学生寮
この章に入ってまだ死人出てないの笑っちゃいますね。ルカは優しいので必要無い時は誰も殺しません。
「お前ら⋯⋯何モンだよ⋯⋯」
ルカ達が競技場から出る為に通路に向かうと、エレナが先回りして目の前に立っていた。
「何モンって言われてもね」
「あんなバケモン当てられて、しかも余裕の顔で突破しやがって。絶てぇ普通じゃねぇ⋯⋯」
少し自信を失ってしまったような悔しげな表情のエレナ。
「余裕と言いながらも、ルカ様は腕を吹っ飛ばされていましたよね」
「基本的に魔術や錬金術は脳で回すのだからあれくらいはダメージに入らないわよ。欠損した部位と同等の質量体があればいいのだもの」
サラッと言っているが、普通なら地球の知識があってもできない芸当だ。
「この後は⋯⋯指定された学生寮に向かうらしいのだけれど⋯⋯」
「お主らは貴族女子第六寮じゃよ」
と、迷っていた所にヴァイラントが現れる。
「第六⋯⋯結構近いのね」
タブレットの地図で場所を確認するルカを横目に、ヴァイラントがスクワールに携帯端末を手渡す。
「凄いのう。コレワシも欲しくなっちった」
「これが無かったらほとんど分からなかったでしょおじいちゃん?」
「おじっ⋯⋯」
エレナが言葉遣いに驚くが、そんな事を気にしないヴァイラント。
「カッカッ。まさかそこのメイドに手動で指示を送っているとは思わんかったわい」
試験中のタブレット操作は全てスクワールへの指示出しだ。
電波に乗せて直接脳に書き込むような形ではあるが、言葉でのコミュニケーションを必要とせず、本人が理解せずとも理解させる事が出来る。
「にしても"勇者の試練"を突破するとは思わなかったのう」
「勇者の試練?」
ここに関しては素直に質問するルカ。
「そうじゃ。『五分間逃げろ』という課題に真っ向から挑む。勝ち目の無い戦いに挑む勇気を求められる試験じゃよ」
「そう⋯⋯」
それは勇気と無謀を履き違えるような者も出てくるかもしれない、と考えたがルカは口にはしなかった。
「ま、実験も兼ねていた上に色々研究対象が見つかって個人的には満足よ」
「それは本来こっちが言う事な気がするんじゃがな⋯⋯」
「あらおじいちゃん、悪巧み?」
「そんな事せんわい。単に子供の実技レベルの統計を取ってただけじゃ。最近レベルが上がってて嬉しいのう⋯⋯」
悪徳な学園理事という訳でもなく、単に若い世代が育って欲しい。そういう想いが込められていた。
「さてと。次の人の時間を奪うのも良くないしそろそろ行こうかしら。おじいちゃんもこの後の審査頑張ってね」
「ほいほい。入学式で会えるのを楽しみにしておるぞ」
と言って別れを告げたルカの後ろを着くスクワール。
「⋯⋯この世界は優しい人が多すぎる」
「ルカ様とは大違いですね」
「あら? 私も優しいと思うのだけれど?」
「ルカ様は人を愛しているだけで人に優しい訳ではありませんよ」
「認識の相違ね。私の知識を入れたのにどうして⋯⋯」
最近では軽口を言い合うくらいどうと言うことも無くなった。
貴族と傍付きのメイド。立ち位置に大きな違いがあるものの、二人はそれを意識しない。
それは互いに理解している証拠である。重要なのはそこではないという事を。
「⋯⋯ぉい!」
「寮に行く前に何か買っていきましょうか」
「いいですね。この身体は出力が大きい分消費カロリーも大きいので。甘い物を希望します」
「お、おい!」
大きな足音と共に少女が駆け寄ってくるが、全く意に介さない。
「いいわね甘い物。私は必要な栄養素を身体の中で錬成すればいいから何食べて変わらないし」
「おい!」
「あら? 気が付かなかったわ」
二人が立ち止まり、振り向くとそこにはエレナの姿があった。
「なんで無視すんだよ!」
「気が付かなかったって言ったでしょ。それよりどうかしたの?」
タブレットを開き、スクワールへと「甘い物買ってきて」と打ち込みながら尋ねる。
「アタシも第六寮なんだってさ」
「一緒なのね」
スクワールはお辞儀をしてからその場を後にした。
「第六は⋯⋯パブリックスクールの寮みたいな感じなのかしら」
「パブ⋯⋯なんだ?」
パブリックスクールとはイギリスやイングランドに存在する寄宿制の学校である。
主に貴族や資産家の子といった上流階級の者が学ぶ場であり、人々の前に立つリーダー的存在を育成する格式の高い学校なのだ。
「まあ行きましょ。⋯⋯そういえば貴族寮ということは貴女も貴族なのかしら?」
「おう。帝国屈指の武闘派スチュアートって言えばわかるだろ?」
「いえ、初耳よ」
「ぁぁ!?」
勿論冗談である。
スチュアート家はレシーア家と同様大貴族であり、アルスマキアの武力方面を担っているという。
「⋯⋯帝国の武力を担う一家、そのご子息という事ね」
「なんだよ知ってるじゃねぇか」
「その言葉遣いのせいね。最初は街中の拳法家かと思ったもの。貴族女子寮って言われてようやく思い出したのよ」
「んだと!」
とはいえ、スチュアート家との繋がりが出来たことは大きいと感じている。
「貴女とは長い付き合いになりそう」
「あ? なんでだよ」
「私がそう決めたからよ」
ルカが現在組み立てている"実験"にはスチュアート家の『武力方面の権限』が必要になってくる。
「なんで仲良くしねぇといけねぇんだ⋯⋯」
ケッ、とそっぽを向くエレナだが、満更でもなさそうだった。
「私も一応レシーアなのよ。仲良くして損はないと思うのだけれど?」
「ハッ。分家のカスじゃねぇか」
「⋯⋯⋯⋯分家じゃ不満?」
「不満だね。アタシと釣り合わねぇ」
「そう⋯⋯⋯なら⋯⋯⋯⋯」
思考を巡らせ、様々な事象を天秤に掛けながら。
「私が本家になればいいのかしら?」
政略も、計画も一度ぶち壊し。
武力面、所謂軍部を手に入れる事が出来るのであればそれも吝かではないと考えてしまう。
悪い手では無いかもしれない。現状のメリットは一人のみなのだから。
「⋯⋯てめぇまさか、本家の連中を皆殺しにする気か?」
「必要ならしようかしら?」
予想外の答えに屈託の無い笑みで返す。
勿論ルカ自身にそこまでするメリットは無い。
調べてみて分かったことだが、ルカが思っていた以上にアーサー・テオ・レシーアが優秀なのだ。
レシーアは流通や経済といった部分を担っている大貴族。
そしてアーサーはそれら全てを捌き、尚且つレシーア領の内政も処理している。
(アーサーとエレナ。どちらを取るかと言われると悩ましい所なのよね)
人脈や内政のアーサー、武力のエレナ。
強みの方向性が違うが故にどちらかを選べと言われれば迷ってしまう。
「んだよ、冗談だって。アタシは強いヤツなら歓迎だ」
「あらそう」
思っていたよりもスッキリしているような性格なのかもしれない、とルカは考える。
実際、今決断が必要では無いのならばそれでいい。
時間はいくらでもあるのだから。
と思い耽っていると。
「待ってー!」
と後ろから聞き馴染んだ声が掛けられる。
「あら、お姉様」
「わ、私も⋯⋯第六だから⋯⋯一緒に⋯⋯」
息を荒らくさせて駆け寄ってくるシルヴィ・レシーア。
「そうなのね」
「それと、おねーちゃんを置いてかないでよ⋯⋯寂しいよ⋯⋯」
そういえば声を掛けるのを忘れていた、と耳の後ろを掻きながら反省する。
「そうよね、大事な姉を置いて行くのは⋯⋯少し薄情ね」
シルヴィをどういう立ち位置で考えればいいのか未だに考えていないルカは、そんな常識的で何でもない言葉を返した。
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その後門を出て数分歩いた所でスクワールと合流し、二、三分歩いた所に貴族女子第六寮に到着する。
「⋯⋯お洒落ね」
全体的に煉瓦造りでシックな雰囲気の三階建てで大きな建物。それなりに大きな敷地に建てれられており、庭には小さな池やガゼボが備え付けられている。
「立派ですね、寮というよりも洋館に近いかもしれません」
「あの庭でお茶する屋根付きのアレ、実物は初めて見たわ」
「私もです」
ルンルンと前に出るシルヴィは寮の扉に手を掛ける。
「今日からここで暮らすんだよ!」
ガチャリと扉が開かれ、四人は中に入っていく。
玄関ホールにある落ち着いた装飾の階段を登って行き、空き部屋を確認しながら進んでいく。
「個室があるのは助かるわ」
ルカのイメージとしては有名な魔法使いの映画に出てくる学校であり、二段ベッドが所狭しと並んでいる空間だった為、そこは非常に驚いている
「貴族特権って凄いよね」
「平民は二段ベッドなのかしら」
二階の空き部屋は二部屋隣同士だった。
「じゃあ私はこっちで」
と、ルカが指を差したのは壁側で窓の多い部屋である。
「アタシはいいけどよ。理由は?」
「増築しやすいからよ」
なんでだよ、と呟きながらもお互い部屋で荷物を置いて出てくる。
ちなみに部屋はそこまで広く無い。ただの六畳ワンルームで、机とベッドで埋まってしまいそうな程度。
「私達は二段ベッドね」
「使用人用のお部屋があるけど⋯⋯」
「私は一応『武器』として書類に登録されておりますので、ルカ様のお言葉通り二段ベッドに致します」
涼しげな顔でそう宣うスクワールにギョッとする二人だった。
「で、ここがリビング。みんなでお話したりお茶したり、勉強したりするんだ!」
中央には複数人で使う為の机やテーブル、端には暖炉、全体的にクラシックな装飾や壁紙。
視界の端に映る少し開けた扉の奥にはキッチンなどの調理場が見えるものの、使用頻度は高くないのか手が着けられた痕跡は無い。
「アレは使ってもいいのかしら?」
「いいけど⋯⋯ルカは何か作れるの?」
「多少なりと作れるわよ。お姉様のお口に合うかはわからないけれど」
リビングには柔らかそうな椅子がおいてあり、エレナがドカッと座る。
「ふぃ〜」
「お行儀がよくありませんね」
「貴族らしくないって? 気にすんな自覚はしてる」
あまり表情を動かさないものの、スクワールはエレナに対して良い感情を抱いていない。
傲慢で大雑把、それでいて我儘なエレナは真面目な性格のスクワールとは相性が悪いのだ。
その後も庭や浴場を周り、それぞれの部屋に戻る。
部屋の中には机と最低限のベッド以外には何も無い。
「荷物は明日に着く予定よ。でも貴女が寝るベッドが足りないから、ちょっと錬成用の素材を買ってきて頂戴」
と言ってアルス金貨がたんまり入った小袋をスクワールのポケットに入れる。
「かしこまりました。石材関連で大丈夫ですよね?」
「構わないわよ。その辺りは錬金術でどうにかなるし」
錬金術の性質上密度の高い素材の方が効率がいい為、ルカとしては石材が好ましい。
「本家から届く荷物もそう多くないし、明日は休日でいいわよ」
「それは⋯⋯自由行動が許されると?」
「ええ。前にも言った通り、ゆっくりしてくるといいわ。学校が始まったら働いてもらう⋯⋯かもしれないもの」
実の所、ここから先の予定はルカ自身決めていない。
大雑把な計画、実験の予定は定めているものの、それは「流れで行えばいい」ものであり、今やらなければならないというものは無いのだ。
そもそも今のルカには時間が有り余っている。
最高効率には拘らず、今無理に事を進めるよりも折角学習の機会に恵まれたのだから、この世界を学習する時間に当てたいと考えていた。
「夕食はお姉様と外で食べる事になっているから、早めに帰ってきてね」
「かしこまりました」
小さくお辞儀をしてスクワールは外へと出て行く。
「⋯⋯新人類のモデルケースね」
何者でも無かったスクワールは、ルカにとっての武器であり、新人類の象徴に仕立て上げるべき存在。
「この世界で知らない事がまだまだたくさんある」
ぼんやりと考えながらベッドに寝転ぶ。
「私は地球における科学文明の未来を知っている」
科学に支配され、科学を突き詰め続けた世界の歴史を知っている。
だが、それは地球の話である。
「私はこの世界、この星における魔術文明の未来を知らない」
ルカが未来を創る事は簡単だ。
だが、それではルカが知らない未来には辿り着けない。
現状では科学文明に押し潰されてしまう。
「科学的な知識に囚われている私が未来に進めるのは可能性を潰してしまう行動になってしまうのよね」
だからこそスクワールはその為の最適化を行った。
勿論今出来る最適化であり、今後改善点が見つかるかもしれない。
だが、スクワールの役割はあくまで象徴。歴史を開拓し未来へと進めるべき存在は別であるべきなのだ。
「そもそも彼女は器なのだからそれだけやってくれれば充分」
ルカの選択肢は今の所二つ。
「⋯⋯魔術文明の未来を私が創るか、魔術文明の未来を創れる人を創るか」
歴史を先導する事は簡単だとルカは考えているが、実行するかは別問題だと考える。
「数ある可能性から一つを選ぶ。私がその役割を果たせるくらいには選択肢が欲しいのよね⋯⋯ふわぁ」
小さく欠伸をしながら、子供の身体と思考の感覚のズレに苦笑いを浮かべた。
ルカは生理現象で兎や角言わないタイプの科学者なので、身体の指示に従って大人しく静かに目を閉じる。
端的に言えば、子供らしく昼寝をすることにしたのだった。
もしかして今章は大人しい⋯⋯?
次回はスクワール視点ですがこっちも大人しい予定⋯⋯。
まあ入学したら血塗れになる予定ですが。
ルカが今大人しいのは知らなければいけないことが多すぎるが故です。が、知らなければいけないことを知るために人が必要なら余す所無く躊躇わずに使い潰します。そういう子です。




