自己紹介の延長みたいな決闘
いっぱい書きたいことがあるけど、書きすぎると長くなっちゃう。
放課後。ルカは選別試験を行った競技場の入口にカナタを待っていた。
競技場の外観に似合うベンチを即興で作成し、一人で昼食を摂っている。
「時間は九十分。何を持ってくるのか見物ね」
はむ、とサンドイッチを齧る。
「美味しそうだね」
「⋯⋯ソネット先生」
やってきたソネットは興味深そうにサンドイッチを見ていた。
「購入したものですが、味は悪くないです」
中に入っているのはソーセージのような細長い肉と、小松菜のような野菜がメイン。あとは辛味のあるピクルスのようなものが少々と、独特のソースが塗られている。
ちなみにここで言うサンドイッチは食パンで挟むようなものでは無く、フランスパンのような硬めで細長いパンだ。
「味を楽しむのは私の趣味ですが、この身体では何を口に入れても同じというのは少し寂しいです」
「⋯⋯というと?」
ソネットがルカに疑問を投げかけると、ルカは座りながらベンチを拡張する。
それからトントンと空いた席に指を当てて着席を促した。
「身体に入ってしまえば全てが栄養素として還元されるので、量さえあれば問題無いという事ですよ」
「それも錬金術の応用かな?」
当たり前のようにベンチを拡張したルカに驚きの目線を向けながらも、平静に疑問を口にする。
「そうです。私が知るものであれば体内であらゆる栄養素に変換出来るんです。味覚や触感を弄れば然程気になりませんし」
「そんな事まで出来るんだ⋯⋯」
ソネットは素直に驚きの声を漏らした。
「何事も知識の積み重ねですから」
わしゃわしゃと左手を動かしながら、指を触手のようにうねうねさせる。
「自分の肉体すらこの通り」
「ははっ。魔獣みたいだ」
朗らかに笑うソネットを見ながら今の発言に対して目を細めた。
(魔獣⋯⋯?)
「それで、先生は何故ここに?」
「ん? そっか、ルカさんは知らないんだね。この学園で行われる決闘は基本的に学園側が監督をしないといけないんだ」
「だからいらっしゃったと」
決闘が学園側の公認である以上、制度はしっかりしているのだ。
「勿論後遺症が残るような事はダメだよ?」
「後遺症が残らなければ良いと?」
「⋯⋯そうは言ってないよ」
苦笑いを浮かべながら頬をかいた。
「まあ、今回は交流がメイン。彼がどういう人物なのかを測れればいいし⋯⋯」
そう話していると、正面から背中に剣を携えたカナタが歩いて来る姿が見える。
その隣にいる上級生三人を含めて。
「ちゃんと来たみたい」
「それじゃあ僕は先に入っているよ」
「ええ。今回はよろしくお願いします」
ルカは手に持っていたサンドイッチの残りを錬成でパチンコの球くらいの大きさに纏め、口に放り込む。
そして同時にソネットが立ち上がった事を確認し、ベンチを構成していた物質を元々あった地面に還元した。
「この一時間でよく三人も集めたわね」
「まあ俺はお前と違って人望のある勇者の一族だからな」
その三人を一瞥すると、ルカは簡単な戦力評価を行う。
(この三人は決してレベルが高い訳じゃない。多分単体で見ればスクワールよりも弱い気がする。⋯⋯魔術的な戦闘力はわかりにくいけれど、身体能力面は大した事ない)
カナタの助っ人として来たのは大柄な赤髪の男、小柄で剣を持った男、そして長髪のメガネを掛けた男の三人だ。
「わかっているとは思うけれど⋯⋯これは自分のプライドを賭けた決闘。言い換えれば」
「失うものが全くない。いや、俺の時間だけが賭けられたもの。それくらいわかってる」
その言葉に一瞬だけ目を光らせたルカ。
「ならどうして私の提案に乗ったの?」
そしてその言葉を聞いて一瞬目を泳がせたカナタ。
「それが勇者として正しいと思ったからだ」
「なるほど、ねぇ⋯⋯⋯⋯」
それだけ聞くと、ルカはふらりと振り返って競技場へと入っていく。
ルカが負けて失うものは殆ど無い。強いて言うのならカナタからの説教という時間が奪われる。
対してカナタが負けた時に失うのは一ヶ月間の休み時間や処務の時間という膨大な時間だ。
それ故にそれでもいいのかとルカは告げた。
しかしカナタは了承した。それが勇者の務めだと言わんばかりに。
「ところで先輩方。お名前を伺っても?」
ルカが笑顔で振り向き、カナタの後ろに立つ三人の男に視線を合わせた。
「中等部二年Bクラス、リグリット」
「中学一年のCクラスでフロワ・リリーシア」
「中等部の二学年アラルです。諸事情でクラスは控えさせて頂きます」
ガタイのいい寡黙そうな赤髪のリグリット、小柄で声の高い青年フロワ、メガネを掛けた長髪の美形男子がアラル。
三人とも妙にパッとしない顔立ちな為、ルカ自身この程度の印象しかない。
「御三方は何故ここに? 子供の喧嘩に大人が参加というのは大人気ないと思いますが?」
「⋯⋯こっちにも事情がある」
「詮索はよして欲しいものですね。条件はそちらが提示したものに違反しているとは思えないのですが」
「そうねぇ。野暮な質問をしたわ、アラルさん」
このアラルという男は冷静で妙に口が回るな、とルカが考える。
無理矢理聞き出す事も出来るが、リグリットの反応で何となく察する事が出来た為特に深入りはしない。
競技場の土が見えると、だいたい中央にソネットが立っていた。
四人は中央から一定の距離を保って立ち止まり、ルカは反対側に立つ。
「それじゃあ只今より学園の規則に乗っ取った決闘を始めます」
ルカが周りを見回すと少なくない数の生徒達が雑談しながら観客席に座っていた。
「昼食時だもの。見世物としては適切⋯⋯かしら?」
今回は期待の新人が争うという事で見に来た者も多く、サークルの勧誘目的もあるのだが、ルカは知らない。
「既に契約はされているから、その辺は省かせてもらうよ。くれぐれも後遺症の残る傷を与える事はしないように」
ソネットは優しげな言葉で両陣営に声をかけた。
「ねえカナタ」
「⋯⋯なんだよ」
ウッキウキでカナタに声をかけたルカは、笑みを消さずに一言。
「たくさん魅せてくれると助かるわ」
「もう勝った気かよ」
小さく苛立ちを見せたカナタだが、すぐに表情を戻す。
「それじゃあ、始めっ!」
ソネットの掛け声で決闘が始まる。
「⋯⋯っ」
それと同時に駆け出したのは大柄な男リグリットと、小柄な剣士フロワ。
「まあ、明らかな近接タイプだものね」
ルカは近接戦では絶対的な有利を獲得出来る"錬成"がある。
それを知らない二人は突撃以外有り得ないのだが、ルカに対してその選択は愚策である。
「はぁっ!」
上段からの剣撃を繰り出すフロワと、左側から拳を突き出すリグリット。
それをスルリと右に避けたルカはアラルと視線が合う。
「"炎弾"」
「お上手な誘い方。いえ、読みかしら?」
アラルが左手をかざすと共に魔法陣と小さな炎の弾が幾つも射出される。
小さなと言っても野球の玉くらいの大きさがあり、直撃すればタダでは済まない。
それを理解しているルカはサッと右手を振るい、弾道の正面にある酸素を移動させて炎弾を消滅させ、ついでのように空気を圧縮して放つ。
「っらぁぁ!」
リグリットがルカに接近し、拳の連打を放つ。
一撃一撃が岩をも砕きそうな迫力だが、ルカはその速度と瞬発力に違和感を覚えた。
(体格、推定される筋肉量、諸々を考慮しても出力が目算より高い⋯⋯)
「自己強化魔術⋯⋯かしら?」
「⋯⋯正解だっ!」
そして拳の連打の隙を狙うように、フロワが突きメインの剣撃を繰り出す。
(薙ぎ払う斬り方だと彼を巻き込んでしまう以上、妥当な技ね。それに⋯⋯)
ステップでの回避を繰り返しながら、アラルへと視線を向けた。
「"炎槍"」
左手から射出される炎の槍がルカへと迫る。
先程と同じ手順で槍を消し去るものの、反撃する隙が無く、フロワの突きが頬をかすめてしまう。
(回避を狙って魔術攻撃。無効化されてもいいから私の処理リソースを潰しつつ、前衛に攻撃させる。アラル⋯⋯先輩が一番のやり手、というか戦い慣れているわね)
頬に負った細い傷口から血液が流れ出るが、即座に錬成で止血。
その後も淡々と回避を繰り返しながら魔術的な攻撃には錬成で防いでいく。
(自己強化魔術は魔力をエネルギーに変換して、本来自身の肉体が出せる出力を逸脱した力を使えるようにする魔術。彼の剣技に関しては⋯⋯あんまり捻りが無いし、収穫は無さそう)
そしてフロワの何度目かの突きに対して剣先に人差し指を当てる。
次の瞬間、雑に崩壊した剣が突如としてフロワの顔面に向かって飛んでいった。
ルカが錬成を"縛っていた"理由は相手の行動を見る為。未知を見る為の時間であり、決闘を終わらせない為の行動。
逆に言えば新しい発見が無いと分かれば用はないと言える。
剣を錬成で砕き、そこにフロワが放った"突き"による前方のエネルギーをそのまま反転したエネルギーに錬成させてしまえば簡単に反撃に転ずる事が出来る。
「えっ、ぶっ!?」
前方への勢いからモロに破片を食らったフロワの顔面血だらけになる。
更に人差し指でフロワの鼻先に触れると。
バチャッ!
という水が含まれたモノが爆ぜるような音と共に四肢が弾け飛んだ。
周囲に吐き気を催す程の鉄臭い臭いが溢れ、飛散した肉片や白骨が生々しい音を立てて砂の上に落ちる。
「次はもう少し捻りのあるものを持ってきて頂戴」
アラルは目を見開いて怯んでいるが、リグリットは今更引けないと言い聞かせるような歪んだ顔でルカに右の拳を突き出した。
ルカはそれに対して再び人差し指で触れる。
すると拳の勢いが止まり、内側から掻き混ぜられ右腕が破裂してしまう。
「っぁぁぁぁっ!?」
「あら。痛覚操作を忘れていたわ。ごめんなさいね」
ルカは右腕を抑えて蹲るリグリットに靴先で触れて腕を元に戻しながら気絶する程度の痛みを肉体に流し、気絶させる。
そして四肢を失って既に気絶し倒れ伏すフロワにも同じように止血。
「ソネット先生、この二人は気絶したのでリタイアという扱いで大丈夫ですか?」
「⋯⋯⋯⋯あ、ああ、うん。いいんだけど⋯⋯後遺症は無しって⋯⋯ああ、もう直してる」
確認を取りながら、ルカはフロワの四肢を競技場の土から生成。プラモデルを作るような気軽さで手足を取りつける。
「これでよし続きを⋯⋯」
と、ルカが振り返ると。
突如、ルカの腹から下の感覚が無くなる。
熱を帯びた何かに当てられたような滅多に味わえない感覚と、突如として襲う痛覚。
そしてそれを瞬間的に理解する。
腹から下が切断されていると。
焼け爛れ、零れ落ちそうな内蔵と、そこから溢れ出す血液。
「お前は⋯⋯⋯⋯」
今までアラルの背後で姿を隠すように立ち回ってきたカナタが怒りを込めた声で呻いていた。
カナタは虚空を斬った後ような構えをしており、携えた剣先が地に向けられている。
「バケモノだ」
ルカはその剣の周囲に不自然なまでの光り輝くモノを目視する。
「お前は俺が斬る⋯⋯!」
言わなくても理解出来る。
「それが⋯⋯勇者の力⋯⋯」
上半身が虚空に投げ出されたルカは、そんな事お構い無しだと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた。
「光属性魔術⋯⋯!」
彼女は己の状況すら意に介さない。
この状況ですら知的好奇心が勝つ。
光属性魔術の一端を目にしたルカは分析を始める。
傷口、距離、己のコンディション。あらゆる数値と状況をもってその本質の解明に取り掛かる。
その結果。
「いい⋯⋯⋯⋯」
分析を終えたルカは今だ空中で自由落下のまま。
このままでは地面に落ちてしまう為、斬られた断面から触手を生やし、立ったままの下半身に接続。
「すごくいい。勇者と呼ばれる理由がよく分かる」
目を輝かせながら下半身と上半身の状態を元に戻す。
「一発受けてよかった。見ただけじゃわからないし」
その視線は未だにカナタへと向けられていた。
「まだ足りない。まだまだ見せて。その可能性を私に示して欲しい」
「⋯⋯何言ってるんだお前」
カナタの意見はご最もで、他人から見ればルカが何故こう話すのかが分からないのも仕方がない。
「力だけじゃない。その性格も、在り方も私好み」
ルカから見たカナタは、勇者と呼ばれる一族の末裔であり、正義感が強く、高いプライドを持っているように見えて⋯⋯。
「それと噛み合っていないちぐはぐさがとてもいい」
不整合な性格。
そんな彼がとても良いと感じたルカだった。
薄々勘づいている方もいらっしゃると思いますが、光属性魔術は強いです。異世界であってもある程度物理法則に囚われている世界なので"光"という性質を持つ属性魔術が一段と強力になるのです。
まあ、他の魔術もそれぞれ違った特性があるので通常の属性魔術では優劣が付きにくいですが。光、闇属性は基本五属性とは違ったものだと考えて頂ければ幸いです。




