自己紹介と対立
自己紹介です。あと喧嘩もします。
「それじゃあ廊下側の⋯⋯カナタくんからやっていこうか。名前と得意な魔術、好きな事とか聞きたいね」
ソネットが視線を向けた先には先程ルカに突っかかっていたカナタが自信満々に笑みを浮かべていた。
「カナタ・R・フィールズ。得意な魔術は光属性、好きな事は鍛錬だ」
得意気にそう言い放つ。
「フィールズ家って事は勇者の一族かぁ⋯⋯。光属性を使えるのは勇者の血筋だけだもんね。鍛錬が好きというのも立派だ。流石英雄の末裔」
ソネットが手放しに賞賛を送る最中、ルカはその話を傾聴していた。
「上級生に御兄弟がいるけど、もしかして入学式で挨拶していたのはお兄さん?」
「そう! 兄さんのような立派に務めを果たせるような人が俺の目標なんだ」
「目指すべき先が見えていることはとてもいい事だと思うよ」
と、ソネットが答えるとそれをニヤニヤしながら見ていたエレナが小言を挟む。
「やっすい挑発で喧嘩に乗ってたヤツがよく言うなぁ」
「何!?」
「こらこら喧嘩しないで」
「ソネット先生の言う通りよ。あと、それは貴女が言えた事じゃないでしょうに⋯⋯」
「⋯⋯そういやそうだったな⋯⋯」
茶々を入れたエレナだが、ルカに突っ込まれてしゅんとしてしまう。
「こほん、じゃあ気を取り直して。次はアルバートくん」
次にソネットは正面に座る青髪の少年に視線を向ける。
「僕はアルバート・ルイス。得意な魔術は氷と地。好きな事はそうだね⋯⋯みんなと話す事かな。これからよろしく」
愛想良く笑いながら周りを見渡すアルバート。
「アルバートくんは氷と地属性の二つが適正属性って聞いているよ。ルイス家はここから遠い地方貴族だったかな?」
ソネットが確認を取るとアルバートは頷く。
「そうです。ルイス家の長男として、恥ずかしくない実力を付けるためにここまで来ました」
「頼もしいね。ここを選んでくれて嬉しいよ。二属性を適正属性として使用できる人は少ないから緊張しちゃうな〜。僕も君の能力を上手く高められるように努力するよ」
おっとりとそんな話をしているソネットの言葉を耳にしたルカは、少し苦い顔をした。
「⋯⋯⋯⋯二属性使いは貴重なのね」
ここで思い出しているのはチェルノとペンラントだ。
彼らも二属性、三属性の適正属性を保有していた者。あの時はスクワールとの約束を踏まえた上で有効活用したが、もっと上手いやり方があったかもしれないのだ。
しかしながら、逆に言えば二属性、三属性の適正属性を持つ肉体は貴重なサンプルであったことに変わり無く、今後隅々まで使えるタイミングが遠くなる可能性がある為、これでいいのでは無いか、とも考えている。
「必要なデータは充分とったから⋯⋯問題は無いと思うのだけれど⋯⋯」
「⋯⋯? なんか言ったか?」
「いいえ、なんでもないわ」
「それじゃあ男子最後、ケインくん」
「は、はい!」
ソネットがその名前を呼ぶと、一番最初に教室に来ていた少年が目に見えて緊張していることがわかるくらいにビックリしながら立ち上がる。
「ケ、ケインです⋯⋯平民出身なので姓はありません。得意な魔術は雷と氷で⋯⋯本を読む事が好きです⋯⋯」
オドオドしながらも、少しズレたメガネを上げる姿はどこか様になっている。
「平民出身なのに二属性使えるのは凄いね。実力があればちゃんと評価されるから、平民でもどんどん挑戦していこう!」
同じ平民出身だからか、どこかソネットも親身になっている。
「⋯⋯そう」
ケインを見ながらルカは少しだけ頭を働かせる。
制度上、平民と貴族の差は大きくないように見える。
しかしながら、生徒間での軋轢はどうだろう。
この世界よりも文明が進んでいる地球ですらいじめは問題だった。
実力がものをいう制度であっても、その懸念は否定出来ない。
「まあ後で考えましょう。見てからじゃないとわからないことも多いだろうし」
「じゃあ女子組行こうか。エレナさんお願いいたします」
「おっし。アタシはエレナ・スチュアート。無属性の自己強化系が得意だ。火属性もそこそこ使える。好きな事は⋯⋯まあ、試合だな!」
溌剌としていて見ていて気持ちのいい挨拶である。
「元気がいいのはいい事だ。スチュアート家の自己強化制度はとても高いって聞いてるし、期待しているよ。ここではよく試合をやるから、たくさん戦って実力を伸ばしていこうか」
「押忍!」
と、返事をして席に座る。
「それじゃあ最後は⋯⋯話題のルカさんだね」
「はい⋯⋯。ルカ・レシーア、魔術は得意では無いけれど、錬金術を少々。好きな事は研究よ。よろしく」
「うん、やっぱり"勇者の試練"を突破した人は風格が違うなぁ⋯⋯。そっちの子は?」
ソネットはルカの半歩後ろに立つスクワールに目を向けた。
「スクワールです。ルカ様の傍付き兼武装として御一緒させて頂いております」
「⋯⋯話には聞いていたけど⋯⋯錬金術関係だよね。元奴隷だけど魔術が使えるとか」
「はい。詳細は提出した書類か、若しくはルカ様からお願いします」
そう冷たく返答する。元々抑揚の無い声だが、今は一層冷たいものだった。
「学校側が許可しているとはいえ⋯⋯扱いが難しいなぁ⋯⋯」
「スクワールは置き物程度に考えて貰えれば問題ありません」
武装という扱いで通っている為、この学園におけるスクワールは「物」なのだ。
しかしそれを容認できない者もいる。
「お前! 従者とはいえその言い方は無いだろ!」
「カナタくん⋯⋯」
「先生方もだ! 人を武器扱いするなんて、何を考えているんですか⋯⋯!」
「それはそうだけど⋯⋯正直僕も上からのお達しってだけだからなんとも⋯⋯」
地球的な倫理観を持つ者もいるのか、とルカは聞いていたが、この世界ではそれが異端である為、勇者の末裔としてそう教育されたのかもしれない、と考えた。
「エレナはどうも思う? スクワールを武装扱いする私について」
「⋯⋯この流れでよく聞けるなオイ⋯⋯」
「率直な意見を聞きたいから、遠慮なく言って頂戴」
ソネットとカナタの口論を聞いている最中、ルカがエレナに話題を振る。
ルカとしては他者の基本的な思想を知りたいのだ。
同年代(?)の少年少女達がどう考えているのか、どのような倫理観を持っているのかという調査という側面もある。
「一言でいうならヤバい、だな」
「語彙力の無いJKみたいな事を言うのね」
「JK⋯⋯? まあ、アルスマキアには奴隷制ってのはあるけど、規模はそこまで大きくねぇし、最近じゃ反対運動なんてのも出てきてる。人はモノじゃないって言う連中の筆頭がフィールズ家だな」
その事について初耳だった為、ルカは少しだけ目を見開いた。
「だからって奴隷使ってるヤツが悪いヤツって言うと違ぇよなって思う。ソイツらはただその制度があるから使ってるってだけだし」
特に考えず人の補充としての手段として使っているのだろうとエレナは考えている。
そこに「でもお前は」と付け加えて。
「完全にコイツを道具か何かと思ってやがる。だからヤバいんだ」
「心外ねぇ⋯⋯まあ、貴女の考えはよく分かる。先日見ちゃったものね」
「アレは⋯⋯アタシもノックせずに入ったから申し訳ねぇと思うけどさ⋯⋯」
実は入学式前の休日中、エレナがルカの事を食事に誘う機会があったのだが、その時にスクワールの調整を一目見てしまっているのだ。
「アタシには何してんのかさっぱりだったけどさ。ああいうのを顔色一つ変えずに淡々とやってんのはヤバいとしか言えないだろ」
「ふぅん、そう。答えてくれてありがと。随分大人びてるのね」
小さな笑みと共にお礼を返すルカ。
「そういうお前は⋯⋯」
「何とか言ったらどうだ、ルカ・レシーア!」
と、エレナが尋ねようとした所でカナタがルカに向かって怒声を飛ばす。
「お前に言ってるんだぞ! さっきからスチュアートとばかり話しててロクに弁明しようとしないじゃないか!」
「気に触ったのならごめんなさい。でも仕方が無いでしょう? 必要な事なのだから」
「必要だと⋯⋯人を虐げる事に何の必要が⋯⋯」
「お言葉ですが、ルカ様はむぐっ」
スクワールが口を挟もうとした所でルカがスクワールの手に触れ、錬成を使い口を肉で塞ぐ。
「そうねぇ⋯⋯」
スクワールの口を元に戻しながら考える。
カナタがどのような役割を担えるのかを。
そもそもカナタはルカの思想に無関係では無い。
人類という区分に居る以上、仲間外れは可哀想であり、何かしらで役に立って欲しいというのがルカの考えだ。
例え盗賊のような肉塊にされ、脳を弄りまわされたとしても、実験やサンプルとして役に立っているという扱いではあるのだが。
それでもルカにとっては優しさなのだ。
才能の無い者でもルカという人類を先導する為の存在の役に立てる、役割を持てるのだという「優しさ」から来ている。
でも、目の前の男の子はそうじゃない。
勇者の末裔というカナタは、突出した才能があるのだとルカは考えている。
少なくともAクラスという区分に入れているのだから、世間的に見れば上澄みであり、可能性の卵なのだ。
そして第一に、カナタの事について知りたい事がある。
それ故に。
「カナタ、表に出なさい」
こうなるのは必然だった。
「うえっ、ん、えっ?」
「聞こえなかった? 表に出なさいと言ったの」
学生時代は言えなくても言ってみたかったセリフを、この世界で言えて少し満足気だが、カナタは間の抜けた表情を見て伝わっていないのだと分かってしまう。
「決闘よ決闘。この国にはそういう制度があるでしょう? 放課後、貴方が勝ったら貴方の話を聞いてあげる」
「⋯⋯⋯⋯言ったな?」
「コイツを解放するんじゃなくて話聞くだけかよ」
乗ってきたカナタと提示した小さ過ぎる対価にツッコミを入れるエレナ。
「これはそもそもの段階なの。私は彼の主張に耳を傾けるつもりは無いのだから、彼が私への説教を垂れる権利を手に入れる所から始めないといけない。じゃあどうするかってなったら、単純明快な遵守事項を記載した決闘で打ち負かすのが一番簡単って訳」
「会話を色々すっ飛ばすな。わかんないだろ」
どうせこの結論に帰結するのだからと先回りで結果を提示するのはルカの悪癖のひとつだ。
「暴力で決めるのは理性を獲得した人類らしくないと言うべきか、理性があってもソレに頼らざるを得ない人類らしいというべきか」
どれだけ文明が発展しても戦争からは切っても切り離せない人類への皮肉。
「まあ一番簡単な事に変わりは無いのだけれど」
「⋯⋯お前が勝ったらどうすんだよ、ルカ・レシーア」
ルカの要求を尋ねるカナタを横目にソネットを見る。
ソネットはどこか落ち着いているようで、瞳の動き的にソワソワしているように感じた。
「別に必要無いのだけれど⋯⋯」
正直、今回の決闘をするのが目的である以上特に要求は無い。
「ならこうしましょう。私が勝ったら一ヶ月間貴方が日直をやって頂戴」
「お?」
「は?」
「ルカ様⋯⋯」
「⋯⋯」
日直。授業前に講師を呼びに行ったり、HRでの挨拶を務めたり、放課後に先生から何かと頼りにされるアレである。
説明はしていなかったが、全員しっかりと書類に目を通していた為週一で日直が回ってくる事を知っていた。
「⋯⋯わ、わかった。お前が勝ったら俺が一ヶ月日直をやってやる」
「契約成立、と言いたいけれど少し補足をしていいかしら」
そしてもう一度ソネットを見ると苦笑いを浮かべていた。
その反応から、この学校では決闘の頻度はそれなりにあるのだと推察する。
「私はスクワールを使わないし、そっちは何を使って来てもいい」
「なんでもいいって事か⋯⋯?」
「そう。頭数揃えて来てもいいし、剣なり槍なり好きに使ってくれて構わない。自分の主張を通したいのなら、自分の理念に反しない程度に全力で来るべきだもの」
そしてルカはカナタを嘲笑うような笑みを見せた。
「このくらいのハンデはあってしかるべきでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯っぁかった! 後悔するなよ!」
完全に格下に見られているカナタは、怒り心頭のまま席に座る。
「自己紹介の途中だったのだけれど⋯⋯百聞は一見にしかず。私はこういう人間よ」
それでもルカの人間性を理解出来たかどうかは微妙だと言わざるおえないが。
ルカは結構感情で動くタイプです。
一応、この章の終幕も近いですが、あくまで「学園入学編」はパート1みたいな扱いです。「学園入学編」と「遺跡調査編」でワンセットという扱いです。よろしくお願いします。
スクワールのように誰かが言葉で叩き伏せられるのは次章になるということはご容赦ください。




