8話 旅立ちの障壁
魔王城の玉座にて裕真は真剣な表情で考え込んでいる。それはもう、魔王軍の訓練マニュアルを考えたときより。いやいや、魔大陸絶対事項を考えたときよりだ。こんなに真剣に魔王が考え事をしている。よっぽど魔大陸にとって大切な事を考えているのだろう。城に使える魔族達も声をかけれずにいた。
「ふむ、どうしたものか……」
裕真がポツリとつぶやいた。長い思案の末、答えが出なかったのだろう。もとの世界であれば、Go○g○e先生に聞けばほとんど解決するのだが、ここにそんな便利な物はない。デジタル・ネイティブには辛い環境だ。
「何がですか?」
裕真のつぶやきが聞こえたのだろう。横で控えていたイリアが、裕真の顔を覗き込みながら尋ねる。
(少しでも力になれるかな? 魔大陸に関わる重大事項なんだろうから、私じゃ役不足かもしれないけど……)
イリアは裕真が最善の答えを出せるよう全力でサポートするつもりのようだ。
「いや、旅に出ようと思って……」
裕真が真剣な口調で答えた。それを聞いた周りの魔族も表情が固まっている。
「えぇっ!? 家出ですか!?」
(そんなっ! 魔王様がいなくなっちゃうなんて、そんなの重大事項どころの話じゃないよっ!)
裕真のつぶやきに真剣に驚くイリア。実に素直だが、裕真からすると、家出という例えは……。と思ってしまう。
「違う違う。 勇者討伐の旅に出ようと思ってな。」
裕真がイリアの勘違いを訂正する。そんな反抗期はしていない。そもそも、家出どころか、引き篭もりなのだ。ただ、ゲームに関してはアクティブなだけ。これは現実と言う名の異世界体験型ゲームなのだ。楽しまないと損である。
この魔王城で勇者を迎え撃つこと14回。 全て肩透かしを食らっているこの現状。 14回の御手洗い式退場にて裕真が感じたことは、魔王ってこんな暇なの!? と衝撃を受けている。
「良かった。ここが嫌になったわけではないんですね?」
イリアだけでなく、周りにいる魔族全員がふぅー。と安堵の表情を浮かべている。
「でも、旅ですか? ユマフェル様がいなくなっちゃうと、魔王城に来た勇者は誰が倒すんですか?」
そう、そこが問題だ。先程から裕真が悩んでいる原因だ。裕真が旅立つと言うことは魔王城に魔王不在と言う状況になってしまう。確かに、RPGでは序盤にラスボスがいるダンジョンでラスボスがいない事を確認するイベントがあったりする。ゲームならそのまま帰って報告といった形でイベントクリアになるだろうが、現実ではそうもいかない。魔王城を守る者がいなくなると言うことは、裕真と同等程度の実力を持った勇者に襲撃されでもしたら、取り返しのつかないことになるだろう。
「そうなんだよな~。 どうするべきか……」
裕真は再度思案にふける。だが、全然良いアイデアが浮かばない。
(勇者が魔王城に来たときだけ転移するか? 強いか弱いかわからない勇者のために行ったり来たりしてると、旅のほうが進まないしな~。 ん~……。)
「あっ! そうだ! あの人に聞いてみましょう!」
急に、イリアがなにかを思いついたようだ。
「この世界のもGo○g○e先生がいるのかっ!?」
「ぐーぐ……なんですか?それ」
あの人とは、かの高名なGo○g○e先生ではなかったようだ。裕真の予想は外れた。
「いや、気にしなくていい。 あの人とは誰だ?」
「あの人ですよ。 あ・の・ひ・と」
裕真がわかっていないことを自分がわかっているというのが楽しいのだろう。イリアは少し意地悪な笑みを浮かべてこの状況を楽しむのだった。
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