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選別試験 堕天の勇者

ラスボス風強敵戦です。

 


「五分間逃げ切ればいいだけでいいのは助かるけれど⋯⋯アレは完全に想定外」

「まあ、見た目的には完全に"科学の埒外"みたいな存在ですしルカ様との相性は悪そうですね」


 外見は天使にも似た存在。溢れる奔流もこの世界の理の外から現れたという印象を受けていた。

「まあ戦いながら解析していけばいいでしょ。この世界に顕現している以上ある程度物理法則に支配されるものでしょうし」

「では、ご命令を」


 ルカはいつだって余裕を忘れない。想定外の事象にも真摯に見つめ、冷静に対処法を見つけ出す。

「天使。勇者。英雄。伝説ね⋯⋯」


 ブツブツと呟きながら、ルカはタブレット端末を操作。


「RAAAAAA」

 勇者から美声の歌が響く。

 まるで天への使いが齎す讃歌のような美しさだが、その声と連動するように上空には複数の魔法陣が出現。


 そこから空気を焼き切るような紫色のレーザーが幾つも放たれる。


 その光はまるで天罰。天に背いた悪を滅ぼさんと振り下ろされる裁きの雨だ。

「"結晶氷盾(クリスタルシールド)"」


 スクワールは氷属性上級魔術で己とルカの頭上を遮り、レーザーを遮断。

 激突と同時に衝撃が走り、客席の一部生徒が余波によって吹き飛んでいた。


「倒し切る必要は無いのよね」

「はい、ですが⋯⋯」

「何? アレを倒したいの?」


 と、ルカが問いかけると、スクワールは俯く。

「正直、アレに勝つよりも後学の為の分析に当てた方がよっぽど有意義だと思うの」

「それはそうなのですが⋯⋯」


 ルカにはプライドが無いのだ。


 勝利条件が五分間耐え抜くというものならば、しっかり五分間耐え抜こうとする。

 それ以上もそれ以下もない。


 今尚上空に佇む勇者は、スクワールへと向けて剣を振るう。

 すると虚空が切り裂かれ、その軌道上にあった地面が割れる。


「っ!」

 パッとスクワールが回避したものの、ルカは。


「ルカ様!」

 その軌道上にあった肩口は切り裂かれ、左腕が落ちてしまう。


 そこからボタリと血の塊が落ちるものの、一瞬で傷口は塞がり何事も無かったかのように足元の砂で左腕を錬成し、胸元まで蹴り上げる。

「別に大した事じゃないわよ。それよりも今のアレ、体感で言えば風の魔術っぽいわね、はむ」

「⋯⋯そ、そうですか」


 切り落とされた肩口から生えた一本の触手が、ミチミチという音を立てて口で加えた左腕へと伸びて行き、左腕と融合。そのまま元の形に戻っていく。

「触れてみないとわからないこともあるでしょう? レーザーに関しては⋯⋯ぶっちゃけ一回見ただけじゃわからないわ」


「一回見れば大抵の事はわかるみたいに言わないで欲しいですね」

「だってホントに一回見ればわか⋯⋯」


 と、その直後。ルカの真横に勇者が現れる。

「RAAAAAAA」

 美しい声とは裏腹に神速の剣が振り下ろされる。


「高速移動? 位置情報の書き換え? 現実的に見て高いのは⋯⋯」

 金色に光り輝く聖剣の刃を人差し指の腹で受け。


「前者ね」

 触れた瞬間、即座に結論付けたルカは指先で()()()()()

 高速移動によって発生した勢いと、剣を振り下ろしたその速度、指先と刃の間に発生した圧力。


 その他諸々のベクトルを全てを反発力に錬成し、勇者側に押し付け、発生した斥力すら全て勇者側に錬成する事で、簡単に弾き返すことが出来る。


「⋯⋯発生する事象全てを数式に表して可視化する事で錬成出来るようにする。⋯⋯そのインチキ錬金術の真相がようやく理解出来ました」

「インチキって何よインチキって」

「最早錬金術と呼ぶには別のモノになってそうですが。ただ、ホントにインチキなのはそれを成し得るルカ様の演算能力だと思います」


 本来は卑金属を貴金属に変えたり、材質の形を自在に操るのが錬金術である。

 ルカは物質の書き換えや操作という点に着目したのだ。


 物質の構造は目に見えた数式で表せるものあり、普段から扱っていた為認識も容易い。

 それ故にルカは目に見えた数式である熱量や圧力といった物質では無い現象を随時演算して操っている。


 それらを()()()()でも行っていたからこそ超天才と呼ばれるに至ったのだ。


 しかしながら今回の相手は世界の理の外からやってきた存在。

 科学的な対処法が難しく、ひとつひとつ紐解いていかなければならない。


 科学的な法則に支配されたルカの天敵と言えるだろう。


 普通であればの話だが。


 勇者は跳ね飛ばされたものの、空中で起動を変え、再び迫ってくる。

「RIIIIIII」


「向かってくるのね、でも残念」

 意気揚々と踵で地面を蹴り、足元で砂を錬成。

 そこから大槍が成長するように射出され、勇者を競技場の壁まで吹き飛ばす。


「外からやってきても世界の法則(ルール)には囚われる。だからこの世界に存在しない素粒子で構成されていても、自我を持ち、生物として活動するのなら顕現時には存在する素粒子に置き換えなければならない、といった所かしら?」


 外側と内側の法則(ルール)。あくまで仮説だが、常に脳を回し続けているルカにとって解析は朝飯前なのだ。


「予定とは違うけどやっていきましょうか」


 ルカは再びタブレットに目を移す。


「"氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディン"」


 そしてスクワールが魔術を使用。純正な氷と魔力で造られた氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンが二人を睨む勇者の間に立つ。


「"氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディン"」


 更に同じ魔術を使用。


「"氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディン"」


 もう一度。


「"氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディン"」


 更に。


「"氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディン"」


 総勢五体の氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンが現れる。


「あれはレシーア家秘伝の上級魔術⋯⋯」

「なんでメイドなんかが使えるんだよ⋯⋯」


 吹き飛ばされずに残っていた生徒達が口々に呟く。

 氷属性上級魔術"氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディン"は先程もルカが説明していた通り、氷属性の「聖騎士」を呼び出すもの。


 単体でも一級の騎士を凌駕し、単体である程度の氷属性魔術を使用できるレシーア家の秘伝であり切り札。


 しかしながらこれにも弱点があり。


「っ⋯⋯!」

「頭痛⋯⋯となると演算処理容量不足(キャパオーバー)かしら。今貴女が同時に操れる氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンは五体までなのね」


 魔術的演算の限界値が各々決まっているという事だ。

 魔術は基本的に脳に存在する演算器官で処理される。

 即時発動し放たれる"炎球(ファイアーボール)"のように、『演算して魔術を構築、放つ』という工程であればその器官を数秒使うだけで、大きな負担はかからない。


 しかしながら"氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディン"は『演算して魔術を構築、維持、行動を命令』というように常に脳の演算器官がフル稼働している状態になる上に『移動地点、攻撃角度、回避方向』といった細かな指示すらフワッとしたイメージでは無く明確に指示を出さなければならない。


 魔術的演算を常に行う為負担も激しく、例え調整され最適化されたスクワールの脳でも、危うい使い方なのだ。


 デメリットはもうひとつ存在する。

「視界が⋯⋯⋯⋯」

 全ての氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの視界は全て使用者本人が閲覧するもの。つまり現状スクワールの視界には六つの視界を同時に処理している事になる。


「初めは酔うわよね」

「ルカ様は⋯⋯経験があるのですね⋯⋯」

「実験で何度か。その時は映像だったけれど、すぐに慣れるはず」


 氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンを維持しつつ六つの視界を全て処理し続けるスクワールの負担は計り知れないものだ。

 しかしながら生前のルカはこれを体験している。


 端的に言えば「映像器具で映されるビデオを直接脳に書き込み続ける実験」でフルダイブゲームの実験である。

 普通に寝ずに起きたままフルダイブできた方が効率的では? という狂気じみた発想から生まれたこの実験は、確かに成功したものの、ルカ以外の被験者が現実とゲームの境界であやふやになり酔ってしまうという結果になったという。


「だからお母様もあまり使わなかったのね。まあいいわ」

 そしてタブレットを操作する。


 直後、スクワールは氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの影に隠れるように移動しつつ、背中のアサルトライフルを構える。


「対人戦闘では無いけれど、コスパのいい人形の使い方なんてこれしかないでしょう?」

 吹き飛ばされたものの、空中で押し留まった勇者は左手から直線的な雷を放つ。


「⋯⋯っ!」

 演算処理しながら氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの一体が持つ剣で受け止め、氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの足元から銃口を突き付ける。


 タタタン! タタタン! タタタン!


 鉛の筒から空気が炸裂したような軽快で耳を劈くような轟音と共に、人体を一撃で致命傷に追い詰める鉛の弾が三発を三回、合計九発放たれる。


 勿論雷よりも遅い。銃弾が光の速度に適うはずも無い為本来の勇者であれば対処出来る。

 それでも想定以上の速度を持った物質が飛来する以上、全てを捌き切ることは難しい。

「RUUUUU」


 勇者は氷の礫を生成し、ピンポイントで撃ち落とそうとするものの、幾つか失敗し二発被弾してしまう。

「RAx……」


 そしてスクワールへと魔術的な何かを放とうとするものの、既に先程の氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの後ろにはいない。


 タタタン! タタタン! タタタン!


 今度は先程の氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンから少し離れた氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの左腕側から射撃。


 勇者が銃弾に対応しようと意識をそちらに向けている間にスクワールはすぐさま勇者の左側五メートル程の氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの影に移動。


 対応して、今度は銃弾を全て撃ち落とすものの、その直後には再び。


 タタタン! タタタン!


 二度目の射撃を終えたスクワールは既に走り出しており、徐々に勇者へと近付いている。

 しかし勇者は再び氷の礫で撃ち落としてしまう。


「生物というよりもAIみたいな思考パターンですね」

 スクワールの率直な感想である。


 近付いてくる相手の攻撃は避けずに小さなモーションで撃ち落とそうとする、相手の攻撃が行われていない時には大振りの攻撃。


 勇者には飛行というアドバンテージがあるものの、魔術的攻撃よりも高機動を活かした剣による接近戦の方が主体。

 逆に雷やレーザーといった攻撃はあるものの、魔法陣が出現し予備動作が大きくてわかりやすい。


 つまるところ。


「攻撃し続けるべき?」

『正解。流石私の知識を入れただけの事はある』


 攻め続けて攻め続けて攻め続ける。単純明快でわかりやすい結論。


「こういうヒラメキは知識関係ありませんよ」

『ヒラメキは知識を元にしているのだから関係あるわよ⋯⋯にしても、結構意地悪なのね』

「というと?」


 二連射撃は勇者に防がれるものの、暇をしていた氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの一体で攻撃しつつ、勇者の死角から射撃。


 タタタン!   タタタン!


 氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンの攻撃からタイミングを少しずらして射撃し、更に射撃タイミングをずらすことで負荷をかける。


『そもそもは『五分間耐え抜く』事を目的とした戦闘。普通は守りを固めるか逃げの姿勢を取ってしまう』

「そのどちらも対処側に回される選択肢、その上相手の性質上対処側のリスクが何倍にも膨れ上がるからこそ、意地悪な課題という訳ですか」


 勇者の剣撃で氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンが破壊された所を横目に、再び氷剣の聖騎士アイスシクル・ソードパラディンを作成しつつ、他の二体を突撃させる。

 スクワールはもう一体に隠れながら空のマガジンを取り外してリロード。


『でもね、試験だけを見れば成功なのだけれど、勇者⋯⋯というより召喚術の研究っていう面で言えば失敗かしら。あのレーザーに関しては殆どわからなかったし、どういう仕組みで質量体を呼び出しているのかはわからなかったもの』

「⋯⋯申し訳ありません。私の実力が不足していたが為に十全なデータが取れず⋯⋯」


 再び同じ戦法で永遠に勇者を対処側に回す。

『いいのよ、そこまで期待していなかったから』

「それは⋯⋯」


 ルカがで時間を確認すると、実験終了まで残り七秒。

『私はできないことを期待しないし、できないことを命令しない。今回は貴女は私が飛ばした指示通りにやってくれたのだから、それで十分期待に応えていたのよ』



 それだけ言って端末をスリープモードにすると、同時にルカのAクラス昇格が確定した。


伊達に人類の進化という思想を掲げている科学者ではないということです。

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