勇者の力 勇者の光
魔術学園入学編最終回です。
「マジか」
「あれがルカ様の錬金術。いえ、錬金術の基礎である"錬成"です」
観客席で昼食をとりながらルカとカナタの決闘を眺めているエレナとスクワール。
「実際にやっている事は通常の錬成と変わりません。物体の形を変えただけですが、人体に使えばああなるというだけの事です」
「ならなんで他の錬金術師はやらないんだ?」
「恐らくですが、その構造の本質を理解していないから出来ないのでしょう。例え鉄の塊を錬成する時でも大雑把な塊という認識なのと、更に細く認識しているのとでは扱える領域が違うのも当然」
丁度前衛二人を錬金術で戦闘不能にした時の事である。
「土から腕を作ったぞ」
「錬金術の本懐と言える別物質への変換ですね。これに関してはルカ様もまだ分からないことが多いと仰っていたので、私からの説明は省かせて頂きますが⋯⋯」
錬金術で変換された物質の量は基本的に変化しない。
しかし、ここには一つだけルカからしてみれば納得出来ない要素が紛れ込んでいるのだ。
「っお!?」
「ルカ様っ!」
互いに声を上げたのはルカがカナタの光属性魔術によって真っ二つにされた瞬間だった。
「あれが光属性魔術か、初めて見るな」
「脳がやられない限りルカ様が死ぬ事は有り得ませんし、例え脳がやられたとしても問題無いとは思いますが⋯⋯実際に見ると不安が込み上げますね」
「お? ご主人様がやられそうで怖いか?」
「怖いかどうかで言えば⋯⋯どうでしょう。その手の感情はルカ様に感じ取りにくくなるように弄られていますから」
サラッと怖いことを言うスクワール。
「ルカ様の肉体は戦闘用に造られていませんから、負ける時はポロッと負けそうで」
「アレでかよ!?」
「そもそもルカ様は戦闘に重きを置いていませんし、仕方が無いと言えばそうかもしれませんが⋯⋯」
あくまでもルカ・レシーアの肉体は五歳女児のものである。
類稀なる演算能力と知識による応用力があっても、所詮肉体的な耐久力は高くない。
「まあ、痛みは遮断出来る上に、脳さえ残っていれば死なないというのは人間としてどうかと思いますが」
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「カナタ様! 彼女に触れてはいけません、恐らくあの技は接触によって発現する力です⋯⋯!」
「わかっている!」
カナタとアラルの叫び声を聞きいたルカは己の仮説が間違っていなかったことを確信する。
(前衛二人は囮。私の攻撃手段や能力を測るための壁役って事ね)
手の内がわからない内は徹底して隠し、相手のやり方を囮で探る。当然と言えば当然だが⋯⋯。
「そういう作戦なのね」
ルカはそのやり方に対しては何も思わなかった。
「にしても、光属性って⋯⋯」
と、改めて情報を整理する。
各属性魔術の効果は実際の物理法則に大きく依存している。
炎、雷のようなエネルギーの形を取る属性は不定形で構造の維持が難しい。
だとしても、炎に炙られば火傷を負い、雷に打たれれば身体中に電流が走る。
それ故にマトモに食らえば一撃で勝負を決めかねない威力になり、特に雷属性魔術は雷の速度を持つ為、回避不可能絶対必中の一撃となるのだ。
対して風属性魔術は魔力による空気の押し出しや固形化によるもの。それ故に不可視でありながらもエネルギーという形より氷や地属性に近いものになる。
それでも不可視という特性が厄介極まりないものである事に変わりはなく、強力な事に変わりは無い。
そして氷、地属性魔術は所謂物理で殴るタイプであり、エネルギー系の属性よりも造形がしやすく、周辺物質に干渉し構築する事で魔力消費を抑える事も出来る。
但し魔力という物質をエネルギーに変換している炎、雷属性魔術にはどうしても燃費に劣ってしまう。
しかし固体という状態が炎、雷属性魔術に無い優位点であり、遮蔽物や相手を弾く力は断然氷、地属性魔術に軍配が上がる。
このように魔術属性は物理法則や物理的な優位点が色濃く反映されており、それらを状況に応じて使い分けられる複数の適正属性を持つ者が重宝されている。
そしてこれら全ての魔術に地球人類が一撃入れられるだけで致命傷に至る程の威力があるのだ。
これはルカが知らない事だが、この世界の住人は魔力を持ち、それらを多種多様な用途に使用しており非魔術師を筆頭とした魔力に依存しない者たちも例外では無い。
衝撃を受けた時に魔力を使用し肉体にクッションを作る事によって無意識に防御する事が出来るからこそ、雷属性魔術や地属性魔術の一撃受けてもある程度和らげる事が出来る。
そして肝心の光属性魔術。
一言で言ってしまえば。
「光学レーザー兵器ね」
光という特性を持ち、瞬間的に焼き切る事で相手に致命傷を与える。
端的に言えばこういった現象なのだが、その特性上最も驚異的なのはその速度。
「光⋯⋯つまりは光速。真空状態では無い大気に満ち溢れたこの場所なら少しは遅くなるだろうけれど⋯⋯」
そして次の瞬間には左肩から右股関節の辺りまでを袈裟斬りで切断される。
人肉が焼けるような臭いと胃酸が弾けるような酸っぱい臭いが混ざり合い、今にも吐きたくなるような空気が溢れ出す。
「避けるのは無理。まあわかっていた事」
再び肉体に触手を生やし、真っ二つにされた箇所から接続。斬られた制服を錬金術で縫合する。
「勇者と言いながらその実態は生きるレーザー兵器。誰がバケモノよ、勇者なんて名乗るには少し物騒じゃなくて?」
「黙れ!」
と、カナタが再び剣を振り下ろそうとする。
それに合わせてルカが右手を動かすと。
「"急炎衝"」
パン! という衝撃が右手に走り、錬成がキャンセルされてしまう。
チラリと視線をその魔術を使用したアラルの方を見たルカは、その場から跳ねるように左に移動。
(威力というよりも速度特化の炎属性魔術なのね)
直後、右肩からバッサリと縦に切断されてしまう。
顔は無事とはいえ、右半身を失い片手片足になったルカだが、当然のように考察を続けていた。
「光の速度とはいえ、剣を振り下ろすという動作を必要としている以上被害は抑えられる。⋯⋯使い方がわかっていないのね」
ここで少しだけ落胆してしまうルカだが、それも仕方ないと納得する。
そもそも六歳児がここまでの威力を持つ魔術を使える事が驚きなのだ。
「何だと⋯⋯?」
「カナタ様、相手の口車に乗っては⋯⋯!」
「まだまだ未熟だと言いたいの。光という特性をまるで活かしきれてない」
トントン、と片足で移動しながら、半身から手を生やして倒れた右半身を拾い上げる。
「まあ、この辺りが限界でしょうね」
そして半身を接着させてから前に歩き始めた。
ルカも三度直撃を受ければ理解出来る。
「反射か毒か。簡単な対処法もあるのだけれど⋯⋯それじゃあ意味が無いのよ」
「"炎⋯⋯」
「でも幸い、弄れるリソースはたくさん降り注いでる」
アラルが魔術を使おうとしたその時。
「ごっぽっ⋯⋯」
アラルの喉が焼け爛れて穴が空く。
「アラル!? ⋯⋯クソっ!」
「あのね、勇者を名乗るならそういう汚い言葉遣いはよした方が大衆受けがいいわよ」
カナタは剣に光を纏わせて振り上げようとするが、両手首が一瞬で切断され、剣が地べたに落ちてしまった。
「っぁっあぁぁぁぁ!!!」
「私はそういう勇者は嫌いじゃないけれど」
ルカはスっと人差し指と中指を合わせて下に振り下ろす。
それと同時にカナタの両腕が綺麗に切断される。
「った"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"!!! 腕がぁ"ぁ"ぁ"!」
「切断はこうすればいいのね。でも錬成で痛覚を弄らないと痛いからあんまり優しいやり方じゃないのはご愛嬌」
焼け落ちるカナタの血肉を横目に、ルカはアラルに触れて競技場の土から喉の肉や血を錬成し埋め合わせる。
「だいぶ使い慣れてきたかも。目が顕微鏡の役割を果たしてくれるのも大きいし」
「おま、お前⋯⋯何をしたんだ⋯⋯!!!」
唾液を垂れ流し、制服を血と体液で汚してしまったカナタは、血走った目で質問をする。
「何って、貴方と同じよ。光を飛ばしただけ」
ルカは首に手を当て、カナタの痛みを消し去る。そしてトントン拍子にカナタの腕を拾い上げて不純物を取り除き、接続。
失った体液をカナタの体内で錬成し、その分のリソースをルカの肉で保管して治療を終わらせた。
「光を錬成で弄って飛ばす。形状や指向性を操作するのは錬金術の十八番でしょ?」
「光を錬成して飛ばすって⋯⋯どこにそんなに光が⋯⋯」
「どこにって⋯⋯満ち溢れてるじゃない」
「⋯⋯?」
イマイチ釈然としないカナタに直接指を向けて指し示す。
「アレ。あの恒星から燦々と降り注いでいるでしょ?」
「まさかヘリオスの光を⋯⋯!?」
「ヘリオス⋯⋯そう。それよ」
何故あの恒星の名前がギリシャ神話の太陽神の名前なのか、という疑問はあるが、そこは置いておき、ルカが行ったのは光のパラメータ調整に他ならない。
「あの光と貴方が使う光は同じ光。違うのはそこに含まれている位相や指向性といった細かなパラメータだけ」
ルカがやっている事は光の向きや位置を整え、波長の同じ光を収束させて刃のように飛ばすというもの。
「貴方が色々教えてくれたから出来た事よ。光属性魔術も見る事が出来たし、とても有意義な時間だったわ。ありがとう」
ポンポンと膝を着くカナタの頭を撫でながら、ソネットの方を向く。
「先生、決着が着いたと思うのだけれど、どうかしら?」
ルカが声を掛けた途端、我に返ったようにビクリと肩を震わせたソネットが右手を上げた。
「勝者! ルカ・レシーア!」
観客の声は歓声とは違うどよめきだったが、スクワールだけは無表情で拍手をしていた。
「光の性質か⋯⋯考えた事もなかったな⋯⋯」
「知らないのだから仕方無いでしょ。これから知っていけばいいのよ。あ、約束通り日直はよろしくね」
そう言ってルカはその場から立ち去ろうとするが。
「待ってくれ」
「⋯⋯?」
「俺に⋯⋯教えてくれないか。足りないものを⋯⋯」
ルカに教授を願うカナタの姿は、どこか焦りを見せていた。
「そうねぇ。ま、知識不足だとは思うけれど、それ以上は何も言う事は無いかしら」
「お、おい⋯⋯! 頼むよ⋯⋯」
「でも、そういう姿勢は好感持てるわ。何か目標に向かって進み続けるその姿は、本来あるべき姿だもの」
それだけを言い残し、競技場の通路へと足を踏み入れた。
「その姿勢、ね⋯⋯」
この言葉に想いを馳せる。
「文明が進むに連れて、人はその感情を忘れてしまったのかも⋯⋯いえ、そんな事はない。少なくとも私は持ち合わせている」
それでも大多数が失ったその気持ち。
「その行く末は決して平坦ではないと思うけれど、貴方はどう思うのかしら?」
ルカは感じた。
その感じたものをより確かなものにする為に。
彼女はカナタの未来を歪めてみる事にした。
次回からは「遺跡調査編」になります。
本当は別の登場人物に色々起きる予定だったのですが⋯⋯やめました。その子に色々起きるのはあと1か2章先になるかもしれません。まあ、続いていたらの話ですが(笑)
一応補足しておくと、ルカに恋愛感情は一切無いです。まあ人類に対する「愛」という感情はあっても個人に対する「恋愛」という感情は無いので、誰かと結ばれる的なシチュエーションはありません。そのあたりはご容赦ください。




