無名作家による異世界転生
見渡す限り、どこまでも広がる青い空と野原の真ん中にて、俺は目を覚ました。
むくりと起き上がり、そこがまず自分の知る景色ではない、全くの未知となるそこにいる。そうして一瞬こそ、いつぞや見かけた素人向けドッキリ企画かと思ったが、そんなことは無い。あらゆる可能性を考えだしても、どれにも当てはまらなかった。そしてようやく『まさか』と思える可能性だけが残った。
『異世界転生』。
それも、もう『異世界転生』というジャンルが、ほとんど名が知れ渡った上で、だ。まさか俺がなるとは。それが今まさに重い腰を上げ、必要な要素を拾い集め書いていた最中に、だ。
俺は中田 あつし。一文字違いなら教科書に紹介される作家と同じとなったはず。だが、所詮は名前だけだ。それを知った高校の、国語の授業なんて俺だけが喜んでいたと思う。
あまり人付き合いしない、人と喋らない、近所付き合いもそんなしない。ナイナイ尽くしの俺は、こうしてどういうわけか、異世界へとやってきた。
鼻と口から、どうやらたくさんの血を流して、しばらく経った後にここへ来た。ボロボロと剥がれ落ちた血の塊が風にあおられたり、俺が少し動いたりしただけで落ちていく。ちょうどよく野原にぽつんと在った池に、久しぶりに手を顔を洗い、そして自分の顔と対面した。
「……間違いない。俺の顔だ。身体も、そのままだ」
誰もいない池の側。髪は解かさず固まり、シワシワで着古した無地の服には血の跡が一周回ってアートと化している。不器用かつ下手くそのため、所々剃りきれてないかなり伸びたヒゲが、おおよそ長い時間が立ったことを教えてくれた。
「……あぁ、っと、何かこう、スキルとか、チートとか……あるんだっけか。俺にもあるか? 無いよなぁ……。……誰もいないな」
“すてーたす、おーぷん”
たどたどしいその声。自分でも思う。耳障り極まりない。だからか、いや当然か。誰もそれに応えてはくれない。死ぬほど恥ずかしい。何度も辺りを確認するが、誰もいない。まだ救われているのか、もし透明なやつとか耳のいいやつとか目がいいやつとかいるなら、俺のよくわからない様子を、笑うだろう。
「よっこいしょ……。高いところ、高いところ……」
最近のゲームならすぐ手元に地図があろう。俺の手には何も無い。固まった血の欠片がまだくっついているだけだ。
膝が痛い。腰が痛い。頭痛もするし、何よりメガネの度が合わなくなっていた。……つらいな。俺はもうここまで老いたか。いや、日ごろの不摂生の賜物だ、勲章だ、結果だ。
目を覚ましたところから池は近かったが、高いところは歩かねばならなかった。一駅先のコンビニに徒歩で歩いて向かうような、実際はそこまでではないにしも、俺の身体には拷問でしかない。月ばかりに見下されていた俺には、この全てを照らさんとする太陽は厳しいものがある。吸血鬼ではないにも関わらず、眩しくて目を細めて、陽の光を避けたくなる。
幸運にもそこから見えたのは、小さいが村らしきもの。木や石で組まれた三角屋根の平屋な家々がぽつぽつと並ぶ。その中にひときわ高い建物、おそらく教会か集会所らしきものも見える。ここから道に沿って行けばたどり着く。何かしら分岐を選ぶことはない。楽だ。
歩いた。陽の光にてあぶり出されたお俺の影は、ずんぐりむっくりの胴長短足。髪なんてクリスマスツリーのモミの木だ。これで斧や槌なんて持てば、山賊としてこの世界の奴らを誤魔化せ……るのか? 空に見慣れない鳥が飛び交う。見慣れたものなら、牛や羊と思われる野生生物。ドラゴンは見当たらない。狼もいない。何かしら異世界らしき目新しい生物は、村付近に着くまで一切会わなかった。安全に越したことはないが、寂しい気がする。立て札すらなかった。文字が解れば役に立つのだろうが、そんな親切設計などどこにもない。
◇◇◇◇◇
関所。村に関所なんてあるか。高い所から見えた様子では、牧歌的な中世らしい家畜を囲う農村と思えた。周りなどは珍しく、簡易な柵ではない、切り出された丸太が点在し、互い違いに組み合わさって壁が村の形を表していた。
――誰か突っ立っている。鉄鎧を着込んだ兵士ではない。大きな鼻提灯を膨らませながら、ぐうすかぐうすかと眠りこけている、うっすらヒゲを生やした若い男。服装は、なるほど中世の農夫らしいもののように見える。濃い緑色のベスト。膝辺りまである、先程野原で見かけた牛や羊のなめした皮で作られたと考えられるズボン。それとシャツ。一緒になって関所の壁にもたれかかっているのは、三叉の農具。おそらく麦藁だの稲わらだのを片付けたりするもののはずだ。その先端や三叉の根本に、泥とワラがくっついている。
関所の向こう側が見える。そも、関所じゃなくて、ただの出入り口じゃなかろうか。……堂々と歩いて入ることはおそらく可能だろう。だが、残念ながらいま俺の服は、あの若い男とは全く違う。異質かつ誰もが違和感を覚える。靴もそ……、履いていたのか俺は。まさか、転生するとき靴は必要だろ、という計らいか? しかもご丁寧にまだ新しい、履き慣れた靴とと同じものだ。助かるが、なんでだ……?
「※ ※ ※ ?」
突如、何者かの声。俺は驚いて飛び上がりそうになった。だが、堪える。瞬時に、不格好ながら何かしらの武術の構えを持って、その声の主と相対する。
女だ。年若い、黒髪三つ編みのメガネをかけた、修道女のような装いの、女だった。こちらを心配そうな表情を浮かべながら、手のひらを俺に向けている。……しまった。顔を見られてしまった。周りをよく確認し、細心の注意を払って様子を伺うべきだった。子供の頃によく言われたことが、こんなところで露わになるなんて、しかもいまいまこの歳になってからそんなことを思うなんて、人生何があるかわかったもんじゃない。いやいや、今はそんなことを考えている場合じゃない。どうする? 目の前にいる女を、口止めすべきか? 殺すか。いやいや、言葉が通じたのなら……。まて。女がかけてきた言葉を理解できなかった! 言葉がわからないのを知られたら、おそらく何かしら気味悪がって、何かしら仲間を、そこの村にでも助けを呼ぶだろう。どうする? どうする? どうする?
「ア、ア、……アァ!」
女は何かをひらめいたのか。そこらへんに落ちていた木の枝を拾い、地面に何かを一心不乱に描き始めた。出来上がったのか、俺の方に目を向け、出来上がったものを指差す。出来上がったのかそれは、お世辞にもなんの動物か物か人か、それとも記号なのかもわからない。訳の分からない落書きのものだった。
「――なんだ、これ……?」
俺は反射的にそう言い放った。言い放ってしまった。女はそれを聞き逃さなかったようで、俺の言葉を何度も反すうしている。その度に、深呼吸に発声を繰り返し、息を整えた後に俺を見据える。
「は、はじめまして。あの、遠いところからの方ですか? ……あ、ごめんなさい。私の言葉、通じていますか? おそらくこの言葉で間違いないはずです。わかるなら、返事していだけますか?」
日本語だ。おそらく日本語で間違いない。慣れ親しみ、若者離れがどうこうとないがしろにされつつも、一種の言語である、日本語だ。……答えるべきか? なぜ分かった? そういう、能力か? それともあれか。魔法か。ととあれ、どうする? ――あまりに返答が遅れると厄介だ。
「あ、あぁ、分かる。通じている」
「はぁ……。よかった。うまくいってよかったです。あ、私は――」
「まて。今さっきまで言葉が通じてなかったのに、なぜ俺の一言二言で、ここまで話ができる? 魔法か。能力か。それともこの世界のなんたらか?」
「え!? えーっと、何が言いたいのか分かりませんが……。と、ともかく、ここで話すのも目立ちますし、私の家に――」
「いや、ダメだ。信用できない」
「え。ど、どうしよ……」
「どこか人目につかない、かつ俺の身の安全が確保されなければ、困る」
「そ、それなら……あの、ここから歩きますけど、それでいいなら」
「どこだ」
「あの森が見えますよね。あの中に、大きな木の洞があります。そこなら、私の勝手が利きます」
「あぁわかった。そこで話そう」
慎重に越したことは無い。頭のいい奴らは、善人やバカのふりして迫ってくる。愛想のいい顔をして、耳のいい言葉を巧みに選んで、それでいて特に質の悪い奴は、起こりうる成功と失敗の両方を知っている。俺のようなつまらない男には、一生かけても数える程度のそれらを体験できるかどうか。それは人間として生きていく間は、どうしたって避けることは不可能に近い。だから俺はそれを選ばざるを得なかった。なるべくしてなったし、嫌でもなってしまったことは、恥じるべきと悔い改めるべきとか、あいつらは口をそろえて言い放つだろう。
女の案内に応じながら進む。森は村からずっとずっと向こう。二駅とも三駅も離れた、大小高低さまざまな木々が生い茂り、地面に繁茂する草花にまでよく手入れの行き届いた静かな森であると感じられた。
「ここです。一目見ただけでは、洞かどうかは分かり難いでしょう? さぁどうぞ中へ」
「先に入ってくれ。……俺は目が悪い。この眼鏡、合わないんだ」
目が悪いのは間違いない。だが、いきなり出会って間もない女を背にして、訳の分からないところを歩かされるのはごめんだ。もちろん向こうだって同じことを少なからず思い至っている。だからこそ、あえてこちらから明言するのに躊躇しない。その言葉に女の表情は曇ることは無い。あぁそうなんだ。その直感とも純粋な感想を持って、何も疑うことなく、その通りにした。ように見せかけているかもしれない。
大きな木は、実際に見たことはないがバオバブの木ほどの太さを持ち、そこを家のようにくり抜いて作られている。階段も棚も椅子も机も、木目や質感、そして俺のいくらか的を射ることもある直感から思うに、同じ素材から作られているように見える。ぼぅと俺たち二人を来たことを感知してか、ランタンに似たひょうたん型の灯りがゆっくりと光を放つ。
「ここで、どうでしょう? ここまで登れば、私以外はたどり着いていません」
本だ。大小様々、装丁に使われる素材もバラバラ。案内された作業場と思わしき部屋。外の見えるだろう窓はそこに一つだけ。そこに面した机には、手作りらしき紙束が広げられ、インク壺に羽根ペンの先が沈んでいる。紙束に書かれている文字は、やはり分からない。アルファベットでも、中国語、ロシア語、スペイン語、フランス語、何でもない。おそらく独自の文字であり、文体文法は似かよる物はあれど、理解するに易くはない。独学で物事に取り組むのはかなり難く、王道はなしとはよく言ったものだ。
俺は女に用意された椅子に腰掛け、あまり露骨なまで周りを観察する素振りはしないよう注意しつつ、置かれた物々へ目を配る。
「改めまして、私はノベル。ノベル・ノーワンズといいます。……あなたは?」
俺は……、と反射的に答えようとしたとき、口を必ずや仕留めんとばかりに両の手が抑え込んだ。ノベルと名乗った女はそんな俺の行動に驚き、椅子に座りながら自身の半歩後ろへと飛び上がった。傍から見れば吐きそうになった奴だろうし、それを直感しかからないように身を引いた当然の反応だ。
俺が口を抑えたのに、ひとつ本名を知られることにある種の忌避感があった。悪用されることなどもはや異世界に飛ばされた俺には関係ないだろうが、それでもどこで何があるかわからない。巡り巡って俺の名が上がることだって無きにしもあらず。だからこそ、本名を封じつつかつ、俺が俺だけにわかるような名を言えばよいのだ。しかしこの考えている数秒の間に、何と思いつく? 直接ではない、かと言って不相応なものではならない。なので俺は意を決し、ある名前を言い放った。
「お、俺は……そう、タツノスケ。タツノスケだ」
「タツノスケ、さん。わかりました。おそらく『タツ、ノ、スケ』なんでしょう。タツさんと呼びますね」
ノベルは訝しんでいない。よし。タツノスケは、いい一手だ。そう、簡単だ。小説家としては賞を目指すことだってある。その中でも芥川賞なんてほとんどの人たちが名前くらいは知っている。それの龍之介をもじって、タツノスケだ。これくらいなら、問題なかろう。……勢いのままそう名乗ってしまったが、かなり無理があるようにも思えてならない。そもそも、あれだけ授業の題材にも使われるほどの作品を多く残した偉大な作家名を、わざわざこの作家としても人間としてもど素人かつ無能な俺の、とっさのつじつま合わせに嘘のために使うなど、かなり失礼極まりないことなのに、どうして俺はそう言ってしまったのだろう。今なら言い直せるか? いや、逆に開き直ってしまえばいいのか。こんな訳の分からない世界で? 自分の都合のために?
「あ、あの……それで、あなたは別の地方から来たのですか? それともその、また違う世界から……?」
「また違う世界とは? 具体的には」
「え?! そ、そうですね……。天国、とか地獄とか。こ、この世界とは別の……世界があるとは、本で知りました。地方はあるのは分かりますが、その、タツさんはそれでも見慣れない服を身に着けているので、もしやと思い、はい」
「ここの世界については、全く知らない身だ。地方と言われても同じ単語は存在していたが、ここでも同じかどうかそもそも何なのかわからない。……あぁ、つまり今、アンタが言った通り、別の世界とすればいい」
「よかった。それを聞いて安心しました。地方から来る人はもう居ないので。……あの、ひとつお聞きしたいのですが」
「なんだ」
「できれば、貴方のいた世界のお話を、お聞かせください!」
「――は?」
◇◇◇◇◇
ノベルが言うには、この世界には本はあるものの、ほとんどが情報伝達としての代物とされ、物語などというのはそうない。親から子へ読み聞かされる話、なんたらかんたら神の出生やらなんやらを綴った、つまり聖書のふたつくらいしか、物語はこの世界にはない。ノベルは聖書を読み尽くしてしまい、いくらかの暗誦は可能なほどだという。それよりも親から伝えられた小さな話に、目を輝かせ、いつかそれを集めて本にしたいという夢を語った。だが、それにはいま自身が置かれている身としては、それらを探し回ることは出来ず、地方とよばれる他の地域からの人間は一切来ない。山々が急だとか、地方によっては他地方への出入りを禁じているところだってある、と教えられたそうだ。つまり今いるこの森や近くの村、俺が倒れていた野原くらいしか、ノベルは知らない。遠くに見える山も、晴れ渡る青空の向こうも、どこまでも広がる蒼い海も、しんしんと降り積もる白い雪も、暗雲立ち込める冷たい雨嵐も、おそらく紙上だけの文字と人伝でしか知らない。
だから、あまりにもこの世界とはかけ離れた異質な存在となる俺に、未知への恐怖や嫌悪などよりも先に、好奇心とも興味とも言える感情が勝ってしまった。あげく何が起こるかも予想できないはずの中、俺に声をかけ、俺の元居た世界の『お話』を聞きたいとまで言い放ったのだろう。
「ええっと……。タツ先生、ここの表現なんですけど……」
「ここは……主人公が、後々に仲間となる男と出会うきっかけとなる、やりたくない仕事を受けるシーンだ」
こんなことしていいのだろうか。俺は元いた世界の小説を、漫画を、アニメを、ゲームを、果ては古典文学までもノベルに伝えた。もちろん、原文そのままなんて出来やしない。限界がある。抜けた部分を他で補いつつ、できる限り体裁を整えたものを、だ。いま伝えているのは、とある時代小説のワンシーンだ。これは文や言い回しは抜けてはいるが、流れはいくらか覚えている。
「主人公は仮にも剣の腕だけで名を馳せた、……まぁいわゆる戦士だ。今回、依頼主である物凄く意地悪そうな、そう、太っちょと直接会う。しかしだんだんと向こうから『剣の腕だけの奴……』と端々に嫌味が混じり始めてくる。これは仕事だから、と主人公は理性を保ちつつ、割り切る部分だ。もちろん腹の底こそ煮えくり返っているし、今にも斬りかかりたい気持ちでいっぱいだ。だが、顔を繕って依頼を受ける。ここまではいいな」
「なるほど。こんな世界があるのですね……。戦士、といいましたが、やはりタツ先生の世界には別の役職として名前があったり、違った様相なのですか? それにこの、太っちょというのは、なにか理由があるのですか? なにか印象としてだったり、その見た目で表現するというか……」
ノベルは真面目に、俺の伝える物語を書き留めている。一度話を聞き、理解した上で、この世界独自の言語に翻訳して、だ。雑然と置かれていた本は、俺が伝えた物語を書き留めた膨大な量の紙の山の土台と化した。もちろんノベルはひとつ物語を翻訳し終えると一冊の本にまとめ、それから土台となった本たちを片付け始める。半日はかからない。むしろ内容や描写などの細かい部分を確かめる時間や、俺が思い出すまでの時間のほうが圧倒的に遅かった。何せ俺が読んでいたもの、覚えているもの、人に伝えられるもの、知らなくてもおおよそ話が向こうから勝手にやってくるもの、入場するのも難しいもの、運悪く出逢うタイミングが悪かったもの、様々だ。幸か不幸か、原作原典ではないからこそ、いくらか罪悪感は薄れさせてくれた。もしこの世界に、俺以外にもどこからか来たやつがいるなら、俺の行為は咎められるかもしれない。俺と同じ、異世界転生を果たした人間がいるのなら。ノベルの話を聞く限りは、そう言ったやつはいなさそうだ。……いや、もしかしたら俺と同じように、この世界の誰かに匿われていて、何かしら生きているのかもしれない。もしかしたら、異世界転生とやらのお約束とばかりに、とんでもない力を得ているのかもしれない。出来るなら会いたくもないし、話す機会などもう来て欲しくはない。
「――ところで『先生は止めてくれ』といったはずだ。時々話していると出てくるな。俺はそこまで言われるような奴じゃない。元居た世界で、もはや知識レベルでの単語として『穀潰し』だの『能無し』だの『はみ出し者』、果ては『糞便製造機』とまで言われた、ただの人間崩れだ。……ノベル。お前がこうして俺をここに置いてくれているのは感謝している。しかしだ。先生と言われるほどのことはしていない。ただお前に、元居た世界の話を伝えているだけだ。それが無ければ」
「タツ先生。先生自身がそう思っている人間だ、と私は思っていません。もし先生の言う通り、物語をひとつも知り得ていなくても、元居た世界の話だけでも、私には楽しいのです。それを書き留めるだけでも、物語となるのです。私が知りえるわずかな話とは、また違った世界を知ることこそ、意味があるのです。だから私は、先生と言えるのです」
「……はぁ」
こんなにハッキリとしたため息を吐くのは久しい。ノベルの考えは、おそらく俺の考えよりも単純だ。これが当然の人間の思考で行動で感情なのだろう。人を人と見ている。同じ人間だと理解している。別の世界の住人など関係ない。まっすぐ、ごく自然にそう言い放ったようだから、なおさら俺は目がくらみ、不摂生からくる頭痛とはまた違う頭痛をもたらされた。
「ところで、先生自身は、物語を書かないのですか? これほどの知識があれば、多くの作品と触れているからこそ、書いているのでは?」
「い、いや……。よ、読む専門だ。もちろん多種多様だ。専門としない奴だっている。俺は、その中では、読むのに重きをおいている」
「そうですか。ちなみに私のような人はなんと呼ばれるのでしょう?」
「え? あ、あぁ、そうだな。ぶ、文士あたりか? いや、教えているのが読む専門だから……。すまない、おそらく好奇心旺盛とか、研究者、受講者?」
「つまり、珍しいということですね!」
「もう、それで、いい」
ノベルの質問攻めは、慣れてしまえばある程度予測しえる。いつ、どこで、だれが、なにを、なぜ、どのように。最初こそ何故かと問うことが多く、段々と如何様にと具体的な内容に踏み込んでいる。その姿勢には取り入りたい、よく見られたい意思はない。興味関心、好奇心がノベルを前へ前へと進ませている。だからこそ、それに触発されて、また創作をはじめようとするのに、時間はかからなかった。
ここまで読んでいただき
ありがとうございます。
続きます。次話投稿予定は
2022/12/29(木)お昼ごろ
お昼ごろです。
お楽しみに。