異世界人材派遣業
「もう会社を辞めてから一年かぁ……」
前職を辞めて早一年。
三か月前に失業保険の給付も終わったのだが、まだ仕事を見つけられずにいた。
というか、自分が次に何をしたいのかわからなかった。
で、今日も暇なのでネットサーフィンをしていた。
すると何か変な広告を見つけた。『異世界人材派遣の窓口を募集しています』
面白そうだし、とりあえず俺のウイルスガードでも安全が保障されているので、少しのぞいてみることにした。
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『異世界人材派遣の窓口を募集しています』
こちらは、異世界に人材を送る手続きをしてくれる人の募集をしています。
当社で異世界に行く人をピックアップしているので、その方を異世界に送る簡単なお仕事です。
他に送った人のフォローもしますが、そう難しくもありません。
尚、このお仕事は少し特殊な為、こちらで住宅を用意しておりますので応募される方は、こちらに住んで頂ける方限定とさせて頂きます。
尚、家賃・光熱費は当社で負担致します。
ご不明な点は、ご応募された時に質問ください。
月給 18万円
年間 130日休み保障
ボーナス・昇給なし
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ふむ。年間で216万か。手取りだと200万は厳しいかな。で、休みも多いから残業手当もなさそうだし……というか、まてまて。ツッコムのはそこじゃないだろ。
────何だこの怪しい広告。
しかも住宅まで用意されているなんて……絶対に怪しいだろ! とはいえ、俺の住んでいるアパートも今月末に更新が切れるし、怪しいし、とっても怪しいし……けど、面白そうだから応募してみるか。
で、この募集のホームに記入をするとすぐに返信が来た。
何というか思ったよりも数倍キチンとしたものでびっくりした。
ちなみに応募をする際に幾つか質問をした。
・自分は異世界に行かなくて大丈夫か?
・住む部屋の写真を送って欲しい。
・住居は不便な所ではないのか?
で、返信された内容がこれだ。
・基本在宅ワークで、時おり異世界に必要な道具を買って送って貰う仕事ですので行きません。
・返信の際、添付ファイルを付けたのでご確認ください。
・場所は、埼玉県草加市に用意してあります。
とりあえず、ファイルを確認すると大きめの二階建ての一軒家だった。
次に埼玉県草加市を調べると、東京の隣の市であることがわかった。
場所的には悪くなさそうだ。
とりあえず、了承の旨を先方に返信すると、面接の日程と面接会場の地図が送られてきた。
三日後の11時か。
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当日、面接会場に行くと、入り口に美人なお姉さんが立っていた。
どうやら異世界人材派遣会社の人のようだ。
「すみません、本日11時から面接を希望してきた者ですが」
「お待ちしておりました。どうぞこちらへお越しください」
案内をされ、俺が部屋に入ると俺以外に誰もいなく、お姉さんがイスに腰掛けるように言われた。
で、座るとお姉さんが正面に座った。どうやらこのお姉さんが面接官らしい。
「履歴書を拝見させて頂いて宜しいでしょうか?」
「はい。こちらになります」
面接官のお姉さんは、それを見るなり「わかりました」とつぶやくと、会社の説明に入った。
何というか、すでに俺が合格して入社が確定された感じで話がどんどん進んでいく。
まあ俺も入社が出来れば入るのを前提していたので問題はない。
で、話を聞いていくと結構楽しそうな感じだ。
給与は安いが、何というか仕事と趣味が合体した感じになりそうだ。
考えても見れば、会社が食事以外、全部を用意してくれるので、この待遇は悪くないと感じいつの間にか仕事の話に移っていた。
何でも俺の仕事は、ピックアップされた人物を異世界に送って、その人たちのサポートをすればいいとの事だ。
で、一日に二回、異世界からのメールを見て、何か物資が欲しいや生活などの相談を受けたら会社にメールをして判断を仰ぎ、許可を得たら密林なり近くの店で準備をして送ればいいとの事だ。
他に時おり話相手というかメールで軽く相手とコミュニケーションを取って異世界に行った人たちへの不安を緩和してあげるのも仕事の一つだそうだ。
で、送る方法というのが、借りた賃貸住宅の庭にある蔵の中に書かれている魔法陣から送還すればいいとの事。
ちなみにその蔵からは一方通行だが、会社にある魔法陣からは往来が可能とのことだ。
しかも社員になったら、なんと異世界に旅行に行けるらしい。
お土産を買っても嫁を見つけても可らしい。何とも素晴らしい仕事だ。
とはいえ、本当に異世界に行けるか不安なので、一度向こうを見せて貰うことにした。
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そんな訳で、会社に移動を……って転移?
何と、一瞬で会社に転移した。
とりあえず契約書にサインをしていないので、詳しい場所はあかせないが日本らしい。
で、ビル? の屋内にある魔法陣に立つように指示をされると一瞬でファンタジー感いっぱいの場所に移動をした。
移動した先は、どこかの港らしく色々な種族の人たちが行き来していた。
そこに気の荒そうな兄ちゃんが来て、俺に向かって絡みつこうと……面接官のお姉さんが吹き飛ばした? 魔法か?
……とまあ、不幸な事故はあったが、異世界を確認出来たので、会社に一度戻り、先ほどの会場に戻った。
ちなみにお姉さんにそのまま転移で戻れないか聞いてみたところ、異世界から戻れる場所は会社にある魔法陣じゃないと無理との事だ。
まあ仕組みはよくわからないが、詳しく聞いたところで俺に理解出来そうもないので、そんなもんだと納得した。
会場に戻って契約書にサインするにあたり、それこそ契約書にふさわしい? 内容の契約をすることになった。それが以下のことだ。
・指定された人物以外を異世界に送りこまない。
・勝手に判断をして異世界に物資を送らない。
・会社のある場所と蔵にある魔法陣のことを人に話さない。
・ここで仕事した内容の話を伝えられないように誓約する。
と、大きなことはそれくらいだ。
ちなみにこの「誓約」というのは、喋ると死んだり苦しんだりするのでなく、ただ上手く伝えることが出来なくなったり、その誓約に反した行動が取れないとのことだ。
まあうっかりで死んだりしても困るから、話が支離滅裂になるくらいの誓約なら問題ない。ただし指定された人に限りその誓約は無効になるらしい。まあ普通に考えてそうだよな。
で、話は仕事内容に移るが、俺が異世界に送る人は会社でピックアップされた人物で、なおかつ異世界に行く願望や日本に未練のない人を送るのだからスムーズにいくとのことだ。
とはいえ、急に「今からあなたを異世界に送るから」と言われても相手が困るとのことから、案内役として俺がいるとのことだ。
資料を見せて、あちらの生活レベルや送られる環境。物価や異世界での歩き方、それにその人に与えられるスキルを話して、向こうに行って指針が見つかるようにするとのことだ。
ちなみにスキルは個人個人違っており、大抵の人は異世界言語くらいしか与えられない。
それでもこちらから送られる人は、なんらかの技術のある人なので問題ないとのことだ。
で、場合によっては一家全員ということもあるらしいので、そのケアも俺の仕事らしい。
話相手で大丈夫と聞いているので、多分大丈夫だと思いたい。
で、仕事の話が終わったのでそれ以外の話に移った。
主に休日や福利厚生(異世界保養所?)や魔法陣のことだ。
まず休日だが、毎月10日の休みを事前(15日まで)に会社に申請すればよく、他に余っている10日も同じように事前に申請をすればいいとの事だ。ちなみに40日まで貯めることが出来それ以上になると1日2.5万円で買い取ってくれるとのことだ。まあ10日は異世界にあてたいので消化しそうだが。
次に異世界に行く時だが、一人でも大丈夫なように【異世界言語】【回復魔法】【不死】【病気予防】というスキルと時間になったら戻れるように【タイマー】というスキルを付けてくれるらしい。ちなみにお金も両替をしてくれるらしい。
ちなみに向こうで嫁を見つけたらこの【タイマー】を付けたらこっちに戻れるらしい。無論、美人なお姉さんに勝手に付けて持ち帰るというのはダメらしい。相手の了承を得なければ無理なので行く前に色々考えなければならない。で、気は早いが獣人さんやエルフさんが了承をして来た場合、大丈夫か? と聞いたところ、こっちに来たら普通の人間になってしまうらしい。
獣人さんの耳とシッポはなくなり、エルフさんの魅力的な耳と長時間生きる寿命は十八歳にされ普通の人間として生きることになるので事前に説明をして受け入れられなければダメとのことだ。何とも世知辛い世の中である。
他に詳しいことも聞いたが大まかにはこんな感じだ。
ちなみに個人で大丈夫なのはポーション関連で自分と家族ならいいが他人に使ってはいけないらしい。
他にもペットや植物の持ち帰りも不可である。
食品に関しては大半は可能だが、一部は不可らしい。
で、話を聞いたので契約書にサインをすると、会社に案内されることになった。
会場は、都内だったのが会社はここから少し離れた所らしい。
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……って、少しって聞いたんだが電車で二時間。
場所は埼玉の秩父だった。というか、この会社、埼玉県好きだな。
ちなみに借りる草加の住宅からも二時間半。同じ埼玉県でもかなり遠い。
草加駅から東京駅まで40分だと考えると、会社に行くにしてもなかなか実行力が必要である。
会社に案内され、さらに草加の借りる住宅まで案内されるとすっかり辺りは暗くなった。
ちなみに帰りは転移で最寄りの駅まで送って貰えたのだが。
まあ電車で案内されている時も色々話をしていて面白かった。
とりあえず入社は来月(今日は13日)からで、入居に関しては明日からでも大丈夫との事だった。
で、嬉しいことに引っ越し費用や業者の手配は会社で手配をしてくれるというので、10日後にお願いをしておいた。
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────で、10日後。
荷造りをして待っていたら、業者さんではなく面接官のお姉さんがやってきた。
「持って行くものはこれで全部ですか?」
というと、部屋にあった荷物をどんどん転移していく。
俺がそうか……転移があったのか、と思っていると「挨拶とか大丈夫ですか?」と聞かれたので、昨日済ませたことを伝えると、俺も転移。
向こうに行って、あたふたと家具や電化製品の場所を指定すると驚くことに一時間もせずに引っ越しが終わっていた。
引っ越しのお手伝いのお礼を言うと、お姉さんは忙しそうにどっかに転移して行った。
ちなみにこのお姉さん。聞いたところによると、どうもこの会社の社長の娘らしい。
詳しいことを聞くと大変面倒になりそうだから聞かなかったが。
まあ少なくともこれ以上発展しなさそうだ。
で、それから新居の準備を終え仕事初日。
まあ在宅ワークな訳だが、早速というか指令が来た。
長野県にいる人を異世界に送って欲しいとの事だ。
早速、地図を見て移動することにする。
駅から近いみたいなので、電車で行くことにする。
えーっと、情報によるとその人は13時12分に外に出掛けるのでそれまでに行けばいいんだな、と。
不思議パワーで、その人の出掛ける時間などがわかるようなので、その時間の前に行くことにする。
ちなみに交通費は支給される。
今月は、事前に交通費を十万円貰っているので、交通費で頭を悩ませる必要はない。
とりあえず、新幹線で向かうことにした。
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道中、この人の行く異世界の資料を読んでいる。
ちなみに俺以外の人からは、普通の雑誌にしか見えないらしい。
資料を読みつつ、プレゼンテーションを考える。
聞かれそうところを蛍光ペンを引きながら頭に入れる。
頭で整理していると自分が行ったらこうするのに、といったことなども一応メモをしておく。
必要のないものも重なれば、一つの武器になるからね。
思ったよりも早く着き、今回行く人に会うと結構なオッサンだった。
47歳で独身。第一級建築士の資格を持っているとのことだ。
異世界の資料だけでなくオッサンの資料も事前に欲しい。
とりあえず、俺の来た訳を話してみる。
見た感じ、無理かな? と思ったのだが、このオッサン、『小説家になろう』の読者らしい。
もうこうなると話はトントン拍子に進んだ。
「チート!」って言っていたが、「ない」と伝えると目に見えてガッカリしたが、獣人とエルフ・ドワーフなどの資料写真を見せると、テンションが上がり始めあっさりと行くことが決まった。
とりあえず持って行きたい物リストを作って貰い、それを会社に申請をして、その間に異世界に行く準備をして貰う。無論、口止めというか誓約の契約書にサインを貰って一週間後に再度迎えに来ることを伝える。
ちなみに持って行くリストなどのやり取りのメールなどは俺の仕事だ。
オッサンに異世界へ行くまでにやり残したことをするように伝える。無論、そこで犯罪などしてはいけないし、そんな人材は異世界に行くリストには入らないと思うが伝えておく。
で、このオッサンの場合、住んでいた家に関してはこちらで売る手配をかけて、売れたらその代金は向こうの金額に換算して渡すと伝えてある。ちなみに向こうに持っていく金額は行く人の財産を両替したものになっている。で、破産していたりする場合は、こちらで肩代わりして百万くらいの金額を渡すのだそうだ。ただ肩代わりした金額をどうするかは聞いていないし、その場合その人に対しては百万円分の資金がありますと伝えるようになっている。
で、借金がなく百万円未満の場合は残高+百万円になるらしい。なら百一万円の人は損をするんじゃないか? などあるが、それに関しては会社独自の加算方法があるらしいが俺にはよくわからないのでお任せである。とりあえず、そういった話は俺が余計なことを言わなければ相手にわからないので、黙るに限る。
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────で、一週間後。
ちなみに俺は、あれから二人ほど勧誘に行っている。
で、余った時間に行く人たちの異世界のことを調べたりしている。
結構、調べていると時間がドンドン過ぎていくものである。
今回三人の人を異世界に送る訳だが、全員違う異世界へと送る。
一人目のオッサンは、ファンタジーの王道と呼ばれる世界。
二人目のオバサン(海女さん)は、海が星の八割を占めている世界。
で、三人目の坊さん(まだ若い)は、戦国時代っぽい世界。
ちなみに坊さんだけ、チートスキルがある。それだけ危険な地域ともいえる。
話は少しはずれたが、47歳のオッサンがやってきた。
ちなみにオッサンの申請した物資の大半は許可が下りた。
オッサンは、異世界がなんたるかに変な信念を持っているらしく持っていく物資は、何というか無人島でも大丈夫そうな物ばかりだった。ただそれに反し「スマホでチート!」というスマホ+充電器だけが却下された。当然のことだ。
まあオッサンは、半分ダメだと予想していたので問題なさそうだったが。
で、オッサンが行くにあたり、ネックレスを渡す。
シルバーネックレスにロケットがあるものだ。
ちなみにロケットに入っている紙に文字を書き込んで入れると特殊変換され、俺の使っているパソコンにメールが入り、こっちが返信するとそのロケットの中身の紙に文字が書き込まれ返信されるといった仕組みだ。
で、物資が相手に届く場合だが、その人の住む場所(特定されている)に届く仕組みになっている。
簡単にいうと、異世界に行った人はそう簡単に引っ越しは出来ないという事なのだ。なるたけその場所で頑張りなさいと。無論、その事も事前にきちんと伝えてある。
オッサンの準備が出来たので蔵にある魔法陣から送還した。
とはいえ、送還したら終わりではない。
行った日に限り、今日だけ持つトランシーバーのような石が支給されている。
早速、オッサンに連絡を取る。
・きちんと着いたか?
・住む場所は大丈夫か?
・向こうの言語は、きちんと翻訳されているか? など、万が一にも不手際があったら大変である。
これから住む家には、近所の地図とお隣さんの名前。
オッサンがこっちに引っ越してきたことなど事細かに記されている。
行く前にも話したことだが、あっちに行った際忘れてしまっている部分もあると思い、書いてあるのだ。
それを確認して貰い大丈夫そうなら一旦通信を切る。
そうそう俺が休みの日や仕事などは、本社で対応をしてくれるらしい。
俺が行った日は誰もいなかったが普段は居るとのことだ。
とりあえずオッサンの件が終わって一息ついたところで、海女のオバサン(52歳)から連絡があった。
何でも現在お付き合いをしている人も向こうに行っても大丈夫ですか? とのことだ。
意外と思いつつもも会社に確認を取ると、そのお相手の男性も大丈夫とのこと。オバサンにはお相手の男性には俺から伝えると連絡をしておく。ちなみに俺は明日休みだから明後日相手の予定を見るとどうやら一日大丈夫そうである。とはいえ、お相手の男性もオバサンも宮城県にお住まいの人だからこの一件で、丸一日これで潰れる。まあ交通も就業時間に入っているのだから文句は言えない。お土産に笹かまでも食べよう。
あ~転移魔法が使えたら……と思うが、転移魔法を使える上司(お姉さん)を見ると覚えたらイケナイ気がする。引っ越し作業の時に見た鬼気迫る動きは全然余裕のない感じがしたのだ。そう考えると新幹線で景色を見ながらのお弁当はいいものだ。
とりあえず明後日はオバサンと。
で、三人目の坊さんの資料を作っていると、オッサンから通信が入った。
ドワーフのオッサンと仕事をすることになったらしい。何でもギルドに行くと建築関連の仕事が多く、受付のお兄さん(オッサン曰くテンプレどうした!)がドワーフのオッサンを紹介されたらしい。
で、これから早速打ち合わせらしい。俺は初日からあまり無理をしないように伝え、本社にその件をメールをする。
それから五時まで仕事をして本日の仕事は終了である。今日の仕事を終えることを本社にメールをして終了である。これからの対応は本社がしてくれるので、向こうの人も安心である。保険屋じゃないけど24時間対応なのである。
なかなか大変だが、普通じゃ経験出来ないことなので結構楽しい。
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それから二年後。
今日は、初の異世界旅行である。
ちなみに30日向こうに滞在である。月給10日+有給20日である。
行先は俺が担当した一人目のオッサンの世界である。
行く時は上司にお願いをして魔法陣に乗る。
とりあえず行く為に必死になって貯めた300万円分のコインを持って旅立つ。目標は嫁を探すこと。このお金は結納金代わりである。
こっち(日本という規模を超えて地球)での嫁は諦めた。異世界なら大丈夫かもしれないと淡い期待を背に魔法陣に飛び込んだ。
で、向こうであーだこーだして嫁を見つけた。
何と俺は一部の種族にモテたのだ。その種族はリザードマン。そうトカゲ人間さんである。
なんでも俺はリザードマンから見るとカッコイイらしい。そこで村でも美人と噂をされる女の子と仲良くなって無事に結婚することになったのだ。
無論、日本のことも話し、また容姿が向こうに行くと変わることも話をして了承されたのだ。
で、結納金であちらの両親に家を建て、一年に一度こっちに来ると約束をした。多少容姿が変わることも伝えたが、娘が幸せになれるならと言ってくれた。ちなみに俺と結婚する娘は四女らしい。あと下に一人娘がいるし五人娘がいるから一人くらい違う異世界でもいいんじゃないかとの大らかな考えらしい。
まあ種族の壁も超えちゃうんだけどね。
で、日本に来て容姿の変わったリザードマンの娘は地味だけど可愛かった。
上司のウルトラテクで戸籍を作って貰い、結婚をした。
で、嫁も一緒に働くことになった。
とりあえずパソコンが出来るまでパート従業員で。
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────で、それから三年後。
俺たち(嫁の分も含む)が異世界に送った人数が百人になった。
はっきり言ってこれ以上の対応は流石に無理である。
今のところ少し余裕はあるが、際限なしに増えていくのはいただけない。
そのような訳で、上司にもハッキリ「これ以上の対応は業務に支障が出ます」と伝えた。
一週間で、十件くらいメールがくるが、その中の一件はなかなか難しい用件が常である。
一日で片付けばいいが、大抵二日三日かかる。
で、今回の厄介な用件は、お坊さんが新興宗教の宗主になってしまい、王都に来てもらえないかと強く要請されているらしい。
まあ坊さんからすると当たり前のことを説法したとのことだったらしいが、巡察していた王子が深く感銘を受けてのことらしい。まあ俺も手に負えないから上司にお願いをすることになったのだが。
ちなみに最近パート従業員から社員にランクアップした嫁は、物資の調達をしている。基本的に男性の転移した人は俺が担当で、女性は嫁が担当をしている。無論、俺と嫁の給与は一緒である。これが他人なら文句も出たかもしれないが嫁だから文句はない。しかも色々お世話になったのだから文句を言ったら罰があたるってなもんだ。
で、だ。最近大きな出来事があった。
異世界に派遣した人がお亡くなりになったのだ。
基本、異世界に送る人の半分は定年退社をされた人たちなので寿命なのだ。その人は俺が送還した中で最年長(当時75歳の爺さん)で、五人目に送った人だった。
まあ享年80歳だったので仕方ないっちゃあ仕方ないのだが、向こうに行って花が咲いたのか、たったの五年で街をあげての葬儀となった訳だ。俺も短い間だったが縁のあった人だったので葬儀に参加をしたのだが、何というかあそこまで人に慕われていたなんて思ってもみなかった。
当時の爺さんは、町工場を閉めて元気がなかったんだ。
俺が異世界に勧めた時も何となく向こうに行った感じで少し不安だったのだ。はじめの一か月は、ちょくちょく連絡をしていたのだが、それ以降あまり連絡を取らなかったというより連絡をしてこなかったのでどうしていたのか? と思ったら、この葬儀だよ。
街中の人に見送られるなんて、爺さん幸せだったんだな。とそう思った。
で、俺もそんな立派な爺さんと縁があったと考えると自分の仕事に少し考えが変わったね。
何というか、もっと仕事にやりがいを感じたんだよね。
今までも手抜きをしてきた訳じゃなかったけど、何というか気持ちのありようにね。
そういえば嫁だが先月妊娠したから、近いうちに嫁の実家に挨拶でも行こうと思っている。
で、その際に始めに送ったオッサンに一度会ってみようかと思ったんだ。
今までの俺は、向こうからの連絡待ちだったが、これからは俺からも連絡をしてみようかな、と。
とりあえず早速今日から連絡をしてみた。
今までは物資関連のことだったので俺からの連絡に『何かあったのか?』と思ったらしいが、大往生した爺さんのことを話をしたら、これまでの自分のことを楽しそうに話をしてくれた。
他のみんなも結構苦労をしているようだが、異世界生活を楽しんでいるとのことだ。
で、一様に俺と会社に感謝をしていた。みんな異世界に行った当初は不安だったが、俺のやっている一か月間サポートのおかげで孤独にならなかったとのことだ。
で、今回俺が百人を送還したので、少し余裕が出来るかも? と言うと、大往生した爺さんのような他に異世界に行った人の話を聞きたいという人が多かったので本社に相談をすると『月間異世界』という月刊誌を創刊した。
で、編集長は俺である。まあ30ページ前後の冊子だが、非常に喜ばれた。
また俺が取材に行くと歓迎をしてくれ、丸一日俺に付き合ってくれる。で、自分が普段何をしているとか、近所の店やこっちの世界のオススメ料理や友人や恋人(なんと半分以上居た!)のことを楽しそうに話してくれるのだ。
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そんな訳で毎日充実をした生活を送っていたある日。
本社の上司であるお姉さんから部署変えの話があった。
何でも俺の働きが評価され『転生部門』に異動してみてはいかが? かと。
勿論給与は増えるし、家もここよりも大きな物を用意してくれるらしい。
俺は嫁に相談するので、少し時間をくれないかとお願いをした。
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────で、三日後。
俺は嫁とも相談をした結果、その話を見送らせてもらうことにした。
まあ出世コース? からは少し外れてしまったがまあ仕方ない。
この転生部門の『転生』に関してはかなり興味があったが、その話を聞くと問答無用に異動をさせられそうな空気がプンプンしたので聞かないことにしたのだ。
で、そんな訳で今日も通常通りメールをチェックしている。
あれから(気持ちを入れ替えてから)積極的に人とコミュニケーションを取るようにしてから難しい用件のメールが以前よりずっと少なくなった。
理由は、そこまで話が進む前に相談をするので、大きくなる前に解決が出来るようになったからだ。
まあそれでも大きくなってしまわざるを得ない事もあるのだが。
そんな訳で今日も異世界へ行った人たちへのフォローをしている。
異世界に行った人たちの百人分の資料やら何やらで毎日大変だけど、充実した日々だ。
子どもも生まれたりして生活が一層慌ただしくなったが、これもまた人生だと割り切って楽しんでいる。
で、まだ先のことだが、将来というか定年になったら(定年ってあるのか?)嫁の実家の世界に行ってもいいかな、と思っている。ただ肝心の嫁が日本にすっかり慣れて行きたくないとか言っているのが一番のネックだが。
そんなこんなで今日も仕事をしている。
始めた頃よりも仕事が好きになっている自分が素直に嬉しい。
────っと、メールが来たか。
今度は、ん~っと結婚式の紹介状?
あの宮城にいた熟年のカップルがやーっと結婚か。
自分の還暦した日に結婚したい? って。
まあ、これも縁か。
仕事じゃないけど嫁と子どもも誘って行ってこようかね。