表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/10

【コーヒーブレイク】

【コーヒーブレイク】




 高校にいた頃、憧れの女性がいた。


 その人は年上で、美人で、みんなからも人気があって、僕のことなんて目の端で認識すらされないような高嶺の花の存在だった。


 ある日の放課後、その人が他の生徒と一緒に二人で数学準備室に入っていく場面を、グラウンドから窓越しに偶然目の当たりにした。


 その時は特に気にかけることはなかったが、15分後に再び数学準備質のドアが開かれた時、僕は全てを察することになる。


 出てきたのは一人だけ、憧れの人とは違う方。そしてその人は数学準備室に入った時は制服姿だったのに、どういうワケか学校指定の体操服に着替えていた。それを意味することは……


 僕は焦る気持ちを押さえながら、早歩きで数学準備室へと向かった。


 引き戸を開け、その向こう側の世界に憧れの人はいた。


 彼女は一瞬僕の顔を見て驚きの表情を作っていたが、瞬時に表情を何事もなかったかのように作り上げ……


「どうしたの君? 何か忘れ物? 」


 と、この場の空気をすぐさま変えようとする気持ちが伺える言葉を僕に向けた。


 準備室のテーブルには、カップに注がれたコーヒーが二つ。片方は半分に減っていて、もう片方はなみなみと注がれたまま……そして両方とも湯気が引いて冷め切っていることは明らかだった。


 憧れの人はそれとなく外れていたブラウスのボタンを締めながら、冬の寒い時期なのに窓を開けて全開にした。


「あ……はい……ペンケースをここに、置き忘れたかも」


 僕は詰まりそうになった声帯をなんとか震わせて言葉を発した。


「そう……ペンケース……ここには無いかもね」


 僕の憧れの人……数学教師の高嶺の花は冷めたコーヒーをすすって、台本に書かれた台詞を読み上げるような口調でそう言った。


 そしてもう片方のなみなみ注がれたコーヒーカップの縁には、うっすらとルージュの後が残っていた。その色は体操服に着替えて準備室から出て来た生徒の唇の色によく似ていた……


 僕は冷え切ったコーヒーを飲む度にこのことを思い出してしまうのだった。



THE END


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ