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挨拶

 本当にイライラする。

碧海はテーブルの足を蹴飛ばした。細い足が簡単に折れ曲がり、吹き飛んだ。壁に激突して砕け散る。支えをなくしたテーブルが手前に倒れ込む。それを一瞥して立ち上がり、今度は軽くマンションの壁を蹴った。どん、という音がしてマンション全体が揺さぶられる。しばらくして隣の住人が蹴り返してくるがこちらも蹴り返す。


 最近引っ越してきた隣の住人が毎日毎日騒いでいてうるさくてしょうがない。マンションのオーナーにいくら言っても無駄で、今も男達が呑んで騒いでいるらしく、下品な笑い声や、時折壁を蹴る音がする。うるさい。いい加減うんざりだ。


 そろそろこのマンションも飽きてきたし、引っ越しついでに挨拶していくことにしよう。


 しばらく蹴っていると、隣が静かになった。と思ったらドアを乱暴に叩く音がした。男の太く、怒気を孕んだ声が響き渡る。


「おいいい加減にしろ!さっきからドンドンドンドンうるせえんだよ!」

「うるせえのはそっちだろ。いつもいつも騒ぎやがって。場所を弁えろよガキ共!」

「ああ!?」


 売り言葉に買い言葉。ドアを開けてみると、細い貫禄のない男達が十人程まとまって立っていた。こちらが女とみると哀れなものを見る目でこちらを見た。


「何だよ。女一人かよ。ナメられたもんだな」

「おい女。あんまり男をナメてっとひどいめにあうぜ」


 戯れ言は気にならない。こいつら程度なら一瞬で殺せる。碧海は鼻で笑って続けた。


「ナメてんのはてめえらの方だ。こっちは簡単に人殺せるんだ」

「はっはっ。おい聞いたか、こいつ人殺せるんだってよ」

「へえ~。じゃあ俺を殺してもらおっかな」


 調子に乗った男の一人が前に進み出てきた。しかし外で殺せば目撃者が出る可能性がある。そうなれば死体を消しても足が付きかねないので、ここではアレだからと部屋の中に入れる。本当に殺せるのか?今なら許してやるぜ、など男共が好き勝手言っているが全て無視した。こういうのは無視に限る。


「じゃあ殺してみてくれよ」


 死に急ぐ男が充分離れたところから煽る。他の奴らはもう少し離れてヘラヘラ笑っている。その笑顔を壊してやりたい、と強く思った。


 碧海は集中して能力(ちから)を発動し、男の体液を胃袋の中に圧縮した。男が干からびてカラカラになった。深い皺が無数に刻まれた顔が苦痛と恐怖に醜く歪む。見開かれた目がギョロギョロして気持ち悪かった。


 胃袋の中に圧縮された体液を今度は思い切り解放する。胃袋が破裂し、体もそれに伴い破裂する。男の体は四方八方に小さく飛び散り、体液がその場にいた全員に降りかかる。残りの男達は降りかかる体液にも気付かないほど呆然としていた。その男達を舐めるように品定めする。



 さあ、次は誰を殺そうか。






「やめろ......やめてくれ。殺さないで!」


 男は必死に命乞いをしていた。


「今更止める理由がどこにある」


 頭上で冷たい声が響く。


「俺はただ遊びに来ただけだ!それなのになんで......」


 男は部屋を見回した。全体が鮮血に染まり、床のあちこちに友人だったモノが転がっている。たまらず目を背けた。


「理由なんかねえよ」

「え?」


 男は顔を上げた。そこには、眼を青く光らせるヒトならざるモノがいた。






「ニンゲンってだけで、アタシの憎悪の対象なんだよ」






そこで男の意識は途切れた。

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