13 東京 (マリ)2
東京 (マリ)2
土曜日。
マリ達は、光司の実家を後にした。
マリは光司に言った。
「マリさんの実家にも寄っていって。」
何も言わずに光司は、ヒカルの生みの親、もう一人のマリの実家に車を走らせた。
光司の家とマリの家は近所、車なので直ぐに到着。
光司の母親からマリの母親に連絡がいっていたのか、チャイムを鳴らすと直ぐに母親が現れた。
マリの母親の前にいるのは、日本人にしては洋風な顔立ち、無駄に大きい胸、それでいてスレンダー。
何よりも身長が170cmをゆうに越えている。
どう見ても、娘のマリでは無い。
光司の母親から、娘のマリだと言われたのに・・・
躊躇していると母親は抱き締められた・・・娘とは違うマリに。
抱き締められて母親は分かった。
今、私を抱き締めているのは、自分の娘のマリだと。
「ま、マリ、 マリなのね。」
近くいたマリの父親は立ち尽くすばかりであった。
しかし、光司からヒカルを受け取り、ヒカルを抱いたマリは、自分の娘だと分かった。
マリの実家の居間にみんなが座った。
マリはヒカルを光司に渡し、マリの部屋に向かった。
悪魔であるロシア担当のマリが知る筈の無い、家の中である。
何の躊躇も無く、マリはこの家のマリの部屋の扉を開けた。
そして机の引き出しから、一通の手紙を取り出した。
生前のマリが、光司との結婚式の後、両親に宛てた感謝の手紙である。
「お父さん、お母さん、結婚式の後に渡そうと思っていたんだけど、渡し忘れちゃった。 ご免なさい。」
その言葉、その仕草、娘のマリ、そのものだった。
父親は涙を拭い、母親は膝から崩れ落ちた。
居間に戻って、マリは両親に言った。
「お二人の娘さんのマリさんは、私の中にいます。」
「長い時間は無理ですが、少しくらいなら、私の力でマリさんを見せる事が出来ます。」
「あ、有り難う・・・」
マリの両親はそれ以上言えなかった。
マリは明るく言った。
「ちゃんと孫のヒカルを抱っこしてやってくださいね。」
父親と、母親は代わる代わるヒカルを抱いた。
それを微笑みながら見ていたマリは、お茶の準備をした。
「はい、お父さんとお母さんの茶碗。お茶、いっぱい注ぐね。」
父親と母親はマリを見た。
間違いなく自分達の娘がそこで微笑んでいた。
みんなでお茶を飲んで、別れ際、マリが言った。
「長野のおうち、引っ越したの。 今度、遊びに来てね。 ちゃんと迎えに行くから。」
自分達の娘とは、声も姿形も違うマリだったが、もう、父親と母親には自分達の娘だった。
光司の運転する車が見えなくなるまで、両親は手を振っていた。
車が新宿駅の近くを通った時、マリのスマホが鳴った。
出てみると、みすずからだった。
「マリ姉、今、新宿駅の近くでしょう?」
「そうよ。 何か用事?」
「ちょっとさ、うちの生徒が歌舞伎町の裏でトラブってるんだよね。 ちょっと助けてやってくれる?」
「良いわよ。 直ぐ行くわ。」
マリは光司に都庁近くの道路に車を止めさせた。
「ちょっと、うちの生徒を助けに言ってくるから、5分くらい待ててね。」
光司、少しも慌てず、言った。
「マリの事だから、心配はしないよ。 早く帰って来てね。」
光司とヒカルに手を振って、都庁の駐車場の方にマリは歩いて行った。
駐車場の柱の陰でマリは指を鳴らすと、霧のように消えていった。
歌舞伎町の人通りの無い裏道に、マリは現れた。
先程とは違う身体の線が際立つ、黒いミニのスーツに高めのヒールを履いていた。
マリの目の前には、頭の悪そうな30代前半の男達が5人いた。
その先にマリも見覚えのある娘達が二人いた。
男達は娘達二人をビルに連れ込もうとしている最中であった。
マリに気付いた娘の一人が言った。
「せ、先生。 すいません。 呼び出したりして。」
「どうしたの?」
マリは悠然と言った。
「先生? なんだ、センコウか。 お! 凄えスタイルが良いな。お前も一緒に遊んでやるぜ。」
「わ~おゥ! 凄え姉ちゃんが現れたじゃねえか? 今日は大ラッキーだぜ。」
「ビデオ売ったら、メチャメチャ儲かりそうじゃん!」
マリは流れる様な摺足で、男達の間を抜け、娘達の隣に立った。
マリが通り過ぎた後には、2人の男の顎が砕け、もう1人の男の頭は上半分が潰れて二つの目玉が垂れ下がり、皆、そのまま立っていた。
生き残っていた2人の男は、股間を濡らし、震えながら立ちすくんでいた。
娘のもう一人が言った。
「先生、 赤いグラブ、素敵ですね。」
「ああ、これ? みすず、いや、シン教育担当がね、汚いものを殴る時に手にするようにってくれたのよ。」
「ほら、先輩のあなた、 予備をあげるから、残りの二人、片付けなさい。」
「はい。」
そう言って、先輩と言われた娘は、赤いグラブをはめた。
綺麗な擦り足で男達に近付くと、蹴りと打撃で、アッという間に男達を処分した。
蹴りを食らった男の頭は半分陥没し、打撃を喰らった男の顔は潰れていた。
「うん。 上出来よ。」
娘は言った。
「先生に褒められると嬉しい~!」
マリがもう一人の娘に言った。
「さあ、あなたはこの5人を消して、痕跡を全て消しなさい。」
もう一人の娘は呪文を唱え、指を鳴らした。
もう、そこには男達の姿や、飛び散った脳みそや血液の一滴も残っていなかった。
「あなたも上出来。 流石、シン教育担当の教え子ね。」
「あたしの格闘技の授業を卒業したら、あなたにも赤いグラブ、プレゼントするからね。」
「は~い。 頑張りま~す。」
マリに言われた娘は、やる気満々である。
先輩の娘がマリに聞いた。
「先生、 さっきのバカ男達に悪魔が憑依していたので、処分して良いか分からなくって、シン教育担当に連絡しちゃいました。」
マリは二人の頭を撫でながら言った。
「不良品の悪魔は要らないから、処分しても大丈夫よ。 これからは、あなた達みたいな出来の良い悪魔が人間をコントロールするんだから。」
「有り難う御座いました。 来週の格闘技の授業、宜しくお願いします。」
「あと、ながらスマホは駄目よ。」
「はい。 そんなことをしたら、シン教育担当から鞭で叩かれちゃいます。」
「そうよね、私達の時も、先生、いっつも言ってたもん。 バカな人間の真似しちゃ駄目だって。」
「じゃあ、実習、タップリ楽しんでね。 ジャンクフードばっかり食べて、太ったら駄目よ。」
「は~い。」
娘二人の元気な声を聞きながら、マリはウインクをして、そこから消えていった。
5分もしない間に、光司の待つ車の後部シートにマリは現れた。
着ているものは、朝、出掛けるときに着ていた、白系のパンツスーツである。
「光司さん、ヒカルちゃん、 お待たせ。」
「もう、用事は済んだの?」
「うん、楽勝だった。 さあ、おうちに帰ろう!」
マリの言葉を聞いて、ヒカルが拍手。 ヒカルの拍手を聞いて、光司は発進のウインカーを出して出発。
「来る時は、関越だったから、帰りは中央道にしようか?」
「そうね、折角のドライブだもの。 私達も楽しみましょう。」
そういう事で、首都高4号線の初台から、長野に向かった。
最初の休憩場所は、中央道の談合坂SA。
光司。
「コーヒー、買っていこうか?」
マリ。
「私、授乳中だから、う~ん、一口だけ飲ませて。 私の分はヨーグルトがいいな。」
「じゃあ、トイレの後に買ってくるね。」
「私、ヒカルちゃんにオッパイあげてから行くね。」
マリ、光司が車の扉を閉めると、バリアをはった。
外からは、車の中が見えなくなった。
ヒカルにタップリとオッパイをあげると、マリはヒカルを抱いて売店の方に歩いて行った。
マリは光司と合流すると、光司の飲んでいたコーヒーをほんの一口飲んだ。
「う~ん、美味しい。 でも、私、ヒカルちゃんのママだから。」
そう言って、ヨーグルトドリンクを飲み始めた。
ちょっと売店を見ながら散歩を終え、再び出発。
「マリ。 次は何処にする?」
「諏訪湖サービスエリアまで、行っちゃおう。」
そういう事で、安全運転で車を走らせた。
快適に諏訪湖SAに到着。
光司とマリ、車から降りて伸びをする。
「さあ、ヒカルちゃんもノビノビ~。」
そう言って、マリがヒカルを「高い高い」した。
親子3人、食堂へ向かった。
「さくら丼」を二つ。
馬肉の丼である。
時間差で出してもらう。
まず、光司が食べる。
仕事柄、早食いである。
いつもはマリが「ゆっくり食べて」と怒るが、今日みたいな時は有り難い。
5分くらい後にマリの分が出来上がる。
ヒカルを光司に預け、マリはヒカルに微笑みながらゆっくり食べる。
マリ、光司の視線が気に掛かる。
「どうしたの?」
「い、いや、僕の奥さんって美人なんだな~って。」
「うふふ、褒めても何も出ないぞ!」
3人で諏訪湖を見ながら、休憩。
マリ。
「これからは、私が運転するね。」
光司がヒカルをチャイルドシートに乗せ、シートベルトをすると、出発進行。
マリ、初心者マークを付けているが、滑らかに車を走らせる。
諏訪湖SAから直ぐに長野道へ。
マリの滑らかな運転に、後ろの光司とヒカルは寝てしまった。
鼻歌をうたいながら、マリは快適に運転する。
妹?のみすずにプレゼントされたサングラスをする。
暫くすると、誰も座っていない助手席に、ヒカルの生みの親のマリが現れた。
ヒカルの生みの親のマリ。
「マリさん、 今日は有り難う。」
「何言ってんのよ。 あなたと私は一心同体なのよ。」
「で、でも、両親にも会えたし、もう思い残すことは・・・」
「駄目よ。 ヒカルが大人になって、私達の孫が出来ても、まだまだ私と一緒にいてもらうからね。」
「新宿でバカな男共を処分して、私が何であるか分かったでしょう?」
「はい。 あなた、マリさんは天使なんですね。」
「うふふふ。 その逆よ。 私や妹のみすずは、あ・く・ま。」
「いいえ。 違うわ。 少なくとも、光司やヒカル、私にとっては天使よ。」
「まあ、昔の悪魔とはちょっと変わってきてるのかな? みんな、妹のみすずが変えてきたの。」
「そうですね。 みすずさん、何事にも一生懸命ですもんね。」
「そうかな? あれで結構ドジなのよ。」
「うふふふふ、 妹のみすずさん、大好きです。」
「うん。 私も。」
そんな話をしている間に、長野道から上信越道へ。
上信越道に入って、直ぐに長野IC。
その頃には、ヒカルの生みの親のマリは消えていた。
「光司さん、ヒカル。 もうすぐお家よ。」
二人が目を覚ますと、長野の家の駐車場だった。
みすずが玄関から出てお迎え。
ユタカも続いて出て来た。
「ご苦労さん。 あれ? 運転、マリさんだったんだ。」
みすず。
「マリ姉、 運転、凄い上手なんだよ。」
光司、ヒカルを抱っこしながら・・・
「諏訪湖のサービスエリア出てから、ぐっすり寝ちゃったよ。」
みすず。
「夕食、うちでみんなで食べようよ。 すき焼きのお肉、買ってあるんだ。」
マリ。
「有り難う。 荷物片付けたら、お邪魔するね。 お土産もあるわよ。」
ここで、ワンコのタロウとニャンコのクロ、登場。
ヒカル、ワンコのタロウに手を伸す。
マリ。
「二人とも、おいで。」
二人、いや二匹がヒカルと一緒にマリの家へ。
居間に寝かされたヒカルとタロウがじゃれ合う。
クロはヒカルに尻尾を掴まれているが、ひたすら我慢。
マリはお土産を持っておばあさんの家に。
ヒカルも連れて行ったので、おばあさんの孫娘二人に遊んでもらった。
午後5時過ぎにみすずの家に全員集合。
すき焼きパーティーの始まりである。
みんな、たらふく肉を食べて、大満足。
「来週は、あたし達が東京行くからね~!」
の、ナオミの雄叫びでパーティーは終了した。




