アルスマキアの歴史
歴史について書いたり考えたりするのすごく楽しいです。文系なので。
ホームルームが終わり、授業が始まる。
とはいえ最初は基礎的なものが多く、ルカが興味をそそられるものは多くない。
語学、算術と続き歴史関係になってようやく目に光が灯る。
「歴史の授業でやっていくのはこの国の成り立ちだ。どのように生まれ、どのような成長をしていったかを詳しくやっていこう」
ソネットがチョークで黒板にカツカツという音を立てて文字を書いていく。
「ここアルスマキア帝国は"創世紀"から続く由緒正しき国家だ。じゃあ創世紀について知っている事はあるかな⋯⋯カナタくん」
「はい、創世紀は"始まりの賢人"と呼ばれる人達が各地で国を起こしたとされています」
「いいね、その通りだ。始まりの賢人達は世界各地に国を創った存在だ。様々な種族の賢人がその膨大な知識を活かして人々を増やして行った所から始まる」
ルカはピクリと眉を動かしたが、授業に口を挟む事は無く静観している。
「始まりの賢人達に種族的な統一は無い。僕ら人族の人間種、魔人種、霊人種に加え、亜人族とされる鬼人種、竜人種、獣人種のような者たちが居たそうだ」
周りの生徒は羽根ペンで板書を写しているが、ルカは特に何もしていない。
が、ルカの視覚をタブレット端末が読み取り、脳波によって操作している為、タブレット端末にはしっかりと記入されている。
「研究者の中では彼ら創世紀以前の人類"旧世紀"の者達と考えられているが、実際には不明だ。何しろ歴史が無いのだから」
「はい」
ここでアルバート・ルイスが手を挙げる。
「どうぞ」
「レノア教では彼らを神の使いだと呼んでいます。そこに過ちがあると仰るのですか?」
(レノア教⋯⋯は確かアルスマキアの宗教勢力における最大手)
レノア教とはアルスマキア帝国が脈々と受け次ぐ血筋である、アルスマキア一族こそが神に選ばれた存在であると主張している宗教だ。
現存する最古の記録である"始まりの賢人"内の一人の血を継承し続けているアルスマキア一族を、神の血を引く者としているが真相は不明。
実際にアルスマキア帝国におけるレノア教の地位は高く、教皇ともなれば政治的発言力も高い存在とされている。
「アルバートくんはレノア教の信徒だったっけ。確かに教えに反する事なのは重々承知だ。でも、今は歴史の授業、始まりの賢人が神の使いか否かは別の議論になる。どちらが正しいかは、より知識を深めた上で考えて欲しいな」
その言葉を聞いたアルバートは渋々頷いたが、ルカは再び思考する。
(宗教的な役割は大きくないのかしら? 政治的発言力を持っていたとしても、横暴な手段に出る事は無いかもしれない?)
ここでルカが考えたのはアルスマキア帝国のレノア教の規模についてだ。
地球の歴史では宗教と国家は密接に結び付いており、国の支配構造すら宗教が侵食していると言っても過言では無かった。
勿論そこには損得両方があるものの、宗教という手段は手っ取り早い支配方法と言ってもいい。
それこそ中世ヨーロッパではその方法が大多数を占めていた。
その役割では無く、あくまでも"民間の運営機関"に近い性質を持つ可能性も否定できないという事になる。
「始まりの賢人⋯⋯」
ボソリと呟いたルカは、その存在が記載された教科書を注視する。
アルスマキア一族には始まりの賢人の血が流れているというのは事実。そこに神秘性を見出した者達が今のレノア教に繋がったのだろう。
「話を戻すけど⋯⋯旧世紀については全くと言っていい程記載が無いんだ。歴史的な遺跡や遺物は幾つか見つかっているけど、わかっている事は少ない。僕らを優に超えた技術力を持っていた、という事くらいかな。後はみんなもよく使っている古代語。翻訳は終わっているけど、これらは始まりの賢人達が齎してくれたもの」
ソネットの話を聞きながら、メモを取りつつ更に深めていく。
(始まりの賢人は私と同じように地球から来た者達⋯⋯? その可能性もあるとは思うけれど⋯⋯如何せん人数が多すぎる。複数の国を発展させる為には少なくとも十数人以上は必要になるから⋯⋯)
と言うように、ルカとしては始まりの賢人そのものがルカと同郷という訳では無く、同郷の者が知識を広めたのが旧世代である可能性が高いと推察する。
(だとしてもそれならこのレベルの科学技術なはずが無いのだから⋯⋯そこは違和感を持つべきかしら?)
「彼らが齎したものの中で一番大きな存在は魔術だ。火、氷、風、雷、地の基本属性に、魔力を扱える者であればある程度使える無属性。そしてこれらを応用した錬金術による魔道具の数々。現在の暮らしを支えているのは彼らからの知恵があってこそさ」
ルカはソネットの言葉を聴きながらタブレット端末を操作し旧世代についての記載を読み込む。
しかしながら詳しい事は書いておらず、あやふやな事ばかりであり、読み取ることが出来なかった。
「さて。ここからは彼らが齎した技術について学んでいこう」
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「⋯⋯⋯⋯図書館に行きたいわ」
「お待ちください。授業中です」
歴史の授業が終わり、本日最後の授業である"魔術講義"が始まった。
一年Aクラスの全員は競技場に移動し、各々の武器を所持している。
とはいえ魔術技能に関して言うのであれば、個人差があるのは言うまでも無く、適性属性も違えば得意とする戦い方も違う。
特にAクラスともなれば己の適性を理解し、それらを利用した戦い方を編み出している。
「そんな訳だから、教えられるのは僕自身の適性属性だけ。と言っても、風属性しかないから君たちの役に立てるかは分からないけど」
あはは、と苦笑いを浮かべながらソネットは続ける。
「基本的に魔術は自己鍛錬だ。適性によって使える魔術が違ってくるから、ここで行うのは実習。特定の魔術に対する行動を学んだり、実戦を通して己の力量を見つめたり。だから多少の怪我は覚悟していて欲しいな」
怪我という言葉にビクついたケインを除き、貴族出身の者たちの目は据わっていた。
「それじゃあ今回はみんなの実力を見てみたいから、一対一の決闘方式でやっていこう。昨日決闘した二人は今回おやすみかな。実力は測ったからね」
そして何かに気が付いたソネットは考えるような仕草をする。
「⋯⋯でもそうなると一人余っちゃうんだよなぁ。ケインくん、アルバートくん、エレナさんで三人⋯⋯」
どうしようかと悩んでいるとルカが手を挙げた。
「ならスクワールが誰かの相手になるわ」
「ルカ様!?」
「多少動かしておきたかったし、丁度いいかなって思ったのだけれど⋯⋯」
スクワールが驚くような顔をするが、ルカは気にせずソネットに尋ねる。
「どうかしら? 歳の差はあるけれどそこさえ気にならなければ誰かに当てて欲しい」
「⋯⋯うん、わかった。ルカさんの武器扱いだったとしても所属する人の能力は見ておくべきだよね」
武器扱いという言葉を聞いて怪訝そうな顔をするカナタ。
「じゃあ⋯⋯対戦カードは男女で分かれる方がいいかな。最初は男子ペアからいこう。残りは競技場の端っこで観戦しておこう。後で聞くかもしれないから意見を纏めておいてね」
こうして、ケインとアルバートを除いたAクラスは競技場の端に移動。
ルカがサッとベンチを作成し、完全に観戦モードになる。
「今回スクワールに戦って欲しいとは言ったけれど、別に勝てとは言ってないわ」
「⋯⋯エレナ様の能力を測る為の戦闘という認識で合ってますか?」
スクワールが確認を取ると、ルカはタブレット端末を眺めながらこくりと頷く。
「勝ち負けは気にしてないけど、彼女の実力を引き出せるくらいの戦闘が好ましい」
横で聞いているエレナは不服そうだが黙って聞いている。
「私はまだ可能性を測りきれていないのよ」
「それでしたら何故クラスメイトなのですか? 上級生やそれこそ他にも選択肢が⋯⋯」
「強いて言うなら子供だからかしら」
記憶の定着率や成長曲線。それらの変化が大きい時期である幼少期。
ルカの精神年齢は二十代前半のもので、肉体は五歳児のものだが、錬金術によって弄り回している為正確なデータを測れない。
それ故にエレナやカナタといった純正の肉体が必要になってくる。成長を促し、最大限の可能性を測る為の実験場こそがAクラスであり、ルカがクラスメイトに求めるものだ。
「ま、いい実験場と被検体があるのだから、上手く使えればいいなぁくらいには思ってるわよ。でも⋯⋯」
そうこうしている内にアルバートとケインが戦闘を始める。
「"土石塊"」
「"氷幕"」
アルバートが走りながら手を掲げ、魔術名が短く速効性の高い地属性魔術を使用。
対するケインが手早く薄い氷の幕を生成して防ごうとする。
「"氷幕"は悪手じゃない?」
「炎や雷のようなエネルギー系なら兎も角、物理的なオブジェクトを飛ばすタイプの魔術に対してなら盾か壁を生成するのが正しいかと」
「まあ発生の早い"氷幕"で速度重視の攻撃を防ごうとするのは間違いじゃないと思うけれど⋯⋯満点はあげられないわね。エレナはどう思う?」
「あ? 叩き落とすに決まってるだろ」
脳筋ねぇ、と呟きつつ二人の戦闘に目を向ける。
アルバートは地と氷属性魔術の二種類を使用しつつ、ケインを追い詰めていった。
対するケインは氷属性魔術で防御に回っており、完全に後手後手の展開だ。
ケインが使用している"氷幕"は初級の氷属性魔術であり、薄い氷の幕を生成する魔術である。
同系統の氷属性防御魔術の中には厚い氷の壁を地面に固定生成する"氷壁"や手に持つ事の出来る"氷盾"などがある。この二つは比較的硬く、ある程度の質量攻撃であれば壊れない耐久性が特徴だ。
しかしながら"氷幕"は薄い幕を生成するという性質上発動までの速さが上記の二つよりも優れている。発生の早い攻撃魔術に対して発生の早い防御魔術を使用するというのは理にかなっているようにも見える。
が、それは攻撃魔術が炎、雷属性のようなエネルギー系であった場合の話。
地属性魔術のような質量攻撃に対しての場合、薄い物理的障壁を生成しても何発か撃ち込まれればすぐに破られてしまう。
そのため今回の最適解は多少の被弾を覚悟してでも分厚くて硬い固定障壁の"氷壁"を使うのが正解になってくる。
あくまでも中級氷属性魔術まででの対処法ではあるが、一度篭城し反撃の策を整える事が先決である。
「うーん、経験の差が出てるわね」
「地属性と氷属性はどちらも物理がメインですし、扱いやすいというのもあるかもしれません」
「魔術なのに物理って言うのは少し笑っちゃうわね」
「氷で剣を造って振り回しても氷属性魔術に含まれまれると聞いた時は思わず笑ってしまいましたが」
こうして防戦一方なケインを眺めている最中、エレナがトントンとルカの肩を叩いた。
「何?」
「さっきの続き聞かせろよ。上手く使えればいい、でもの後」
「ああ、すっかり忘れてた。そうね⋯⋯」
Aクラスを実験場としてみているルカだが、そこについては正しい運用法であると思っている。
但しその運用の内容についてに関してはルカが決めあぐねている点があるのだ。
「私が手動で行っていいのかって話」
「うん、あ?」
「私も迷ってるって事」
このことはまだエレナに話さなくてもいいのではと考えた為、そこで口を閉じる。
(⋯⋯私が齎すデメリット部分のせいだから一概には言えないけど)
ルカがそのことについて考えていると、アルバートとケインの戦闘が終わる。
結果は勿論アルバートの勝利。
傷だらけのケインに寄り添いながら観戦組の方へと向かってくる姿はどこか微笑ましい。
「反省は次の二人が終わってからにしよう。それじゃあスクワールさんとエレナさんはこっちに」
ソネットに促された為、エレナは気合いを入れるように両拳を叩き付けた。
「っしゃ! やってやらぁ!」
と言ってエレナは中央に向かっていく。
「スクワール」
「なんでしょう?」
少し不服そうな顔をしているスクワールに対し、ルカは普段と同じ声色で命令する。
「上手くやって頂戴」
「⋯⋯⋯⋯曖昧ですね。ですが、かしこまりました」
ガチャリ、と腰のホルスターに刺さっている拳銃に手を当てた。
「ルカ様が求める程度の実力を彼女から引き出して見せましょう」
その言葉を聞いたルカは満足気に笑うと、再びタブレット端末に視線を落とした。
ルカが言おうとしたことはこの章の後半に言ってくれると思います。彼女の思考がわかる人は、予想してみるのも面白いかもしれません。




