ゆいこのトライアングルレッスン・スピンオフ〜ゆいこが転生したら○○だった件〜「離れ離れになっても探し出すから」
「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」の人気企画「ゆいこのトライアングルレッスン」に応募した作品です。
雨上がりの昼時、レンガ造りの建物の三階にある探偵事務所の扉は勢いよく開かれ、一人の新聞記者が入ってくる。
「ロッシー、また怪人ナローの予告状が出た!」
「やぁタック、もちろん知ってるよ。」
「さすがは、ロッシー。もう知っていたか。今度こそ、捕まえてスクープを取ってやる!」
ロッシーは静かに紅茶を入れ、息巻くタックを盗み見ながら、考えごとをしていた。
ゆいこを送るためにたくみと一緒に塾から帰っていた夜、俺ら3人は事故に遭い、気づいたら、ヨーロッパ風の土地に一人でいたのは数年前のことだ。転生したことを悟り、二人もこの世界にいるのではと思い、探すために探偵になった。目の前にいる新聞記者は、おそらくたくみだと、一目見たときから気づいていたが、確信がなく、そのことを話題にしたことはない。
怪人ナローは予告状どおりに屋敷に現れ、宝石を奪っていった。下に行くのを見たという使用人の証言をもとに階段を降りていく警察をよそに、タックと一緒に屋上へと駆け上がる。
屋上にたどり着くと、翻る黒いマントに身を包み、シルクハットをかぶった影があった。満月に照らされるなか、二人で煙突まであとがないというところまで、追い詰める。振り返った怪人は、仮面舞踏会でつけるような、きらびやかな仮面を着けていた。俺は、仮面に手をかけ、剥ぎ取る。思わず顔を背けるナロー。
「なぁ。ゆいこだろ。ひろしだよ。」
俺の問いかけに、ナローは一瞬目を見開いたが、すぐに睨みつけて答える。
「違う!ゆいこなんて女知らない。」
「なぜ、ゆいこが女だとわかった?この世界で、ゆいこという日本名がすぐに女だと答えられる人間は、そういないよ。怪人なんてやめて、一緒に暮らそう。」
観念したのか、睨みつけていた目を逸らす。そのまま、ゆいこは吐き捨てる。
「この世界に転生してから、怪人となってたくさんの悪事を働いてきたの。今さらなかったことになんてできない。あなたたちとは住む世界が違うのよ!」
そこにタックが口を挟んでくる。
「えっ、お前ひろしだったの?怪人はゆいこだったの?」
「いや、たくみ、あとにしろよ。今はゆいこのほうが先だ。」
言い合っているすきをみて、ゆいこがドンっと俺ら二人を押しのけて走り出す。そして、いつのまにか近づいてきていた気球から垂れている縄梯子を、黒いマントをなびかせながら登っていった。
屋上に残された二人が、このあと口論になったのは言うまでもない。それでも、すぐに結託してゆいこを取り戻すことを決意したひろしとたくみ。
ゆいこが怪人となるに至った秘密とは?ゆいこは二人のところに帰ってくるのか?それはまた別のお話。
最後までお読みくださりありがとうございます。
トライアングルレッスン交流ができたら楽しいので、コメントをいただけると嬉しいです。
【ゆいこのトライアングルレッスンとは】
「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」内での企画で、たくみとひろしという年上のイケメンが塾に迎えに来てくれるという、巽さんの幼いときの妄想が原案です。
創作した作品は小説家になろうのサイトに第126回(2021年2月26日の放送)でアップしてよいとの公式見解があるものです。