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透明な転校生



教室にいるのは私と雅を含めて六人。学年はバラバラだ。私と雅は高校一年。中学生の子が男女二人と、高校三年生の女の子が一人という構成。村民二百人の集落だからこんなのもの。


薄暗い教室、まばらな座席。風でガタガタ鳴る窓は曇っていた。


「昨日、ペンギンが出たんだって」


中学生の子がひそひそ話しているのが耳に入る。雅は机の中をしきりに漁っている。忘れ物でもしたのかな。


「怪我した人もいるらしいよ」


青森の集落にまでペンギンは出る。私はペンギンを見たことがないから、話している子たちと同じくらいの知識しか持ってない。


三年前、ペンギンと名乗るハッカー集団が、世界に宣戦布告した。


彼らは世界中のコンピューターをハッキング、某共産国の核のミサイルのボタンを手に入れた。それを楯にやりたい放題を始めたのである。


あらゆる物がインターネットに繋がるIOTが浸透した世界は彼らの独壇場。監視社会となった世界で、ちょっとした反撃を狙おうものなら、惨憺たる報復を受けることになる。


さらに彼らはペンギンコインという仮想通貨まで発行し、あたかも国のように振る舞い始めた。それを呼び水にして金が集まる。今や金を持ってる奴は神様より強かった。


ペンギン国はアメリカのシリコンバレーをまるごと買収。汎用型人工知能を搭載した最新兵器で武装し、各国で戦争を始めた。


悲しいことに国に不満を持ってた人は世界中にたくさんいた。彼らはペンギンコインに投機し、火に油を注いでいる。


まず中東、EU圏、アジア、アメリカ、そして日本。必死に抵抗しているが戦況はよくないみたいだ。


東京が攻撃されたのは一年半くらい前。横須賀を皮切りにペンギン国の空爆。在日米軍と自衛隊が抗戦したが、民間人にも被害が出た。各国政府はネットの検閲を強化し、ペンギンの被害を止めようとしているが、歯止めになっているか疑問だ。


私は二年前、東京が戦場になる前に青森に疎開した一人だ。母方の祖母が青森に住んでいたので私だけ預けられた。両親は外国に出国する手続きするために東京に残ったけど、どこに逃げたって同じだよ。ペンギンはどこにいっても追ってくるんだから。


「みなさん、授業を始める前に」


いつの間にか小林先生が真剣な顔で教壇の前に立っていた。後片づけさせて申し訳なかったなと思ったけど、雅のカイロがあるから頑張れるだろ。


「今日は新しいクラスメートを紹介します。福島から疎開してきた新沼聡君です。みんな仲良くね」


転入生の紹介らしいけど、意味わかんない。仲良くねって任されても、先生の隣に誰もいない。ざわつく我ら。


「先生! 新沼君は透明人間ですか?」


雅が軽快に冗談を飛ばすが笑う奴はいない。もちろん私も。


「ペンギンにやられたんじゃね?」


私が小林先生に向けて言うと、先生は女みたいな悲鳴を上げて廊下を走っていった。


「新沼君ー! 今行くから、生きててくれー!」


戸が開けっ放しになって寒いので、私が閉めた。


「自習だよね、雪ちゃん」


「うん」


犬みたいに喜ぶ雅には悪いけど、私は中学生の子の勉強を見てやりゃな。三年生の先輩は慣れた風に一人で自習してくれるから助かる。


「ねえ、花札やろうよー」


「さっき札遊びはやっただろ、少しは勉強しなよ」


雅は不真面目だ。遊ぶことしか頭にない。悪いとは言わないし、一人くらい明るい子がいるのは場が和むこともある。でも空気は読め。目下に馬鹿にされてるぞ。


「俺知ってる。大河内、小林先生に色目使ってテスト誤魔化してるんだ」


中学生の男の子が雅の醜聞を突然暴露した。私は知らなかった。本当だったら引くわ。


「……、何のことかね、少年。私は実力でテストを」


「もういいから。席ついて。わからんところあるなら私に聞いて」


顔色の悪い友人の姿にいたたまれなくなり、無理矢理席につかせる。顔を近づけ真意を訊ねた。


「悪いのは小林か、あんたか」


「私です」


わずかながらプライドは残っていたか。腐っても私の友達のようだ。


「でもー、千晶君が四十点でいいって言ってくれたからー、ズルはしてないです。いただああ」


「お前! 見損なったぞ、いい加減にしろ!」


感情的になり雅の髪を引っ張っていると、三年の先輩に横目で威圧された。すげー眼力。マジで私と二歳しか違わないのかっていう。


つーか何で私が怒られるんだよ、納得いかない今日この頃。


小林先生が戻ってきたのは三十分くらいしてから。転校生の何とか君は未だ行方不明らしい。地元警察、自衛隊も捜索に当たっているそうな。だが、ぶっちゃけどうでもいいし。



「皆さんも、絶対に一人で行動しないでください」


耳にたこができるほど何度も聞いた注意につい、反発してしまう。


「先生は雅と行動したらいいじゃないですか。テストの面倒も見てるんだから送り迎えもしてください」


こんなのただの八つ当たりだ。わかってるけど。言ってから後悔した。空気凍えまくりだし。


先生は口を開けて、放心してた。大人のする顔かよってくらい馬鹿っぽかった。


中学生は猿みたいに騒ぐし、先輩は文庫本を読んでいる。雅はまんざらでもなさそうに笑ってるけど、何考えてるかわからない。


皆ペンギンに殺されればいいのに。私はこんな所に来たくなかった。

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