夢
私はいつも朝からだるかった。
低血圧なので、しばらくベッドから離れられない。
「美紀、起きたの?」
母親が呼んだ。今日は何度目なのだろう。記憶にはないが、いつも五回以上は当たり前だ。
返事をする前に「美紀、お友達が来たわよ」
「はい……」
ようやく声が出た。もしかすると、母親が起こすために呼びかけたのは夢だったのかもしれない。夢と現実の区別がはっきりしない。
私は朝食を抜いた。友人の差額雪が待っていた。
私は玄関を開けると、雪がスマホをかざしていた。白のボディーにピンク色のハートシールが貼ってある。顔はニコニコと突っ立っていた。何か違和感を覚えた。知っている雪だが、どこか違う気がする。
理由はわからない。
「美紀、昨夜なんで無視したの?」
雪は足早に歩き、美紀が急いで追いかけた。
「うそ、雪ちゃんそんな事知らないわ」
「自転車に乗っていたじゃない?」
雪は立ち止まり、私の顔をじっと見た。怒っているようで怖い。
「私、自転車は乗れないの」
「ええ、本当に?」
「たぶん私に似ている人と間違えたんじゃないの」
「追いかけて、学校の前まで行ったのよ」
「知らないよ」
「音楽室にいたじゃないの」
「いないよ」
「音楽室で見失ったけど……」
雪は不満そうに口を尖らした。私の知っている雪ではない。いつも穏やかなので、こんな雪は見た事もない。どう言う事だ?
「雪、これから学校に行くんだよね?」
私は話題を変えた。
「そうよ」
「中学校の制服を着てないの?」
「何を言っているの、私たち小学生だから、私服だよ。制服なんて着るわけない」
歩道の真ん中で、雪はケラケラと笑った。
雪は喜怒哀楽を表現しない方だ。だけれど、今日は違う。何かあったのか?
「変よ」
私は訝しがる。
「そうかしら。音楽室で思い出したけど、ある噂」
「噂って?」
「あれが出るんだって」
「幽霊の事? 聞いた事ないわ」
「夜になると、誰かがピアノを弾いているんだって」
「でも……」
私は疑問を抱いた。
「何よ。黙ってないで、言ってよ」
雪は怒っている。眉間に皺を寄せ、怖い。
「音楽室って防音完備だから、外に音が漏れないはずよ。誰が聞いたの?」
「私よ!」
「うわっ!」
私は睡眠中である事は確信している。しかし、どこか現実感があって、夢とは思えない。一刻も早く、目覚めないといけない。