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初めての登校

入学して初めての朝。そこに不穏な影が⋯⋯?

 


 試験から三日目が経過した朝。

 ルカは新調した衣服に袖を通す。

「ゴワゴワしててデザインだけって感じ」


 セーラー服とは程遠いが、一応制服として機能するくらいの布素材。

 黒と藍色を基調とした暗めのカラーリングに、少し重ためな黒いローブが基本の制服。


 その胸元に程良く散りばめられた金色の模様が施された青薔薇のワッペンを付ける。


「お似合いですよ」

「私はローブじゃなくて白衣の方が好きなのだけれど⋯⋯まあ上に羽織るものは自由らしいから後で作り変えればいいのだけれど」


 ふわわ、と口を大きく開けて欠伸をするルカ。

「貴女はそのままなのね」

「はい。私は生徒ではありませんので」


 変わらずメイド服だが、そのメイド服には細かな仕掛けが施されている。

「別に戦う事だけが望みじゃないから入学式に持っていくのは無粋ではあるけど」


「私はルカ様みたいに被弾した時の対処法がありませんから」

「その辺りは今後作ってあげるから安心して」

 その言葉に眉を顰めるスクワール。


 そしてスクワールの表情を楽しむようにルカはニヤニヤとほくそ笑んでいた。

「さてと。行きましょうか。先に色々見ておきたいから先に行きましょう」


 現在七時の鐘がなる寸前。通学鞄にタブレットとスマホを詰め、寮の外へ。

 朝の澄んだ空気が肺を満たし、快晴の空からは陽の光が当てられる。

「まだお姉様とエレナは寝ているのね」

「見送りに来ないということはそういうことなのでしょう」


 ルカが生活習慣を調べた所、この寮の生徒はだいたい七時頃に起床し、朝食は外か学食のような場所で食べている。

 ちなみにルカはそれらの調査はどうせ後で機会が来ると思っている為、この三日間は寮のキッチンを使ってスクワールに作らせていた。


「それじゃあ初使用って事で」

 ルカは寮の影に入った所に置いてある自身の身長の二倍程の立方体に触れる。


「バイク」

 と、呟くと音も無く形が組み変わり、あっという間に地球で見るような大型二輪に早変わり。

 真っ黒でシンプルな大型二輪だが、通常よりも空洞が多く、変形が前提の形となっている。


「ルカ様、いつの間に⋯⋯」

「ロマンあるでしょ。ちゃんと私の脚が着くようになっているのよ」

 二輪の荷台部分に備え付けられた箱にはヘルメットが二つ入っており、無言でスクワールに手渡す。


「初登校は作ったバイクで走りだす〜」

 ルカとスクワールはバイクに乗り、ルカがアクセルを踏む。


 春先の少し冷たさが混じるようなアルスマキアの風。

 メイド服と制服がなびき、人の少ない煉瓦道の大通りを風情のカケラも無い大型二輪が駆けて行く。

「私のタブレットにも備え付けられているけれど、これにも変換スクリプトが付けられてるから電気で動くのよ」


「エコロジーですね」

「ぶっちゃけこの時代にエコを語るのは無粋な気もするけれど」


 中世ヨーロッパに近い、という事はもう百年弱で第一次産業革命が起こる可能性があるという事。

 環境問題はその後でいい。ただ、この世界でそれが問題になるかと言われると可能性は低い。

「魔術的な変換スクリプトはプログラムみたいなもの⋯⋯というより脳でやってる事を機械化させるだけだから実際簡単なのよね」


 いずれ時代が追い付く。いや、呉島瑠楓のポリシー的に言えば「自ら追い付かせる」だろう。

「魔術はとてもいい。何せ魔力という自然エネルギーを自在に操れるのだから環境への被害は無い。気兼ねなく機械を動かせる」


 ガタガタと揺れる煉瓦を弾き、荒らしていく。

「二、三年以内にはコンクリートで舗装したいわね」

「⋯⋯少し早いのでは?」

「アスファルトの起源はメソポタミア辺りなのだから問題無いと思うのだけれど?」


「馬が足を痛めますよ」

「確かにそうね。なら六、七年に変更」

 とボヤキながらも二人が学園に到着。試験以来の学園だが、以前よりも人が少なく、二人にとっては過ごしやすい環境だ。


「バイクはどうしましょう」

「まだ私以外には動かせないし、その辺に置いておきましょう」

 大型二輪から降りた二人はヘルメットを所定の位置に戻す。


「待機」

 ポンと手を置いたルカの言葉に反応して元の金属立方体に早変わり。

「便利ですね」

「重たくて置き場所に困る事以外はね」


 ルカは正門の影に金属立方体を置き「通学用」と書いた紙を貼り付けておく。

「えっと確か⋯⋯」


 と、ルカがタブレットを開くと。

「ルカ様!」

 彼女の右後方から氷の礫が飛来し、頭部に激突する。


「あらら」

 被弾した箇所からは爆ぜるように血が溢れたが、一瞬で止血。

 痛覚も自身の電気信号を錬成し操れる為、特に気にする程の要因でもない為⋯⋯。


「髪が崩れる⋯⋯」

 その程度の認識だ。

 氷の礫が飛んできた方向を覗くが、そこにあるのは茂みと木々のみ。それらしき姿は見えない。


「一応聞いてあげるけれど⋯⋯どちら様?」

 と、聞いてみるものの声は聞こえず。

「はぁ⋯⋯⋯⋯そう⋯⋯⋯⋯」


 落胆しながらも、ルカは話を続ける。

「決闘っていう便利で野蛮な文化があるのに、どうして闇討ちしようとするのかしら。私には全く理解出来ないわ」


 少し大きめに声を出し、その反響から相手の位置を掴もうとする。

「所属が明らかになっていない相手は面倒ね」


 当たり前だが学園の生徒同士を殺すのは禁じられている。

 そもそもルカが好き勝手出来たのはレシーア領内だからであり、学園の敷地内はそれらが適応されていない。


「無視でしましょう。顔を見せられないシャイな人もいるって事で」

「よろしいのですか⋯⋯?」

 スクワールが戸惑いながらルカに尋ねる。


「今はまだ正直そこまで気にするような事じゃないもの。何か大きな事が起こってからでもいいと思ってるし」

 楽観視、というよりも例え相手に危害を加えられたとしてもあまり気にしていないという。


「それに、石を投げれる事には慣れているから」

 生前に浴びせられた罵声や苦情は数しれず。何度も襲撃にあっている為、こういったことは慣れっこなのだ。


「ルカ様がそう仰るのなら⋯⋯かしこまりました」

 と言って、二人はその場を後にする。


 嫌がらせの主犯は放置。

 というより、ルカにとってこれが嫌がらせというカテゴリーに入っていないのもまた、彼女の考え方の特異さが現れている。



 -----



 校舎内を歩き回るルカとスクワール。

 教室をひとつひとつ見ていく二人は雑談に花を咲かせていた。

「教室には基本ブラックボード常備なのね」

「所謂黒板ですね。そんなに凄いことなのですか?」

「⋯⋯その辺の知識は入れていなかったかしら」


 と、チョークを観察しながら答えてくれる。

「黒板が使用されているのは驚く事じゃないのよ。技術レベルは中世ヨーロッパだとしても、それらが作られない保証は無い」


「ならどうして?」

「黒板が使われているというより、黒板が量産されている事に驚いたの。平民の学校なんて、青空教室がいい所。でも椅子や黒板が多く生産されている事を見ると、やっぱり違いは出てくる。あ、チョークの粉は石膏みたいだから、肺に入れちゃダメよ」


 チョークは石膏、所謂硫酸カルシウムであり、人体に影響は無い為適切な使い方をしていれば問題はないものの、目や肺に粉が入ってしまうと危険な物質で構成されている。


「量産が始まるのは産業革命前、資本主義が形成されつつあった頃」


 地球における資本主義は資本家の台頭から始まる。

 当時は中学校を出ていればエリートと呼ばれていた時代。労働者達を"手練手管"の限りを尽くし、財産で生産体制を整える事で、知識のある資本家の下、様々な物を大量生産するようになった。


 それらが後に形作られた結果資本主義という形となり、機械化が進行し産業革命が起こり、ますます加速したという訳だ。


「だから黒板そのものがあっても、それを教室全部⋯⋯百に近い数を同じようなクオリティで作るのは凄いことだし、椅子や机なんて数千なんて数⋯⋯あー、待って今の発言は無し取り消し」

「⋯⋯⋯⋯?」


「いや、自分が出来るのだから別に不思議じゃないのよねって思って」

「⋯⋯なるほど、錬金術ですか」


 そう。この起こりがこの世界では適応されない理由。

 物質そのものを変化させ、自由に形を形成出来る錬金術という技がある以上、それらは当てはまらない。


「魔法があると科学技術が進歩しない、なんて言われていたけれどその通りになるみたい。そもそも機械が必要無かったって所かしら」

 機械よりも利便性に富んでおり応用も効く技術があるのだから、進歩しないのは当然なのだが⋯⋯。


「でもそれじゃあ人が部品になるだけで変わらないのよねぇ⋯⋯」

 機械の代用が錬金術師では意味が無い。技術とは万民が使えてこそである。


「人を部品にするルカ様がそう仰いますか」

「技術の向上が出来るのならいいじゃない」

「私に施すのは技術も何も無いですが」

「人体そのものの基礎スペックが向上しているのだからノーカンよ」


 ルカの目的が人類の進化というのは当初から変わっていない。


 いや、生前から変わっていないと表記するべきだろう。


「設備や環境はまあいいんじゃない? むしろ想定以上」


 教室の窓から見える正門には疎らに生徒達が歩いてくる所が見える。

「そろそろあの二人が来そう。行きましょうか」


「⋯⋯結局ルカ様は何がしたかったのですか?」

 態々二人に何も言わず早朝から学校に来たにも関わらず、時間になったらエレナ、シルヴィ両名と合流しようとするルカの行動に違和感を覚えたスクワール。


「⋯⋯意味なんて無い、なんて事は無いけれど⋯⋯強いて言うのなら⋯⋯」


 ルカはくるりと振り返り、怪しげな笑みを浮かべる。


「"眼"を置きに来たって所かしら」


 学園でルカがやりたいこと。その事前準備に来ただけ。


 しかし、やはりと言うべきか。


 この行動が後に重要な一手になるのだった。




ちなみに入学式を書こうとしましたが、イベントがなさそうなのでやめました。次回はクラスメイトとの邂逅です。

あと資本主義関連のお話は学校で習った所なので、間違っていたら教授しばく。

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