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俺の悪魔  作者: モンチャン
1/15

1 出来損ない

「魔女」や「魔法使い」に関する話は沢山あるので、他にないのかと考えたら「悪魔」がいた。


徹底的に悪いヤツや、性格の腐ったヤツは、悪魔が乗り移ったようにみえる。

本当に乗り移っているのかもしれない。


しかし、世の中に100%は無い。

人間に乗り移れなかった悪魔がいても、不思議ではない。


そんな悪魔は、真面目で性格が良いのだと思う。

不真面目で性格が悪いのなら、人間に乗り移っているだろうから・・・

不真面目で性格が悪い人間が沢山居るのが証拠である。



そんな「ドジな悪魔」を主人公にしてみた。



もてない男とドジで真面目な悪魔の物語

時代設定は「いま」

場所は「長野」

男は「普通」

女は「悪魔」


出来損ない



「悪魔ナンバー 0123456789」 、出来損ないである。


悪魔なので名前など無い。

番号管理である。



悪魔は勝手に湧いてくる。



一応地球上である。

ただ、次元が違うので人間の住む世界ではない。



どうして悪魔が生まれたかなど、悪魔自身が気にしたことがないので皆目見当がつかない。



一応、湧いて? 生まれてくると、ナンバーのついた腕輪が付けられる。

着ているものは、ダボダボの黒いシャツに、黒いズボンである。

パンツなどという格好良いものではなく、上に着ているシャツと同じく、ダホダホの格好悪いやつである。




悪魔を管理している者?が二人?いる。


「大魔王」と「教育担当」である。


大魔王は「悪魔ナンバー 01」である。

人間で言う「男」型の悪魔である。


教育担当は「悪魔ナンバー 013」である。

人間で言う「女」型の悪魔である。



戦争や紛争で、消滅していく悪魔が多く、本人?達の意思とは関係なく、何故かそうなったのである。


とにかく、湧いてきた悪魔達に、通り一遍の教育をして、その悪魔に相応しそうな人間に送りつけるのである。




「悪魔が住みやすい世界をつくる」、目的はそれだけである。





今日も悪魔の授業がある。

午前に2時限、午後に1時限である。


昔はもっと多かった。

午前4時限、午後2時限。



生徒は皆、悪魔である。

勿論教師も。



授業態度は最悪である。

授業と関係ないことをする者、机にいたずら書きする者、教科書を破いて飛行機にして飛ばす者、・・・


これらの事は悪魔にとっては悪いことではない。

むしろ、悪魔らしくて良いことなのである。


他人の言う事を聞かない・・・悪魔的である。

人の嫌がる事をする・・・悪魔的である。



当然、授業をサボる奴がいる。

素晴らしく悪魔的で、推奨される行為である。



どうせ、授業をやっても、禄に聞いている悪魔はいない。


そういう訳で、授業の時間が減っていったのである。





授業態度だけでなく、普段の行動もチェックされている。


ゴミをそこらに捨てていく。

ツバを吐く。

物を壊す。

他の悪魔に突っかかる。

目上の悪魔に悪態をつく。

他の悪魔を殴る蹴る。


これらは、悪魔として「高評価」となる。




「男」型の悪魔は人間の男に、「女」型の悪魔は人間の女に送られる。


悪魔は基本的に人間には見えないのである。


送られた悪魔も、その人間には見えない。

見えても夢の中だけである。


人間に見える様にも出来るが、悪魔の見た目は「如何にも悪魔」なのである。

目がぎらつき、歯並びが悪く、格好良い男や女の悪魔は殆どいないのである。


直ぐ悪魔だとバレてしまうから、大抵、送られた相手に直ぐ憑依する。

その人間の心の中に棲み着くのである。




心の中に入ってから、直ぐに悪いことをさせる。

○○フラペチーノを飲み終わると、そのまま捨てていく。

ちょっとイカレた悪魔に憑依された者は、わざわざ、人の家の塀に乗っけたりする。



近頃の悪魔のお気に入りは、憑依した者に、裏サイトのバイトをさせる事である。

これは「男」型の悪魔がよくやっている。


既婚者の男に憑依した悪魔のお気に入りは、婚活サイトで「未婚」と登録して未婚の女を騙すことである。

ただ、憑依した悪魔の質が悪い為、奥さんにバレて離婚され、奥さんと未婚女性の両方から慰謝料をシコタマ請求され、不幸になっている。

まあ、憑依した悪魔にとって、憑依した男が不幸になるのは狙い通りで、喜ばしい事ではある。



「女」型の悪魔は、総じてせっかちである。

直ぐに憑依した女に金を稼がせようとする。


東京の「女」型悪魔の流行は、新宿や秋葉原で「立ちんぼう」をさせる。

憑依した相手が女子大生なら「パパ活」である。

悪魔自身が、美味いものを食いたいからである。


いったん憑依してしまうと、そのままである。

憑依した相手が美味いものを食べると、悪魔も食べたことになるのである。



憑依した者が、警察に捕まろうが、病気をうつされようが、恨みを買って殺されようが、知ったことでは無い。


悪魔にとって、相方?となった人間が苦しんで死んでしまうのは、最上の結末なのである。






今日は教育担当「悪魔ナンバー 013」が授業をやっている。

悪魔の何たるかを教えている。


出席者は一人である。

出欠を取る。

「悪魔ナンバー 0123456789」


「は~い!」


悪魔らしからぬ元気な返事が返ってきた。


「駄目じゃ無い、そんなに素直じゃ・・・ 」

「うるせ~な! クソババア! とか言いなさい!」


「は~い、先生!」



毎回、こうである。

教育担当もいい加減、諦めモードである。



授業が始まる。

「悪魔ナンバー 0123456789」は、一生懸命ノートに要点を書いていく。

私語などしたことも無い。


「真面目」・・・それは悪魔にとって、あってはならない行為である。


しかも、「悪魔ナンバー 0123456789」は授業に全て出席している。

「皆勤賞」である。




教育担当「悪魔ナンバー 013」は悩んでいる。

「悪魔ナンバー 0123456789」の様な出来損ないの悪魔は初めてなのである。


こんな悪魔を普通の人間に送り込んだら、かなりの悪い人間でも「良い人」になってしまう。

悪魔としては、絶対許せない事なのである。




元々悪い人間に送り込めば、何とかなるのではないか?

そう考えてみても、思いっ切り悪い奴は男が多い。


女は底意地が悪く、表面上は良さそうでも、実際は「ワル」が多い。

表には出ないで、悪いことを男にさせる所為かもしれない。


目立って悪い人間を探したが、やはり男ばかりだった。



「悪魔ナンバー 0123456789」は「女」型悪魔なのである。




何度も、教育担当は大魔王と打ち合わせを行った。

こんな事は初めてである。

いつも適当に人間界に悪魔を送り込んでいれば何とかなった。


大物になりそうな政治家や軍人に、大したレベルでもない悪魔を送り込んでも、何とかなったのである。

戦争を起したり、クーデターを起してくれた。



大物になりそうな殆どの政治家や軍人には、悪魔を送り込み済みなのである。


女の場合でも、悪そうな女には悪魔は送り込み済みなのである。

悪そうな政治家や会社経営者の奥さんや、囲っている女にも、悪魔は送り込み済みなのである。



どんな人間の男に悪魔を送るかを決めたとき、その男の女にも悪魔を送っていたのである。



大体、あまり考えて悪魔を送っている訳では無い。

適当である。

結果、女型悪魔「悪魔ナンバー 0123456789」の送り先を探すのは面倒臭いのである。




大魔王と打ち合わせの結果、「人間の男」に送り込んでも良いという「例外」を採用する事が決まった。



何年間も、この打ち合わせは行われていたのである。


普通の悪魔であれば、湧いて出て来た時点で、人間で言えば15、6歳の年齢にあたる。

3~4年教育して、人間界に送り込む。


しかし、「悪魔ナンバー 0123456789」は、湧いて出てから6年が経過している。


その間、何もしていないのでは無い。

ずうっと、授業を受けているのである。

勉強しているのである。

もう、教えることは無いのである。



出席しない生徒が多く、教育担当もヒマなので、「悪魔ナンバー 0123456789」の専用の教官の様になっている。



教育担当も悪魔である。

面倒臭いのは嫌いである。

教科書を与えて、勝手に自習させる事も多かった。



適当に教科書を選んで渡していたら、悪魔には見せてはいけない教科書を渡した事も多かった。

人間がむかし使っていた「道徳」の教科書だった。


「悪魔ナンバー 0123456789」は、悪魔にはあってはいけない性格・・・「真面目」だったのである。

シッカリ、道徳の内容を理解して、実践していた。

だから、礼儀正しいのである。



家庭科の教科書もあった。


他の悪魔は、人間界のジャンクフードをちょろまかして、腹を満たしていた。

悪魔は、普通は人間には見えないので楽勝である。

悪魔には健康などの意識は皆無なのである。


人間界に送り込まれるまでは、勝手な行動が出来たのである。



人間界に送られ、人間に憑依してしまうと、悪魔単体の活動は終わってしまう。

その人間と一体化してしまうからである。

だから、悪魔に読み書きそろばん?は不要なのである。



「悪魔ナンバー 0123456789」もスーパーから食材をちょろまかしていたが、自分で料理をしていた。

料理は得意である。


たまに教育担当や大魔王に、お弁当を作った事もあった。

美味しかったが、教育担当も大魔王も「悪魔ナンバー 0123456789」には言えなかった。

褒めたりは出来ないのである。

褒めたりしたら、悪魔で無くなって、ただの「魔法使い」になってしまうからである。


悪魔は魔法は使えるが、人間界に送られると、人間の心の中に入ってしまうので、魔法が使えなくなるのである。

それに、魔法を使える様にする為には、チャンと授業を受けて、魔法を覚える必要がある。

そんな面倒臭い事を、普通の悪魔はする筈が無いのである。

結果、殆どの悪魔は魔法を使えないのである。




大魔王と教育担当は「悪魔ナンバー 0123456789」の為の打ち合わせに、嫌気が差していた。

もう、いい加減にして欲しかった。


「人間の男の悪い奴に送り込んでしまえ!」

面倒臭いので、そう言う結論となったのである。




大魔王も教育担当も悪魔なのである。

人間界に送り込む悪魔の将来など、どうでも良かったのである。

自分達が直接関係しない人間界に送り込んでしまえば、厄介払いが出来るのである。





悪魔が湧いて出ると適当な教育をして、直ぐに人間界に送り込んでいたので、本当に悪い奴を探す方法は確立していなかった。


探しても探しても、悪そうな奴には、みな悪魔が取り憑いていた。


ダブルブッキングは禁止事項である。

悪魔どうしが喧嘩して共倒れになり、悪魔がいなくなった人間は「良い人」になってしまうからである。






適当に探すものだから、なかなか見つからない。

それでも、悪魔を送り込んでいない悪い男は多い。


普通の悪魔であれば、少し悪いだけでも良いのであるが、送る悪魔が「悪魔ナンバー 0123456789」である。

「出来損ない」である。

下手をすると、憑依した途端に悪いヤツが「良い人」になってしまうかも知れない。




教育担当がダレながら人間界を映せる「水鏡」をかき回していると、適当な悪い奴を見つけた。

国は日本、場所は長野。

まあ、場所などどうでも良いのであるが・・・



覚醒剤、売春、恐喝、殺人未遂・・・ 色んな悪いことをやっている「ヤクザ」である。

特筆すべきは、警察に捕まった事が無いのである。

若手を本人の代わりに警察に出頭させたこともあったが、ギリギリのところで逃げ切っている。



「悪運が強い」・・・悪魔にとって素晴らしいことである。



「よ~し、こいつに決めた!」

教育担当は喜んで大魔王に報告に行った。



大魔王も「悪運が強い」が気に入った。


「よし! 祝杯をあげよう。 やっと厄介払いが出来る。」



大魔王は暇なとき、専用の水鏡で遊んでいた。

俗に言う「ネットサーフィン」である。


日本のホテルのディナーが気になっていた。

普段は人間の食い物など気にもしなかったが、ちょうど腹が減っていたので物凄く美味そうに見えたのである。



大魔王が一人でホテルのディナーに行っても良かったが、見る画像の全てにカップルが映っていた。




近頃湧いてくる悪魔の容姿は、正直「醜い」ヤツが多い。

たまに間違って美男・美女が湧いてくるが、それ程多くはない。

どんな容姿であろうとも、悪魔である。

サッサと人間界に送り込んでしまう。



しかし、昔の悪魔は美男・美女ばかりであった。

特に最初に湧いてきた悪魔達は本当に美男・美女ばかりだったのである。


大魔王は「悪魔ナンバー 01」の男型悪魔である。

教育担当は「悪魔ナンバー 013」の女型悪魔である。


二人とも美男・美女だったのである。

ただ、湧いてきてから些か年数が経っている。

初老である。

人間で言えば40~50歳くらいである。


これは普段の見た目である。


あまり若い格好だと馬鹿にされると思ったので、そんな見た目をしているのである。



ただ、当然だが、二人に恋愛感情などは存在しない。

人間で言う、上司と部下の関係である。



悪魔なので我が儘である。

特に大魔王である。


教育担当に、日本の東京のホテルのディナー予約を命令した。

「祝杯をあげるなら、良いところに行こう。 世界の中でも日本のホテルディナーは最高らしいぞ。」


「お一人分で宜しいんですね?」

教育担当は一緒に行くつもりなど、考えもしなかった。


「お前も行くんだよ。」


「え~! 面倒臭い! 大魔王様一人で行ってくださいよ。 本当に行くのなら、自分一人で行きたい!」

教育担当は本音を言った。

大魔王と一緒など、面倒臭いに決まっているからである。


大魔王は教育担当に水鏡を見せた。

「見ろ! ホテルのディナーは二人だ。 カップルでないと予約出来ないんだぞ。」


一人でもホテルのディナーは申し込めるが、調べることなどする筈もない

大魔王は、面倒くさがり屋である。

悪魔なのだから・・・


「仕方がねえな~! 分かりましたよ。 行きゃあ良いんでしょ、行きゃあ! 」

教育担当は、あからさまに嫌な顔をして悪態をついた。

そんな顔や言い方をしても大魔王に怒られたりはしない。

教育担当も悪魔なのだから・・・


チャンと調べて、一人でもホテルのディナーを堪能出来ることが分かれば、大魔王と一緒に行かなくても良かったのに・・・




暫くして、ホテルディナーの日程が決まった。

「あ~、面倒臭せ~! 大魔王様。 ホテルディナーの日程が決まりました。」


教育担当が大魔王に報告したのは、「悪魔全体会議」のときである。


地球全体を地域割りにして担当者が決まっている。

「ヨーロッパ」、「ロシア」、「アジア」、「北アメリカ」、「南アメリカ」、「オーストラリア+アジアの島国」、「インドの近辺」「アフリカ」・・・。


各、メインが一人ずつにサブが一人ずつ付く。


ただ、決めた当初から抜けている場所があった。

「日本」である。

最初から「アジア」に入れておけば問題無かったが、アジアは紛争が多く、悪魔の担当者は忙しかった。

紛争で人が死に、当然憑依した悪魔も消滅してしまったのである。


日本は地域も狭く、悪魔にとってはどうでも良かったので、教育・指導を担当している「悪魔ナンバー 013」の教育担当が兼務することとなったのである。


本来、教育担当は会議中は自室で昼寝をしていれば良かったのだが、退屈な会議に出る羽目になったのである。

会議に出ても、よだれを垂らして寝ている事が殆どだった。


そんな態度でも、責められたりする事は無かった。

そうです、、悪魔だから。



会議が終わる頃に目を覚ました教育担当は、大魔王に言った。

「ホテルディナーを頼んだら、宿泊券が当たったので、貰っておきました。 あ~! かったるい!」




悪魔の各地域担当は「悪魔ナンバー 百番台」である。

「悪魔ナンバー 一桁台」と「悪魔ナンバー 二桁台」は、みな血気盛んで、太平洋戦争の時に消滅していった。


ヒトラーやヒムラーやゲッベルス、スターリン、東条英機、アイヒマン、チャーチル、ムッソリーニ・・・

ここぞとばかりに悪魔が取り憑いたのである。

「悪魔ナンバー 一桁台」と「悪魔ナンバー 二桁台」は、若手の悪魔を押しのけて、有名?悪名高い人間に取り憑いたのである。

結果、取り憑いた人間が死んだとき、一緒に消滅してしまったのである。



百番台未満で残っているのは、大魔王の「悪魔ナンバー 01」と教育担当の「悪魔ナンバー 013」だけとなってしまったのである。



大魔王の力に、鬱陶しい悪魔を消せるというものがある。


ただ、この力には制限が有り、百番台未満の悪魔には通用しないのである。

それに、鬱陶しいだけで悪魔の数を減らしていくと、悪魔の補充が必要になり、もっと鬱陶しい仕事をしなければいけなくなるのである。



太平洋戦争の時には、沢山の悪魔が消滅した。

その為、教育担当はやる気の無い若手の悪魔に無理矢理勉強させ、どんどん人間界に悪魔を送り込んだ。

本当は教育担当自身も、ナチスの女にでも憑依したかったのであるが、忙しかったのである。


そんな訳で、大魔王がどんなに鬱陶しく感じても消せない悪魔は、教育担当の「悪魔ナンバー 013」だけになったのである。

だから、会議の時に悪態をつかれても、我慢していたのである。




大魔王が教育担当を自室に呼んだ。

「いつホテルディナーに行くんだ?」


「言ってませんでしたっけ? 6月6日の午後6時です。」


「お~! 6並びか。 直接ホテルのレストランで良いのか?」


「良いんじゃないんですか?」

教育担当は乗り気では無い。


「お前は何を着ていくんだ?」


「この格好のままですけど・・・」

要は、黒いダボダボのシャツとズボンである。


「ば、馬鹿者! 見てみろ! みんな着飾ってるぞ。」


大魔王は大きい水鏡に、ホテルのディナー会場を映しだしていた。


「大魔王様は~、何を着ていくんですか~?」

教育担当は、カッタルそうに聞いた。


「お、俺も、ここに映っている男が着ている様なスーツに決まってるだろうが・・・」


「え~? あたし、着るものって、今着ているものしか無いんですけど~。」

ふて腐れて教育担当が、口を尖らせた。


「わ、分かった。お前の分も用意してやるから。」

「お前が部屋に戻ったら、ハンガーに掛かっておくようにしておく。」


「あたしの部屋、クローゼットとかの家具も無いんですけど~。」


「分かった。直ぐ用意する。」


「ドレッサーも無いし~、あれもこれも・・・」


「分かった、分かった。 お前が部屋に戻るまでに、何でも用意しておいてやるから。ここに書き出しておけ。」

色々言われるのが面倒臭くなったので、教育担当の要望は何でも聞いてやることにした。


大魔王にとっては、魔法で一発なのである。




大魔王と食事に行く・・・考えただけで胸くそが悪かった。

だから、ディナーに関係ない欲しいものを沢山書いた。

書き終わると、教育担当はサッサと自室に帰って来た。


扉を開けて驚いた。

書いておいたものが全て揃っていた。


元々、殺風景な部屋だった。

ベッドがあるだけで、窓にシーツかと思うような色褪せたカーテンがぶら下げっていただけの部屋だった。


ほぼ、家具のショールームに変わっていた。

カーテンはレースのカーテンと、防炎タイプの厚地の遮光タイプが下がっていた。


書いても無駄かなと思った、壁紙も貼ってあった。

元々は白く塗っただけで、色褪せて黄色と言うより茶色に近くなっていたが、素敵な壁紙で部屋が明るくなっていた。

ちょっと、白を基調とした花柄で、教育担当のお気に入りである。


床も大理石のような寒々とした石と言うよりコンクリートの打ちっぱなしだったが、フカフカの絨毯になっていた。


ベッドも色の褪せた元は白かったであろうシーツが、ホテルの様な薄いベージュに薄い茶色のベッドスローも付いていた。

勿論、ベッド本体も新しくなっていた。



クローゼットを開けると、スーツやドレスがぶら下がっていた。



「まあ、あいつにしては良くやった方だな。」



教育担当がベッドに転がってみた。


「げ! 柔らけ~。」


元々、床と変わらない感じのベッドだった。


どっちに寝返りを打っても馴染めないので、フカフカの絨毯に替わった床で寝てしまった。






6月6日になった。


ホテルのロビーで待ち合わせる約束である。


大魔王も教育担当も、いつも服装はダボダボの黒いシャツにズボンである。



大魔王は周りを見渡したが、教育担当らしい女性は見つからなかった。


仕方が無いので、本革張りのソファーに腰掛けた。



教育担当も周りを見渡したが、大魔王らしい男性は見つからなかった。


仕方が無いので、本革張りのソファーに腰掛けた。



「何処を彷徨いてやがるんだ?」と大魔王が呟くと、隣に座っていた女性も何やら文句を言っていた。


「本当にボンクラなんだから。 場所くらい分からないのかしら?」


大魔王と隣に座っていた女性がお互いを見た。


「お、お前、教育担当か?」


「あ、あんたこそ、大魔王?」


二人?ともドレスアップして、紳士と淑女に変わっていたのである。



大魔王は立ち上がると、肘を曲げた。


教育担当が聞いた。

「何やってんだよ?」


「う、腕を組まないと、ディナーの会場に入れてくれないんだぞ。」


「本当かよ? 面倒いな。」

そう言いながら、教育担当は大魔王と腕を組んだ。



エレベーターで最上階のレストランに到着した。


教育担当が受付の担当者に声を掛けた。

「予約していた山田です。」


「いらっしゃいませ。 山田様。」



そのまま席に案内された。


6月6日の午後6時である。

夜景にはまだ明るい。

この店で一番景色の良い席に案内された。


大魔王が聞いた。

「山田って誰だ?」


「あんたとあたしだよ。」

「日本の名前で標準的なのにしてみたんだよ。」


よく通販などで、名前のサンプルに使われている名前を、教育担当が利用したのである。


カトラリーが沢山並んでいる。


「ど、どうやって使えば良いんだよ?」


「面倒臭いヤツだね。 私のやるとおりやっていりゃ大丈夫だから、安心しな!」


教育担当である。

テーブルマナーもお得意である。


普通の悪魔には教えてはいないが、出来損ないで出遅れの「悪魔ナンバー 0123456789」に教える為に勉強したのである。


要は、「悪魔ナンバー 0123456789」には悪魔に関する事は全て教えきっていたので、「オマケ」で科目を追加したのである。



教育担当はシャンパンを頼んだ。

乾杯用である。


オードブルから始まって色々出てくる。

肉には赤ワイン、魚には白ワインを注文した。


コーヒーとレストランオリジナルのデザートで終了である。


じっくり2時間近く掛けて、コース料理を堪能した。


二人の話題はもっぱら「悪魔ナンバー 0123456789」に関する事である。

ハッキリ言って、二人の共通の話題はそれしか無かったのである。



大魔王が言った。

「そろそろ、帰っても良いじゃないか?」


「はいはい! 帰りましょうね。」

教育担当は、いつも通り、面倒臭そうである。



レストランの受付で支払いをする。

大魔王では無く、教育担当である。


この前、大魔王に用意して貰う為に紙に書いていたバッグから黒いカードを取り出した。


レストランの担当者は、まずバッグに目がいった。

百万円では買えないバッグである。

教育担当が水鏡で女性雑誌を見ている時に、今、一番高額な女性用バッグと書かれているものの名前を、この前書いたのである。


取り出したカードも、最上級のステータスのブラックカードである。



流石の高級ホテルの担当者も声が震えた。

「ご、ご来店、誠に有り難う御座いました。」

「ぜ、是非、またお越しください。」

「しゅ、宿泊券も用意して御座いますので、ごゆっくり当ホテルをお楽しみください。」


「朝食も、このレストランをご利用いただければ、幸いです。」



「はい、ありがとう。 美味しかったわ。」



大魔王と教育担当は腕を組んでエレベーターに乗り、ホテルのフロントに行った。


抽選で当たった宿泊券を例のバッグから出した。


宿泊券で泊るような客だと思っていたフロントの担当者は、バッグをチラリと見た。

とんでもない高級品である。


教育担当はホテルに泊った事など無かった。

宿泊券の意味を理解していなかった。

割引券だと思っていたのである。


フロントの担当者にブラックカードを見せた。

「このカードで良いの?」


教育担当は、先に支払うものだと思っていた。

ビジネスホテルと同じ様に。


フロントの担当者は勝手に考えた。

こんなお金持ちだから、部屋が気に入らないのかな?

「と、当ホテルの最上級のロイヤルスィートなら、直ぐにご準備が可能で御座います。」


「じゃあ、それにして。」


大魔王も教育担当も荷物など持ってはいない。

しかし、ホテルの担当者が部屋まで案内してくれた。



広~い部屋である。

二部屋である。


夜景を楽しめるように、部屋の灯りを暗く設定してあった。


教育担当は言った。

「けち臭い部屋ね。 こんなに暗いなんて。」


普段、照明のスイッチなど触らない大魔王が、物珍しさから触ってみた。


「おう! 明るくもなるんだ?」


「明る過ぎなんだよ。 本当に加減を知らないんだから。」

教育担当が大魔王に文句を言った。


ブツブツ小さい声で文句を言いながら、大魔王が調光装置いじった。

「こんなもんでどうかな?」


「適当で良いわよ。」


「じゃあ、文句なんて言うなよ。」

大魔王が小さい声で言ってみた。


「何だって?」


「い、いや、夜景が綺麗だなって・・・」

教育担当の勢いに負けた大魔王であった。




悪魔は風呂などには入らない。

例のダホダホの黒い上下は魔法の服で、汚れを吸収してしまうのである。

その汚れは自動的?に、ゴミ集積場に集められるのである。


今回はその魔法の服ではない。


大魔王が夜景を楽しんでいる間に、教育担当はバスルームを利用した。


大魔王が気付いたときには、教育担当はベッドの中だった。


「付き合いが悪いな? 一緒に夜景を見たって・・・」



大魔王が全部言う前に教育担当が怒鳴った。

「うるせえな~! サッサと風呂入って寝ろよ!」



大魔王はブツブツ言いながらバスルームを使ってみた。

ジャグジーも付いていた。

「今度、自分の部屋にもバスルーム、作っちゃおうかな?」



余計な事を考えながらだったので、些かのぼせてしまった。


夜景を見ながらボーとしていたら、少し眠ってしまった。


フラフラしながらベッドに転がった。


大の字になってみた。

広げた手に何かが当たった。



「イッテエな~! 何やってんだよ?」

大魔王は教育担当のベッドに転がり込んだのであった。



教育担当が大魔王の方に顔を向けた。


ちょっとではなく、大魔王の顔の位置が近かった。


思わず、大魔王と教育担当の唇が重なってしまった。




「キス」は悪魔の禁止行為である。

優しくなってしまうから。

悪魔は常に意地悪で、嫌みったらしくなければいけないのである。

悪魔だから・・・




慌てて大魔王が立ち上がった。



ブツブツ文句を言いながら、教育担当も立ち上がる。


「人を殴って、キスまでしやがって・・・」

教育担当はそう言おうと思った。

しかし、口から出た言葉は違っていた。

「もう、私を好きなら好きって言ってくれれば良いのに・・・」


大魔王は慌てた。

自分が教育担当を可愛いと思ってしまっていたから。

「で、でも、何故、何も着ていないんだ?」


「うるせえな! いっつもこうやって寝てんだよ。」

教育担当はそう言おうと思った。

しかし、口から出た言葉は違っていた。

「あなたの為よ。」


更に教育担当は言った。

「大魔王だって、素っ裸じゃねえか。」

教育担当はそう言おうと思った。

しかし、口から出た言葉は違っていた。

「私の為にあなたも裸なのね?」




悪魔は歳を取らない。

大魔王も教育担当も、格好付けの為、普段は初老、40~50歳くらいの容姿をしている。

魔法を使って、若作りの逆をしているのである。

寝るときには元に戻る、20歳代の容姿に戻るのである。



他の悪魔達も出来る筈なのだが、チャンと授業を受けていない。

そんな訳で、殆どの悪魔は魔法を使えないのである。



悪魔の食生活はデタラメである。

人間界のジャンクフードが大好きである。


毎日人間界に行っては、ジャンクフードをかっぱらって食べている。


悪魔は基本的に人間には見えない。


特にジャンクフードは出来上がったものを店に置いてある。

かっぱらうのは簡単なのである。



毎日毎日ジャンクフードを食べても、悪魔は太らない。

体質である。



大魔王も教育担当も太ってはいない。

ハッキリ言って、スタイルが良い。

モデル並みである。


特に悪魔ナンバーの初め方はその傾向が強い。

その後の悪魔にも、たまにしか良さそうなのはいないのに。




大魔王は、禁止行為のキスの所為で、教育担当に言ってしまった。

「今夜は寝かさないよ。」


「気持ち悪いな!」

教育担当はそう言おうと思った。

しかし、口から出た言葉は違っていた。

「嬉しいわ。」



大魔王は教育担当を抱き締めると、二人でベッドに倒れ込んだ。


「や、止めろよ!」

教育担当はそう言おうと思った。

しかし、口から出た言葉は違っていた。

「あなたの好きにして!」




悪魔にとっての禁止行為はまだある。

「悪魔同士でセックスをしてはいけない」


何故禁止事項なのか?

相手を愛してしまうからである。


悪魔にとって「愛」などは不要なのである。

危険なのである。




しかし、キスをしてしまった大魔王は止まらなかった。

教育担当をヤッテしまった。



悪魔同士でセックスをしてはいけない。

大魔王も教育担当も「初めて」である。


大魔王の○○は大きかった。

教育担当は痛かった。

しかし、女型の悪魔は負けず嫌いである。


負けるものか!

教育担当は、自分から大魔王を攻めにいった。



外が明るくなるまで二人で頑張ってしまった。


気が付くと二人で抱き合って眠っていた。



「ま、マズい。」

先に目が覚めたのは教育担当である。


バスルームに行ってシャワーを浴びていた。


いきなり扉が開いて、大魔王が入ってきた。


教育担当は、後ろから抱き締められた。


「もう! 大魔王ったら・・・」

教育担当は、大魔王を愛してしまっていた。

大魔王に対して、優しい言葉しか出てこなかった。


バスルームで、朝っぱらから始まった。




ベッドに二人で座って、大魔王が指を鳴らした。

ぶら下がっていた、昨日二人が着た服が、カジュアルなものに変わっていた。



「じゃあ、朝食を食べてから帰ろうか?」


「そうしましょう。 あ・な・た。」



服を着ると、スマートな初老の夫婦が立っていた。


もてない男とドジで真面目な悪魔の物語。

実際に存在しているのかどうか、分からないのは「魔女」と同じ。


故に、悪魔をどの様な設定にしても、文句を言われる筋合いでは無い。


悪魔だからと設定をオドロオドロしくすると、作者本人も嫌気が差すので、美人でスタイルを良くしてみた。

悪魔が持つ条件は、作者の自由である。


悪魔のイメージや感じが多少入れ替わるかもしれないが、それは悪魔の所為で、作者の所為では無い。


本当は「13日の金曜日」に投稿しようと思ったのですが、10月まで待てないので、取り敢えず「13日」に投稿してしまいました。

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