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選別試験 戦闘試験開始

戦闘試験開始です。

 


 ルカが競技場に足を踏み入れると、奇異なものを見る視線が辺り一帯から突き刺さった。

 コロシアム状のフィールドで、少し視線を上げると観客席があり、多くは無いにせよ観客がそこそこ。その中にはシルヴィもいる。


 シルヴィは「がんばれー!」と声を上げているが、周りはそうでも無い。精々背伸びした落ちこぼれを見る目をしていた。


 中央にはタキシード姿の試験官がおり、黒いハットを深く被っていて顔はよく見えない。


「⋯⋯⋯⋯」

 ルカは地面の感触を靴越しに愉しむ。

 足元はグラウンドのような砂。そして空気はカラッとしていて絶好の射撃日和と言える。

 そして足元の砂を錬成し、ヘッドマイクとスピーカーのみのインカムを構築。それをボールを蹴り上げるように拾い上げる。


「これ付けておいて」

「⋯⋯インカムですか」

 インカムは投げ渡す前に付着した不純物を錬成で払い、ヘッドマイクは耳につける前に錬成で付着した砂を払う。


「準備万端です」

 カシャンと負い紐(スリング)で背負っているアサルトライフルを鳴らすスクワールはやる気十分と言いたげな無表情だ。


「これより、ルカ・レシーアの戦闘試験を開始します」

 試験官はその掛け声と共に魔術を使用。

「"召喚(サモン)月影狼(ムーンウルフ)"」


 試験官の前方に魔法陣が広がり、そこから灰色の狼が一匹現れた。

 人間よりも少し大きいくらいのサイズで、額には三日月のような模様があり、獰猛な視線がルカとスクワールを覗いている。


「私の召喚獣を五分以内に討伐するのが今回の試験になります。Eクラス戦闘試験、始めっ!」

「グルルルル、ギリャァ!」


 喉を鳴らしていた月影狼(ムーンウルフ)は主の命令で勢い良くスクワールの方へと駆け出す。

「召喚獣⋯⋯転移では無く? ゼロから構築したものかしら? だとしたらソレを構築している質量体はどこから⋯⋯」


 と、一人でに思考を巡らせながらタブレットを操作。


 その直後にスクワールが動き出し、自ら左腕に噛み付かれに行く。

「どう?」

「痛みはありませんね。痛覚遮断は上手くいっています」


 噛み付かれた部分からは血が溢れており、今尚噛み付かれながらもスクワールは平成を保っている。

「ねえ試験官さん?」

「な、なんでしょうか?」


 相方が噛み付かれている状況を横目に平然と質問をしてくるルカに若干の恐怖を抱く試験官。

「五分以内ならいつ終わらせても大丈夫なのでしょう?」

「は、はい。そういうルールですので」

「分かったわ。五分間きっちり使って実験しましょう」


 と言うと再びタブレットに視線を移す。

「うーん。スクワールの損傷的には実物大の質量を持った生き物ということになるのね。計測していないからどうも言えないのだけれど」

「幻のような感触ではなく、ちゃんと触れられますからね」


 そう話しながらもタブレットと自身の脳で演算を続ける。

 スクワールの身体にかかる負担やスクワールが感じている重量といった数値から、目の前の召喚獣について分析していく。


 ルカのタブレットはルカの脳波を受信し、その電気信号パターンから思考を読み取り、演算結果を算出出来る優れモノだ。


「OK、データは取れたから次に行きましょう。その狼を引き剥がして頂戴」

「かしこまりました」


 スクワールは右手をかざし、一言。

「"炎球(ファイアーボール)"」

 燃え盛る炎の球が至近距離の月影狼(ムーンウルフ)に着弾。


 その衝撃で月影狼(ムーンウルフ)は吹き飛び、同時にスクワールの左腕は小さな火傷を負う。

「そのメイド服は耐熱、耐刃、対弾に加えて耐衝撃用金属糸製だから生半可な攻撃は通らないけれど⋯⋯自分の身を傷つけるのは感心しないわね」


 ルカはスクワールの首に触れ、左手の火傷跡を錬成。腕は火傷を負う前の状態に戻る。

「ただの炎で吹き飛ぶ訳が無いのだし、"炎球(ファイアーボール)"の衝撃はまだ計算していなかったからデータ収集としては有難いのだけれど」


 炎属性初級魔術である炎球(ファイアーボール)はそこまで威力の高くない魔術ではあるものの、炎属性という特性上殺傷性は高い。


 そして『何故炎の球を飛ばしただけなのに対象が吹き飛ぶのか』という疑問を抱いたルカ。

「まあこれは後にしましょうか。次は戦術面。上手くやって頂戴」

「かしこまりました」


 ルカはタブレットを操作し処理を行う。

 その後スクワールが右手の人差し指を月影狼(ムーンウルフ)の足元へ向けて魔術を使用。


「"氷礫(アイスグラベル)"」


 指先に生成された僅か五センチ程しかない氷の礫は高速で月影狼(ムーンウルフ)と射出される。

 月影狼(ムーンウルフ)は"氷礫(アイスグラベル)"を避けるべく跳躍。

 礫は月影狼(ムーンウルフ)に当たる素振りも無く躱されてしまい、スクワールに迫ってくるが。


「はい、ちょっとタイム」


 横からするりとルカが入り込み、鼻先を摘む。

「グガッ!?」

「へえ、触らないと実感なかったけど、演算通りちゃんと質量体なのね」

 そのまま月影狼(ムーンウルフ)の向かってくるベクトルと少しの重力を錬成し、反発を加えたスナップで勢い良く弾き返す。


 その勢いは凄まじく、一瞬で競技場の壁にぶつかってしまう程。

「ま、次行きましょ」

「かしこまりました。"風刃(ウィンドブレード)"」


 スっと手を月影狼(ムーンウルフ)に向けたスクワールは魔術を使用し、不可視の斬撃を放つ。

 中級魔術"風刃(ウィンドブレード)"は風という特性上の視認性と真空状態を刃の形に形成し飛ばすというもの。


 案の定月影狼(ムーンウルフ)は真っ二つに切り裂かれ、粒子を漏らしながら消滅する。

「⋯⋯⋯⋯召喚術って謎よね。明らかに物理法則を無視しているもの」

「魔術も大概では?」


「魔術は魔力を媒介として、外気に含まれる多種多様な物質に干渉し変換する事で属性的な現象を形成しているもの。召喚は魔力で質量体を呼び出すもの。根本から異なっているわ」

「ではチェルノ様の「聖騎士」シリーズは?」

()()の「聖騎士」シリーズは魔力を使用して属性的な眷属、つまるところ胴体から鎧、剣に至るまで魔力を変換したモノで形成しているのだから、アレは召喚術では無く属性魔術の区分に入るのよ」


 ここで言う属性魔術とは炎や氷といった属性を利用した魔術であり、召喚やエレナが使っていた"強化"とはまた別の区分に当たる。

「ル、ルカ・レシーア! Eクラス戦闘試験突破! 次の試験に行きます!」

「申し訳ないわね、緊張感の無い試験で」


 その宣言と共に再び試験官の足元に紫色の魔法陣が現れる。

「"召喚(サモン)月影騎士(ムーンシャドウナイト)"」


 魔法陣の中から蠢く人影が現れる。

 胸元に光る黄色の三日月がトレードマークな全身真っ黒の鎧姿、禍々しい紫色のオーラを放つ大剣。

 身長は二メートルと三十センチ程の巨体であり、ギラギラとした生者を睨むような視線と喉奥から呻くような声は見る者を恐怖に陥れるだろう。


月影騎士(ムーンシャドウナイト)ってマジかよ!」

「Dクラス試験で出すような相手じゃないだろ⋯⋯」

「中級でも上位の召喚獣だぞ⋯⋯」

「あの人任せな落ちこぼれも終わったな」


 耳を澄ませると観客席の各地から同情するような声や、ルカを小馬鹿にするような声が聞こえてくる。

「人任せって酷いわね。列記とした外部武装、代理演算要因なのに」

「そっちの方が酷い扱いだと思いますが」


 小言を漏らすスクワールを無視し、試験官を見る。

「試験官さん。周りの声を聞いてるとEランクじゃ骨の折れる試験なんじゃなくて?」

「そんなことはありません。適正な試験です」


 初めて顔を見せた試験官は胡散臭そうな大人の男性。紫色の髪とちょび髭で、掴み所のなさそうな笑顔をルカに向けていた。

「そうなの。なら仕方ないわね。結局やる事は変わらない。むしろ人型なのだから感謝しないと」


「それではDクラス試験、開始!」


 試験官の掛け声と共に月影騎士(ムーンシャドウナイト)は駆け出す。

「LRAAAAAAAAA」

 奇声とも言える奇妙な掛け声で走り出した月影騎士(ムーンシャドウナイト)


「対人での戦闘能力を見たいわね」

 と言ってタブレットを操作。

「はいこれ」

 足元の砂で銀色のナイフを形成し、先程と同じような要領で蹴り上げる。

 柄の部分を掴んだルカはスクワールの胸元に上から投げ渡す。


「命令通りやって」

「かしこまりました」

 放物線を描いて投げられたナイフは完璧な軌道を描いてスクワールの手元へと渡った。


 アレで挑むのか、という周囲の声も聞こえたがルカは気にしない。

 と言うよりも、現状あまり驚異に感じていなかったのだ。


 その理由は。


「LRAAAAAAAAA!!!」

「⋯⋯」

 月影騎士(ムーンシャドウナイト)が放った上段からの一撃をナイフ一本で受け流す。


 そして次は流れで放たれた左水平斬りに対してナイフを使い、剣を飛び越えるように受け流し。


 右下からの切り上げもナイフで受け流しながら一回転してやり過ごす。


 そのように数度受け流し続け、ある程度ナイフが消耗してくると、今度は回避に切り替える。

 全ての斬撃を様々なパターンで回避し続けていく。


「⋯⋯中々動きがにぶりませんね」

『召喚獣ってスタミナの概念が無いのかもしれないわね。そもそも呼吸を必要としない可能性もありそう。私の知らないリソースが元となっているから、代謝の概念も根本から違うのかもしれないわ』


 暫く回避を続けていたせいか、いつの間にかルカとの距離が離れており、インカム越しでしか声が聞こえなくなっていた。


『さて。そろそろ四分経過よ。観察をする時間をくれるのは有難いし、記録させた技術も上手く活用出来ているのは分かったけど、試験に合格できなきゃ意味無いのよね』

「かしこまりました。では今度『示現流』というのも試させて欲しいです」


『いいけど、殺傷は禁止だと貴女自身が言っていなかったかしら?』

「ルカ様を脳天からカチ割ればいいので」


 雑談をしながらも、迫り来る大剣をスライディングで避けつつ、ボロボロのナイフで左の膝裏を切り裂く。

「LRAAA!?」


 そのままの流れで右膝裏を一閃。

 鎧の隙間から的確に狙われた足の関節が切り裂かれ、体制を崩した月影騎士(ムーンシャドウナイト)は大剣を地面に突き刺し何とか崩れ落ちないように保とうとするものの。


『そういうのはあんまり想像したくないわねぇ⋯⋯』


 月影騎士(ムーンシャドウナイト)の首元にナイフの刃がかけられ。


「冗談ですよ。まあ少なくともルカ様にはやらないので安心してください」


 思いっきり突き刺すと。


「"風刃(ウィンドブレード)"」


 風の刃によって月影騎士(ムーンシャドウナイト)の首が吹き飛び、粒子を撒き散らしながら消滅して行った。


「ルカ様にインストールされた戦闘技術で戦いましたが⋯⋯実戦のぶっつけ本番でも何とかなるものですね」

「まあ私は剣士ではないのだけれど、使いこなす事くらいは出来るのよ」


「ルカ様は一応『脳科学者』と呼ばれる区分では?」

「それはそうなのだけれど⋯⋯色々弄っている内に覚えちゃって。それに、知識なのだから知っていて損は無いでしょう?」


 受け流しや回避方法は全て()()()()の記憶のものであり、それらを脳に直接書き込まれたスクワールは、筋力量や動体視力を弄られた肉体で行使する事が出来るのだ。


 他者の記憶を覗き、記憶を抽出。それを更に他者へと潜在記憶として記録させるという行為は何度もしてきている。

 脳を弄る錬金術はその延長線上に過ぎない。ただ機械が行っていた事を自らの手で行うというだけの事。


 そもそも知識に飢えた彼女ならば、どんな知識があっても不思議では無いとスクワールは納得する。


 こうして話していると月影騎士(ムーンシャドウナイト)が消滅した時点で、試験官が持つ旗が上がる。


「ルカ・レシーア、Dクラス戦闘試験突⋯⋯」


 しかし。


「待つんじゃ」

 突如試験突破の掛け声に割り込むように現れたのは貫禄のある初老の男。そう、この学園の理事長であるヴァイラントだ。


「どうかされましたか、理事長」

月影騎士(ムーンシャドウナイト)は本来Bクラス昇格試験で使われる召喚獣。それを君の独断で使うのはどうかと思うがのう?」


「しかしながら、彼女の適性を測るには⋯⋯」

「違うじゃろう、()()


 独軍。そう呼ばれた試験官はニヤリと笑みを浮かべた。

「クックッ。流石の賢者様と言えど、気付くのが遅れたかな?」

「君の手数の多さには毎度驚かされる」


 呆れたように溜息を吐くヴァイラント。

「ルカ・レシーア!」

「何かしら?」

「貴様は今Bクラスに昇格した!」


 突如として雰囲気が変化する試験官。一般人Aという印象から、オーバーリアクションな道化という破天荒な切り替わり。

「我が名はマリシュ・グル・ポルツェット。魔術序列十八位の"独軍"である」

「⋯⋯召喚術のおかげて独りなのに軍として扱えるから独軍なのね」


「その通り。聡明ではないか、ルカ・レシーア」

「普通に気が付くでしょ。それよりも、B昇格は有難いのだけれど、それならそれで進めて欲しいわ」


 魔術序列十八位、独軍のマリシュ・グル・ポルツェット。数千にもなる召喚術を扱い、単独で軍団規模の戦略をこなす事が出来る事から独軍と呼ばれるようになった。

「いやはや待て待て。俺は今興奮しているのだ」

「少女に興奮なんて随分と物好きね」


「口が達者だなルカ・レシーア。ある意味ではその通り! 優秀なヤツを見ると興奮してしまうのだ!」

 ルカは思った。この人は世間的に言う所のちょっとめんどくさい性格をしているのでは無いか、と。


「私はコレで遊んでいただけなのだけれど」

「何を言うか。そこのメイドに指示を飛ばしていたであろう」


 言い訳をしたものの、見られていては言い逃れできない。

「そういう訳だ、貴様には最高の試練を用意してやろう!」


 と言ってオーバーリアクションでバサリとマントを羽織り、手をかざす。



「"召喚(サモン)偽章・(フォルス・)堕天勇者(フォールンブレイブ)"」



 ゴウン、と空が鳴る。


 競技場中央の魔法陣が鳴動し、力の奔流が溢れんばかりに客席を蹂躙する。


「あら、やっと本命?」

「楽しそうですね」

「未知を知るっていうのはいつだって楽しいものよ」


 ルカは心底嬉しそうに答えると、自らの瞳を錬成で弄りその奔流を細かく視認する。


(わからない、というより完全に世界の理の埒外みたいな物質で構成されている?)


「完全にラスボスじゃない」

「実験の相手にはうってつけ、という訳ですね」

「流石にここまでのものを持ってくるとは思っていなかったのだけれど」


 魔法陣が回り始め、浮かび上がる。

 そこからぽっかりと空間に穴が開き、六枚の黒翼が生えた鎧の大男が姿を現した。


 真っ黒な天使の六枚羽に、漆黒の鎧。それでいて右手に持つのは純白に輝く聖剣。


「見ているかルカ・レシーア! あれこそが勇者! かつて悪逆の限りを尽くした魔王を滅ぼした伝説上の存在!」

「伝説上⋯⋯」

 昔、()()()()()()()が読んだような記憶がある、と思いながらその姿を眺めている。


 禍々しくもあり、どこか神々しい。そんな神秘性を持つ存在が目の前に顕現していた。

 背姿は人間大程度だが、二メートル近い六枚の翼の影響で全体で見れば大きく見えてしまう。



「ルカ・レシーアよ! これよりAクラス戦闘試験を開始する! 君はこれを倒す必要は無い! ただ逃げれば良い!」



 ただ逃げろ。目の前の存在はそれ程までの規格外の存在なのだ。



「五分間、この勇者から死なずに生き残りたまえ。それが君への試練だ」



なんかC昇格とB昇格を飛ばしたら凄いの出てきちゃいました。作者の感想としては「完全にラスボスじゃない」です。


少なくとも五歳児に当てるようなヤツではありませんし、20話で出てくるようなヤツでは無いです。


ちなみにルカとしては、勇者よりもマリシュの使う召喚術の方が気になるみたいです。彼女らしいですね。

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