マフラーをした三毛猫
なろう界の汚い小川未明になりたいです。
静かな村に、男が暮らしておりました。
男は1人暮らしでありましたから、自分で炊事や洗濯をこなし、仕事へとでかけ、帰りに買い物をするという、日々を送っておりました。
とある晩に、男が窓辺で月を眺めていると、三毛猫が一匹現れました。三毛猫は首やお腹に毛糸のマフラーを巻いており、それが嫌そうに体をくねらせておりました。
何事かと思った男が三毛猫からマフラーを外してやると、三毛猫はそそくさと素早く窓辺から姿を消してしまい、男の手には三毛猫の毛が着いたマフラーだけが残されてしまいました。しかし男は「ちょうどマフラーが欲しかった」と、これ幸いに、マフラーを自分の物にしてしまいました。
何日か過ぎたころ、再び三毛猫が男の家の前に現れました。
今度は毛糸の手袋を口にくわえて、男の近くにそれを離すと、そそくさと物陰に隠れて消えてしまいました。
季節は11月の事です。男は、着たるべく冬に備えるための贈り物だろうと、喜びをあらわにし、手袋の暖かさに感謝しました。
それまで男は変わらず独り者でありましたから、編み物を作ってくれる女性もおらず、したがって、初めて手にする毛糸のマフラーと手袋に、何だか歯痒い気持ちが出て来ました。
冬になり、男はマフラーと手袋を手放せなくなりました。今日も仕事帰りに手袋とマフラーの暖かさを感じながら家の前に着きました。すると、例の三毛猫が毛糸の靴下をくわえて、男の帰りを待っているかのように座っておりました。
「ほう、次は靴下か。これはありがたい」
男は代わりに三毛猫に笹蒲鉾を食べさせました。すると、三毛猫は何も持っていなくても、男の家をしきりに訪れるようになりました。男はこれをけっしてわずらわしく思わず、男に幸せをもたらす招き猫として、大切にしました。
雪が降り続き、男が道すがら頭に積もった雪を払っていると、三毛猫が毛糸の帽子をくわえて男を待っておりました。毛糸の帽子は暖かく、これで男は冬の寒さに凍えることなく、毛糸に包まれ暖かい毎日を送りました。
冬が終わり、新たな命が芽吹く季節がやってきました。男は変わらず独り者でありましたが、三毛猫が居るので寂しくはありませんでした。そしてマフラーと手袋、帽子をタンスにしまい、男は春の到来を喜びました。
三毛猫が新たな毛糸の編み物を持ってきました。
それは毛糸のパンツでした。
男は、そのリボンの付いたパンツを見るなり、「可愛らしいパンツだ」と笑みをこぼしました。頭の中まで春めいた男は気が付きません。
しかし、それはすぐにやって来ました。
「警察の者ですが……」
男はちょうど、庭に生えたふきのとうで、天ぷらを作っているところでありました。
「この辺で洋服泥棒を見たとの噂がありまして、ちょっとタンスの中を宜しいですか?」
男が警察を部屋に招き入れると、警察はタンスの中から毛糸のマフラーと、毛糸の手袋、毛糸の帽子、毛糸のパンツを取り出しました。
手招きをされて現れた一人の女が、毛糸の編み物を一目見るなり「私の編んだ物です」と驚きました。そしてその場で泣いてしまいました。
「窃盗の容疑で逮捕する」
男は捕まり、懲役一年六ヶ月、執行猶予三年の実刑判決を受けました。男が「拾った物だ」と散々に口にしましたが、聞き入れて貰えず、しかも今度は居眠り運転を起こして、男は無念のまま、監獄で春と冬と春を過ごしました。
男が自分の家に戻ってきたのは、とても寒い、木枯らしが吹き荒れる秋の終わりでした。
家は誰も手入れをする者がおりませんので、ほこりをひどくかぶった家具たちが、男の帰りを出迎えました。
聞き覚えのある猫の鳴き声が聞こえました。家の前に三毛猫が座っておりました。
「この疫病神め!」
男は拳を握り締めて振り上げましたが、三毛猫は動じません。
男は虚しい気持ちで振り上げた手を降ろし、冷蔵庫から、とうに賞味期限の過ぎ去った笹蒲鉾を一つ三毛猫に投げました。
食べる猫の横で男は頬杖をついて、これからの未来を憂いました。
そこへ、女が通り掛かりました。毛糸の編み物の持ち主の女です。
「え? ミケ……!?」
女は三毛猫を見て、すぐに口を押さえて驚きました。そして男の存在に気が付くと更に驚きました。
「毛糸の編み物を持ってきてくれたのは、この疫……三毛猫です。私は天からの贈り物だと勘違いし、持ち主の事など考えずにタンスにしまってしまいました」とあやまりました。
「どうりで私の物が簡単に無くなるはずです。その猫は私が飼っていましたが、一昨年に逃げてしまったのです」
三毛猫が度々、女の家に戻り毛糸の編み物を持ち去っていた事を知ると、女は男に深いお辞儀を一つしました。
それから、程なくして、女は男の家を訪れるようになりました。
手には手作りの料理と、手編みのセーターを持って。男は初めこそは断りましたが、女は罪滅ぼしにと何度も頭を下げるものですから、根負けして女を部屋へと招き入れるようになりました。
「ミケ、彼女が来たぞ」
椅子の上であくびをする三毛猫に声を掛け、二人と一匹は暖かい食事にありつきました。
やがて二人は結婚し、子宝に恵まれて幸せに暮らしたそうです。
読んで頂きまして、ありがとうございました!
(*´д`*)
おや、こんな所に下着を咥えた猫ちゃんが…………