作戦の後
今日はツイてない。これから山に入って狩りをしようと出掛けた矢先に敵に遭ってしまった。無駄な体力を使ったし、何より服が破れて首を隠せないのでとりあえず家に帰って、替えの服に着替えてくることにする。木葉は首を隠しながら来た道を引き返し家路に就いた。道中この姿を見て悲鳴を上げる者もいたが木葉は興味を示さずそちらを見もしなかった。
玄関を通り部屋に入ると、ギョッとした様子の愛が色々訊いてきた。無理もない。服の襟は焼け焦げてなくなり、返り血を被っているのだから。
「アンタそれ何したん?」
「襲われた」
「誰に?」
「略奪者?っていう人達」
「なんで?」
「知らん」
本当に知らない。いつもは大勢で全員を狙ってくるのだが。暗殺でもしようとしたのだろうか。
「一人を襲ったってことは暗殺でもしたかったんかな」
愛も同じような意見らしい。昔から愛とは相性がいい。一緒にいてすごく楽なのだ。
愛は床に寝転がった。頭の後ろに手を組む、いつもの姿勢。パーカーにジーンズというラフな格好。陽気な愛の性格をよく表している。
「気をつけな。アンタは昔から狙われやすいし」
「気をつけるってどないして?」
最初からこちらを狙ってきているのにどうやって気をつけるというのか。木葉は血濡れの両手を握り締めた。
「でもアンタには必要ないか。誰にでもやり返してまうし。我慢しないからな~」
......うるさい。やられたらやり返すのは当然だ。反撃にやり過ぎも何もない。
「で、敵はどうやった?」
「......不味かった」
「え......いや強かったかって」
「弱かった」
質問の意図がわからず首を傾げる。愛もまた怪訝な表情で、木葉......不味かったって何?と質問してきた。
「そのまんまの意味」
無愛想に答えて洗面所に向かう。水を出し、手を翳すと赤黒い汚れが下水として流れていく。木葉はそれを虚ろな目でぼんやりと眺めていた。全ての汚れを落とすと自室に戻る。タンスの中を弄りながら大きく溜め息をついた。
またやってしまった。
一度ならず二度までも。しかも今回は三人も死なせてしまった。これでは重い処分は免れないだろう。
イオは肩を落としながら上司のジュピターに報告に向かう。ジュピターの部屋に入ると、もうすでに誰かと話している。どうやら取り込み中のようだ。後で出直そうと部屋を出ようとすると、呼び止められた。
「あ、イオ。ちょうどよかった。こちらに来てくれ」
ジュピターが話している相手はマーキュリーだった。いつにも増して鋭い顔をしている。
「また負けたそうだな」
さすが情報が早い。イオは視線を落とした。これ、報告に来る意味あるのか?
「はい。申し訳ありません。あとの三人は......」
「わかっている。もうすでに殉職として処理がなされた」
殉職。戦争中の軍人にとっては身近なものだが、こんなに近くで起きるとは。そして、淡々とした事務的な対応に若干の違和感を覚えた。人が死んだというのに、“殉職”の一言で片付けられてしまう。残酷な世の中だ。
「申し訳ありません。私が不甲斐ないばかりに......」
「もういいんだ」
マーキュリーが遮るように呟いた。この人とはよく話をするのだが、今回はその発言の意図ははかりかねた。
「とにかく君にはこれからも世界の守護者暗殺のチームに入っていてもらう。よろしく頼むぞ。下がってよし」
言われるがままに部屋を出て、広間に向かう。ソファーに座ると大きく息を吐き出した。
これからずっと、暗殺部隊に?
暗殺部隊ということはああいうことが常時起きるということ。
やはり自分は組織に必要とされていないんだ。
がっくりと肩を落としてうなだれる。いつも照明の暗い部屋が、いっそう暗く、ぼんやりと見える。だんだん視界が滲んでいくのを感じた。
そこから先は覚えていない。
絶対に許さない
あいつらは絶対に許さない
あいつらはアタシの人生を狂わせた
あいつらのせいでアタシは壊れた
あいつらにアタシは×××××
だから×××てやる
あいつら全員×××××てやる
か く ご し ろ よ