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ミリシュテラ遺跡への道

遺跡調査へGO! 図書館でのやり取りから結構経過しています。

 


 そして二週間が経過した。



 踏み固められた土の道を馬と車輪が歩を進める。

 木々のざわめきと少しの風。澄んだ空気が正面から流れ込む。


 大自然の中を悠々と走る馬車に乗るのは六人の少年少女と大人が一人。


「それじゃあ、今回のおさらいをしていこうか」

 と言って、一学年Aクラスが乗る馬車の中で、ソネットが手を叩く。


「今回向かうのはミリシュテラ遺跡。学園から一日と少しの距離にある。魔獣()少ない比較的安全な遺跡だね」


 Aクラスは現在ミリシュテラ遺跡へと向かう道中の山道に差し掛かった所にいる。


 ギリギリレシーア領ではあるものの、国境沿いにある為よく所有権で言い争いになっているのだ。


「じゃあ質問。お隣にある国の名前は? ケインくん」

「は、はい! テラリアス王国です!」

「正解。我らが理事長が名を挙げた戦争相手でもあるテラリアスは、アルスマキアに負けた後、新王政によって勢力を増した国だ」


 ルカは図書館通いのおかげで知っているためボーッと聴き流しながら、タブレットを触っている。

「今回の行き先は理事長の指示なんだよね。今回は先輩達と一緒にテントを建てたり食料を調達したり、色々やるから気合い入れていこう」


 そして今回は三学年のBクラスが同伴している。

「味気ない事を言うと、遺跡調査って言っても結構調べられた遺跡だから危険は少ないと思うんだ。魔獣も少ないしね。でも国境沿いだから危ないよってだけ」


 テラリアス王国。

 五十年前の戦争のせいもあり、アルスマキアとの仲は悪い。


 そしてもう一つ。

「魔人の国であるということ」


 魔人。人型で人間と似た外見をしているが魔力の保有量が高く極稀に体の一部が異形のものに変化する個体もいるという種族である。

「五十年前の戦争。そして"開拓紀"の末期から"大戦紀"の中心にいたのがテラリアス王国だ」


 開拓紀は百年間続いた創世紀の次の時代。始まりの賢人達が歴史から姿を消した後の時代をそう呼び、人々やそれに近い種族が国を広げて行った時代。


 そこから二百年近い時が経過した後、大きな大戦が起きる。それが大戦紀。約四百年続く戦乱の時代だ。

 その発端となったのがテラリアス王国の魔人達であり、アルスマキアの勇者によって大戦が終結したという歴史が残っている。


 そこから三百年弱の時が経った今は"第二開拓紀"と命名されている。


 創成紀の始まりから千年近く経過してはいるが、逆に千年を超えていないという事実にルカは驚いた。始まりの賢人達がルカと同等の知識量を保有している可能性を考慮すれば、むしろ開拓が進んでいないような気さえしていたのだが、まだそれだけしか経過していないという。


「その大戦は勇者によって幕を下ろした⋯⋯っていうのは、カナタくんなら詳しいかな」

「⋯⋯はい」

 カナタはどこか自信なさげにルカの方を見ながら返答する。


「そしてもう一度。今度は向こうの領土侵犯問題が大きくなった戦争に発展した、なんて歴史がある訳だけど⋯⋯これは今後の授業でやっていこう」


 うーん、と唸りながらソネットは懐中時計を手にし、現在の時間を確認する。

「あと一、二時間くらいしたら学園が保有してるコテージに着く。今日はそこで一泊だ。着いたら先輩達と一緒に魔獣狩りをしてもらうよ」


 魔獣狩り、という言葉に緊張が走る。

 ルカは特に気にしていなかったが、その空気感の変わり様を察する事は出来る。


(所詮獣を狩るだけなのだから、危なくは無いと思うのだけれど)

 そのままもうしばらく待機を命じられた為、馬を引いているスクワールの方へと顔を出す。


「狩りなんてやった事ないわぁ」

「肉体的な経験は無くともルカ様には経験した記憶がありますよね?」

「何? 貴女が雇った傭兵の話? それとも猟師の記憶の話?」


 スクワールは嫌な顔をしながら振り向かずにボソリと一言。

「後者ですよ。それにルカ様はあの日の事を狩りだなんて思っていらっしゃらないでしょうし。あとそれなら遠回しな言い方はしません」


「正解。昔は色々な人の記憶を一部インストールしてたりしたから、経験が無いというのは嘘になるのかもしれないけれど、かと言ってあると堂々と言える程でもない」


 プラプラと足を揺らしながら風に当たっていると、エレナが顔を出してくる。

「何の話してんの?」

「経験についての話よ」


「あ、小難しい話か? ならアタシパス。お前の話は硬いんだよなぁ⋯⋯」

「⋯⋯そう?」

 不思議そうにスクワールへと話を振るが、彼女も呆れたように首を縦に振った。


「ええ。ルカ様のお話は利己的で一方的。その上初めて聞く方に配慮の無い言い方をされますから」

「酷いわ⋯⋯」


 あまり落ち込んでいないルカだが、地球でも同じような事を言われていた為、そういう性なのだろうと気にしていない。

「どうですかルカ様。この辺りの生態系に御興味はおありですか?」


 キョロキョロと周りを伺い、時折空を流れてくる葉をつかんでは眺めていたりと観察しているが、スクワールから見ても感情の起伏は見えなかった。

「あると言えばあるけれど⋯⋯然程重要度は高くないかも」


「理由をお聞きしても?」

「人間はスクラップアンドビルドを繰り返す生き物だから」

「なるほど」


 そこで会話が終わり、ルカが空を見ると。

「は? もっと詳しく聞かせろよ」

「貴女⋯⋯私の話に興味無いんじゃなかったの?」

「そこで切られたら気になるだろ。というか、メイドもメイドだ! 今のでわかるのかよ!」


「まあ、だいたいは」

「嘘だろおい⋯⋯」

 スクワールにある程度知識が譲渡されているとは知らないエレナは抗議の叫びを上げた。


「はあ⋯⋯まあ時間はたくさんあるしちょっと勉強しましょうか」

「生物学に見せかけた人類学の話になりそうです」

「人も生物なのだから生物学でしょ」

「科学者に怒られそうな事を仰いますね」


 はあ、と再び溜息を吐きながらスクワールの煽りを無視する。

「それじゃあエレナ。動物⋯⋯或いは魔獣と人間の間にある一番の違いは?」


「は⋯⋯? ⋯⋯あー、喋ったりする事か? こうやってお前と口を使って話すっていうのは魔獣には出来ないだろ」

「そんな事ないわよ? その辺に生えてる菌類ですら同族と意思疎通を図るのだからそれが人の特権じゃない」


 その辺の菌類というのはキノコの事である。

「魔獣はよく分からないけれど⋯⋯動物は群れで狩りをする種がいるのだから、ある程度コミュニケーションは取れる。他に思いつくことは無いの?」


「うーん、なんだ⋯⋯道具を使えることだったり、何かを作ること⋯⋯か?」

「ニアピンね。でも道具という意味を広く捉えれば、石で貝を割る種もいるし、川にダムを作れる動物もいる」


「ダム?」

「あー、水溜みたいなものよ。いや、違う。この世界は周辺の環境に左右されないから⋯⋯うーん、川の流れや勢いを変えるような設備を作れる動物もいるの」


 周辺の環境に左右されない、というのはこの世界における水道の事である。

 この世界の水道はルカのタブレットと同じように魔術的なスクリプトによって大気中の魔力を水に変換している為、都市開発に必要な川や湖を必要としていないのだ。


「そんなのもいるのか。ならそれも人の特権って訳じゃない⋯⋯⋯⋯」

「考えてる考えてる。いいわね、思考する事が次への一歩よ」


 うんうんと唸るエレナは、悔しそうな顔で頭を掻き毟った。

「わっかんねー! 答え!」

「まあ知らない事は考えても出てこないでしょうし、二つ出せた事は褒めてあげる」


 空を舞う塵を集めながら星型のキューブを作っていたルカは、ニコニコと笑いながら答える。

「正解は生態系を壊す事。そして自らが住みやすいように作り直す事」


 そしてその星型のキューブが弾け飛んだ。

「大きく見れば生態系の中の縄張り争いというだけなのかもしれない。その辺の動物が人という動物に負けただけの事だと言い切るのは簡単だけど⋯⋯」


 キューブの欠片が虚空で止まり、再びルカの手に集まっていく。

「生態系ピラミッドの頂点になれるように環境を作り替えられる生き物は人間だけ。いえ、人に近い種族だけなのよ」


 集まった欠片は今度はピラミッド型に整えられる。

「人が作り出した新しい環境に適応するように他の動物は生き方を変え、それが出来なかった種は絶滅する」

「それがスクラップアンドビルドか⋯⋯」


 エレナが感心している横で、ルカがピラミッド型の塵を無産させていた。

「だから生態系には興味無いのよ。所詮ピラミッドの頂点に位置する人に打ち勝てない種だもの。私達が目を向けるべきは、その頂点にいる者達に目を向けるべき」


「⋯⋯他国や他種族。或いは⋯⋯同族ですか」

 ここで静かに馬車を引いていたスクワールが口を開いた。

「よく分かっているじゃない。奴隷からの成り上がりはその辺聡いのかしら?」


「一言多いですが⋯⋯そうですね。違う立場や知識を身に付けた今ならわかります。差別や格差、争いが無くならない理由が」


 スクワールの表情はどこか暗いものになっていた。

「結局、私達は国という群れの中にいて、国同士の縄張り争いを繰り返す。個人が持つ領域が噛み合えば大きな個に成り、噛み合わなければ除け者にされる。自らがより良くなろうとするだけで他者との差が生まれる」


 奴隷からメイドとして貴族に仕え、今ではルカの実験体。


 自らが様々な景色を見て、余計な知識を蓄えたスクワールは自らの経験の果てにそう考えた。


「まあ、それが一概に全部が悪いかと言われれば、苦言を呈したくなるけれども。偏りがあるとはいえその意見は私念込み込みじゃない?」

「偏っていますよ。やはりルカ様は意地悪ですね。人の心は無いのですか?」


「あらあら。人の心が無かったら脳科学も心理学も務まらないわよ」

 クスクスと揶揄うように笑うルカ。


 人の心を理解した上で、人類の為に人を踏み躙っている事をスクワールはあの夜に理解している。

「また難しい話してんな?」

「いずれ貴女もわかる日が来るわよ。ちゃんと勉強しなさい? 先人の知恵と歴史に感謝しながら勉学に励む事が⋯⋯」


「⋯⋯ぬあー! やっだねぇ!」

 駄々を捏ねた子供のように叫んだエレナはぐでーんと寝転がった。


「まあ、勉強だけが全てじゃないけれど。貴女は貴女で見付けることが大切なの」

「お前はアタシの母ちゃんかよ」

 その言葉にふふっ、と小さく笑ったルカは再び空を覗いた。



あれ? 進みが遅い⋯⋯雑談させてたら結構経ってた⋯⋯。

次回は戦闘があります。

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