遺跡調査
4C邪王門のことをヨンジャモって呼ぶのは僕だけなのかな?
あと度々疾走するのは許して頂きたいのでございます。学校忙しくて⋯。
シャワーに関する報告をし終えた頃、丁度テントを建て終え、荷降ろしを終えていた。
「⋯⋯なるほどね、それなら有難く使わせてもらおうかな」
ルカが作ったシャワーは中々好評で、これには錬金術担当らしい三年次の教員も苦笑い。
今回に限った事では無いが、こうした旅には知識のある錬金術師を連れて行く事が多く、飲食の判定や快適に過ごす為の所謂便利屋な立ち位置にいるのだ。
「それじゃあ、拠点も作れたし、本格的な遺跡調査を始めていこう。二チームに別れての調査なんだけど⋯⋯」
パン、と手を叩き、名前を読み上げながらソネットは生徒を分けていく。
その結果。
「なんでアタシがコイツとなの!?」
「⋯⋯⋯⋯不服」
「ひぃ⋯⋯またルカとチームになれなかった⋯⋯」
「じ、上級生がいっぱいだ⋯⋯」
「また同じみたいね、アイスクリーム先輩?」
第一陣はルカ、カナタ、アイスクリームコンビ、ケインに加えてスクワールの六人に、ソネットが付き添う形で行われるという。
「今日はまだまだ時間があるから、ゆっくりやっていこうか」
時刻は十二時半過ぎ。二陣との交代は三時間後であり、まだまだ時間はある。
遺跡の規模は大きく、軍艦島に自然を足したような風体と規模である。
この場所には研究者達が何度も訪れて研究を重ねてはいるものの、未だにこの建物を再現出来てはおらず、完全にオーパーツとされているのだ。
「あまり遠くには行かないでね」
と、ソネットは窘めるように言う。
遺跡は塀のようなもので囲まれており、中に入れば文字通り別世界のような空間だった。
ルカは踏みしめるような仕草をしてから、近くの建物から欠け落ちたと思われるコンクリートの欠片を手に取ってまじまじと見つめる。
「うん、うん、えぇ⋯⋯うーん⋯⋯」
遠目から見ればただ見つめているだけにしか見えないが、近付くとルカの瞳の色や瞳孔の形が切り替わっている事がわかるのだが、それに気が付いた者はいない。
サーモやマイクロ、X線。多種多様な観測方法を試していく。自らの目でそれらを扱えるように錬金術で逐一改造し、その内部構造を把握しようと試みているのだ。
「まだ硬いし⋯⋯スクワール」
大型マンションであっただろう建物を眺めていたスクワールを呼び出す。
「はい、なんで⋯⋯これは?」
「コンクリートに近いもの」
「近いもの⋯⋯ですか?」
「そう、ほぼコンクリートなのだけれど、知らない物質が混じっているの」
一呼吸起きながら、好き勝手遊んでいるアイスクリームコンビと、よく分からなそうに難しい顔をしている一年生男子二人を横目に、スクワールへと話を続ける。
「地球におけるあの時代のコンクリートの寿命は何年?」
「良いもので百年程度と記憶されました」
うん、と頷くルカ。
「手を付けなくても雨風の影響で様々な物質が溶け出してしまうから、百年持つ可能性は高くない。これまで何度も立ち入られていたとしても、ここまで持っている方が異常なの」
「つまり逆に綺麗過ぎる、と?」
「そう、と言いたいけれどそれを補強しているのがこの不明な物質なのかもしれない」
つまるところまだ何も分からないという事である。
「古代ローマで使われていたコンクリートは相当長持ちするのだけれど、これはそういう作りじゃない。私のいた年代に近い技術で作られたものに構造が似ているのよ」
古代ローマは二千年近くが経過しても風化していないコンクリートしていたからこそ、瑠楓のいた時代まで残っていた。
「ただのコンクリートじゃない事はわかる。あとは⋯⋯建造物の傾向的には日本っぽいのよね。私の直感的部分が強いけれど」
「あー、国ごとに微妙に違いますよね、色合いとか質感とか」
などと、スクワールは詰め込まれた記録を探りながら、建物に絡み付くツタを千切る。
「これは⋯⋯どうでしょう?」
「そうね、ここの生態系を考えると⋯⋯」
などと話しながら、色々と見て周っていると。
「⋯⋯⋯⋯」
ピタリとルカが立ち止まり、丁度そこでソネットが手を振っているのが見えた。
「どうされました?」
「何か見付けたかなって思って。君の主観的な意見を聞きたいな」
「⋯⋯⋯⋯」
含みのある言い方をしていたソネットの意図を汲み取ったルカは押し黙る。
ソネット自身、既にルカを子供を見るような目で見ていない。
ある程度対等な視点で見ており、子供扱いはせず、智者として扱おうという気概が伝わってくる。
「⋯⋯かしこまりました」
そしてルカは承諾する。
「私の主観的な意見としては、この遺跡は意図的に作られたものの可能性があります」
「意図的⋯⋯というと?」
驚きながらも、続きを催促するソネット。
「と言っても、私の知らない要因の可能性は否定しきれませんが⋯⋯これらの人工物は本来千年近く雨風に当てられて耐えられるものでは無いのです」
目を丸くするソネットに構わず、更に考察を続ける。
「そしてこれらのツタ類。名前は存じ上げませんが、少なくともこの辺りに生えている植物ではありません。パッと見ではありますが、自然のサイクルで生えるような環境構造でも無さそうですし」
スクワールが先程ちぎったツタ類には、中南米の植物に多く見られる遺伝子が改良されたような形跡があったのだ。
例え地球では無くとも、似たような環境構造であれば類似する遺伝子が発生していても不思議では無い。
「なるほどね⋯⋯そうか⋯⋯ありがとう」
何か思い当たるような表情で難しい顔をしながら、次の生徒の元へと向かって行った。
「⋯⋯スクワール」
「なんでしょう?」
「この下に空洞がある」
何も言わず、表情も変わらなかったが、スクワールからは驚きが伝わってくる。
「即興で地中にソナーを打ってみたのだけれど、ある程度広めな空間があるのよね」
「⋯⋯そちらに行かれるのですか?」
「いや、少し待ちたい。何も無いのであれば行くは明日かしら」
今地下に行ってもロクな事にならないからという判断である。
その後もルカは遺跡を歩きつつ、元々の形を妄想していく。
「⋯⋯この辺には噴水があったのかも。⋯⋯公園? 建物の傾向から考えれば、元々住宅街だったのかもしれないわね」
崩れたマンションを想像で重ね、補い、過去を見る。
「だとしたら周辺が森だらけなのは余計に解せないわね。もっと全体的に開発が進んでいてもおかしくないし⋯⋯」
いつ崩れるかわからない建物へと直接入る事は禁止されている為、自らの手の肉や骨を使い、小鳥を生成する。
高度な知能を備えた使い捨ての命であり、ルカと似たような思考とある程度記憶出来る程度のものだ。
後々戻ってきた時に脳から記憶を抽出する為だけではあるものの、小回りが効くドローンのように扱える為便利なのだ。
小鳥を離すと建造物群へと飛んで行き、すぐさま落ちていたコンクリートから手を作る。
「⋯⋯物質の操作もだいぶ慣れたものね」
知らない物質は操れないものの、知っている物質のみを制御下に置き、他は意図的に排除する。
「私は魔力を使わないと思っていたけれど、その認識を改めるべきかしら」
自らの手を握っては放し、握っては放す。
「⋯⋯⋯⋯珍しい」
それは自分に向けた言葉。
ルカは今迷っている。
最終目的は変わっていないが、その道筋は穴が空いたまま。
「このままじゃ私は外来種と何も変わらない」
ルカは同じような状況に陥っている創作物を知っている。文化研究で何度も読んでいるのだ。
「転生者や転移者なんて、外から持ち込まれた外来種と何も変わらない。そこは少し気に食わない点」
ルカの望みは世界を変革することでも無ければ、名声や栄誉を手にしたいという訳でもない。
かと言って既に生に執着する程でも無い段階まで来ている為、自らが死のうとも構わない。
「私流の実験と観測。その先駆けが見つかると良かったのだけれど⋯⋯ここはハズレかしら」
「お眼鏡にかなわなかったと?」
先程から口出ししていなかったスクワールが、その瞳の奥にあった光の消失に反応する。
「まだわからないけれど⋯⋯」
チラリと遠くにいるカナタへと目を向けた。
「希望を捨てるのはまだ早そうよ」
スローライフに死人はつきものなので、まあいっぱい死にますが、本人がスローライフと言っているのでこれはスローライフです。




