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7話 初討伐

裕真が魔王になってから二ヶ月、ついにある情報が裕真の元に届いた。


「報告です! 現在、勇者と思われるパーティが魔大陸の近くに接近しております」


裕真の前に跪く魔族の男が状況を告げる。この男、頭は(わし)で体は人間の魔族だ。背中に翼が生えており、この様な緊急の報告等を主に担っている。名前は……。まぁ、そのうち思い出すだろう。


「いかがいたしましょう?」


鷲頭くんの報告を聞いた裕真はやっときたか!と言った内心の喜びを隠して今後の動きを考える。


「では、勇者が魔大陸に足を踏み入れたら緊急魔法陣でその場所を教えろ。」


緊急魔法陣とは有事の際に使われる使い捨ての魔法陣だ。一回片道の使用になるが、悪用されるリスクも少なく、使い勝手がいい。転送の速度も設置型より早い。とは言っても誤差の範囲だが。


「わかりました。」


鷲頭はそう返答すると、翼を広げ玉座の窓から外へ飛び立って言った。


「勇者か……。どんな奴か楽しみだ……。」


裕真は勇者に早くくるよう望みながら報告を待つのだった……。



————————


鷲頭の報告から4時間ほど経っただろうか。突如、裕真の目の前に魔法陣が現れ、そこから魔族が一体現れる。


「報告します。勇者が魔大陸に入りました。」


この魔族は、見張り役の中から伝令役に選ばれたのだろう。裕真に対し、勇者の現状を簡潔に説明する。


「わかった。下がって良い」


裕真はそう伝令役の魔族に告げると玉座より立ち上がり、決戦の間へと移動する。


「クロスチェンジッ!」


裕真が、魔法を発動する。この魔法は、本来敵と自分の位置を入れ替える奇襲用の魔法だ。ゲームならそれ以外の使用方法はない。しかし、ここは現実なのだ。その概念を応用し、新たな魔法へと変える。裕真は目の前にある四つの石を直径3メートルはある魔法陣で囲うと、大量の魔力を流す。


「来いっ!勇者よっ!」


目の前の石は姿を消した。代わりに人影が、魔法陣の光の中に人影が浮かび上がる。


「な、何なんだ!? いったい!?」

「みんな無事か!?」

「私は平気よ!」

「光が止むぞっ!」


 魔法陣の光の中から4人の声が聞こえる。男2女2のパティーのようだ。


「な、なんだとっ……!」


 魔法陣から現れたパティーの一人が状況を理解し、驚きを隠せないでいる。


「我が名は、魔王ユマフェル! 勇者共よ、貴様らの命ここまでだ!」


 なんとなく魔王っぽいセリフを言ってみる。これも過去に培ったオタク知識の為せる技である。

 勇者達の顔から血の気が引いていく。


ガチガチ……。

 金属が細かくぶつかりあう音が聞こえてくる。

 震えているのだ。勇者を自称し、四人でここまで険しい苦難を乗り越えて目標である魔王の目前まで来た勇者が裕真を見て震えているのである。


(あれ? 名演技過ぎた? そんなに震えなくても、見た目お前らとおなじ人間に角のかぶりものしてるだけだよ。)


 あまりに、勇者達が怖がっているのに拍子抜けしてしまう。


「こ、これが、虐殺魔王……ユマフェル……。何という禍々しさだ……。」


 勇者のパーティーのうち、見た目格闘家の女性が口からこぼす。


(なんと失礼な! 禍々しいだなんて……。 ってか、冒険者サイドまで虐殺魔王って名前広がってんの!?)


 裕真は更に傷ついた……。


「みんなっ! ここまで来たらやるしかない! 俺に命をあずけてくれっ!」


 現在進行系で鎧をガチガチ鳴らしている勇者が皆の士気を高めようと鼓舞する。俺がパーティーだったら絶対に士気は上がんないな。とか裕真は考えてしまう。


「おうっ! 俺たちの命お前に預けた!」

「えぇ。私達は絶対に勝つわ!」

「頼りにしてるよ! リーダー!」


 ちょろいな~。こんなガクブル勇者の言葉で士気が上がるってちょろいな~。裕真の感想である。


「わ、我が名は、神風の勇者リュートっ! ま、魔王よっ! お前を倒すっ!」


 勇者が高らかに自己紹介する。それに続いて。格闘家の女。盗賊の男、魔術師の女がそれぞれ自己紹介をする。


(いやいや、神風の勇者じゃなくてガクブルの勇者でしょ~。 それに律儀に自己紹介必要なの? ……って最初にしたの俺だった……。)

 裕真は真っ先に名乗った自分の姿を思い出し、少し恥ずかしくなってしまうのだった。


「行くぞっ!」

 ダダッ!

 勇者が勢い良く飛び出し、裕真との距離を詰める。

(なんか、期待はずれだし、とっとと終わらせよ……。)


「我に力をっ! シャイニングブレ……。」

 ズバッ!

 勇者が技を発動しようと、剣が光を帯び始めた瞬間、裕真のただ剣を横薙ぎに振っただけの攻撃が命中、勇者は真っ二つになり淡い光と共に消えていった。


「おい死んでんじゃねーよっ! 私を守るんじゃなかったのかよっ!」

「そ、そんな……。」

「か、勝てない、勝てないよ……ママ……助けて……」

 勇者を一撃で倒してしまったため残されたパーティーは戦意を喪失してしまっている。女魔術師は完全に猫が剥がれて、素が出ている。盗賊の男は、勇者が一撃で倒されたことか、はたまた女魔術師の本性にか呆然としている。女格闘家に関しては、口調まで乙女と化し、腰を抜かして、床から湯気を立たせてしまっている。


(……あとで掃除お願いしなきゃな……。ってか、もうこいつらいいわ……。)

 裕真は、立ち上る湯気を見てあとからイリスに小言を言われているところを想像する。これ以上魔王城を汚される前に消そう。そう判断した裕真は、手に魔力を込める。

 すると、残された三人の足元に魔法陣が浮かぶ。


「い、いやっ! 殺さないでっ!」

 女格闘家が魔法陣から這い出そうとするより早く術が完成し、三人の姿は消えていった。


 バシャンッ!!!

 そこは魔大陸から外へ流れ出る運河だ。勇者以外の三人は運河の上に現れた魔法陣から河に落とされ、そのまま魔大陸の外へと流されていった。排泄物のように……。これは、魔王城に侵入した不届き者に速やかなる退場を願う際に裕真が予め設置しておいた転移魔法である。


 後に、この三人はこう語っている。


 「虐殺魔王ユマフェルは、魔王の中でも最も残忍な心を持っている。自分以外の生きとし生きるものすべてを排泄物と考える冷酷な魔王。この魔王に挑む物は必ず、浮き輪を持っていくように」っと……。


 後にこの話を知った裕真が生かしたことを後悔したのは言うまでも無い。

ご覧頂きありがとうございました。

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