢しない。
「お風呂で一発!」
お風呂から上がって、居間でゴロゴロした。
その後、「ベッドで二発!」
元気である。
「婚姻届を出したら、もっとヤレるね。」
物凄~く、元気で仲良しである・・・