作戦決行
四人で素早く敵の四方を囲み、一斉に光線を吐く。見事に頭に命中し、骨と脳みそが弾ける音がする。煙が晴れると、そこには首から上を失った敵が立ち尽くしていた。あっけなく終わった。......と思いきや。
首の断面からすごい数の蔦のような物が伸び始め、頭の形に絡まり合うと、あっという間に頭部が再生してしまった。
予想だにしない展開に一同言葉を失った。これではいくら攻撃しても意味がないではないか。
こちらが呆然としていると、敵の身体に変化が起き始めた。平べったかった爪は鋭く伸び、黄色っぽかった肌は暗い緑色に。鼻先がググッと伸び、鋭い牙が見え隠れする。同時に四つん這いになり、獣に程近い容姿になる。低く短く威嚇してくる。どうやらこれでやる気のようだ。後には引けない。
充分に距離をとり、まずはガニメデが突っ込んでいく。頭を狙って拳を振り下ろすが、いない。いつの間にか背後に回られていたのだ。そのまま首筋に噛みつかれてしまった。敵は凄まじい力ですぐにガニメデの首を噛みちぎり、こちらに思い切り投げつけてきた。イオが悲鳴を上げながら腕を振り回していると、飛んできた首にヒットし、バラバラに粉砕してしまった。カリストが光線を吐き出すと、敵も何かを吐き始めた。最初はなんだかわからなかったが、風を吐いているらしかった。風如きで、と思ったが、風速がだいぶ速いらしく、光線の軌道がズレて全く当たっていなかった。これはだいぶ厳しいと思っていると、横からエウロパが光線を不意打ちで吐いた。カリストの光線攻撃はまだ続いているので、横からの攻撃には対応できないと踏んだが、敵はさっさと風吹きを止めてカリストの方へ向かって突撃していった。また首をやられるてはかなわない。イオは敵に向かって思いっきり光線を吐き出した。ところが光線が姿を捕らえたのは、カリストだった。
「えっ」
カリストの体は爆発四散し、あとには赤い肉片が散らばった。何が起きたのだろう。確かに敵に光線を吐いた筈なのに。
「どうなったんだ?」
「あいつがカリストの方に向かっていたとき、お前が光線を射つ直前でスピードを上げて避けた、と同時にカリストを光線の方に蹴りやったんです」
見ていたエウロパが説明をする。こちらの特技を利用したということか。けっこう戦い慣れているのか?
「そうか......これでは迂闊に光線は射てない。二人で挟み込んで殴ってみよう」
二人で前後にまわりながら、この命令を下した上層部を恨んだ。一番弱いといったのに、ヤバい奴との手合わせになってしまった。現に二人、死者が出ている。組織の情報収集不足だ。
「でりゃあ!」
「はあっ!」
二人同時に敵に突進する。これなら一人は正面でももう一人は背後を取れる。右腕を大きく振りかぶって拳を叩き込む。しかし、敵は突如立ち上がり、イオの拳は簡単に掴まれてしまった。片手で。見れば、エウロパも同じように手を掴まれているようだ。鋭い爪がグイグイ食い込んでくる。六本の指がじわじわと骨を圧迫し、鈍い痛みが襲う。しばらくいたぶった後、敵は掴んでいた拳を思いっきり握り潰した。
「あああああああああ!」
砕けた骨が筋肉や筋に突き刺さる。今までに感じたことのない痛みに悶え苦しむ。
「こ、今回は撤退だ!撤退!」
同じように苦しむエウロパに呼びかけ、自分達の世界に帰ろうとする。歪んだ門を開き、禍禍しい穴の中に入る。エウロパの姿を確認するため振り返ると、エウロパが歪んだ門から引きずり出される瞬間だった。すごい力で穴の向こうに引き戻され、歪んだ門は固く閉ざされてしまった。ほんの一瞬の出来事だったが、エウロパの絶望した表情は脳裏に強く焼きついた。