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邂逅! クラスメイト!

入学式飛ばしました。

 


「それじゃあ私は三年のCクラスにいるから、何かあったらそっちに来てね!」

「はいはい。お姉様も気を付けて」


 入学式は特に何事も無く終わった。


 理事長の話、高等部生徒会長の話、そして勇者の末裔の代表者の挨拶だったりと、あまり収穫らしい収穫は無い。


「へっ。妹がAなのに姉貴はCって、威厳ねぇなぁ」

「⋯⋯エレナ、自分に自信やプライドを持つ事はいいと思うけど、それで他人を見下すのはやめた方がいいわよ」

「あ? なんでだ? もしかして姉をバカにされてキレてんの?」


 そういうエレナが小馬鹿にするようにルカを見るが、当人は呆れたような間抜け面を晒している。

「んだよその顔」

「いや⋯⋯そうじゃなくて⋯⋯。はあ、まあいいわ。私は努力をしている人を馬鹿にする人が好きじゃないだけ」


 教室に向かいながら、何故かを説明する。

「努力とは己を磨く事。己の先を見据えて研鑽を積む。それは即ち己の可能性に手を伸ばしている事に他ならない」


「は?」


「己の手で次の姿へと進化しようとしている。その努力によって仮に誰も手に入れられなかったものを手に入れたのならば⋯⋯それは人であれば誰にでも手に入る事の証明となるの」


「えぇ⋯⋯?」


「つまるところ努力とは未知への挑戦。人類の進化の可能性を切り開く為の行為なの。わかる? ねぇ、それを貴女、軽率に批判しようなんてどういう⋯⋯」


「わ、わかったわかった! アタシが悪かった!」

「そう。わかればいいのよわかれば」


 ルカは過激な人類愛者。

 努力という「人の可能性を広げる」行為をバカにする者は人の愛が足りていない、と怒るのは当然なのだ。


 そして()()()()()()()()()()()()すら個人では無く人類に還元され、それらをどう使()()()も人類の為にと考える徹底ぶり。


「まあ⋯⋯子供に言うのは違うわね」

 落胆も期待も無く呟きながら、一年Aクラスの扉を開ける。


 特に他の教室と変わりないが、大理石の床を踏みながらクラスメイトを見る。


 Aクラスの人数は五人の為、他クラスと違って五席しかない。

 教師はまだ来ていないが、男子生徒が一人で一番前の席に座っている。

 今日はここからオリエンテーションを行い、十一時頃には帰宅する流れ。


「はぁい、よろしく」

 と、既に座っている男子生徒に手を振りながらその後ろに座ったルカ。

 おかっぱで黒髪。この歳で既にメガネを掛けている少年は、ビクリと肩を震わせた後、振り返らずにボソリと呟く。

「よ、よろしく⋯⋯」


「⋯⋯⋯⋯」

 反応が薄く、彼との会話が弾まないと考えたルカは後ろに立つスクワールの方へと振り向いた。

「貴女はここで待機」

「かしこまりました」


「⋯⋯なんだアイツ」

「シャイなんでしょきっと」

 エレナはナチュラルにルカの隣に座る。


 座席の指定が無い為、各々好きに座っているが、そういう場合は仲のいい者が固まりがちだ。


 そうして暫くエレナと話していると、廊下から女子生徒の黄色い声援が聞こえてきた。

「キャー! カナタ様ー!」

「放課後テラスに来てねー!」


 教室の扉が開かれ、小さな男子生徒が一人入ってくる。

「ああ! 待っていてくれ!」

 振り返って女子生徒達に手を振る。


 金髪をスポーツ刈りのような髪型に切り揃え、真っ赤に燃えるような瞳を持つ少年。

 美形な顔立ちに自信に裏打ちされたような明るい表情と、今まで何一つ不自由なく過ごして来たかのような出で立ち。


「っ⋯⋯⋯⋯」

 メガネの生徒は、先程とは違う恨めしそうな表情でその生徒を見ていた。

「如何にもボンボンって感じ」


 ルカが客観的評価を下した所で、エレナが口を挟む。

「お前知らねぇの? カナタ・R(レイディアント)・フィールズ。勇者の末裔フィールズ家の三男坊だぞ」

「やっぱりボンボンじゃない。勇者の末裔って事は入学式で挨拶していた人の弟って事ね」


 フィールズ家。レシーア、スチュアートに並ぶ大貴族家であり、もうひとつのオルゾワール家を含めてアルスマキアでは"四大貴族"と呼ばれている。


「R⋯⋯輝き(Radiant)ってすごいミドルネーム」

「⋯⋯なんだって?」

 ルカの言葉が耳に入っていたのか、カナタが扉を閉めてルカの前へとやってくる。


「勇者を馬鹿にしているのか?」

「そういう訳じゃないけど⋯⋯はあ、どうしてこんなに喧嘩腰の人が多いのかしら」

「おいなんでこっち向くんだよ。それに今のはお前の言い方も悪かっただろ」


 辟易とエレナの方を見るが、逆に責められてしまう。

「それもそうね。今のは私が悪いかも。私はルカ・レシーア、よろしく」

「なあ、お前この流れで俺にその手を握れと?」


 自己紹介をし、握手を求めたがカナタからキレられる。

「⋯⋯そうだけど?」

「冗談じゃねぇ!」


 差し出した手をパンと手を払われる。

「どうして⋯⋯」

「いえ、今のは名前を嘲笑したルカ様が悪いかと」

「アタシもそう思うな」


 心理学も嗜んでいるものの、人の心は複雑怪奇。そう全てが都合よくいかないのが現実である。

 だからこそ面白いとも考えているのがルカなのだが、今は不服そうな表情だ。

「なんでこんなヤツがレシーアの⋯⋯レシーア?」

「ええ、そうよ⋯⋯」


 それに気がつくと、カナタがギョッと目を見開く。

「あの"勇者の試練"を正面から突破した⋯⋯いや、戦ったのはそっちのメイドらしいな⋯⋯」

「知ってたの」


「ああ! お前が従者に戦わせて何もしてないっていうのは耳にしている! それを認めた学園側もだが、何よりそんなズルでAクラスに入ったって事は納得出来ない!」

「いやだからってコイツが弱い証拠には⋯⋯んむ」

 小言を挟もうとしたエレナの口を指先で封じたルカ。


「私自身の実力はヴァイラント先生に直接理解して貰えるように努めた上での納得なのだからいいでしょう? それにスクワールは私の武装として登録してあるのだから問題無い。後は貴方が納得するだけ、というより言い掛かりに近い言伝の噂話を信用するなんてよっぽど⋯⋯」


「お前今俺の友達の言葉を言い掛かり扱いしたな!」

「そんな嘘つきの友達なんてとっとと縁を切った方がいいと思⋯⋯」


「待った待った待った!」


 と、そこに割り込んで来たのは何枚も重ねられたプリントを持ってきた青髪の少年。

 同年代では比較的身長が高く、優しげな流れるような目元と表情からは育ちの良さが窺える。


「入学早々喧嘩なんてダメですよ! 仲良くしましょう! もうすぐ先生も来ますし、席に着いてください」

 その少年の仲裁の声を聞き、カナタは舌打ちをしながら渋々空いている席に座った。


「⋯⋯貴女はそう思わないのね、エレナ」

「ん、⋯⋯まあ、テメェは仏頂面で全然力を使わねぇし、あの試験は殆ど後ろのアイツがやってたのは確かだが、アタシの拳を一回防いでるのは確かだ。そこに関しては認めてるよ」


 ふぅん、と流し見るだけで特に反応を返さなかった。

 そして再び扉が開かれると、スーツ姿の男が入ってくる。

「よし、全員席に着いてるな」


 スラッとした金髪の男性で、ルカから見ても結構男前なハンサムお兄さんだ。

「このクラスの担任を勤めるソネットだ、よろしく」


 ソネットは姓は無いらしく、この時点で平民出身が確定する。

 アルスマキアでは、姓を持つ者は基本的にどこかの貴族家であり、逆に平民は姓を持たない。


「⋯⋯平民だってバカにする人がいないのは嬉しいなぁ。一年生Aクラスの担任になれたからには全力でやらせてもらうよ」


 Aクラスはエリートの中のエリート。その担任は実力者でなければ務まらないのは全員理解している。

「それじゃあまずは渡す物を全部渡してからお話しようか⋯⋯"風運び(キャリーウインド)"」


 トントンと机に乗るプリントを叩き、魔術を使用。五人分のプリントが複数枚渡される。


(手書きじゃなくて⋯⋯焼印に近いのね。それに⋯⋯)


「?」


 ルカが貰ったプリントとエレナが貰ったプリントを見比べていく。

(文字の大きさや筆跡も同じ。となると魔術で同じ文字を焼いてコピーしたって所かしら。魔術なら出力も一定だから紙を焼き焦がさずに調節出来るだろうし)


 ルカは知らないが、紙に焼印を入れてコピーする手法は近年生み出されたものであり、学園でも今年から取り入れられたものだ。

「初等部は三学期制。Aクラスは特にだが、フィールドワークも多い。学期末にはそれぞれ試験があるから、準備は怠らないように」


「フィールドワークがAクラスに多いのは⋯⋯結構面白い制度ね」

「何故でしょう?」


 ボソリと呟いたルカの言葉に反応するスクワール。

「系統主義と経験主義って事」

「なるほど」


 ルカの知識を書き込まれたスクワールはすんなりと理解した。

「何言ってんだお前ら」

「知りたい?」

「そりゃな」


 はあ、とため息を一つ吐くが、そこには特になんの感情も乗っていない。知らないのだから仕方がない、という淡々としたものだ。


「本当に端的に言うのなら、系統主義が座学。経験主義がフィールドワーク。それだけじゃないけど、ざっくり区分けするとね」

「じゃあ最初からそう言えよ」


「⋯⋯まあ聞きなさい。座学って暗記ばっかりで使えるかもわからない知識をたくさん詰め込むでしょ? 勿論使える知識もあるけど、そういうのは実践しないと身につかない。算術も練習して身に付けるでしょ?」

「それは⋯⋯そうだな」


「魔術や錬金術なんてものを習う以上、ちゃんと使えるものにしなきゃいけない。でも、土台が出来ていないのは実践以前の問題。だから下のランクで一斉教授を行って基礎を固める」

「じゃあもう既に土台が出来てるアタシらAクラスは、その過程をスキップ出来るって事か?」


「スキップっていうのは正しくないけれど⋯⋯。例えEやDだとしても、学年が上がればそれなりに動ける生徒が増えてくるから、上の学年で行う事を早い段階で行うのは確かね」

「なぁ⋯⋯」

「ん?」


 何となく理解したエレナがルカに向かって疑問を投げかける。

「別にそういうの知らなくても問題無くね?」

「⋯⋯あのねぇ」


 と、呆れた顔で返される。

「何故この授業を行うのか、どうしてこういう制度なのか、色々あるけど理解しながら臨まないと定着しないわよ? そういう所が良くないの、まさに一斉教授の悪い点で⋯⋯」


「あのー、ちょっとお喋りが多いかなぁ⋯⋯」

 ソネットが渋々と言うように口を挟む。

「あっ⋯⋯申し訳ありません。少し考え事をしていました」


 スっと頭を下げるルカ。

「ちゃんと謝れるのはいい子の特徴だ。あとちょっと聴き入っちゃった僕も悪いかも」

 あはは、と苦笑いするソネット。


「⋯⋯⋯⋯?」

 ふと、スクワールは先程のやり取りを見て頭の中に疑問の靄がかかる。

(何故エレナ様をあそこまで気に掛けるのでしょうか)


 最初に絡んだからだろうか、友達だからだろうか。


 その辺りをスクワールは理解していない。


 だがこれだけは言える。



 彼女の使い道は決まったらしい、と。



「Aクラスで入学出来たって事は、それ相応の基礎が出来ている証拠だから、みんなは自信を持っていい。早速、三週間後には遺跡探索の授業が入っている。まずはそこを目標に頑張って行こう」


 グッと拳を握って鼓舞するソネットを横目に、ルカはまだプリントとにらめっこしていた。

(いいわねやっぱり。挑戦的で私は好きよ、この方針)


 気に入っている理由は単純で、先程の経験主義と系統主義には当然ながら善し悪しがあるものの、この制度にはその悪い点を少しづつ削りながら、互いの良い点を活かせるものだということ。


 当然、それが効率的かはわからないし、それが意図して行われていた事なのかもわからない。

 だが、試行錯誤しながら前に進もうとしている事は確かである。


(少なくとも二千年代の日本よりいい教育制度なんじゃないかしら。内容はともかく、独自の進み方をしている。体育が重要科目になったらあの世界もこういう進み方になるのかしら⋯⋯私も将来実験してみましょう)


「それと、期末試験ではクラスの変動が起こるんだ。実技と座学、両方あるからどっちかしか出来ないって子もいるかもしれないけど、逐一相談に乗るから一緒に乗り越えていこうか」


 圧倒的な親切心と頼もしさを見せるソネット。

 彼はその後も学校に関する説明を続けていく。

「基本は九時から一限。屋外演習が無ければお昼頃には終わるから、そのあとは好きな事をしてもいい。自己研鑽に励んで欲しい」


 それを言い切った所で、よしと紙を折る。



「一通り話すことは終わったから、今度はみんなに自己紹介してもらおうかな」






 次回は自己紹介パートです。そして小さな波乱があったり⋯⋯?



 そして後書きという名の完全な余談。そこそこ長いので飛ばして頂いても大丈夫です。



 何故こうした教育的主義を扱うのか、聞かれれば異なる進化を遂げた理由みたいなのが欲しかったから、という答えになります。


 もうひとつの答えとしては「なんでこういう異世界系の学校って試験の時に生徒同士を戦わせたり、死の危険がある場所でフィールドワークをしたりするんだろう」という些細な疑問から来た私なりの考えですね。


 勿論戦闘経験を増やして対応力を鍛えたり、戦うことで能力が向上するから、なんて言えばそれまでですが、今回はあくまでもそこから見えてくる文化的背景の思想の考察をしてみたくなりまして。


 まあ地球の価値観と異世界の価値観を比べるのはどうかと思いますが、ちょっと真面目に考えてみるのも面白いかなと思いました。


 作中でも取り上げましたが、魔術は座学だけで身につくはずが無いので、学校の制度そのものが経験主義教育に寄ってしまうのです。


 これは様々な作品にも言える事で、魔術や異能が基本の学園モノであれば、基本的はある意味で経験主義教育に基いて教育制度が作られています。


 主人公を活躍させたいという意図もあるかと思いますが、経験主義の「経験や体験による生徒の発達や成長」に当てはまることから、経験主義教育に基くものでしょう。


 当たり前の事ではありますが、学校という公的機関の性質上系統主義教育の一斉教授になりがちです。一例で言えば日本の学校をイメージしてもらえるとわかりやすいですね。


 一斉教授が採用されている理由としては、能力の均等化が目的のひとつです。ただ魔術や錬金術のような力は一斉教授では伸びにくいと推測されます。才能に大きく引っ張られてしまうような技能と一斉教授では相性がすこぶる悪いですからね。特に適正属性という概念がある以上、努力しても意味が無いなんてこともありますから。


 それ故にこの作品では土台を作るタイミングで一斉教授を行い、基礎を固めて徐々に実習を増やして行き、経験を積ませる事で能力を伸ばすという学校方針になったのです。


 基礎を固めて積み上げ続けていくのが日本の教育ですが、この世界では積み上げたものを上手く活用する事を鍛えるという方針です。例え高く積み上げられなくとも、低い土台で他には無い活用法を見い出す事で別の道を選ぶことも出来ますから、経験主義教育は個人に寄り添っているように見えますね。


 現実の歴史と違う点で言うのであれば、経験主義教育が日本で主流になったのは戦後すぐ。外国ではわかりませんが、少なくともデューイ氏の台頭によって発信されたものである為、十九世紀後半辺りでしょうか。一応文明レベルが中世ヨーロッパレベルと明記しているこの世界観で生まれる思想としては、まだ早いように思えます。


 しかしながら、それは先程述べた通り、必要となる力が地球と異世界では異なっていたのが原因でしょう。

 魔術や錬金術という実技が重要視されている為、必然的に経験主義の教育制度にならざるおえなかった、というのが今の結論ですね。


 まあ、私自身も授業で習ったことを元に書いているので、間違っているかもしれません。異世界の文化を考えるというのは中々難しいですね。


 私は頭が良くないので、こうして纏めるのも精一杯ですし、この余談に関してもそれくらい知ってる、という人の方が多いのかもしれませんが、それでも知らない人がいたら知って欲しいなぁ、という気持ちで書きました。


 よろしければ意見を頂けると幸いです。


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