敵襲1
後始末も無事に終わり、ソファーで寛いでいると、ふと窓の外に何かの気配を感じた。それもただ者ではない様子。千里眼を発動させて気配の元を探し出す。そしてその眼に映ったのは、黒く艶のある肌、長く伸びた鼻先、大きく裂けた口を持つドラゴンのような生物。こちらに向けて光線を吐こうとしているところだった。敵襲だ。
一瞬で千里眼を解除し、家の外、敵の方向にバリアを張る。瞬間、響く爆発音。ソファーからテーブルに飛び移りながら後ろを向く。テーブルを蹴って窓ガラスに突っ込むと簡単に割れる。その勢いで外に出た。ガラスの破片が降り注ぐが気にはならない。敵の姿を確認し、地面を蹴って素早く間合いを詰める。バリアにぶつかる直前で解除し、思いっきり右の拳を叩き込む。敵は気づくのが遅れたのか顔面に受けて吹っ飛んでいった。村の木々を薙ぎ倒しながら畑に突っ込み、無理やり体勢を立て直した。相手が地面を蹴ると同時にこちらも向かっていく。敵が右腕を叩き込んでくると読んで左の手のひらで受ける。腕を払って猛ラッシュを仕掛ける。相手も負けじと殴りかかってくるが、こちらのラッシュの速度に追いつけずに蹴りをくらう。乃々は急に軽くなった相手にも容赦なく攻撃を続ける。最後に一発重いパンチを鳩尾に入れると、敵は動かなくなった。気絶したようだ。ホッと一息つく。
乃々は辺りを見回した。田舎とはいえヒトはいる。何人かが怯えた様子でこちらを見ているのがわかった。今回は隠せそうにないので殺すのはやめた。のびている敵を引きずって山の中に一旦身を隠す。
さて、どう始末するか。
......なんとなく、本当になんとなくなのだが。
最近、妙な気配がしている気がする。
家の中にいても視線を感じるし、物の配置が少し動いている気もする。気のせいと言われればそれまでだが、こっちを覗いている気配はほぼ一日中しているのだ。今家具が殆どない状態なので今日は窓の外からの視線を強く意識してしまう。
自分達世界の守護者は、色々な身体能力が普通の人間よりも優れている。五感や筋力はもちろん、身体は丈夫だし、第六感にあたるものもだいぶ強力になっていて、そのおかげで怪人相手でも善戦できる。故に色々なところから狙われている。特に最近は怪人の目撃情報がよく出ているらしいし警戒するに越したことはないが、自分の時間も欲しいわけで、こうして監視されていると不快になるのだった。
乃々特製の眼鏡を外し、これも特製のケースにしまう。鮮やかだった視界がモノクロに戻る。不便は不便だが割れないようにするにはしょうがない。ケースを無事だった棚に置き、玄関から外に出る。ついてくる視線の方に目をやると、何かが慌てて隠れるのがちらりと見えた。
素早くコンクリートを蹴り、急激に方向転換をして走り出す。壁を交互に蹴り、屋根に上ると、視線の主が隣の家の屋根に飛び移るところだった。
「こらぁ!待たんかい!」
距離を詰めようとするが、瓦を蹴散らしながらではうまくいかない。その間に相手は屋根の隙間に消えてしまった。少し遅れて追いつくがそこには敵の姿はなかった。逃げられた。
「ああもう!」
やはり瓦の上では走りづらい。次からは空を飛ぶことにしよう。
肩を落としながら家に帰り、部屋に入ると木葉がちらりと様子を窺ってきた。何かあったと感じ取ったのか、静かに口を開いた。
「何かあったん?」
木葉の方から話しかけてくるなんて、珍しいこともあるものだと思いながら、また逃げられた、とだけ答えた。木葉はハイネックの襟を伸ばしながら、そう、と返してきた。
「愛はそういうの下手やな」
「なんやとこらぁ!」
油断していたら思わぬ言葉が。世界の守護者の中で一番喧嘩が弱いの、気にしているのに。
アンタはできるんかい?と訊けば、愛よりは、と返ってきた。失礼な。愛は舌打ちをした。
「次から飛ぶからええんや」
そう言って不貞腐れるまねをした。そして次こそ敵を捕まえて一発かましてやる、と心の中で誓った。