【囚人美術館】
【囚人美術館】
とある刑務所があった。そこに収容されている囚人達は皆、今後一生コーヒーショップで優雅にカプチーノを楽しむことさえ許されないほどの極悪人。そんな厄介者ばかりを相手にしている看守達はさぞかし苦労の多いことだろうと哀れに思われていたが、実際のところはそうではないらしい。
ここに一人の看守のインタビューを書き起こした手記がある。
「刑務所での勤務? ああ、確かに大変ですよ。ここに収容された奴らは、殺人にレ○プ、放火強盗、詐欺、誘拐、薬物売買となんでもござれだ。我々とは住む世界が違う獣達ですわ」
「そんな獣達をどうやって大人しく収容させているかって? 簡単ですよ……奴らの四肢を24時間365日手錠で繋いでおきっぱなしにしとけばいいんです。食事? ああ、そんなのは口に繋いだチューブで適当に栄養を流しこんどきゃいいんです」
「囚人どもは、初めは悪態を突いたり、軽口を叩いたりと平気な素振りを見せるんですけどね、一週間もすれば泣きながら助けを乞い、一ヶ月もすれば全てを諦めて、単なる肉のマネキンと化します」
「何? 人権侵害? まぁ、そういう声もありますがね。記者さん、あんたも心の中では思ってるでしょう? 悪行を重ねた社会のゴミ共に人間として扱う義理なんてない……声には出さなくても、心の中では何度もリピートしたハズです。ま、それは置いといて……人権ガー! 道徳ガー! だとか言う連中も確かにいるわけで我々そのあたりを苦心しましてね……こんな言い訳……もとい、建前……でもないな……人権問題に関しての解決方法って奴を思いついたワケなんですわ。まぁ、ついてきてくださいな」
看守は記者に手招きをし、皮肉なのか、本当に楽しんでいるのか判断しかねる笑みを浮かべ、囚人達が拘束されている棟へと案内した。
刑務所というワードから、記者はコンクリート打ちの殺風景な建造物をイメージしたが、そこに待ち受けた施設は、洗練されたデザインで建築された洒脱な外観の建物……記者は一目見た時「まるで美術館のようだ……」と思ったらしい。
そして中に入って戦慄。その外観の意味を知る。
そこには、手錠に繋がれ、チューブから歯磨き粉のような物を与えられている人間……とかろうじてわかる人型が、豪奢で煌びやかな額縁に飾られて展示されていたのだ。
「どうでしょう? 記者さん。ウチの刑務所はですね、こうやって独房に窓を取り付け、額縁で飾り、中に捕らえられている囚人達を、芸術作品ということで展示してあるんですよ。この意味……わかりますよね? 」
なるほど……
確かに、単に一人の人間の自由を奪っただけでは人権侵害だが……それが自主的に行われた(ということにしている)芸術活動の一環だとすれば、それは虐待でも暴力でもない……
アートというおためごかしに昇華することができる……
全く芸術とは便利な言葉だ……
THE END