敵襲2
「ああもう!めんどくさいなァ!」
文句をたれながら腕を振るい、敵を薙ぎ倒す。しかし街中なので無闇に本気は出せず、手加減しているので敵に攻撃が効いている様子はあまりない。再び立ち上がり攻撃を仕掛けてくる。さっきからこれが延々とループしているのだった。
最近、略奪者の出没が相次いでいる。目撃された場所の近くに歪んだ門もしょっちゅう発見されている。そんなこともあって巷では能力戦争の再来だと噂されていた。実際、北海道で襲撃があったし今大阪では略奪者が街中をうろうろしている状態だ。確かに、聞いたことがある先の戦争の時代に似ている。
とにかく、これでは埒があかないと、愛は道路を蹴って飛び上がり、近くの民家の屋根に上った。背中に意識を移し、あらかじめ服に空けてある切れ込みから翼を伸ばす。普段は隠している分やはりこれは解放感がある。
一つ大きく羽ばたいて体を浮かばせる。下を見やれば略奪者達が空を飛ぶ準備を終えたところだった。一人一人が小型のジェット機のような物を背負っている。重そうだ、と思った。それを見届け、愛は空高く飛び上がった。空を切り、風を切り、どんどん高くなる。ほどよい高さで滑空を始める。出遅れていた略奪者がついてくるのを横目で確認し、急激に方向転換をする。行き先は山。今回は普段木葉がよく行く山だ。
こういうとき、一般人がいるとうまく立ち回れないので、山や森など人のいない場所に誘導するのはよくあることだ。誰もいなければどんな残酷な殺し方をしても咎められない。故にやりやすい。
山の頂上近くに降り立つと、略奪者達も次々と着地する。ここなら誰にも見られず思う存分に戦えると、愛は両腕を炎に包む。能力を使うと光るらしい眼で睨めば、敵は一歩後ずさる。
「......腰抜け共が」
呟き、敵の内の一人、真ん中の一番体格の小さい奴に狙いを定めた。
素早く間合いを詰め、ターゲットに炎のアックスボンバーを見舞う。予想以上に軽かったので敵は簡単に吹き飛んだ。砂利を巻き込み盛大に山肌を転がり落ちていく。間を置かずに両腕を左右に広げ、掌から火炎放射。今更武器を構える残りの奴らを容赦なく炙る。どんどん炎の温度を上げていき、青い炎に変わる。戦闘中でも色が見える、乃々が作ったコンタクトに感謝する。肉が焼けるいい匂いがした。最近焼き肉食ってない、なんていうくだらないことを考えていると、敵の一人が後ろから斬りつけてきた。が、斬られた感触はない。刀身が体をすり抜けていく。それを感じ、一人ニヤリと笑う。
どんなに斬れる刀でも、実体のないものは斬れない。
ゆっくりと振り返ると、敵は己の刀と斬り損ねた敵とを見比べていた。表情が読み取りづらいが、斬れないことに焦りを覚えているのだろう。炎は刀では斬れない。そんなことは当たり前ではないか。なぜ驚いているのか愛にはわかりかねた。最近毎日のように手をあわせているのに。
火炎放射を止めると、そこには全身が焼け焦げ絶命している略奪者が五人ほど転がっていた。罪悪感などない。こいつらは人の居住域を侵す悪人。悪人は死んで当然。生きている価値がないのだから。
残っている敵は三人。仲間の無惨な死に様を見て怒りを覚えたのか真ん中の一人は口から光線を吐いてきた。軽く首を傾けて避けると向き直り、今度は口から火炎放射をする。最初から青い炎。体が熱を持ち興奮していく。もう少し力を込め、炎を大きく燃え上がらせる。この高揚感が気持ちいい。今なら何でもできるような気がする。他二人は左右から殴りかかってくるが拳を掴み、思い切り握り潰し、腕を捻りあげる。戦闘の意欲をなくしたようだが構わず握り続ける。
と、後ろで何かが動く気配がした。野生動物の可能性もあったが、気配の感じからしてさっきの敵だと判断する。こちらへ猛スピードで近づいてくる。火炎放射は止めずに気配だけをうかがう。どうやら両手が塞がっているうちに背後から殴り倒そうとしているようだ。敵が腕を振りかぶり、右の拳を後頭部に叩きつける、直前に拳を掴まれ失敗する。掴んだのは愛の三本目の腕だった。驚いた様子の敵の足を素早く尾を出して払い、転ぶところを左側の敵とまとめて蹴り飛ばした。そのままの勢いで捻るように右側の敵も蹴り飛ばす。今日も自分達の勝ちだ。愛は微かに微笑むと、人間の腕の形に変えていた翼を元通りにする。大きく羽ばたき、“家族”の待つ家に帰っていった。