作戦会議
やってしまった。
最近失敗続きなのをチャラにするために無理に世界の守護者に挑んだのだったが、逆に組織全体に醜態を晒す結果になってしまった。これでは降格か、下手をすれば組織から除名されるかもしれない。そうなれば今までの苦労が水の泡になってしまう。今は上層部からの命令で広間に向かっているところだが、何が待ち受けているのかと考えると恐くて仕方がなかった。
広間で待っていると、上官が二人、連れ立って歩いてくるのが見えた。姿勢を正し、敬礼をして迎えると、椅子に座るよう促された。相向かいになるように座ると、上官の一人、自分の直属の上司のジュピターが口を開いた。
「君は私にも無断で世界の守護者に挑んだ。間違いないね?」
「はい......」
「そして負けたんだな」
「はい......」
言葉こそ優しいが、叱責されているのは変わらない。自然と体が縮こまる。ああ、早くこんな時間は終わってほしい。
「......あれだけ独断の戦闘は控えろと言っていたのに、どうしてそんな無茶なことをしたんだ。奴らは相当の手練れだぞ。今回よくわかっただろう」
「わかってはいたのですが......」
声が幾分か小さくなる。しかし、上司に対してはハキハキと答えねばならない。結果としてボソボソと呟くような返答になってしまった。
「自分はこの頃失敗続きで、後がなかったのです。ここで手柄を挙げれば、今までの失敗を相殺以上できると思いまして......勝てると思ったのですが......」
「奇襲程度では奴らは落ちない。それは教育所で教わった筈だ」
「一人で寛いでいましたので、いけると思ってしまいました」
「......」
ジュピターは呆れてしまったようだ。ここでもう一人の上官、マーキュリーが話し出す。この人はいつも淡々としていて、冷酷な印象を受ける。話す声も刺すように冷たく、今のイオの気分も重なり、なんだか死刑宣告を聞かされているようだった。
「お前の処分なのだが、これから言う三人とチームを組み、世界の守護者の内一人を殺してもらうことになった。メンバーは、エウロパ、ガニメデ、カリストだ」
その処分を聞いて、イオは狼狽した。今名前を呼ばれたメンバーは組織の問題児達だ。そんなのと組んで世界の守護者を倒せと?実質死ねと言うのと同じではないか。
「心配することはない。倒すのは一番弱い、植物と風の奴だ。そいつは今までに一度も人間を襲ったことがないらしいし、今日までの戦闘も積極的ではないから、世界の守護者の中でも弱いのだろう。だから寄ってたかって倒してしまえ」
それを聞いて少し安心した。一番弱い奴ならなんとかなるかもしれない。
「じゃあ、頑張れよ。健闘を祈る」
二人はマントを翻し、足早に広間を後にした。溜め息をついた。今すぐクビにはならなかっただけ良かった。早くチームを結成して作戦を練らねば。イオは堅く打倒世界の守護者を誓い、広間を出ていった。
今日は散々な日だ。上司のジュピターからチームを組めという命令がきた。チーム戦が嫌いなのは前から言ってあるのに。
昼休みに、同じチームになるというイオから召集がかかり、昼飯もそこそこに会議室に集まった。なんとあの世界の守護者を四人で倒せというらしい。これには自分達が組織に用済みだと思われていると自覚するしかなかった。
ガニメデは椅子にふんぞり返り、テーブルに足を乱暴に乗せた。他の面子が非難の眼差しを向けてきたが、無視してやった。イオは諦めたのか、続けた。
「相手は一人、世界の守護者の中で一番弱いらしい。だがいつも他の奴と連んでいて一人になることがあまりないそうだ。偵察隊によれば、午後に一人の可能性が高いという分析がある」
敵の情報を共有するのはチーム戦では基本中の基本だ。
「それで作戦を考えたいんだが、何かいい案はあるか?」
イオの問いに答える者はいない。エウロパは顎に手を当てて考え込み、カリストはそっぽを向いている。チームワークは最悪だ。
「じゃあこういうのはどうだ?一人のときを狙って四人がかりでボコボコにする。簡単だろう?」
見かねたガニメデが発言してみたが、エウロパが納得いかない様子だった。嫌味ったらしく聞こえる音量で文句を言ってきた。
「そんなに簡単にいきますかねぇ」
「じゃあお前が考えろよ!」
あっという間に口論が始まってしまった。カリストが不意に手を上げた。イオが発言を促した。
「相手の能力は?」
「植物と風だ」
「なら物理攻撃に弱そうだな。さっきのでやってみてもいいんじゃないか」
カリストが袋叩きに一票入れると、おっしゃ、じゃあ決まりだな、と、ガニメデは半ば強引に決めた。異論は出なかった。
チームメンバーは一旦家に帰り、条件が整い次第攻撃開始することになった。野宿に必要な物を持参し、人間の世界へ移動する。敵の住処の近くに拠点を決めて、一人で出てくるまで待つ。その間に、頭を重点的に狙って攻撃することを取り決めた。
一日目の昼過ぎ、対象が一人で家から出たのを確認した。家から充分離れたところまできたのを確認し、敵の前に姿を現した。戦闘開始だ。