ひとりぼっち
朝起きたら今とは違う環境になってないか、と妄想したことはある。いわゆるブラックな企業に勤めていたせいで、家に居るのは寝るときぐらい。それが毎日続けば、そう思ったとしても仕方のないことだろう。
でも、まさかそれが叶うだなんて思ってもいなかった。だけど、それがこんな形になるなんて――。
目を覚ましたら知らないところに居て、竜になっていました。だなんて誰が想像できるだろうか。
ヘロヘロになって帰宅し、ご飯も食べず風呂にも入らず床に着いたのが最後の記憶だ。
夢かと思って頬を抓ろうとしたが、手には獰猛な爪があったためその考えは捨てた。
巨大な胴体は高層ビルの高さに相当し、全身は鋼にも勝る硬さの鱗に覆われている。
口を開けば灼熱の炎を吐き、ひとたび羽ばたけば家をも吹き飛ばすような突風を起こす。
RPGなどでお馴染みの、あの竜である。
この世界――自分のいたところには空想の生物だったのでそう考える――でも、竜は最強の部類に入る生物らしい。ただし自分は幼竜らしく、身体は人より若干大きい程度しかないが。
ここは竜の巣と呼ばれるところで、他にも竜が大勢いる。
自分は産まれたばかりの竜らしく、成龍から色々と教わることとなった。母のようなものだけど、母ではないらしい。自分の名前はラネだと聞いた。
産まれたばかりという話から考えると、元の自分はあれで死んでしまい、生まれ変わりを果たしたと考える方が正しいのかも知れない。なぜ、人のときの記憶を持っているのかは分からないが。
けれど悲しいかな、そのせいで竜らしく在ることができなかった。
他の竜たちとはどうにも意見が合わず、どんどんと孤立してしまっていった。
結局一年も経たずに、自分は竜の巣を追われることになった。
そうして彷徨い辿り着いたのは、多くの人々が暮らしているだろうとある街。
しかし竜は、人からは畏怖の存在であると聞いている。この姿では街に入ることすらできない。
そのため人化の術を使うことにした。竜の巣を出る前、ごく一部話の通じる竜から教えてもらったのだ。
だがしかし、湖の前で術を使ったところ、人化した自分の姿を見て驚くことになった。
すらりとした長身で黒髪を腰まで伸ばしていて、鋭い眼光の黄金の目。
線は細いのに出るところは出ている。見た目では二十歳過ぎぐらいの長身美女と呼ぶに相応しい姿だった。
人化の術を教わった際、年齢はコントロールできるが性別は変えられないということを聞いていた。術を使う際、年齢は前世の自分くらいでと想定していた。
そこで自分は、雌の竜だったということが初めて分かったのだった。
慣れない世界での生活と、女としての生活。二つを同時にこなすのは困難を極めた。
容姿のせいで言い寄ってくる男が後を絶たなかったが、救いだったのは睨み付けるだけで大半の相手は怯んで逃げていったことだ。
あとから分かったのだが、竜の象徴である金色の目が相手に威圧を与える効果があるらしい。
人化の術は翻訳の能力も備わっており、人との会話が難なく行えたのはありがたかった。
生活は冒険者ギルドとやらで、街の外に現れるという魔物の討伐依頼を受け、それをこなし日銭を稼ぐことで食いつないだ。
依頼を受ける際は、なるべく遠くにいる魔物のものを選ぶ。それこそ、人が滅多にいないような場所だ。
戦いのときは竜に戻り、力でねじ伏せるだけだ。幼竜の自分でも、そこらの魔物など敵ではない。
そんなある日、いつも通り討伐依頼を受け魔物が現れる先へ向かっていた途中。
何かの悲鳴を聞き取り、声の方へ向かうと魔物に襲われている少年がいた。
走って逃げているところを何かに躓き、前のめりに倒れた。このままじゃ危ない、と思った自分は瞬間的に竜に戻り、魔物を爪で八つ裂きにした。
魔物が物言わぬ骸と化したことを確認し、再び人化し少年の元へと駆け寄る。
少年は前のめりに倒れたまま、全く動かない。
仰向けにしてみるもぐったりとしていて、頬を叩いても反応がない。
ただ怪我はないようなので、おそらく転んだ際に気を失ったのだろう。
改めて少年の全身を見る。背は自分よりも頭一個分は低い。短い金髪にまだあどけなさが残る顔付き。年齢で言うと十三・四歳ぐらいだろう。どうしてこんな子どもがここに居たのだろうか。
この少年の取り扱いに悩む。自分に関係のない少年は放っておけばいいとも思った。
ただ折角助けたのに、ここにこのまま放置するのも後味が悪い。また魔物に襲われる危険性もある。そう考えた結果、今日の討伐依頼はキャンセルし、少年を家へと連れ帰ることにしたのだった。
☆
「……ぅ」
少年を家のベッドに寝かせて数十分後。少年から声が漏れ出た。どうやら気が付いたようだった。椅子から立ち上がり、ベッドへと向かう。
「目が覚めたか」
「えと……ここは……」
「……君は森の中で気を失っていた。私が連れ帰ってきて手当てをしたんだ」
「そう、だったんですか……。あの、わざわざありがとうございます」
少年は首を垂れて感謝の言葉を述べた。
「……私はラネという。君は?」
「ボクは……ルコといいます」
「そうか。身体は悪くないか? 動けそうなら、両親のところへ連れていくが。きっと心配しているだろう」
「あの、ボクに両親は……いません」
ルコと名乗った子どもは伏せ目でそう答えた。
聞いてはいけないことだったか。そうなると――孤児院のような場所で暮らしているんだろうか。
「……そうか。それならどこか、孤児院とかで暮らしているのか?」
「……はい。でも……」
「……?」
ルコは目を泳がしていた。一体どうしたのだろうか。
「あの場所には帰りたくないんです」
そう言うとルコは自らの話を始めた。
父親は幼い頃に死別。母親が何とか育ててくれていたが、無理が祟って母親も父親の後を追うように亡くなってしまったようだ。その後孤児院へと身を寄せたが、あまり評判の良くない孤児院だったらしく食事もろくにさせてもらえなかったらしい。
今日あの場に居たのは、施設長からとある果物を採取してくるように言いつけられたからとのことだ。
その話を聞いて自分は憤りを感じていた。なぜなら、あの場は魔物が多いことで知られているからだ。恐らくそれを知って送り出したのだろう。それがどういうことを意味するかを分かった上で。
このまま孤児院に戻してはいけないと、直感が働いた。
ルコをこのまま路頭に迷わせることは、させたくなかった。
なにより前世の自分、現世の自分と境遇が似ている、と感じたからだ。
前世は幼い頃に両親が他界し、就職までは施設で暮らしていた。就職後もブラック企業に勤めていたせいで人との関わりはほとんどなかった。そして今世も、ほぼひとりぼっちだったのだ。
自分とルコを重ねて、他人のようには思えなくなっていた。仮にこのまま放り出したら、後できっと後悔するだろう。
そう決めた自分は、意を決してルコをじっと見て語りかける。
「君がよければ、私が面倒を見る」
「……え、でも……」
「勿論、嫌なら元の孤児院へ連れて行くが。……でも、そこには戻りたくないんだろう? 悪いようにはしないから、どうだろうか」
自分がそう言うと、ルコは顔を下げボソボソと何かを呟いていた。幾何かのあと、顔を上げ口を開いた。
「あの……本当にお世話になってもいいんですか?」
「ああ。豪勢な暮らしはさせてやれないが、食べることぐらいは困らないようにしてやる。狭い部屋だが、自分の家だと思ってくれていい」
安い集合住宅の一角にある狭い部屋、これが自分の城だ。狭いが、子ども一人なら受け入れられるだろう。
ルコは提案にしばらく俯いて考えている様子だったけど。
「……ラネさん、どうかよろしくお願いします」
「ああ。……私を呼ぶときは、さんはいらない」
年下とはいえ、一緒に暮らす相手にいちいちさん付けされるのも何かこそばゆい気がしたのだ。
「……だったら、ラネお姉ちゃんって呼んでもいいですか……?」
「お、おねっ……!?」
「ボク、兄も姉もいなかったので、居たらいいなってずっと思ってたんです……。ダメですか?」
そう言いながらキラキラとした目を向けてくるルコ。そんな目で見られると断るに断れない。
見た目はあまり似ていない姉弟な気がするが、まあ仕方ないだろう。
「う……。はぁ、勝手にしろ」
「ありがとうございます……ラネお姉ちゃん!」
☆
「それじゃあ行ってくるから、留守番頼むぞ。誰か来ても出なくていいからな」
「分かってますよ、お姉ちゃん。いってらっしゃい!」
それから一か月。ルコとは随分と仲が良くなったと思う。
最初はぎこちない会話だったが、今は本当に姉弟であるかのように会話ができている。
件の孤児院には自分がルコの面倒を見ると伝え、正式にルコの保護者となった。やはりいい扱いをされていなかったのか、やけにあっさりと許可された。自分が引き取って正解だろう。
昼間は自分が魔物討伐の依頼をこなし、その間ルコは家から出ないように言い聞かせている。
小さい子だ、一人でどこか行かせることはしたくない。過保護かもしれないが、この街は治安がいいとは言えないのだ。
夕方前に戻ってきたら一緒に買い物へ出て、夕飯を作り食べる。寝床も一緒のベッドだ。
ベッドについては初めの頃はなぜか抵抗されたが、今では何も言わなくなった。
本当は別々のベッドにしてあげたいところだが、部屋が狭くとても新しいベッドを置くスペースを確保できなかった。
自分としても男と一緒の寝床などと、とは少し思ったけど相手は子どもだ。自分が我慢すればいいだけの話だ。
ルコはコロコロと表情を変えて話をしてくれる。本当の姉のように話ができて嬉しいとよく言われる。自分もルコと一緒に話をするのは楽しい。
人との付き合いがこれほど楽しいとは思わなかった。
毎日自分と一緒に買い物をするのを心待ちにしているようだし、自分もそうだった。
だがただ一つだけ、自分が竜であるということは言い出せなかった。
騙しているような気がして少し心苦しいが、仕方が無い。
竜は畏怖の存在なのだ。ルコにとっても怖い存在に違いない。
早めに言ってしまおうかとも思ったりはしたが、結局言い出せずにずるずるとここまで来てしまった。
素性を明かすことでこの生活が崩れてしまわないかと、自分は恐れていたのだ。
☆
ある日のこと。今日はルコを引き取ってから六か月という節目の日だ。
今日はルコとささやかなパーティーを開く予定だった――のだが。
いつものように依頼をこなしてから家に帰ると、ルコの姿が見えなかった。
「ルコ……?」
やはりルコは家にはいなかった。あれほど家にいるようにと言いつけてあったのに。
もしや人攫いにでもあったかと思ったが、部屋が荒らされている様子もない。
ふとテーブルに目を向けると、一枚の紙が置かれていた。
そこに書かれていたのは拙い字。自分も読み書きは勉強中だが、それはすぐに分かった。
すぐに剣を携え、家を飛び出した。
「馬鹿ルコっ……!」
ルコにも身を守る術を身に付けて欲しい、と三か月ほど前から剣術の稽古を付けていた。
いつの日かは別れの日が来る。そのときに一人でも生きていけるように、と始めたのだ。
自分も人化状態で戦えるよう、長剣を用いて魔物を狩る練習をしている。どうしても力押しになってしまうが、竜状態よりも人の目を気にせず戦える。その一環でルコに稽古を行っていた。
ルコはちょっとずつ腕を上げており、先日冒険者ギルドに登録したところだった。
ギルドから発行された冒険者の証を手にした、ルコとの会話が思い起こされた。
▽
「これでボクも一人前ですね!」
「全然ダメだ。まだまだ半人前だ」
「そうなんですか? どうしたら一人前になれるでしょうか?」
「そうだな……。ルコが気を失って倒れていたエリアの果物を一人で取ってこられれば、一人前と認めてやらなくもないな」
「そうですか……。分かりました」
▽
(クソッ、あんなこと言わなければ……)
テーブルの紙には、その果物を取ってくると書いてあったのだ。
記念日に一皮むけた姿を見せたい、とのことらしい。
当然ながら、あのエリアには魔物が多数生息している。
しかしルコの今の腕では、魔物と戦うのは無謀である。
急いでそのエリアに向かうも、ルコの姿はなかなか見つからない。
もしかして違うところにいるのか、と思っていたところついにルコを見つけることができた。
ルコはこちらに気付いて手を振っていたが、その後ろに何か影が見えた。
「ルコ、後ろ!!」
自分がそう言うも間に合わず、魔物の腕が振り下ろされルコの身体は宙を舞った。
まるでスローモーションがかかったかのような錯覚を起こす。どさり、と地面に倒れたルコの辺り一面に血飛沫が飛び散った。
「あああああああああああああああ!!!!」
その様子を目の当たりにした自分は人化を解き、その魔物を鋭い爪で一線。魔物の身体は真っ二つになり、その場に横たわった。
すぐに人化してルコに駆け寄るも、ルコの身体からはおびただしい量の血が流れていた。
医療の知識がない自分でも、致命傷を受けているのは明らかだった。
このままではルコが死んでしまう。どうすればいいんだと焦る中、竜の巣で聞いたとある内容を思い出す。しかしこれを行うと、ルコに竜状態を見られてしまう。けど、やらなければルコはきっと死んでしまうだろう。
ルコの命には代えられない判断した自分は、再び竜へとなった。
そして爪で自身の肌を抉り、流れ出てきた血をルコの口へと数滴流した。
するとみるみるうちにルコの傷口が塞がり、青ざめていた顔も元に戻った。
竜の巣で聞いた、自分たちの血は優れた万能薬となると言うのは本当だったようだ。自らを傷付けたため痛みはあるが、ルコの命に比べれば大したことではない。
ルコがもう問題なさそうなことを確認して、自分は人化の術を使い人の姿へと変身した。
「お姉……ちゃん……」
一部始終を見ていたルコは、どこか恐怖を感じているような声色だった。当然だろう、竜である自分の姿を見せてしまったのだから。
「黙っていてすまない。私は……竜という存在だったんだ。騙すつもりはなかったが、結果的にそうなってしまった……」
ルコは何も言わなかった。自分に向けられた視線が痛かった。それに耐え、言葉を続けた。
「私は人々から恐れられる存在……。ルコもそう思うだろう。騙していてすまなかった。……金は家の倉庫の奥に貯めてある。家は自由に使っていいから、何とか独りで暮らし……」
「嫌です、お姉ちゃんとは離れたくないです!!」
ルコの叫ぶような声に、話を止められる。こんなに大きな声が出せたのか、と思うも、すぐにルコが口を開いた。
「お姉ちゃんが竜であること、実は初めから分かってました。もちろん怖かったけど……ボクの手当てをしてくれたり、面倒を見てくれると言ってくれたり……。言い伝えのような怖い存在だとはとても思えなかったんです」
「……」
「そんなお姉ちゃんと離れるだなんて、絶対に嫌です! お姉ちゃんが出て行くというならボクはあとを付いていきます!」
「ルコ……」
ルコの言葉に、自分の胸が締め付けられるような気がした。初めからルコは全て知っていたのだ。それにも関わらず、自分と一緒にいることを選んだのだ。その上で自分をそこまで慕ってくれていた。その状態で出て行くだなんて、責任放棄に近い。
自分は覚悟を決め、座り込んでいたルコにしゃがみ込んで話し掛けた。
「分かった……そこまで言うなら、ルコを置いて出て行ったりしない。……その、私もルコと話したりするのは楽しいから、な……」
「お姉ちゃん……!」
恥ずかしい気分になり目線をそらせながらそう言ったあと、ぽふっと軽い衝撃を感じた。
ルコから抱きしめられていることに気付いたのだ。
そしてルコは抱擁を解き、真っ直ぐ自分を見つめて口を開いた。
「あの……ボクも、お姉ちゃんに黙っていたことがあるんです」
「……なんだ?」
「ボク……お姉ちゃんのことが好きです」
「ん? ……私もルコのことは好きだが」
「違います……その、お姉ちゃんのことを愛しています」
「…………え?」
ルコが言い放った言葉に思わず固まってしまう。
「ちょ、ちょっと待った! どうしてそうなる!」
「どうしてって……お姉ちゃんは綺麗で、かっこよくて、ボクのことを全て受け入れてくれて……。結婚するならお姉ちゃんしかいないって、最近思っていたんです」
「いやいやいや……そんなのはルコの思い込みだろう。私なんかが……」
「お姉ちゃん」
「ん……んん!?」
急に身を寄せられたかと思ったら、唇に柔らかいものが触れた。そしてルコの顔が目の前にある。――ルコにキスをされている。しばらくの接吻のあと、ルコはゆっくりと顔を離していった。
「な、な、な……」
「ボク、今はこんなのですけど、将来お姉ちゃんを必ず幸せにしてみせます。……お姉ちゃん、結婚してください」
「待て、待て。まず落ち着こう、な? ちょっとゆっくり話をするべきだ」
そこからルコとはじっくりと話し合った。ルコは本気で自分を好いているようだった。
どうしてこんなことになったのだろうか。予想だにしなかったので、面食らう形となり頭を抱えてしまったのだった。
☆
☆
☆
「お姉ちゃん、ただいま」
「おかえり、ルコ」
椅子に座って編み物をしていた私に、ルコが優しく声を掛けてきた。私はそれに応え迎えた。
あれから三年が経った。
私とルコは街を離れ、とある山中に小屋を建て、そこでひっそりと暮らしている。
そうせざるを得ない理由が生まれたのだ。
あの事件から、ルコの外見が全く成長しなくなってしまった。
どうもおかしいと思っていたが、どうやらあのとき血を飲ませたのが原因らしい。
竜である私は、言い伝えが正しいのならば寿命は数千年ある。そして人化しているとき、年を取っても外見は変わらない。正確に言えば、外見をそのままで維持できると言うべきか。
その私の血を分け与えたからか、ルコが竜の特性を引き継いだようなのだ。
竜への変身はできないようだが、身体能力が劇的に向上し長寿化も果たしたようだ。
ただ私と違い、外見をコントロールできないという特性を持ってしまったルコ。年齢を重ねても姿が変わらないという状態のまま街で暮らすのは怪しまれると思い、こうして人里離れた山中へと引っ越してきたのだった。
まあ特性の影響でルコ一人でも狩りができるようになり、こうして毎日食材を探してもらってきているので食べることには困ってはいない。
さて、毎日そうしてもらっているのには、理由があって――。
「お姉ちゃん、お腹を大事にしてましたか? あんまり動いちゃダメですよ?」
「ああ。ルコのお陰でゆっくりできてる」
そう言いながら、ルコは少しだけ目立ってきた私のお腹を優しく撫で上げ、耳を当てたりしていた。
――私のお腹の中には、ルコの子がいる。
竜が人と子を成せるだなんて思いもしなかった。これも血を分け与えた影響なのだろうか。
何にせよ子を大事にするルコが、狩りを一手に引き受けてくれているのだ。
私はそんなルコのことをとても大切に思っている。だからこそ、そろそろ変えなければならないことを私は話を切り出すことにした。
「ルコ、そろそろそのお姉ちゃんというのはやめないか? 子が生まれても、そう呼び続けるのはおかしいだろう」
「そうですか……? お姉ちゃんはお姉ちゃんだと思うんですが」
「……この子が女の子で、次に妹か弟が生まれたら紛らわしくなるだろう」
「……そう言われるとそうですね」
てへへ、と頭をかいたルコ。全く、これから父親になるというのに大丈夫なのだろうか。
「ほら、そうと決めたら早速呼んでほしい。私の名を」
「……その、ラネ。……大好きです」
「私もだ……ルコ。愛している」
ルコは少しだけ屈んで私に顔を近づけてきた。
私は微笑んで首に手を回し、やさしくキスをした。
これから先、どういったことが待ち受けているかは分からない。
ただ、ルコと子が一緒なら、きっと乗り越えていけるだろう。
私はもう、ひとりぼっちではないのだから。
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