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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

廃棄路線205号

掲載日:2020/08/10

※暴力的な表現があるので良い子のみんなは読まないでね。

カツン・・・・・・カツン


革靴に打ちつけた金属製の靴プロテクターが、地下鉄構内の床のタイルを打つ音が響く。

俺は終電を逃さないようにと早足で歩いていた。無駄に広い地下鉄の駅は俺の乗りたい路線までかなりの距離があった。

蛍光灯の白い光が真夜中の外の暗さに反して目が痛い程明るい。

疲れた体にこの光の刺激はなんとも言えない。


ポーン


定期的に鳴る駅の機械音、いつも聞いているがあれは何のための音なんだろうか?

そんなくだらないことが脳裏をよぎるが、どうせ帰る頃には覚えていないだろうと思いすぐに忘れることにした。


腕時計が示す時刻は0:04。終電にはやや余裕があるが万が一も乗り過ごしたくはなかった。

明日は朝6時に出て座席で座って出勤したい。

付き合いで部長と次長にしこたま飲まされたが、家で妻の静子が起きているだろうことを考えると早く帰りたかった。充電の少なくなったスマホに数件、妻からいつ帰ってくるのかのメッセージが来ていた。俺は足を止めずに返信のメッセージを送る。


『すまない、今メッセージに気づいた。部長たちと付き合いで遅くなった。

まだ起きてたら無理しないで先に寝ててくれ。終電で帰るから。

愛してるよ。』


疲れとさっきまで飲まされていたビールのせいか汗がベタつく。地下鉄構内はエアコンが効いているせいか、皮膚の表面で冷やされて余計にひどい。

整髪料と汗が混じって頭皮の感触が、チクチクと伸び始めた顎髭が、尽く不快だった。

なんとかホームに着いた頃には無性にシャワーを浴びたくなっていた。


電車を待っていると静子からメッセージが届いた。


『心配するから次は早めに連絡頂戴ね?なるべく起きてるつもりだけど寝ちゃったらごめんね。一応夕飯ラップしてあるからお腹すいてたら温めて食べて。私も正人さんのこと愛してるわ。』


静子とは営業先の会社で知り合った。受付を担当していた彼女に一目惚れして口説いたのは人生最大の勇気を振り絞ってのことだったと思う。2年くらい交際して、3年前に俺が課長に昇進したのを機に結婚した。その後の俺は昇進も昇給もなく、30歳を迎えた訳だが、文句も言わず尽くしてくれる最高の妻だ。


ポーン


またあの音がする。結局この音何なんだろうな?スマホで調べようかとも思ったが電池が残り15%なのでやめた。

そうこうするうちにホームに終電が走り込んできた。


『終電来たから乗ったよ。おやすみ』


俺は静子にメッセージを送ると座席に座り、そのまま少し微睡んでいた。うちの最寄り駅までは30分かかる。うとうとするには十分すぎる時間だった。

気づけば俺は座席に横倒しで寝ていた。


ズドドドドドド!!ドゴガシャアアアンッ!!!!!


とんでもない轟音と共に一瞬浮び上がるかのような感触がして俺は座席の寝台から放り投げられるように電車内を転がった。


「っがあ!?な、なんだ!?じ、地震か!?」


電車内は停電しているのか暗くなり、非常用ランプが点灯していた。


ビーッビーッ・・・・・・


何かのブザーが鳴っている。窓ガラスの尽くが砕け散っており、転がった拍子にかなり破片で切ったのか、顔や手から出血しているようだった。


「クソ、痛ぇ・・・・・・胸を打ったが、骨折とかはしてないみたいだな」


俺は慎重に体に着いたガラス片を払い落とすと、カバンを持って立ち上がった。


「状況が知りたいな。まさか1人だって事はないだろう・・・・・・前の車両へ行ってみようか・・・・・・」


俺は1人でそう呟くと、前の車両を目指してとんでもない事に気づいた。

歪んでしまったのか連結部分のドアが開かないのだ。


「マジかよ、緊急開閉用のレバーで乗降ドア開けてみるか?」


列車事故の場合個人の判断で線路に出るのは危険とあるが、今の閉じ込められている状況に比べれば幾分マシだと思われる。

ドアレバーを引く前に、そうだ、スマホで助けを呼ぼうと思ったがさっき転がった時に画面が割れて壊れてしまったようだ。


ドアレバーを引き乗降ドアを開ける。外は地下鉄の風が流れている感じがせず、埃っぽい匂いに混じって電車から焦げ臭いような匂いがしていた。

当たりを見回す。全ての電気が消えているがそこは俺が乗った駅のホームそのものだった。

嫌、違う。僅かな電車からの灯りを頼りに見ると酷く古いポスターが貼ってあるのが見えた。


「年・・・・・・八十和昭・・・・・・昭和、18年か?」


俺は空恐ろしいものを感じて電車に戻ろうと後ずさる。振り返って俺はさらに衝撃を受けた。


「おい、先はどこへ行った?」


先程から連続で訳の分からない衝撃を受けすぎて独り言が勝手に出る。列車は俺の乗っていた二両先で切断されたように無くなっていた。


俺は2両先の車両が無くなっているところを見ようと列車に近づいて行く。

その時だった。


バン!バン!


いきなり中からドアを叩く音が聞こえた。


「痛いぃ、助けてぇえ!!」


若い女の悲鳴だった。


「おい、無事か?外からじゃ開けられないから非常用の開閉レバーを引いてみるんだ」


一瞬窓から出れば、と思ったが割れたガラスが枠に残っておりかなり危険に見えた。


「誰か、いるの?分かった、やってみるから置いてかないでっ」


ドアレバーは非常用ランプで見やすいからまず直ぐに見つかるだろう。問題はドアを開けられるかどうかなんだが。


「ぐうぅぅぅっ、ぎひぃ」


うめき声ともなんともつかない声を最後に音がしなくなる。おい、待てよ、なんかあったのか?


「おい、生きてるか?返事してくれ!!」


次の瞬間、窓からバレーボール大の何かが飛んできたので思わず受け止めてしまった。

それはまだ暖かい血まみれの女の頭だった。

あまりに現実離れしていてそれを理解するのに数秒かかり、投げ込んできた列車の割れた窓を見るとそこにはガスマスクの様なものを身につけた旧日本軍兵士のようなモノが血糊にベッタリと濡れた日本刀をぶら下げてこちらを見ていた。


「う、うああああああああぁぁぁ!!?」


俺は生首を取り落とし、そのまま全力でその場を走って離れた。



しんとした駅の構内はほぼ光源がなく、真っ暗だった。俺はとにかく地上に出るために階段を探した。

ベンチに座る人影を横目で見て後悔する。腐乱死体だった。

走ると音のない構内に靴プロテクターのジャリジャリとした金属音が鎖でも引きずるように響いた。

右腕に灼熱感が走った。突然飛び出した白刃を避けきれずに二の腕を浅く斬られた。


「ぎゃあっ!?」


「グゲッグゲ・・・・・・ゲッゲッゲ」


あの旧日本軍兵士のような奴は引き笑いのような、あるいは首を絞められているかのような嫌な奇声を上げながら俺を追いかけてくる。



「やめろ、来るな、来るな!?」


俺は革靴を放り捨てて靴下だけで走る。普段なら僅かな砂利粒だけでも痛むものだが、既に小さくはない傷を何ヶ所も負って命がかかっているとなると話は別である。

トイレの個室に逃げ込むと小さく蹲る。


「はぁっはぁっはぁっ、ヤバイ、ヤバすぎる、なんなんだアイツは」


「グゲッグゲッ・・・・・・ゲッゲ?」


キィー、バタン


行ったか?

息を止めて耳をすましてあたりの音に集中する。


ゾブ


嫌な音と共に左肩に何かが刺さった。痛みと共に上を見ると隣の個室から身を乗り出した奴が日本刀を俺の左肩に突き刺していた。


「ひぎゃああああ!?」


遅れてやってくる激痛とやつへの恐怖がごちゃ混ぜになり、俺は半狂乱でトイレから飛び出す。


肩からはとめどなく血が溢れている上に痺れて使い物になりそうになかった。


とにかく外に!

死に物狂いで逃げて階段を登った俺は絶望した。

階段の上は地上ではなくコンクリートで埋められていたのだ。


「グゲゲ・・・・・・」


くぐもったあいつの声が近くでする。


日本刀を振りかぶるスペースがないせいか、奴は柄で俺を思い切り殴打してきた。


グチャ!


嫌な音と共に腕の肉が潰れ、骨が飛び出した。


「うあああああ!?ぐあああああ!!?」


あまりの痛みと死への恐怖に俺は天井スレスレの階段に座り込み失禁し、脚をばたつかせた。


俺の足があたりガスマスクが吹っ飛ぶ。俺は一か八かでZIPPOライターを取り出し火をつけて奴に近づけた。


奴の顔には下顎がなく、チューブが何本も伸びていた。

目に瞼はなく、むき出しの眼球が血走り、異様に長い犬歯が上顎から生えている。一瞬怯んだものの、指ごとZIPPOライターは弾き飛ばされ遠くへ行ってしまう。


奴が再び日本刀を振りかぶる。


「やめろ、近寄るな、やめろ、やめてくれえええ!静子ぉぉぉぉ!!」


俺の意識はそこで途切れた。




ピッピッピッピッ・・・・・・


規則正しい電子音が聞こえる。

ゼラニウムの爽やかな香りがする。

全身が痛むがどうやら俺は助かったらしい。



「貴方!先生、主人が意識を・・・・・・!!」


「やあ、ただいま」


俺にすがりついて泣きじゃくる静子の頭を撫でながら、俺自身もあの地獄から解放されて胸を撫で下ろしていた。


「俺は一体どうなってた?」


その後の静子の話は俺自身の体験と大きく違うものだった。


「あの日、大きな地震があって、地下鉄が崩落して貴方は電車ごと昔の埋められた駅に落ちてたのよ。警察が言うには廃棄路線205号って戦時中生物兵器を開発してた基地に直通の駅なんだって。そこで電車ごと生き埋めになってるのを救出されたのよ?」


「生き埋め?俺は外にいなかったのか?」


「いいえ、電車ごと瓦礫に埋まってたから身動き取れなかったそうよ?」


あれは夢だったのか、それとも死にかけた俺を地獄へと連れていこうとする悪霊だったのか今となっては分からない。

傷が治って復帰してからは上司のお誘いは断っている。

妻との時間が大事なことをそれこそ死ぬほど思い知ったから。


武器人間とか世界大戦の負の遺産が埋もれてたら・・・・・・そしてそれが問答無用で襲いかかってきたら、不発弾とかその典型ですけど、理不尽で怖いですよね。

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