再び夢
「早く……」
その声は雪だった。
目の前は急に明るくなり、音楽室の前だった。
「早くって?」
私は雪が急かす意味がわからず、キョトンとしていた。
「音楽室に幽霊を見に行くんでしょ?」
「そうだっけ」
私は違和感を覚えた。雪が自転車にまたがっているからだ。
これは夢? だろう。
「ピアノを見て」
雪に言われると、私はすでにピアノの前にいた。弾けないのでじっとしていると、世保倉教諭が無表情でスタスタと向かって来る。
「退きます」
私は言うが返事はもちろんの事、視線さえも合わさない。世保倉教諭はピアノしか眼中にないようだ。すぐに弾き始めた。
「美紀!」
雪が呼ぶ。私は雪の声と同時に防音扉の前からの視線が気になって見たのだ。
驚いているもう一人の私がいた。
「えっ?」
「美紀、こっちだよ。早く来ないと大変な事になるよ」
私は雪に言われるままにピアノから離れた。
「大変な事って?」
「小倉先生を呼んで来てよ」
「雪は?」
「後で行くけど、音楽準備室にある机の引き出しを開けるから」
「何で、今する事?」
「大事な事よ」
私は気がつくと職員室内にいた。
「先生」
小倉教諭は机に座って、隣の教諭と雑談したいた。真横に私がいるにも関わらず、気がついてないようだ。だから、「先生、大変です」
と、言って揺すろうとするが、触れない。
「急いでよ!」
雪が大声で叫んだ。姿は見えず、職員室の外にいるのだろう。
小倉教諭は急に会話を中断し、席を立った。
一緒に職員室を出ると、雪が自転車に乗って待っていた。
小倉教諭は不自然な光景に疑問がないようだ。自転車を漕ぎ始めた雪を追う。
いきなり音楽室の前に移動していた。
雪が自転車のまま防音扉をすり抜け、小倉教諭はドアを開けて中に入った。
私も後に続こうするが、ドアをすり抜ける事もドアノブに触る事も出来ない。
立ち往生だ。
すると辺りが急に暗くなった。