再会という名の哀愁
新キャラ登場ってコト!?
本当は月曜日投稿の予定だったのですがこの時期学業の方で立て込んでおりました。ご容赦ください。
放課後。ルカとスクワールは図書館へと向かっていた。
授業前にスクワールが本を借りれ無かったように、ルカ名義で借りる場合はルカ自身で行かなければならない。
「読みたい文献が増えちゃった」
「ルカ様は戦うよりもこっちの方が性に合っていますよね」
「私は科学者よ? ああいうのは私以外にやって欲しいのよね」
その為のスクワールだ、と言いたげだがルカにとってのスクワールの価値はそれほど高くない。
そしてスクワールもそれを自覚している。
だがそれをお互い理解した上での関係なのだ。
「魔力の防御の類はまだちょっと分からないけれど、あの調子ならすくすく伸びてくれそうね」
「エレナ様の事ですか?」
「ええ。見込んだ通り、彼女とは長い付き合いになりそう」
そんな風に話していると図書館前に到着する。
ルカの教室がある中央棟から歩いて一分程。そこまで遠くは無く、他にも研究棟や同好会棟、時計塔といった場所がある。
特に何かがある訳でも無いため、すっと扉を開ける。
「⋯⋯いいじゃない」
そこは本の楽園だった。
数百にもなる本棚の螺旋。分類ごとに分かれて並ぶ書籍の数々を前にルカの瞳は子供のような初々しさを取り戻す。
「いくつあるのかしら。卒業までに全部読み切るつもりではあるけれど⋯⋯」
と、ルカがワクワクしながら歩き出すと。
「おい、そこの新入り」
すぐさま話しかけられる。
「貴女は⋯⋯」
ルカはそこにいた少女に目を向けた。
「先に図書館利用書を作ってからだ」
長い金髪をツーサイドアップに纏め上げた女の子だった。燃えるような赤い目を持ち、身長は低いものの、凛とした立ち姿は自信に満ちている。
体躯には見合わない大きめの白いローブを着ているが、その下には少女のような可愛らしい衣服が見え、胸元には教員用のピンバッジが付けられていた。
ルカはその姿を見て呆然としてしまう。
理由は単純。
「先生⋯⋯」
その見た目だ。
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「全く。また怒られてしまったじゃないか」
「いいじゃないですか。これが通れば人類の生存圏は太陽系全体に広がります。太陽から放出されるエネルギーを直接取り込む事で、あらゆるエネルギー問題が解決します」
これはルカ・レシーアではなく呉島瑠楓の記憶。
大学附属の研究所の主任である宝鐘凛風に直接レポートを叩き付け、この実験を実行しようとしていたのだが。
「バカを言うな。総予算百三十六兆円前後の実験なんて出来る訳が無いだろう」
少し困った顔で瑠楓を宥める凛風は、ツーサイドアップに纏められた金髪の髪を揺らしながら、コーヒーを片手に改めて資料を覗く。
「ですが! 理論上百三十六兆以上のリターンがあります!」
瑠楓が言っているのは太陽の核融合反応を利用し、炉を使わずにエネルギーを供給しようというもの。というより、太陽そのものが炉と言っても過言では無い。
それによって齎される副産物は既存概念を覆すレベル。
通常の核融合発電を上回り、太陽の寿命が尽きるまで永遠にエネルギーを供給する事が出来る。
その総量は地球に降り注ぐエネルギーだけで約四十六兆キロカロリー。原子力発電所で言えば約六千万基相当に匹敵し、一時間稼働させれば地球で消費されるあらゆる消費エネルギーを一年分賄える程のエネルギーが供給出来る。
本来であれば取り逃すエネルギーをも回収し、太陽の恩恵を十全に受けようという実験なのだが、それ相応の予算と準備がかかる為、ボツとなってしまった。
「リターンがあってもそこまでのハードルが高過ぎるんだよ。そこまで失敗を恐れていないのは全人類見てもお前だけだと思うぞ」
「そんな事ないです。絶対できますよ」
「⋯⋯⋯⋯革命的ではあるんだ。一度はやろうと思っても出来なかったことが、コレを見てるだけで出来そうな気がしてくる」
「なら⋯⋯!」
「だが、現に今却下された」
その言葉に瑠楓は目を落とす。
「⋯⋯ひとつ聞いてもいいか?」
「なんですか」
ぶー、と不満気な瑠楓は凛風の言葉に耳を傾ける。
「この計画の最終目的は人類の生存圏を太陽系外にまで広げることだ。瑠楓はそこまでして何をしたい?」
至極当然の質問。というより、完全に凛風の興味本位だったのかもしれない。
彼女もまた一端の科学者。その興味に惹かれるのも無理は無い。
そんな凛風に、瑠楓は近くの椅子に座りボソリと呟いた。
「⋯⋯人類は⋯⋯もうこれ以上進化出来ない」
その言葉には明らかな虚無感があった。
「そうだな」
そして凛風もその言葉に頷いた。
「進化は環境に適応する為に何世代も費やす事で行われるものだ。生物の環境適応能力は、本来生き物が持つべきもの。もちろん、社会的な意味ではなくて生物的な意味だが」
凛風もわかっているのだろう。
「でも人間はそうじゃない。周りの環境に順応する為の変化では無く、人間に適応する環境を自らの手で作り出すようになりました」
はあ、と溜息を吐きながら自販機で缶コーヒーを購入する。
「結果、人間は進化を必要としなくなってしまった。少なくともこの地球上ではもうそれらが起こり得ません」
カシュ、という音と共にブラックコーヒーを口に含む。
苦味が口の中に広がり、沈んだ気持ちを無理矢理浮き上がらせようとする。
「だから外に出ようとしているのか」
「未知の環境の開拓。その過程において何らかの変化があればいいと思っています。私にはまだ人間の可能性を信じたい。その為なら何だってやりたい。この計画はまだそこにすら到達出来ていないんです」
瑠楓が求めているのは進化である。
未知という名の可能性。
脳科学という道を選んだ理由もそれだ。
一番進化に近いと判断したが故に。
「⋯⋯気持ちはわからないことも無い。私も知りたいと思っているよ」
凛風は小さく微笑んだ。その優しい笑みには何の裏も無い、心の底からのもの。
「だが私には難しい。正直ここまで大きなプロジェクトとなると世界全体を巻き込んでのものになる」
「⋯⋯」
そしてポンポンと座っている瑠楓の頭に手を乗せた。
「所詮私が出来るのは共感だけだ。瑠楓の奥底にある想いはわからない。でも、お前の目標が果たせるように、私は全力を尽くすよ。それが私の⋯⋯」
その手のひらから伝わる暖かさは瑠楓にとって⋯⋯。
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「ルカ様?」
「⋯⋯ああごめんなさい。少し考え事をしていたの」
ふと意識がルカに戻る。
「それじゃあ利用書を頂けますか、先生」
「ああ」
と言って受付まで案内される。
「先に自己紹介をしておこう。リーファ・ヴァリュアベル。図書館司書だから、基本的にわからない事があったらなんでも聞いてくれ」
「よろしくお願いします。私はルカ・レシーア。今朝彼女が来ていたからわかると思いますが⋯⋯」
「レシーア⋯⋯ああ、それなら⋯⋯」
リーファはゴソゴソと受付の机に備え付けられた引き出しを漁り一枚のカードを取りだした。
「そこのメイドが来ていたから準備していたとも。本の貸し借りはこのカードで行うから、ちゃんと持ってくるんだぞ。紛失したり傷付けたりしたら相応の弁償があるから、丁寧に扱ってくれ」
と、小さな手を動かしながら図書館の注意事項を話してくれる。
「わかりました。早速ですが勇者に関する文献はありますか?」
「勇者⋯⋯歴史書か童話⋯⋯お前なら歴史書だな、二階の北側突き当たりにあるぞ」
何となくでルカの性質を見抜くリーファ。
「ありがとうございます、先生」
ルカはぺこりとお辞儀をして階段へと向かっていく。
「私は図書館司書だから先生ではないが⋯⋯まあ、悪くないな」
満更でもないような表情を浮かべたリーファは、自らの仕事に戻っていった。
「⋯⋯あの人、ちょっとそっくりでびっくりしちゃった。雰囲気もそっくりだし」
「やっぱり宝鐘様には思い入れがありますか」
「それはもうね。私が手放しで尊敬していた数少ない人だもの」
瑠楓は地球において並ぶ者がいない程の天才だった。太陽の核融合反応を利用したエネルギー供給というような少し規模が違うようなものから、量子を利用した携帯端末を普及させたりという身近な生活に関わるようなものまで大抵の事柄で瑠楓が関わっていたと言っていい。
「パッと思い出せるので二人。先生とアズくらいかしら。先生は天才というよりも超人って感じだったけど」
「超人⋯⋯ですか?」
「そ。完全記憶能力に加えてスーパーコンピュータ並の計算速度。暗号やパスワードなんかもスラスラ解けちゃうから、天才じゃなくて超人」
その言葉に含まれる意味をスクワールが理解出来なかった。
「超人でありながら天才では無かった人がいるとするのなら、先生がそれに当てはまると思うわ」
と言いながら目的の場所に到着し、一冊本を取る。
「スクワールにはお使いに行ってもらおうかしら」
ルカは徐にタブレットを取りだしてメモをスクワールの頭の中に転送。
「⋯⋯脳の電気的信号を使わないと出来ないって案外面倒ね」
送ったのは今日の夕飯の為の食材である。
何を食べても栄養素を錬成すれば必要なものは摂れるが、必要のない時は美味しいものが食べたいのだ。
「かしこまりました。購入し次第寮に戻っていますね」
スクワールはお辞儀をしてからその場を後にする。
そして勇者関連の書物を漁りながら、手頃な歴史書を手に取ったルカはその場でパラパラと捲り始めた。
「⋯⋯勇者が生まれたのは⋯⋯四百年と少し前⋯⋯細かな記載が残っていないとはいえ、まだそれだけ⋯⋯」
そのまま読み進めていくルカは、四、五百ページはある本を十分程度で読み終えてしまった。
「先生程じゃないにせよ、速読には自信があるのよね」
そのまま次の本へと手を掛け、そのまた次へと続けていく。
こうして勇者に関する伝承と歴史を頭に入れながら整理していると⋯⋯。
「やあ」
「⋯⋯先生」
リーファが声を掛けてくる。
「お仕事はもう大丈夫なのですか?」
「そろそろ交代の時間だからな。帰宅時間という訳だが、職権乱用でここを偶に使わせて貰っているのさ」
といいながら、先程ルカが手に掛けた本を手に取りつつ、ペラペラと眺めていく。
「勇者に関する歴史か。その雰囲気と性格に反して随分とメルヘンじゃないか」
「少女はみんなメルヘンなんですよ」
「違いない。まあその考え方はメルヘンじゃないがな」
そんなこんなで雑談しながら互いに話を続けた。
「やっぱりその気配は異質そのものだな」
「⋯⋯どういう意味ですか?」
ルカはリーファに問い掛ける。このような言葉は以前、凛風も話していたからだ。
「纏っている雰囲気? って言えばいいのかな。殺気とか正気とか。そういうのがお前からはまるで感じられない。無という言葉が一番近いだろう」
「⋯⋯⋯⋯」
「世界にぽっかりと穴が空いている、が一番近いかな。そこに存在しているのに、存在していない」
「ハイデガーに怒られそうな表現ですね」
次の本をコトンと置き、次の本を取る。
「ハイデガー⋯⋯というのは聞いた事無いが、君が言うのならさぞ頭が良い人なのだろう」
「ええ。科学者ではありませんが、哲学者として最も有名な方でした」
「哲学者か」
「彼の表現を取るのであれば、私は無を纏っている。でもそこには『無という名の存在は有る』のだから本質的な『無』では無いのでしょう」
「なるほど。私は無と形容したが、無が有る時点で無では無いと」
そしてリーファは読み終えた本を置き別の本を取る。
「だから無いと思い込んでいても、きっとそこには有る」
ルカはぼんやりと考えを巡らせる。
「ただ閉じているだけ。可能性は万人にあっても、無いのだと勘違いしてしまう。それを開く事が出来るのは⋯⋯」
読み終えた本をぱたりと閉じた。
「前に進み続けた者だけなのでしょうね」
リーファ先生は多分この作品でもトップレベルの善人枠な気がします。レシーア本家の兄と同等かそれ以上です。
哲学はお好きですか? リーファ先生との会話ではあまり難しくない砕けた感じで少しだけ触れることが出来ます。
次回からはホントに遺跡調査に向かいます。この世界における遺跡ってなんなんでしょうね。




